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2013年8月12日 (月)

「経済新動力」とは鉄道建設と都市インフラ建設

 昨日と今日(2013年8月11日、12日)、中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」で「経済新動力」として紹介されていたのは、中西部を中心とする鉄道建設と都市インフラ建設でした。国務院の会議で中西部の鉄道建設と「都市化」(中国語で「城鎮化」)は今後進めるべきプロジェクトとして挙げられていましたので、「新聞聯播」で紹介しても別におかしくもなんともないんですけど、私は、やっぱり、これからの中国の経済発展の中心は鉄道建設と都市インフラ建設なのね、「経済構造の改革を進める」と言っているけれど、今までと同じじゃん、と思ってしまいました。

 鉄道建設は、要は、李克強総理がようやく果たした鉄道部解体の後も、結局は、中央政府は、鉄道建設利益集団に資金を投下し続けることになる、というわけで、組織は変わったけれども、実体はあまり変わらない、ということなのでしょう。

 中国の鉄道は国営ですが、貨物輸送の値段はあまり安くないのだそうです。以前、日系企業の方に聞いた話では、トラック輸送の方が安い原材料や製品の輸送についても、工場が立地している地元地方政府から「鉄道を使ってくれ」と頼まれ、いろいろな許認可の際に嫌がらせを受けるのはいやなので、地元政府の機嫌を損ねない程度にコストの高い鉄道輸送を使っているとのことでした。どこの国でもそうなのでしょうが、鉄道の路線決定等の場面で、鉄道建設と地方政府とは癒着しやすい性質を持っていますからね。

 一方「都市化」とは、既に大発展している沿海部や省都レベルの大都市の開発ではなく、まだ住宅や上下水道等が十分に整備されていない地方の中小都市のインフラ整備を指すようです。この「都市化」は、おそらくは二重戸籍制度(農村戸籍と非農村戸籍があり、農村戸籍の人は都市部に長年住んでいてもその都市の戸籍を有する者と同じ行政サービスを受けられないという現在の制度)の改革と密接不可分だと思います。

 いくつかの場所(重慶市など)では試験的に二重戸籍制度の廃止を試みているところもありますが、二重戸籍制度をどうするか、については、おそらく中国共産党内部でも統一見解がまだできていないのだと思います。統一見解はできていないけれども、まず先に「箱物」を作って大勢の農民工が住めるように地方の中小都市の住宅建設等を進めましょう、それをもって、今後の中国の経済成長の柱のひとつにしましょう、というのが、現在の国務院の考え方なのだと思います。

 だけど、おそらくは、結局は、「都市化」の掛け声の下で地方政府により行われるのは、農民工の収入で手に入れるには豪華すぎる広さのマンションで、富裕層が投資目的で購入し、誰も住む人がいないゴーストタウン(中国語で「鬼城」)がまた増えることになるのでしょう。だから、実際は、二重戸籍制度をどうする、といった政策決定なんかどうでもよいのだと思います。

 高度成長に伴って農村から都市部へ出てきた一般労働者の住宅の確保については、日本の高度経済成長期の方がよっぽど「社会主義的」だったと思います。日本の場合、特殊法人日本住宅公団(いくつかの変遷を経て、現在は独立行政法人都市再生機構(UR))があちこちに「公団住宅」を作りました。日本では、住宅公団とその後継の法人は、高度経済成長が終わった後は「民営圧迫だ」と随分批判されましたが、客観的に言って、高度経済成長期に住宅公団が果たした役割は大きかったと思います。

 中国の場合は、社会主義国なのに、住宅建設は最初から民間にやらせています。民間企業が住宅建設をやると、多くのケースでは、利益優先になるため、結果として、利益率があまり高くない一般庶民が入れるような広さの住宅よりも、富裕層が投資目的で買うような大きな間取りのマンションや別荘がたくさん作られることになりました。中国政府としても、一般庶民の需要に合うような適度な広さの住宅(社会保障性住宅)を作る予算を計上して、地方政府に一般庶民用の住宅を作らせようとしているのですが、先日公表された審計署(日本で言えば会計検査院)の報告によれば、「社会保障性住宅」の予算についても、地方政府では、目的通りに使用していない例が多々あるようです。

 2013年8月10日付け「人民日報」2面に掲載されていた新華社電の記事「社会保障性住宅資金の『ブラック・ホール』はどのくらいあるのか」というタイトルの記事では、その審計署の報告の概要が報じられています。ポイントは次のとおりです。

「58億元(約930億円)の社会保障性住宅プロジェクトの資金が流用され、一部は理財商品の購入や関連会社職員の労働賃金、社会保障性ではない住宅地確保のための立ち退き費用等に充てられている。600ムー(約40ヘクタール)余の社会保障性住宅用土地が違法に商業開発等のその他の用途に使われている。2.4万棟近くの社会保障性住宅が違法に別の用途(転用又貸しなど)に流用されている。12万世帯が違法に社会保障性住宅を受け取っている(重複して社会保障性住宅の提供を受け、家賃補助費を違法に受け取っている、等)。

流用の例:湖南省社会保障性住宅工程投資公司に財政支出された社会保障性住宅建設プロジェクト資金2.69億元(約43億円)は理財商品の購入に充てられていた。」

 外国メディアではなく、中国国営の新華社通信が「ブラック・ホール」と呼んでいるのだから、わかりやすいですね。つまりは中央政府が「一般労働者のための福利厚生のための住宅建設・上下水道整備の資金だ」と言って資金を地方政府に渡したところで、中国の地方政府は「ブラック・ホール」であり、自分の都合のよいように使ってしまう、ということなのでしょう。

 李克強総理の「改革」も、経済成長率の「底線」は割らないようにする、ということで、結局は鉄道建設と都市化という「守旧既得権益グループ」が欲しいと思っている方向でお金を使う、ということで、妥協が図られたようですね。それを反映しているのかどうか、ここ数日の上海株式市場の総合指数も堅調に推移しています。

 中央政府が地方政府を統治できていない、という現状は、何十年も続いているのですが、全然是正されません。是正する気がないのだろう、と多くの中国人民は思っていると思います。中央と地方とが決定的に対立してしまっては、中国共産党という組織が壊れてしまいますからね。

 かくして、やはり、「バブル化をコントロールしながら行う意図的な経済構造改革」は難しく、結局は一気にバブルが崩壊するまで、「ブラック・ホール」への資金の注入は続いてしまうということなのでしょうか(8月8日に発表された7月の貿易統計では、輸出入とも予想を上回る大幅増でしたが、結局は、また「偽装輸出」によるホット・マネーの流入が再開されたのだろうなぁ、と私は思っています)。

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