« 江沢民氏が元有力者の葬儀に参列せず | トップページ | 習近平主席らの外国訪問中に改革方針をアピールする李克強総理 »

2013年9月 3日 (火)

中国の不動産バブルの現状を「人民日報」がレポート

 ここのところ、社会の問題点を率直にレポートする記事が目立つ「人民日報」ですが、今日(2013年9月3日)付けの紙面では、内外の注目を集める中国の不動産バブルの状況について、実例を交えた痛烈なレポートを掲載しています。

 2008年前半(北京オリンピック直前)、北京に駐在していた私は、多くの「人民日報」の記事で、不動産バブルを警戒するようなレポートを読みました(2008年前半に書かれたこのブログの記事をご参照ください)。当時の中国政府は、北京オリンピック終了に伴うバブルの崩壊を懸念しており、オリンピック開催前から、バブルの「ガス抜き」を図っていたのです。ところが、2008年5月に起きた四川大地震と2008年9月のアメリカ発のリーマン・ショックにより、中国政府がやろうとしていた「バブルが大きくなる前にガス抜きする」という方針は実行できないままになりました。

 下記に紹介する記事は、「マンション不動産バブル」(中国語で「房地産泡沫」)という言葉を明確に使っているほか、現状について「不動産バブル蔓延の懸念は既に現れている」と表現し「どこかの時点で崩壊するおそれがある」といった専門家の意見を紹介するなど、2008年当時と比べても、強い危機感に基づく記事となっています。

 今日付「人民日報」の1面には「盲目的な『都市建設』(中国語で「造城」)は断固として抑制しなければならない」というこの記事に関連した「人民日報」評論員による社説も載っており、この記事が党中央の意向を受けて書かれていることは明白です。この記事は、李克強総理が進める経済構造改革のひとつの柱である「都市化」が結局は「空き室だらけのマンション群」を建設するだけで終わるようであってはならない、という党中央の危機感を表しているのだと思います。

 このレポート記事のポイントは以下の通りです。

--------------

【2013年9月3日付け「人民日報」9面】
「『都市建設』ではどれくらいのバブルが吹き出ているのか(焦点の解読・調査)」
(本紙記者:丁志軍、楊彦、魏賀、智春萌、方敏、楊遠帆)

○最近記者が取材した「新都市プロジェクト」の中には、ややもすると数十平方キロもの広さの新しい都市圏が計画されているものもあった。都市化が進めば人々の生活は便利になるが、合理的な計画に欠ける「新都市」は少なくなく、それらは「空都市」になっている。これらからは、不動産バブルが蔓延するリスクや土地資源を浪費している影の部分、土地財政に過度に依存している懸念が浮き上がってきている。

○8月28日、記者は某海浜小都市に行った。東西21.3kmの海岸の山沿いの場所に、200棟以上のビルが建っているが、海浜リゾート地のような人の流れや賑わいはない。

○ある地区に入ってみると、ゲーム店、ケーキ屋、理髪店は全部閉まっていて、不動産仲介業者だけが店を開いていた。一人の店員に聞いたら、5,000戸あまりの住宅のうち、入居率は20%に満たないという。近くの地区でも入居率は3割に満ないという。「秋冬期の入居率が20%の入居率なので、数年住んでいるがずっと集中地域暖房がない」とのことだった。

○記者が行った東部のある省のある県にある5平方キロの新築の区域では、住宅地区が建築後5年経っているのに入居率は3割に満たず、商店街は建築後8年経っているのにほとんどの店は閉まっていた。

○某海浜地区で不動産仲介業者の徐さんが記者に言うには、海岸の景色のいい場所の開発が過度に行われたため、不動産価格の上昇が緩慢になり、ここ二年で、投機目的でマンションを買っていた客が大量に投げ売りし、老後に過ごすためや休暇で過ごすために購入していた一部のマンション所有者も、インフラ設備が不十分であるために、みんな投げ売りをしてしまった、とのことだった。

○似たような状況は、ある北方の「中国最高のエコ都市」と呼ばれる新しい地区でも起きている。数年前にマンションを買った曹女史は「マンションを買って死ぬほど後悔した。付近にはインフラ施設が何もなく、売りたくても売れない。」と言っていた。

○この「エコ都市」は、80平方キロの計画で、世界一流のエコ住宅都市、と銘打って作られた。8月28日、記者がここを訪れた時、一部の未完成の別荘地区は既に工事が停止されており、鉄でできた柵には錆が点々と付いていた。建築資材が乱雑に置かれている場所は、計画では2010年には学校や病院ができることになっていたが、まだ何もない。

○このエコ都市に仕事に来ているある銀行職員は「地方政府のもくろみは間違っていた。地方政府は土地を造成すれば高い値段で売れると思っていたのだろうが、人が生活するという根本のところを考えておらず、結果として巨額の資金を無駄にして無人島を作ってしまった。」と言っていた。

○記者は、新都市建設において、ひとつの開発モデルがあることに気がついた。土地を売却して資金を得ることを見込んで銀行から借款を得、あるいは土地を抵当にして融資を受ける、つまり一切が土地に由来しているのである。

○ある県の例では、新都市開発が2005年に起動した。計画面積は14平方キロだが、このほか別に2.97平方キロの埋め立て地区の計画があり、16億元(約250億円)が投入された。このプロジェクトは2011年に許可され、2012年に工事が開始された。今までのところ全て地方政府の投資により行われている。この県の幹部の話によれば、このプロジェクトはある国有企業の融資によるもので、インフラ設備を建設した後、土地を開発する方式であるとのことである。

○この県の幹部は次のように記者に話した。「旧地区にある地方政府ビルの土地は、1ムー(15分の1ヘクタール)あたり100万元であるが、新地区は1ムー40万元である。土地を交換すれば、新しい地方政府ビルを建設する資金の問題は解決する。」「埋め立て地の面積は4,500ムーであるが、このうち3,000ムーが売れれば、1ムー100万元で売れるとして計算すれば、30億元の収益が見込めるので、資金回収の問題は生じない」。この幹部は非常に自信を持っていた。

○新都市を建設するためなら、債務を負うことをいとわない地方政府は多い。専門家の分析によれば、地方の利益とGDP崇拝が「都市建設」の重要な動機である。新しい都市の建設が地価の上昇を招き、地方政府に多額の土地売却益をもたらす。大規模なインフラ建設を合わせて行えば、GDP増加をもたらし、素晴らしい行政成績となる。

○ある専門家は次のように言う。「あなたが現在の市長だったとして、多くの人が建設プロジェクトを見たとしても、いくら金を使ったとか、いくらお金が足りないのか、といったことは誰も追究しない。」「前任の市長が行ったプロジェクトについては、誰もインフラについて整備しようとせず、後任の市長は係わりたくないと考えており、後任の市長はただ、別の新しいプロジェクトを始めようとする。こうして『新都市』は次々大きくなるが、インフラ設備は不完全なままとなる。」

○中国改革基金会国民経済研究所の常務副所長でベテラン研究員の王梅氏は次のように言う。「地方政府の役人にとっては、新都市建設は財政収入や銀行からの借款で行われるのであって、自分のお金を使うわけではない。現在のように輸出が低迷し、消費が短期間のうちに拡大することが難しいような状況においては、投資のGDPを引き上げる役割がキーとなっている。このため、地方政府が投資に対して傾倒する傾向が大きくなっている。一部の地方政府の役人は、投資についてわかっておらず、プロジェクトが科学的な分析を経ずに動き出し、多くの『頭の中だけで考えられた』新都市が建設されている。」

○ある地方政府幹部は、記者に対して、「都市建設」の資金は土地財政に頼りすぎていて、新都市建設から数年が過ぎても、商工業が発展してこず、住民の入居率が低く、資金が環流してこないので、地方の圧力は極めて大きくなっている、と言っている。

○王梅氏は、「合理的な需給の前提がないままで、建設のための建設や、いわゆる『メンツ・プロジェクト』により、効果のない投資が行われ、資源が浪費され、経済発展の潜在能力を先食いしてしまい、地方政府の債務を高止まりさせている」と言っている。

○審計署(会計検査院)が先日発表した調査結果によると、地方の土地収入の増加率は低下しており、地方の借金の償還圧力は大きくなっている。2012年末現在で、4つの省クラス、17の省都クラスの地方政府において、土地売却収入を償還に充てている債務の元金・利息合計額は2,315億元に上っており、これはこの年の土地売却収入の1.25倍に当たっている。

○不動産バブル蔓延の懸念は既に現れている。記者が調査したうち、一部の3級、4級都市では、投資が巨大であるのに産業は空であり、市場の需要が不足している未完のプロジェクトがあった。

○国家発展改革委員会都市・農村都市改革発展センター主任の李鉄氏は、「一部の3級、4級の都市では、今でもこのようなマンション不動産発展モデルに頼っているところがあり、どこかの時点で崩壊するおそれがある。」と言っている。

○王梅氏は、「新都市の成功例としては、上海の浦東地区が挙げられるが、一部の中西部の都市や3級、4級の都市は、人口が流出している地方であり、こういった地方で、まだ新しい都市建設をやるのは、浪費ではないのか?」と言っている。

○「上の地方政府が傘下の地方政府の管理する土地を売っている」といった現象も一部の地方では起きている。また、ある専門家は、一部の地方政府が、新都市建設の名目で、大量の農業用地を建設用地に変え、土地の使用効率を下げ、耕地を侵食し、農民の利益を侵害しているという状況も発生している、と指摘している。

○記者が気付いたのは、多くの地方において、新都市を建設するに当たって、意識的か無意識のうちにかに係わらず、「都市化」を、土地の囲い込み、ビルの建設、ビル群地区の造成だと理解している。多くのインタビューで専門家が指摘しているのは、こういった方法は、「都市化」の本来の意味では決してない、ということである。

○だいぶ以前に開催された中国共産党中央政治局会議で、積極的かつ穏やかに「人を核心とする新型都市化」を提唱した。党中央が何度も強調しているように、「都市化」は、工業化、情報化、農業の現代化と歩調を合わせて計画しなければならない。

○李鉄氏は「都市化の核心は改革であり、投資ではない」としている。

○新都市建設にあたっては、「人を基本とする」の路線に立ち戻るとともに、産業計画と結合させ、現実的な需給と未来の発展を総合的に考慮しなければならない。

○王梅氏は、次のように述べている。「理性的ではない新都市建設を抑制するためには、まず、透明な政策決定システムと監督システムが必要であり、土地資源の開発には適切な監督を受ける必要がある。」「次に役人がGDPを主要な成績評価目標にしているのをやめさせ、政府機能の効率性を成績評価の核心にしなければならない。」

○「都市化」は盲目的な「都市建設」ではない。記者がインタビューした中で、多くの専門家は「大きくてスピードのある盲目的な『都市建設』を求める風潮は巨大なリスクと浪費を生み出すので、タイミングよくうまくコントロールする必要がある」と指摘している。

---------------------------

 李克強総理が、経済構造改革のひとつの柱として「都市化」を掲げていることについて、私を含め、多くの人が「地方政府は、また『都市化』という新しい錦の御旗を得て、工場の建たない工業団地や誰も住まないマンションを作ってしまうことになるのだろう」と心配しているわけですが、この記事を書いた「人民日報」の記者も同じ懸念を持っているようです。

 一方、専門家の発言とは言え、「一部の3級、4級の都市では、今でもこのようなマンション不動産発展モデルに頼っているところがあり、どこかの時点で崩壊するおそれがある。」「3級、4級の都市は、人口が流出している地方であり、こういった地方で、まだ新しい都市建設をやるのは、浪費ではないのか?」といった発言を紹介しているのは、表現としては刺激的で、「人民日報」としては、結構「大胆な」記事だと思います。

 この記事は、現在の中国における問題点を率直に認めており、一定の「健全さ」を感じますが、一方で、この記事は、一般中国人民に対して、不動産バブル崩壊の危機を認識させ、それらへの投資に使われている「理財商品」に対する警戒感を改めて喚起することになるのではないかと思います。9月末は、四半期末なので、多くの「理財商品」の換金化が行われると思いますが、中国では10月1日から国慶節の大型連休があるので、9月末は1年の中でも「理財商品」の換金化請求が多い月末だと思われます。危機感を喚起するのはよいのですが、現在発行されている「理財商品」の換金化請求が多く行われ、一方で新たな「理財商品」の販売が順調に行われないと、多くのデフォルト(換金化不能)が発生するおそれがあります。そういったおそれもあるなか、このような現実を直視した記事を掲載する「人民日報」には敬意を表したいと思います。

 問題は、この記事が示す「問題意識」に対する具体的対応策、即ち地方政府が「都市化」の名目で「人の住まないマンションの建設」などをやらないようにするには、どうするか、です。報道の自由化を図り、市や県の幹部を選挙で選ぶようにすれば、報道や地方住民による地方政府の監督は容易にできるはずなのですが、今の中国共産党には、そこまで期待するのは無理でしょう。

 ただ、「人民日報」がこうした結構鋭い現実の問題点をえぐる記事を掲載することは、多くの新聞社の記者の「ジャーナリスト魂」を喚起することになり、同じような社会を批判する記事が多くの新聞に掲載されるようになるかもしれません。また、ネット上の多くのブロガーも、「人民日報」の記事のような内容をブログで書いていいのだ、と感じれば、ネット上での「問題提起ブログ」も多く書かれるようになるでしょう。

 このようにして、結局は、「不動産バブル」の崩壊が防止され、同時に中国の社会システムも少しづつ前進していくことを期待したいと思います。(ことは、そう簡単ではないと思いますが)。

|

« 江沢民氏が元有力者の葬儀に参列せず | トップページ | 習近平主席らの外国訪問中に改革方針をアピールする李克強総理 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 江沢民氏が元有力者の葬儀に参列せず | トップページ | 習近平主席らの外国訪問中に改革方針をアピールする李克強総理 »