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2013年8月19日 (月)

中国人民銀行周小川総裁へのインタビュー

 昨日のこのブログで「もはや李克強改革は挫折か」と書きました。一定以上の経済成長率が必要であることを強調する意見や今後とも投資を重要視すべきとの意見が「人民日報」に出たからです。ところが、今日(2013年8月19日)の中国中央電視台(CCTV)の夜7時のニュース「新聞聯播」と天気予報を挟んで「新聞聯播」に続いて放送された「焦点訪談」は、「李克強-周小川改革は堅持されている」と強調するような内容でした。

 まぁ、タイミング的に「夏休み明けの月曜日」ということもあるのでしょうが、「新聞聯播」では、昨日までの「道徳模範」の人の話とか地方の共産党幹部が人民の意見を聞く努力をしている話とか、別にニュースとして聞く必要のない話ばかりだったのとは一変して、今日はトップ・ニュースが習近平主席が中国を訪問したケニアの大統領と会談する話だし、続いて李克強総理が蘭州で会議を開き「経済構造改革を進め、西部地域の貧しい人々を支援する」と強調した話を伝えていました。この蘭州での会議には中国人民銀行の周小川総裁も出席しており、「夏休み」の後も、習近平-李克強体制は盤石であり、李克強総理-周小川総裁が進める経済構造改革は、断固として進めるのだ、と強調するような内容でした。

 特に周小川総裁は、記者のインタビューに応じて今後の金融政策について語っており、「新聞聯播」ではその概要が伝えられ、その後に放送された「焦点訪談」では、インタビューの詳細が伝えられました。周小川総裁の話のポイントは以下のとおりです。

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○2013年の上半期、中国経済は安定的に成長している。725万人の就業が増え、GDPに占めるサービス業の比重は1.5%増加した。

○(インタビュアーが中国経済が「硬着陸」(ハード・ランディング)する可能性はあるのか、と聞いたのに対し)消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)などの指標を見れば中国経済は地上にいるのであって、空中を飛んでいるわけではない(ブログの作者注:周小川総裁が自分の口から「中国経済はハード・ランディングはしない」と言っていないところが、周総裁が百戦錬磨の中央銀行総裁であることを示していると思います。自分の言葉の一部を切り取って編集して使われる可能性があることを常に意識していると思われるからです。)

○銀行預金利率の自由化については、中国人民銀行による技術的準備はできており条件は整っている。私(周小川総裁)は個人的には銀行預金利率の自由化については楽観視している(ブログの作者注:これは中央銀行総裁としては、かなり思い切った発言だと思います)。

○現在の中国経済の状況は、昨年末の経済工作会議において考えていた予測の範囲内にある。従って、現在、穏健な貨幣政策を行っているが、今年下半期において大きな調整はない。調整を行うとすれば微調整である(ブログの作者注:これは李克強総理の改革路線(いわゆる「リコノミクス」)を改めて明確に確認したもの)。

○インターネット内金融については、既に指導と規則の制定を行っており、その発展は支持する(ブログの作者注:最近、インターネット・ショッピングで使われるネット・マネーの余剰分をネット内で運用するというサービスを一部のネット・ショッピング業者が行っています。一部の利用者から、銀行業許可を持たないネット・ショッピング業者が金融類似行為を行うのは違法ではないのか、という疑義が出されています)。

○中小企業や農業に対する融資については、金融業界は拡大の努力をしており、中小企業等への融資は増加してきている。ただ、まだ中小企業等の金融に対する需要からは距離があるので、これからもいっそう努力していきたい(ブログの作者注:周小川総裁は、銀行による中小企業への融資が少ないことから、多くの中小企業が「影の銀行」を利用せざるを得ない状況にあることはよく認識していると思われますが、周小川総裁の口からは「影の銀行」という言葉は出ませんでした)。

○中国経済は一定の成長力を持っているので、経済が下方向に一方的に滑り落ちるということはない。ただ、我々は、経済成長と経済構造改革との間の一定の均衡点を見つけ出さなければならない。

○金融における改革の重要な部分とは、いかにして実体経済の成長を支援していけるか、金融市場がいかにして適切なシグナルを出して、リスクを避け、危機を防止できるようにするか、ということだ。

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 周小川総裁は、もう10年以上も中国人民銀行の総裁をやっているし、インタビュー慣れしているので、やはり見ていて安心感がありますね。李克強総理には悪いですが、李克強総理が自分で語るより、周小川総裁が自らの口で語る方が、中国人民に(そしておそらくはこれは世界に対して)安心感を与えると思います。

 もっとも、本来は中央銀行総裁というのは金融政策をコントロールする「影の黒子」であって、オモテの舞台でペラペラしゃべるものじゃないんですけどね。今は、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長にしろ、ECB(ヨーロッパ中央銀行)のドラギ総裁にしろ、日本銀行の黒田総裁にしろ、ちょっと前に出すぎだと思います。これは各国とも政治家が経済運営のキーポイントを中央銀行総裁に「丸投げ」してしまっている結果なので致し方のないところです。今回、中国人民銀行の周小川総裁がテレビのゴールデン・タイムに登場して長々と話をした、というのも、中国だから、というわけではなく、中央銀行総裁がいろいろしゃべる、という世界の潮流に合わせたものだと思います。

 別の見方をすると、習近平・李克強政権は、現在の世界の経済状況をよくわかっていて、極めて効果的に世界的に顔の知られている周小川総裁をテレビで使って、中国人民に(というより世界に)「中国経済を心配する必要はありませんよ。今後とも改革はきちんとやっていきますよ。」というメッセージを発することができた、と思います。

 実は、「焦点訪談」という番組は、社会で起こっている様々な問題に焦点を当てて取り上げる、という番組で、中央銀行総裁が話をするような番組ではないのですが、今日(8月19日)の「焦点訪談」は、前半は「ネットを使った詐欺」の話であり、格好としてはいつもの「焦点訪談」のスタイルを採っています。周小川総裁のインタビューだけだと「特別番組」のようになってしまうので、いつもの「焦点訪談」と同じですよ、という一種のカモフラージュだと思います。

 おそらくは「ウラ」で李克強総理-周小川総裁らの改革推進グループは、既得権益グループとの駆け引きに相当苦労していると思いますが、対外的なメッセージの出し方は今のところうまく行っていると思います。

 実は、今日の「新聞聯播」の中の別のニュースでは、発展改革委員会の人が出てきて、「都市の地下鉄建設許可の権限を地方政府に降ろすことにした(今までは中央政府による事前許可が必要だったのだが、今後は地下鉄建設は地方政府の判断に任せ、中央政府は事後的監査を行うことにする)」という「改革」について述べていました。そして、青島、無錫、福州、長沙、ハルビンなど9つの都市で地下鉄の建設を進め、今後3年間で地下鉄路線が1,000km延長される、と説明していました。やっぱり、今後の経済成長の原動力は、インフラ投資であり、今までの「投資偏重路線」は続くわけです。

 一方で、周小川総裁は、インタビューの中で、銀行預金金利の自由化について「準備はできている」とハッキリ言っていました。高金利の「理財商品」で儲けている守旧既得権益グループや国有銀行関係者の中には銀行預金金利の自由化反対の声もまだ強く、預金金利を自由化するかどうかは、大きな政治判断だと思います。なので、この発言は、中央銀行総裁としてはおそらくは「言い過ぎ」だと思います。こういった発展改革委員会の人の話や周小川総裁の「言い過ぎ」とも言えるハッキリしたものいいからは、改革派(経済の自由化を成長の原動力にする)と既得権益グループ(今後ともインフラ投資を成長の原動力にする)とが、今後の政策運営においては、両方の主張を盛り込むという一定の「妥協」が成立していることが垣間見えるような気がします。

 改革派と守旧既得権益グループとが「妥協」して中国共産党内部が揉めない、というのはいいことなのでしょうが、「妥協」によって改革が中途半端に終わらなければよいがな、と私は思っています。

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