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2013年7月14日 (日)

中国は外貨準備を不良債権処理に使うのか

 今日(2013年7月14日)付けの「人民日報」は、1面と2面で「3.5兆ドルの外貨準備に関する三つの問い(政策の焦点)」と題する解説記事を載せました。

 「世界の工場」として輸出大国となった中国は、2000年代以降、一環して巨大な外貨準備を持っています。あまりに巨大なので、諸外国(特にアメリカ)から、「そもそも経済の実勢に比して人民元為替レートが低すぎるため、毎年巨額の貿易黒字が積み上がった結果が巨大な外貨準備になったのであり、人民元レートを適正な水準にすべし(人民元レートの切り上げをやるべし)」との批判が強く出されてきています。

 中国としては「安い製品を作って輸出することにより経済を成長させ、それによって雇用を生み出す」ことが中国国内の政治状況を安定させる必須条件ですので、外国から強く批判されても、人民元レートを上げることはしてきませんでした(中国の人民元の為替レートは、市場で自由に決定されるのではなく、過去の水準から一定の変動範囲に収まる範囲内で中国政府が設定しています)。

 基本的に中国は外国から批判されている関係上、あまり世界一の巨大な外貨準備を持っていることを積極的に宣伝することはしてきませんでした。それなのに、このタイミングで、「人民日報」が3.5兆ドルに上る外貨準備について解説した記事を載せたのは、この巨大な外貨準備を国内の不良債権処理にも使うことは可能、ということを示すことで、中国国内に「見せ金」効果を与え、動揺する国内金融市場に安心感を与える目的があるものと思われます。

 「見せ金」とは、金融危機の時に使う一つの方法です。例えば、ある銀行について「破綻しそうだ」というウワサが流れ、預金者が一斉に預金を降ろそうとすると、本来は経営状態が健全だった銀行が本当に破綻してしまう危険性があります。そのため「破綻しそうだ」とウワサが立った銀行の店頭に中央銀行が提供した紙幣を山積みにし、預金を降ろそうと集まって来たお客に見せます。お札の山を見たお客は「なんだ。お金はたんまりあるじゃないか。今日、あわてて降ろさなくても大丈夫だ。」と安心して、預金を降ろすことをやめるので、銀行が破綻から救われるわけです。つまり、「見せ金」とは、実際に預金引き出しに対応するために用意されたわけではなく、預金者を安心させるために(見せるために)用意されたお金のことです。

 6月来、「影の銀行対策」で銀行間貸出金利が高騰したり、「理財商品」のリスクについて報道されたりしました。中国人民銀行が必要な金融機関には流動性を供給することにしていますので、現在中国国内の金融状況はコントロールされていますが、中国政府が一番心配しているのは、中国人民の間に不安が広がって、新規の「理財商品」が売れなくなったり、銀行から預金を降ろす人が増えたりして、本当の金融危機が起こってしまうことでしょう。だから、中国政府(=中国共産党中央)は、「外貨準備」という準備金がたんまりありますから、全く心配する必要はないのですよ、と中国人民に言いたかったので、「見せ金」的意味で、「人民日報」に外貨準備についての記事を載せたのだと思います。

 ただ、下記の「人民日報」の記事を読むと、中国は、巨大な外貨準備を「見せ金」より一歩進んだ使い方、即ち、外貨準備を切り崩して国内の不良債権処理に使うこと、もある程度本気で考えている可能性があると、私は感じました。

 2013年7月14日付け「人民日報」の「3.5兆ドルの外貨準備に関する三つの問い(政策の焦点)」という解説記事のポイントは以下のとおりです。

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○我が国の外貨準備は6月末で3.5兆ドルである。これは世界一の大きさで、二位の日本の3倍近い。

○我が国の外貨準備の額は巨大であるが、減速の道を歩んでいる。

○専門家によれば、我が国の外貨準備の増加が減速しているのには、以下のような理由がある。

--アメリカ経済が緩やかに回復基調にあり、アメリカの金融緩和政策が段階的に出口戦略をたどり始めていて、一部の外国資本が中国を含む新興諸国から引き上げられ始めていること。

--中国経済は既に成長力を持っているが、下押し圧力が掛かり始めており、これが国際資本の流れに一定の変化を生み出していること。

--不動産及び地方金融平台に対する監督が強化されたことにより、我が国への投機的資金(ホットマネー)の流入が減ったこと。

--今年5月以来、国家外国為替管理局が採った一連の「偽装貿易」による資金流入防止対策により、異常な資金流入に対して明瞭な警告作用があったこと。

○我が国政府の外貨準備高は3.5兆ドルだが、民間の企業や個人が持っている外貨建て資産は4,400億ドルに過ぎない。これに対し、2010年における日本、ドイツ、イギリス、アメリカの民間の企業・個人の外貨建て資産は、それぞれ4.99兆ドル、6.91兆ドル、12.78兆ドル、15.4兆ドルであり、我が国政府の外貨準備高を遙かにしのいでいる。

○大きな外貨準備は、安全確保を前提として適切に運用することにより収益を上げることができるが、そのほかに「隠れた収益」がある。それは、国際収支危機、貨幣危機、金融危機を防止するのに役立つ、ということである。

○このほか、専門家は、常に外貨準備の新しい活用の仕方を検討すべきことを指摘している。先日国務院が発表した「経済構造を調整しよりレベルアップさせるための金融に関する指導意見」では、貸出プラットフォームや商業銀行を使った外貨準備の貸出への活用等の総合的ないろいろな種類の融資提供方式について検討するよう指示している。

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 この記事で注目すべき点は、以下のとおりです。

☆中国政府自身が、中国経済が減速し、それによって外資の流入が減る(ないしは外資の流出が増える)ことを認識していること。

☆不動産や地方金融平台への監督の強化や「偽装貿易」の取り締まりにより、外国からの投機資金の流入が減っていることを明示していること。

☆巨大な外貨準備を単なる「見せ金」としてではなく、国内への貸し出しへ活用すること(おそらくは、それは不良債権対策として使われることを想定しているものと思われる)を示唆していること。

 中国が巨大な外貨準備を国内不良債権処理に使うと、必然的に大量に保有しているアメリカ国債の売却を行うことになり、アメリカ経済のみならず世界経済に大きな影響を与えます。一方、それは中国自身にも以下のようなマイナスをもたらします。

◇中国のアメリカ国債の売却によりアメリカ国債の価格が下がり、中国が保有している大量のアメリカ国債に含み損を生じる。

◇外貨準備取り崩しによるドル売り・人民元買いによって一時的にドル安・人民元高になり、既に減速気味になっている輸出に更にブレーキが掛かって、中国の経済成長の足かせになる。

◇中国国内に大量の人民元を供給することになるので、中長期的には中国国内にインフレを引き起こす可能性がある。

 そもそも、安易な不良債権処理は「リスクの高い融資をやっても、どうせ最後は中央政府(=中国共産党)が尻拭いしてくれる」という「モラル・ハザード」を生み、長期的には中国経済に大きな病根を残します。

 民主主義国家では、不良債権処理に公金をつぎ込むことに対しては、大きな世論の反対があり、不良債権処理対策の決定までには紆余曲折がありますが、中国のように中国共産党が全てを決める国では、金融危機になっても、即座かつ大量に公金を投入して危機を回避できる、という利点があります。しかし、それは「モラル・ハザード」(お金を借りても返さなくてよいという考えの定着)という回復不可能な病根を残すことになるので、長期的に見れば実は「利点」ではありません。

 地方政府を中心とする経済のバブル化部分の処理のためには、不良債権処理が不可欠ですが、その際、不良債権のどの部分を誰に負担させるのか、どの部分に中央政府がどのくらい額の公的資金を注入するのか、は非常に難しい問題です。中国の場合は、民主主義国と異なり、おそらくは見えない部分で水面下で処理するのだと思いますが、むしろ見えない部分で処理できる分、多くの中国人民の反発を買わない形で、不良債権を処理するのは、至難の業だ(国民にオープンな形で議論せざるを得ない民主主義国よりむしろ難しい)と思います。

 中国経済の減速そのものに加えて、中国による外貨準備の取り崩し(=アメリカ国債の売却)が今後行われるのだとしたら、世界経済は、今後、中国政府(=中国共産党中央)による中国経済舵取りの一挙手一投足を固唾を飲んで見守らざるを得ないことになると思います。

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