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2013年7月10日 (水)

中国金融改革:「人民日報」に「正論」

 日本での報道によると、中国当局は、今回の金融変動に関連して、「流動性が不足していること(中国語の俗語的表現で「銭荒」)」や株式市場の暴落について報道を控えるよう報道機関に通知を出した、とのことです。

 一方、2013年7月9日付けの「人民日報」では、中国政府がやろうとしている金融改革の背景にあるだろうと思われる現状認識を推測させる記事が経済面に載っていました。その記事とは、中国国務院発展研究センターのマクロ経済研究部副部長の魏加寧氏が「2013年中国金融イノベーション賞」の表彰式で行った発言を人民日報の熊建根記者がまとめたものです。表題は「制度の不合理さが別の形のイノベーションを作り出している(感想)」です。

 まず、表題からして、中国政府の政策を批判しているようにも採れるタイトルであり、こうした評論的文章が「人民日報」に掲載されること自体興味深いと思います。また、その内容は極めて「まとも」で「正論」と言えるものです。ポイントは以下のとおりです。

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○ある種の金融イノベーションは、現行制度の不合理さが生み出したものである。

○これまでの制度では、銀行業への参入制限があり、民間資本の導入による民間金融機関の設立が長期間認められてこなかった。長期金利は低く抑えられ、実質金利はマイナスであったため、正規の金融システムからの資金はひっ迫した。正規ではない金融機関(准金融機構)による正規ではない金融活動(准金融活動)には、縦割りの監督機関の監督が及ばず、地方政府には監督権限が下ろされていないために、金融監督システムに真空地帯を生じさせてしまった。

○これによる金融イノベーションは、新たなリスクを生み出した。最近打ち出された政策、即ち、民間資本が自ら設立し自らがリスクを負う民営銀行、民営リース会社や消費者金融会社等の金融機関の設立の試みは、まさにこのような問題に対処するものである。

○地方金融平台(金融プラットフォーム)の高いリスクについては、このような金融改革を通して速やかに解決する必要がある。地方政府は大量の都市化投資やインフラ投資を先行的に行ったため、かつてない資金需要を生み出した。しかし、我が国の予算法は、地方政府による自主的な債券発行を認めていないため、別種のイノベーション(創新)、即ち、地方金融平台の設立とそこへの銀行からの貸出を生み出した。銀行は短期借入による長期投資を行うかしかなかった。これがコスト倒錯の経営リスクを生んだのである。

○関係機関は地方金融平台の金融リスクをコントロールしてきたが、ここ二年、都市化投資は急拡大し、信託商品、理財商品が次から次へと生み出され、金融イノベーションの御旗の下、実際上は、こちらから借りてあちらに返すといったことを繰り返すことになった。融資の鎖は、だんだん長く、だんだん屈曲していき、地方政府の債務はだんだんとステルス化し(見えなくなり)、財政リスク、金融リスクは交叉し伝染していったのである。

○大いなる金融財政改革が必要である。地方政府に地方債券を発行させることは考えられないのだろうか? もしそうしたらリスクはどのように評価されるのだろうか?

○このほか、一部の保険会社は、銀行が発行する理財商品を購入している。こうしていくつかのトンネルを通って、地方政府の債権に投資されている。これら三つの異なる金融マーケットが一緒になっており、資金が異なる業種のマーケットを越えて流通しているのである。分業化された縦割りの監督体制を改革しなければ、この種の構造的な状況は将来大問題となる。しっかりと関心を持って真剣に分析をしなければならない。

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 上記のような問題認識は、既に多くの中国側関係者から発言がなされ、日本を含めて多くのところで報道されてきているところですが、それが中国共産党機関紙「人民日報」に掲載された意味は大きいと思います。「今までの政策は間違っていて、今、大きな問題が生じているので、それを改革すべきだ。」と主張しているわけで、魏加寧氏という一人の専門家の口を借りてはいますが、金融改革を行おうとする中国共産党中央の「決意」を示しているものであり、通常の「人民日報」の記事にはない斬新さを感じます。おそらくはこの記事は、現在中国政府が行っている「荒療治」とも言える金融改革の根本的問題意識を明確に中国国内に示したものであって、地方政府(=地方の中国共産党幹部)に対して党中央の「改革への意志の固さ」を示して、「荒療治」に反対する勢力に対する反論するものだとも言えます。

 中国当局が金融変動に関する報道を規制し、一方で「人民日報」に上記のような記事が掲載される、ということは、中国共産党内部で、金融改革を推進する勢力とそれに反対する勢力(バブル化が継続してもいいから金融緩和をすべきと思っている勢力)との論争が今起きていることを推測させます。

 通常、報道規制まで行って強引に政策を進める場合、多くの人民は中国政府が進める政策に反発を強めるのですが、今回の金融改革については、中国人民の中にも中国政府(中国共産党中央)が進める改革政策に賛成する人が案外多いのではないかと思います。(「中国人民」の中にもいろいろな人がいて、「理財商品」を自分で持っている人は自分がババを引くかもしれないので改革に反対し、持っていない人は地方政府や一部の不動産開発業者による理不尽な金儲けと腐敗をストップさせることになるから改革に賛成する、という立場を取るのかもしれません)

 なお、上記の「人民日報」の記事のうち、「理財商品」などについて「こちらから借りてあちらに返すといったことを繰り返すことになった。」と表現された部分は、中国語では、「『転来転去』あるいは『転回到這里』」となっています。貸したお金が「行ったり来たり、ぐるっと回ってこっちに帰って来たり」といった意味です。これって、ネズミ講とか、破綻した投資会社が全く儲けがないのに新しい顧客に債券を売ったお金で前のお客に返すことを繰り返している状態とかと同じですよね。

 この「理財商品」の残高については、中国の銀行業務管理委員会の尚福林主席は、6月29日、上海市で開かれた金融フォーラムにおける講演において、今年3月末の残高が8.2兆元(約130兆円)あると発言したと報じられています(日本政府の2013年度予算(一般会計)は約93兆円です)。

 おそらくは約130兆円分の「理財商品」の全部がネズミ講みたいなものではなく、中には「まともな」ものもあるのでしょうが、上に書いた「人民日報」の記事で描かれた「理財商品」の様子は相当イメージ悪いですね。「人民日報」は、7月6日付けで「『理財商品』と『信託業務』は厳格な監督を受けており、『影の銀行』には含まれない」とする解説記事を書いているのですが、別の記事で「理財商品」についてこういうイメージの悪い表現で書くと、新規の「理財商品」を買う人がいなくなっちゃうんじゃないでしょうか。新規の「理財商品」を買う人がいなくなると、「こちらから借りてあちらに返すといったことを繰り返すこと」つまり自転車操業ができなくなるので、とたんにそういう「理財商品」は破綻してしまいます。これって、相当に恐ろしい話だと思います。

 「人民日報」が実情を正直に表現した専門家の「感想」を掲載したのは評価すべきなのでしょうが、中国人民がこの「人民日報」の記事を読んで、どう思うのか、ちょっと心配になってきました。

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