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2013年7月25日 (木)

李克強総理の鉄道改革

 「影の銀行行為対策」等の経済構造改革の具体策を次々と打ち出している中国の李克強総理ですが、昨日(2013年7月24日)、国務院は、以下のような新たな改革を決めました。国会で議論する必要がないから、中国の政策決定のスピードは、なかなか迅速です。

○売り上げ額が月間2万元を超えない小規模企業に対する増値税、営業税の減税(8月1日から実施)

○輸出における検査手続き等の簡素化、中小輸出企業に対する輸出金融の拡大、輸出減税等による中小企業による輸出の拡大推進策の実施

○鉄道建設改革

 特に最後の鉄道建設改革が改革の性質としては重要だと思います。

 李克強総理は、利権集団と化していたかつての「鉄道部」の解体をはじめとする鉄道改革を自分の改革の「本丸」のひとつとして考えているようです。李克強氏は、政治局常務委員・副総理になったばかりの2008年の全人代の時には、行政改革として、鉄道部門も含めた交通部の設立を目指したのですが、2008年の行政改革では、鉄道部の抵抗により鉄道部だけは独立が維持され、空運・水運・道路交通・郵政を統括する交通運輸部と鉄道部が並立する形となりました。李克強氏は、総理になった今年(2013年)の全人代で、行政部門としては交通運輸部が鉄道部門も含めて所管することにし、鉄道の建設と経営は、政府部門から切り離して、事業体としての国有企業である「中国鉄路総公司」が実施するようにしました。

 それに加えて、昨日(7月24日)の国務院の会議では、次のような鉄道改革の方針が決まったのです。

(1)鉄道建設の資金調達先として、中央財政からの資金に加えて地方政府や民間からの資本を加えた「鉄道発展基金」を設立する。

(2)鉄道債券の発行等の多様な資金調達を行う。

(3)都市間鉄道、都市郊外鉄道、資源開発用鉄道について、地方政府と民間資本に開放し、これらの鉄道の所有権と経営権を認める。

 特に(3)については、私は、社会主義中国においては、革命的な改革だと思います。解放前の中国では、例えば日本による南満州鉄道の経営など、列強各国による中国の半植民地化の手段として、外国資本による鉄道の建設と経営が広く利用された歴史を踏まえて、中華人民共和国では、鉄道は最重要の社会インフラとして国家(中央政府)が建設と運営を担当する、という強い意向で政策を進めました。1978年以降、改革開放が進み、外国資本が入り、中国国内資本による民間企業もたくさん生まれる中で、鉄道だけは国家が直接運営するという姿勢をかたくなに守ってきたのでした。そういう姿勢が「鉄道部」という国の鉄道運営部分を利権集団化させることになったのです。

 その鉄道経営について地方政府や民間資本(外国資本の参入は認めないと思いますが)に開放しようというのは、革命的な発想の転換です。鉄道の建設や経営及び所有を地方政府や中国国内の民間企業に認める代わりに、資金は「影の銀行」を使うのではなく、中央政府が管理した「オモテの金融機関」から調達するようにする、という方策なのだと思います。

 鉄道の運営は、国家建設の基本に係わる問題です。そもそも1911年に辛亥革命の発端となった武昌蜂起が起きたのも、当時清朝政府が進めようとしていた鉄道国有化に地方の人々(芽生えつつあった中国民族資本家を含む)が反発したことがきっかけでした。日本でも、明治初期には民間資本による鉄道が広く行われましたが、国家全体としての鉄道発展の重要性から、日露戦争直後の1906年に鉄道国有化が行われたのでした。

 日本では、その後、都市近郊や地方路線としての鉄道経営は、民間資本でも行われ、特に都市近郊では、民間の鉄道会社が、都市近郊の住宅開発から百貨店経営、劇場(阪急の宝塚歌劇)、遊園地(西武など)、動物園(東武など)からプロ野球経営までを行うビジネス・モデルを展開し、国有鉄道とうまく役割分担しながら、社会インフラの整備に成功したのでした。中国政府は、日本など外国の経済成長モデルをよく勉強しており、特に都市郊外鉄道等については、現在の中国では既に民間資本による開発モデルが可能であると考えたのでしょう。

 ただ、「鉄道のあり方」は、「中国革命の根本方針」に触れると思われる部分ですので、国務院で方針を決めたからと言ってすぐに実行するのは難しいと思います。中国共産党内できちんと議論をする必要があるからです。おそらくは秋に行われる中国共産党の三中全会(第三回中央委員会全体会議)での党内議論を経てから正式決定するのだと思います。

 「影の銀行行為対策」といい、「鉄道改革」といい、李克強総理は、極めて意欲的に次から次へと改革を進めつつありますが、若干「急ぎ過ぎじゃないのか」という心配はあります。日本で言えば、1980年代の中曽根康弘内閣の国鉄民営化と1990年代の橋本龍太郎内閣の「日本版金融ビッグバン」と2000年代の小泉純一郎内閣の郵政民営化をいっぺんにやろうとしているみたいなもんですからね。改革を急ぎすぎると、いろいろ軋轢(あつれき)が生まれるのではないか、と心配です。

 なお、今日(2013年7月25日)付けの「人民日報」を見ると、上記のような李克強総理の改革の記事と、古色蒼然たる文革時代を思い起こさせるような精神論を語る習近平総書記の話が同じ1面に出ています。習近平主席と李克強総理のコンビは、意外に息を合わせてうまくやっているような感じがします。習近平総書記が保守的なスローガンを掲げたり、倹約令(行政支出の5%削減や党や地方政府の建物の今後5年間の新築禁止指示など)を出したりしているのは、李克強総理に強力に改革を進めさせる一方で、保守派(利権を追い求める権益集団ではなく、理想的な社会主義路線を求める清純な「左派」とそれを支持する社会の下層にいる多くの人民)を政権側に引きつけておこう、という習近平-李克強コンビの作戦なのかもしれません。

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