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2013年7月29日 (月)

ついにパンドラの箱が開く:中国地方政府の債務に対する監査

 中国の審計署(日本の会計検査院に相当する)は、昨日(7月28日)、近日中に全国の審計署関係機関を組織して地方政府の債務問題の監査を実施することを発表しました。

 これを報じる今日(2013年7月29日)付けの「人民日報」の記事によると、審計署は、2011年にも監査を実施しており、この時の監査によれば、2010年末の時点における全国の地方政府の債務残高は10兆7,174億9,100万元(現在のレートで約170兆円)に上っていたとこことでした。その後、2012年と2013年に36の地方政府に対する「サンプル調査」を行い、その結果、この二年間で、調査対象の地方政府の債務残高が12.94%増加していることがわかった、とのことです。

 この審計署が行った36の地方政府の債務に関する「サンプル調査」の結果については、NPO法人日中産学官連携機構のホームページで特別研究員の田中修氏がその概要を紹介しています。

(参考URL1)NPO法人日中産学官連携機構特別研究員田中修氏のレポート
2013年6月19日付け「地方政府の債務問題(2)」
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/tanaka_report.html

 上記の「人民日報」の記事によれば、今年6月、審計署の長官の劉家義氏は、国務院を代表して、全国人民代表大会常務委員会に対して、地方政府の債務の管理を強化し、融資平台(融資プラットフォーム)会社の規範に対する監督を更に一歩進め、地方政府債務の規模の管理を完全なものにし、リスクに対して警告を発するシステムを樹立し、地方政府債務に対する完全な管理と動態の監視並びにコントロールを実現する、と提議した、とのことです。これは、相当、覚悟の入った「宣戦布告」ですね。

 この報道を受けて、今日(7月29日)、中国のマーケット関係者は「改革を進めるのはいいけれど、マジでホントに地方政府の債務問題というパンドラの箱を開けちゃうのかよぉ。どんな『お化け』が出てくるのか怖いよう。」と思ったらしく、上海株式市場の総合指数は1.72%下げて、節目の2,000ポイントを再び割り込みました。今日(7月29日)の東京株式市場の日経平均株価が先週末比468円85銭安(マイナス3.3%)だったのも、この上海市場の下げがきつかったことが影響している可能性があります。

 中国の地方政府の債務の額(上に書いたように2010年末で約170兆円)は、日本の公的債務残高の約1,000兆円に比べてそれほど大きくない、という議論もありますが、日本の公的債務は、誰が誰に金利いくらで貸しているのかハッキリわかっているのに対し、中国の地方政府の債務の恐いところは、誰が誰に金利をどのくらいで貸しているのか、担保がどうなっているのか、など全体像を誰も知らない、ということです。7月9日付けの「人民日報」に載っていた中国国務院発展研究センターマクロ経済研究部副部長の魏加寧氏は、中国の地方政府の債務は「ステルス化(中国語で「隠形化」)」している、と表現していました。

(参考URL2)このブログの2013年7月10日付け記事
「中国金融改革:『人民日報』に『正論』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2013/07/post-166a.html

 中国の地方政府の債務の多くはちゃんとしたもの(貸し手や借り手や金利や担保などの条件がハッキリしているもの)だと思いますが、「よくわからない」ものもある、というのが恐いところです。実際にあるのかないのか私は知らないのですが、もし仮に下記のようなものがあると相当に恐いと思います。

○ネズミ講型債務

 プロジェクトAに使われる債務の返済を今後行われるプロジェクトBとプロジェクトCの収益で賄う予定にしてある、といったタイプのもの。開発プロジェクトが永遠に拡大し続けることを前提にしているので、いくら広大な国土と多くの人口を抱える中国と言えども、限界に来たら必ず破綻する。この手の資金集めは、日本では1979年5月に施行された「無限連鎖講の防止に関する法律」によって禁止されている(この法律が施行される前は日本でも法的には禁止されていなかったため(ウソを言って加入者をだましているわけではないので、詐欺罪が適用できなかったため)、実際、ネズミ講によって被害が発生する事件が起きた)。

 このタイプは、いずれどこかの時点で破綻するのだが、年間10%を越える経済成長を続けている間は破綻時期が訪れないが、経済成長のスピードが落ちると、途端に破綻する可能性が高まる。

○自己撞着型債務

 マンション建設業者が「マンションが完成して売れたら返す」という約束で金融機関からお金を借り、金融機関がその債権を「理財商品」の形の金融商品にして高い利率で販売し、将来マンションを買うための資金にしようと思ってマンション購入予定者がその「理財商品」を購入しているタイプのもの(販売されている理財商品において数多くの債権が組み合わされているため、当事者の誰もが「自己撞着型」であることに気付いていないもの)。

 このタイプでは、マンションが完成し、マンション購入予定者が購入資金を得ようと「理財商品」の現金化を金融機関に求めると、金融機関はマンション建設業者にお金の返済を要求し、マンション建設業者は、マンション購入者が現金を払ってくれたらお金は返すと金融機関に返事する、ということになる。つまり、最初から、お金は何もないのに、関係者の間で「夢を見ていただけ」という形のもの。このタイプは、自分が関係している債権が「自己撞着型」であることを関係者が気が付き、関係者の誰かが「金返せ」と言い出した瞬間に破綻が起きる。

 よく、「影の銀行問題」について、アメリカのサブ・プライム・ローンの例を出して、「不動産価格が下がったら破綻する」と言う人がいますが、「ネズミ講型」や「自己撞着型」のものについては、不動産価格が高い状態であっても、金を貸している方の関係者が自分の持っている債権が「ネズミ講型」や「自己撞着型」であることに気がついて「金返せ」と要求した時点で破綻します。

 中国の審計署が、どこまで詳細に地方政府の債務問題を調査し公表するのかわかりませんが、もし「ネズミ講型」や「自己撞着型」の債務があったら、それが明らかになった時点で、誰かがババを引くことになります(=誰かが債権を放棄せざるを得なくなる)。それを防ぐには公的資金の注入しかありませんが、さすがに中国でも「ネズミ講型」や「自己撞着型」の債務に公的資金は注入しないでしょう。そうなると、「誰がババを引くか」を決めるのが、非常にやっかいな問題として残ります。

 いずれにせよ、そうしたリスクを承知の上で、審計署が地方政府の債務問題という「中に何が入っているのか誰も知らないパンドラの箱」を開けようとしていることは、中国の経済体制の改革のためには必要なことであり、政府として、非常に勇敢な態度であって評価すべきだと思います。ただ、実際にパンドラの箱から「お化け」が出た場合には、激震が走ります。中国で激震が走ると、世界経済にとっても影響が大きいので、世界の関係者は中国において激震が走る時に備えて、リスク・マネジメントをしておく必要があると思います。

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