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2013年7月 3日 (水)

影の銀行行為対策:長い困難な変動の始まり

 中国政府による「偽装輸出」の取り締まりと中国人民銀行(中国の中央銀行)による流動性の引き締めにより、6月後半の中国の銀行間短期金利は乱高下し、それが株式市場にも波及して、上海株式市場総合指数も大幅に下落しました。

 これらの中国政府及び中国人民銀行の対応は、いわゆる「影の銀行行為(シャドウ・バンキング)」を許さない、という中国政府の意図の現れであり、最終的には中国経済の中の不動産開発やインフラ開発に対する投資における「バブル化した部分」の解消のための施策であり、プラスに評価すべきです。

 中国人民銀行の周小川総裁は、年齢的に行っても今年(2013年)の全人代で引退すると言われていましたが、結局は続投となりました。周小川氏は、朱鎔基元総理の直系で、中国マクロ経済のコントロールの経験が深く、おそらくは習近平指導部は、「影の銀行行為対策」といった「大なた」を振るうために、ベテランの周小川氏を続投させたのだと思います。

 今のところ、一時的に急騰した上海銀行取引金利(SHIBOR)は安定していますし、必要に応じて中国人民銀行が流動性の供給を行うと思うので、2008年の「リーマン・ショック」のような急激な破綻の連鎖といった現象が起きる可能性は小さいと思います。

 ただ、以下の理由により、中国の経済成長には、今後、中長期的に、かなり大規模なブレーキが掛かる可能性があります。

○安定はしたものの上海銀行取引金利(SHIBOR)は高止まっており、金利の高止まりによって企業等が資金を借り入れることが難しくなり、設備投資が冷え込む可能性がある(2013年7月2日付け日本経済新聞は1面トップで「中国、社債1.4兆円延期 6月発行半減 マネー抑制で 過剰投資見直しの動き」と報じています)。

○今回の「偽装輸出」の取り締まりと銀行間短期金利の上昇や株価の下落は、中国政府及び中国人民銀行の「本気度」を示すものであり、今後「理財商品」(財テク商品)に対する取り締まりも強化されることが予想される。そのため、個人や企業において新たな「理財商品」の購入への警戒感が強まり、今まで、新たな「理財商品」の発行による過去の「理財商品」の償還といった「自転車操業」的「借り換え」による資金調達が困難になる(これは「自転車操業的な借り換え」の蓄積の結果として起こる連鎖的な破綻リスクをなくそうという中国政府の意図するところ)。また「理財商品」以外の融資類似行為(銀行が大企業に融資し、その大企業が地方政府の融資プラットフォーム(融資平台)に融資するといった「又貸し」など)に対する管理も強化されると、これらによる資金調達に頼ってきた不動産開発プロジェクトやインフラ建設プロジェクトが停止せざるを得なくなり、関連建設業者や関連企業の労働者が仕事を失う可能性がある。

 また、「理財商品」(様々な債権を組み合わせた金融商品)については、どのようなものがあるのか、誰が買っているのか、など不明な点が多いのですが、以下のような心配な点があります。

○「理財商品」を企業が購入していた場合、管理の強化により「理財商品」の大幅な元本割れ(または換金化不能)が起きた場合には、企業の財務体質を弱め、人員削減や設備投資の縮小などを招く可能性がある。

○「理財商品」を多数の個人が購入していた場合、大幅な元本割れ(または換金化不能)が発生すると、個人消費が減退するほか、政府の経済対策への不満が高まり、政治的な不安定要素となる可能性がある。

○特に地方における不動産開発プロジェクトやインフラ建設工事においては、補償金をもらって農地を追い出された多くの農民が労働者として働いているケースが多いと考えられ、地方の不動産開発プロジェクトやインフラ建設工事が縮小すると、彼らが失業者となる可能性がある。既に農地は失っているので、農業に戻れない彼らは、中国社会の大きな不安定要因となる可能性がある。

 一方で、中国経済の「バブル化した部分」は、1978年以来の中国の改革開放政策における社会主義の土台(全ての活動が中国共産党の指導にあり、政治(社会のルール作り)が民主化されていない)と市場経済化の部分の「接点」の矛盾が集積した部分であり、これを根本的に解消するためには、中国の改革開放政策の構造そのものを変えることを余儀なくさせることになります。従って、今、中国政府(中国共産党中央)が始めた「影の銀行行為対策=経済のバブル化部分の解消」は、現在の中国の政治・社会構造の根本を大きく変動させていく可能性があります。

 「経済の一部がバブル化する現象」は、既に1980年代後半から始まっていました。私は1986年10月~1988年9月に北京に駐在していましたが、その時に書いたレポートに当時の北京市内でのホテルやオフィスビルの過剰な建設ラッシュ現象(当時は「バブル」という言葉は、私自身はまだ知らなかったと思います)について描かれています。

(参考URL)私のホームページに掲載してある当時のレポート「北京よもやま話」
「オフィスでシャワーを」(1988年5月27日)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/beijing/offices.html

 またこのレポートを書いた後の1988年6月2日付けで書いたレポートには下記のような記述があります。

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 「前にも『北京は過剰なくらいの建設ラッシュである』と書いたことがありましたが、5月27日、国務院は建設プロジェクトの整理をするため、北京市内の33項目のビル建設工事の停止または建設のスピード・ダウンを決定しました。」

 「国務院が意図していたのは、自主権の拡大をいいことに自分の職務範囲を拡大解釈して不必要な投資をしている国内の機関にカツを入れたかったのでしょう。」

 「我々の常識から考えても、住宅建設公司や機械工場、北京の水利局までホテルを建設している現状は、やはり正常とは思えません。」

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 改革開放経済は、各組織に一定の自主裁量権を認めて、新規事業を認めよう、というものですが、1988年当時、外国人が多く来るようになって「ホテルを建設すれば儲かる」状態になっていたのは事実ですが、北京の水利局(水道局)までがホテルを建設する、という状態は、既に今の言葉で言えば完全に「バブル」でしょう。

 「バブル状態」が1980年代から始まって25年が経過した現在でもに続いているのは、現在の中国の改革開放経済社会には、社会のシステムとして、社会の問題点を指摘し、是正する制度がないからです。

 「バブル」をはじめとする社会問題(環境問題などもその例)を是正できない、という現在の中国の改革開放経済システムの問題点は、以下の四つに端的に表れていると思います。

1.企業における企業統治(コーポレート・ガバナンス)の問題

 そもそも中国の組織においては、組織のトップ(企業ならば社長)の他にその組織の中国共産党委員会書記がおり、人事や政府の許認可事項に関しては党書記が組織運営の実権を握っている場合が多いのです。トウ小平氏が進めた改革開放政策は、各組織の一定程度の自主権を認め、自らの発案で新規事業を開拓し、利益を上げた部分は規定された納税を果たした後は、自らの判断で次の段階の処分をしてよい(つまり利益を確保するか、新たな投資をするか)を決められる、ということです。

 一般に、市場経済(自由主義経済)においては、例えば、株式会社の場合、会社経営の実務は経営陣に任されますが、会社経営は常に株主にチェックされており、会社経営の実態は株主に公開され、多数の株主が反対するような経営をする経営陣は退陣させられます。従って、例えば金融機関の場合、銀行経営をリスクにさらすような安易な審査による融資や、個人のコネに従った融資案件などがあれば、そういう経営をする経営陣は、政府機関が取り締まる前に、株主に辞めさせられてしまうわけです。

 しかし、中国の国有企業の場合は、大株主が国自身または政府系投資ファンドですし、経営状態が常に公開されているわけではありません。従って、株主による企業統治の改善は期待できません。金融機関の場合、リスクの高い融資を継続している状態は、企業自らのコーポレート・ガバナンスによる是正は期待できず、政府の規制当局による規制でしか是正できないのです。中国政府の規制当局も取り締まりはきちんとやっていると思いますが、星の数ほどある国有企業を全て取り締まることはほとんど不可能です。

 一方、中国の場合は、社長よりも強い権限を持っているその会社の党書記が、多くの場合、地方政府の共産党幹部とつながっています。私は中国の金融機関の実情については、全く知らないのですが、他の私が知っている組織から類推すれば、例えば地方政府の開発プロジェクトに関する個別の融資案件において、客観的な経済的リスク審査とは関係なく、党書記の意向が融資の決定に影響を与えるケースが多いのではないかと想像されます。本来は、金融機関における情実による融資案件は中国共産党の規律委員会が取り締まるべきなのですが、これも党規律委員会の目が行き届く範囲には限界があると思います。

 つまり、中国の場合、金融機関における信用リスクは、中国共産党が国内の全ての組織を牛耳っている、という統治形態そのものが根源的原因である可能性があります。ですから、今回始まった「影の銀行行為」是正の取り組みは、中国共産党による統治、という「体制の根本」に触れる可能性があります(だからこそ、今までの政権では、取り組むことができなかったのだと思います)。

2.経済ルール(法律)の策定手段の問題

 市場経済では、経済活動は原則自由ですが、ルールなしで自由な経済活動を許すと様々な問題が生じます。企業独占による弊害や、情報の偏りによる不公正な取引(株のインサイダー取引など)がその例です。こうした問題点は、民主主義政治が機能している場合には、経済活動の各プレーヤーによって問題が生じるたびに問題提起がなされ、各プレーヤー間の利害が調整されて、問題を生じないように様々なルールが法律として制定されます。つまり、市場経済と政治的民主主義とは密接不可分のシステムなのです。

 ところが、現在の中国では、経済活動においてある程度の自由が認められているにもかかわらず、各プレーヤーには経済ルール(法律)を決める権限がありません。せいぜい新聞や陳情などで問題を提起し、中国共産党にお願いして、ルールを決めてもらうしかないのです(全国人民代表大会(全人代)はあるが、全人代の代表は国民から直接選挙で選ばれたわけではないし、実質的には法律は全人代ではなく中国共産党内部で議論されて決まる)。理想的に言えば、中国共産党が全ての経済活動の問題点を把握していて、必要なルールは中国共産党が決めればよい、ということになるのですが、複雑多岐にわたる経済活動の全てを中国共産党が把握することは不可能です。

 逆に、中国共産党にルールを決める権限が集中しているため、特定の中国共産党党員に有利なようにルールが決められる、あるいは問題を認識した党中央がルールを変えようとする時、既得権益が侵されることになる地方の中国共産党党員が党中央のルール変更の意図を妨害する、というようなことがおきます。このため、社会に様々な問題があるにもかかわらず、中国共産党にはその問題を解決するルール変更の権限があるにもかかわらず、問題解決のためのルールの変更が行われない、ことが多々あります。

3.情報の公開性の問題

 中国のマスコミは「党の舌と喉」として中国共産党宣伝部の指導下にあります。最近は、多くの読者が事実の報道を欲するため、「中国共産党の指導」の範囲内でもできるだけ真実に迫る記事を書こうとする記者が多数存在し、そうした記者が書く新聞も数多く出版されていますが、中国共産党宣伝部の指導下にある以上、実際に報道できる範囲には限度があります。

 今回、中国政府が取り締まろうとしている「影の銀行行為」や「理財商品」に関連しては、これまでも、おそらくは多くの詐欺まがいの横領事件や多くの投資家に損失を与えた理財商品関連事件があっただろうと思います。日本をはじめ、世界各国でもそうした事件は起こりますが、通常は、そうした「事件」はすぐに報道されます。従って、多くの国民は「うまい話にはウラがある」と警戒します。従って、怪しげな財テク商品は売れないのです。ところが、中国では、この手の「事件」があまり報道されないので、一般市民の間に「財テク商品」や投資のリスクに対する「免疫」ができていない可能性があります。

 私が二度目の北京駐在をしていた2007年にある話が新聞に出ていました。卒業間近の大学生がマンションを買おうと思ったけれども、お金がない、銀行からお金を借りたいけれども就職していないと銀行はお金を貸してくれないので、数百元のお金を払って「ニセ就業証明書発行業者」からニセの就業証明書を買って、銀行からお金を借り、マンションを買った、という話です。この新聞記事を書いた記者は、就職していない学生が多額の借金をしてマンションを買うという学生のリスク認識も問題だし、よく審査しないでニセの就業証明書で簡単にお金を貸してしまう銀行の審査体制も問題だ、そもそも「ニセ就業証明書業者」がいること自体がおかしい、と指摘していました。全くもっともな新聞記事なのですが、おそらくこうした問題は中国ではあちこちに存在しているのでしょう。

 問題は、このような新聞記事による問題提起がなされても、中国共産党が取り上げない限り「社会問題」とはならず、それを防ぐためのルール(法律)が作られない、ということです。

 また、市場経済では、各プレーヤーは情報を平等に持っていなければならない、他人が知らない情報を持っている者(例えば、政策担当者や新聞記者など)は、インサイダーであって取引に参加してはならない、というのが基本原則です。しかし、中国では、インサイダー取引が犯罪であると思っている人はほとんどいないと思います。むしろ、中国共産党に入党したいと思う動機は「インサイダー情報が知りたいから」であると思っている党員が多いのではないでしょうか。

4.中央政府と地方政府との関係の問題

 民主主義国家では、中央政府も地方政府も住民が選挙で選んだ政治家によってコントロールされています。中央政府と地方政府との関係のあり方は、常に議論の的となります(例:沖縄に米軍基地が集中している問題、大都市で集められた国税の多くが地方のために使われる問題、など)。地方政府は、その地域の住民から選ばれた代表として、時として中央政府と対立し、議論をします。

 中央政府をコントロールする政治家(国会議員)も地方政府をコントロールする政治家(首長や地方議会議員)も、選挙民の意志に反する政策を採れば選挙で落ちますから、中央でも地方でも、政治家は常に有権者(統治される側の人々)の声を聞かざるを得ません。

 ところが中国では、政治をコントロールするのは、中央政府でも地方政府でも中国共産党であり、人民が選挙で選んだ政治家ではありません。

 中国でも、中央の政治家は常に衆人の目にさらされており、今は一定の範囲内で政策提言をする新聞やネット世論があるので、選挙で選ばれたのでなくても、多くの世論の意志に反した政策は採りづらいのが実情です。ところが、地方政府の政治家は、その行動の詳細が報道されることはあまりないので、その地域の住民の声を聞いて政策を実行しているとは思えません。党中央は、地方の共産党のトップに中央から人材を派遣して、地方を統治しようとしますが、中央から派遣された地方の党書記が地方政府の行政の隅々まで目を届かせることは困難です。その結果、地方にいる「顔役」的有力者が地方の共産党組織を牛耳って、地元企業と癒着して、住民の利害とは全く関係なく、地方と企業の共産党トップの個人的利益のために行政を行うことが蔓延してしまいます。自由な報道と選挙がない現在の中国のシステムでは、それを浄化することができないのです。

 地方の中小銀行と地方政府の融資の受け皿となっている融資平台(融資プラットフォーム)は、党中央の目の届かないところで(表面上は党中央の指示に従っているふりをして)、自らの利益を追求しているのです。今まで、そうした地方政府、地方の企業、地方の銀行の癒着は、その結果実行される不動産開発やインフラ開発プロジェクトが、中国のGDPを押し上げ、一定量の雇用を生んで失業者や土地を失った農民を雇用していたので、党中央としても徹底的な取り締まりはできなかったと思われます。

 しかし、バブルを潰しに掛かった今回の党中央の「影の銀行行為」の取り締まりは、これまでの党中央と地方との関係を決定的に変えてしまう可能性があります。地方の中国共産党党員にとって、自らの利益を守ってくれないのだったら、党中央に従う必要はないからです。その際、不動産開発やインフラ開発プロジェクトで働いた労働者たちも、地方の中国共産党幹部の側に立ち、党中央に反対の立場を取る可能性があります。

 中国共産党中央にも、いろいろな地方と結びついた、様々な派閥があります。このため、今回の「影の銀行行為」取り締まりに当たっては、それを進めようとする勢力(習近平総書記-李克強総理-周小川中国人民銀行総裁を中心とするグループ)とそれに反対する抵抗勢力との間の激しい権力闘争が中国共産党中央の内部で起こる可能性があります。

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 今回の「影の銀行行為取り締まり」は、そういった中国共産党による統治体制そのものの根源に触る極めてセンシティブな施策です。ただ、バブル状態を放置しておいたら、意図せぬタイミングで意図せぬところで「バブル」の崩壊は始まるので、現指導部は、相当に「荒療治」ではあるものの、やむを得ず「バブル」とそれを生み出す体制に対して「宣戦布告」をしたものと思われます。大きな政治的リスクを伴ういわば「タブー」の分野に踏み込もうとしている現指導体制の姿勢は賞賛すべきだと思います。

 ただ、今後、経済的には上記に書いたような経済発展に大きなブレーキが掛かるだろうことと、中国共産党内部における「抵抗勢力」との権力闘争が起こることが予想されることから、現指導部がそういった試練を乗り越えて、バブルの解消へ向けて、うまくソフト・ランディングすることを願いたいと思います。

 日本の1980年代末のバブルの時も、株価がピークを打ったのが1989年末であったのに対し、地価高騰のピークは1991年であり、バブルは一瞬にしてはじけたのではありませんでした。そして、日本の場合、バブル後遺症の克服には「失われた10年」と言われるように十年単位の時間が掛かります(日本の場合、20年以上たった2013年の時点でもバブルの痛手から立ち直っていないと言えるでしょう)。従って、今回の「影の銀行行為対策」に着手した中国指導部の施策についても、今後、反対勢力からの巻き返しや、実体経済の低迷といった相当大きな「痛み」を伴いながら、10年オーダーの長期間、「変動への取り組み」が続くものと考えた方がよいと思います。

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