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2013年8月 1日 (木)

「中国などの新興国」という括りは不適切

 最近、新聞などで「中国などの新興国における景気減速懸念により・・・」などという解説がなされます。確かに、中国、インド、ブラジル、インドネシアといった国々は、2008年のリーマン・ショック後にも急速な経済成長を続けて、世界経済を牽引してきていたのに、2013年に入って、急にこれらの国々の経済が減速しはじめ、それが世界経済の先行きに対する懸念材料になっているのは事実です。しかし、これらの国々はそれぞれ事情が異なり、ひとくくりに議論するのは適切ではありません。特に、中国は、下記に述べるように、現在の経済の減速は、中国共産党による社会全体の統括という中華人民共和国だけが持つ独特の社会経済システムの矛盾が表面化したものであり、他のインド、ブラジル、インドネシアとは全く背景が異なる(根が深い)ものと考えられるからです。

 もちろん、リーマン・ショック後に先進国(特にアメリカ)で行われた金融緩和によってもたらされた資金がこれらの国々に投入されて経済成長が続いてきたのに、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和の「拡大の縮小」が議論されはじめた途端、これらの国々に投下された資金が逆回転を始め、経済を減速させた、という点では共通点があります。また、人件費の安さに頼った経済構造から脱皮し、一定程度の人件費の高さとそれに基づく内需の経済の中に占める比重を大きくしなければならないという、どの国でも経験する「中進国から更に先に進むための産みの苦しみ」の中にある、という点でも共通点はあります。

 しかし、まず、現象面では以下の違いがあります。

(1)為替レート

インド、インドネシア、ブラジル:インフレが加速し、通貨の対ドル為替レートが急落している。

中国:高いインフレ率は20年近く続いており、最近はむしろインフレ率は穏やかになりつつある。人民元の対ドル為替レートは、一定の変動幅を持って管理されており、ここ10年間、継続して緩やかな人民元高・ドル安の方向に動いている。

(2)現象の起きている時間軸

インド、インドネシア、ブラジル:2008年のリーマン・ショック後の急速な成長が、今、鈍化しつつある。

中国:1978年の改革開放以来(「第二次天安門事件」の影響を受けた1989年~1992年などいくつか成長が鈍化した時期はあったが)一貫して急速な経済成長を続けてきており、もともと「経済バブル」が懸念されていたところに、2008年にリーマン・ショック後に行われた4兆元の経済刺激策で、その「経済バブル」が更に拡大したのが現時点であること(つまり、現在の状況は「リーマン・ショック後の結果」ではなく、「1978年の改革開放開始以来35年間の結果」であるので、現在、中国が持っている経済変動の潜在的エネルギーは、他の国とは比較にならないほど大きい)。

 次に、最も根本的な問題として、社会構造の違いがあります。

インド、インドネシア、ブラジル:政治体制は民主主義、経済は市場経済で、基本的に他の国が経験した社会経済メカニズムと同じなので、古くは日本、1980年代後半以降は、韓国、台湾などが経験した道筋から、政策選択のモデルを考えることが可能である。

中国:中国共産党が社会と経済の全てを仕切っており、金融制度、経済における法的ルール等が未整備である。土地使用権の財産権を認めた「物件法」ができたのは2007年であるなど、他の国に比べて経済的権利・義務に関する法整備(特に金融面など)が非常に遅れている。また、中国共産党の決定が法律より上位にあるため、法律があっても守られないことが多い。都市(非農村)戸籍の人と農村戸籍の人では受けられる権利が異なるなど、「法の下の平等」「職業選択や居住地選択の自由」など、多くの国々で一般的になっている社会的価値観が異なる。そのため、民主主義自由経済体制を採った過去の国々の経験をそのまま適用することができない。

 つまり、中国をインド、インドネシア、ブラジルと同じ土俵で議論するためには、まず、中国が中国共産党による社会・経済の支配をやめ、「法の下の平等」「職業選択の自由」などの基本的価値観と民主的な政治制度と市場原理を基本とする経済原則の国になることが前提になります。

(注)中国の農村戸籍の人でも、能力と資金的な力があれば、どんな職業にも就けますので、中国にも「職業選択の自由」は形式上はあるのですが、農村戸籍の人と非農村戸籍の人では都市部において受けられる行政サービス等に違いがあるので、例えば、大学卒業などの資格を取るのでなければ、農村戸籍の人の職業と居住地の選択肢は実質的には非常に狭いものになっています。

 従って、現時点において、中国とインド、インドネシア、ブラジルを「中国などの新興国」として一括りで議論することは、極めて不適切だと思います。

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