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2013年7月23日 (火)

「自力更生」は今年後半の中国経済減速を暗示か

 時代錯誤的な「かびの生えたような」スローガンが載ることもある「人民日報」ですが、今日(2013年7月23日)付けの紙面では「『自力更生』は近代化推進の要である」と題する呼び掛け文が載っていました。

 「自力更生」というスローガンは、もともと毛沢東が日本の敗戦の頃に外国の力に頼らずに国を作っていこうという趣旨で使い始めたようですが、特に「反米帝国主義」と「中ソ対立」の中で国際的に孤立していた文化大革命前期(1960年代)に盛んに使われました。その後もときどき様々な場面で使われますが、外国の技術と資本を導入して、外国との貿易を活用して経済発展を進めていこうという1978年以降の改革開放路線になってからは、あまり「自力更生」というスローガンは使われなくなりました。

 なので、21世紀になり、これだけ国際化が進み、中国が「世界の工場」と呼ばれるようになって久しい現在、「『自力更生』は近代化推進の要である」と言われると、時代とマッチしない違和感を感じます。

 今日の「人民日報」に載っていた呼び掛けの趣旨は、食糧自給の重要性を強調するとともに、アメリカだって、ドイツだって、勤勉によって国内実体経済の発展を基に経済発展を続けてきたのだ、と述べて、国内経済の重要性を主張しています。要は、輸出に頼らず、国内経済の発展に伴う内需を重要視すべし、と言っているわけで、その意味では、現時点での中国経済の状況にマッチしており、別にトンチンカンなことを言っているわけではありません。

 しかし、以下のような表現を見ると、表面的には相当な時代錯誤感を私は感じてしまいました。

○「自力更生」「刻苦奮闘」は改革の歩みを進める力であり、中華民族の偉大な復興を実現し中国の夢を強力に支えるための精神的支柱である。

○報道によれば、アメリカのオバマ大統領はジョブズ氏に「アップルの生産ラインを中国からアメリカに持って帰れないのか」と尋ねたところ、ジョブズ氏の答えは簡単で、「アメリカでは、中国の労働者のような勤勉に働く生産労働者群を見つけることはできない」と答えたという。

○「自立自強」は、中華民族精神宝庫の重要な構成部分である。

 要するに勤勉な労働の大事さを主張する議論なのです。「自力更生」のスローガンと「アップルのジョブズ氏の話」を一緒にするところが21世紀の中国らしいのですが、こういった古くさい精神論と現在の経済状況を一緒くたにして論ずる感覚は、ネットやスマホを使いこなす現在の中国人民の一般的感覚からしても相当にずれていると思います。

 表現は時代錯誤的ですが、「内需を重視すべき」としているこの呼び掛けは、同じ、今日(2013年7月23日)付の「人民日報」に掲載された以下の記事と合わせて読むとき、非常に重要だと思います。

(記事1)「我が国において、外資が集中的に逃げ出す動きを主導しているという現象は起きていない~外貨管理局が示す~」

【この記事のポイント】

○外国企業直接投資と証券投資境内流入(香港等からの大陸部への流入を含む)は依然として増加している。

○今年(2013年)上半期の外国企業直接投資は、昨年同期比17%の減少である。

○今年(2013年)下半期の外国資本流入は、変動しながら、流入と流出がバランスすると予想されている。

○人民元の為替レートの上昇が見込まれない時期には外国資本流入が減少する傾向がある。

○今後、外国資本の流入は上下に変動すると見込まれるが、国内マクロ経済及びミクロな経済主体は適度な調整が求められることになる。

 歯切れが悪いですが、この記事は、要するに「今までは外国資本は流入超だったが、現在減少傾向にあり、今年(2013年)下半期は流入と流出がトントンにバランスするので、マクロ経済や国内各企業は適度な調整が必要となる。」と言っているわけです。タイトルからすると、外資流入が減り、場合によっては流出超になる可能性もあるが、外資が集中豪雨的に逃げ出しているわけではない、と言いわけしているわけで、「外資の中国からの急激な引き上げ」は起こっていないけれども、外資流入が増加し続けてきた今までとは状況は変わりましたよ、とこの記事は言いたいのだと思います。

(記事2)「上半期の石炭の輸送量と消費量は減少」

【この記事のポイント】

○中国石炭工業協会の発表した速報値によると、今年(2013年)上半期の石炭生産量は17.9億トンで昨年同期比3.7%のマイナス、第二四半期だけ見ると第一四半期に比べて2.7ポイントの低下であった。石炭消費量は、上半期17.5億トンで昨年同期比3.8%のマイナス、第二四半期だけ見ると第一四半期に比べて3.4ポイント低下している。

○鉄道による石炭輸送量は、今年上半期で11.4億トンであり、昨年同期比2.6%のマイナスである。

○7月5日時点での石炭価格は、昨年の同時期と比べて23.5%下落している。価格低下の原因は、国内需給が緩んだことに加えて、国際市場における供給過剰にある。

○中国石炭工業協会の予測では、全年を通じて、石炭需要は緩やかに伸びると見込まれるが、マーケット需給は今後も緩んだ状態が続き、構造的な過剰状態は続くので、石炭の生産能力及び在庫に対する圧力は依然として極めて大きい。

○石炭企業の販売状況は困難であり、コストは上昇していて、今年最初の5か月における一定以上の規模の石炭企業の利益は昨年同期比で43.9%減少している。赤字企業の赤字額は昨年同期比134.6%増であり、黒竜江省、吉林省、重慶市、四川省、雲南省、安徽省ではこの業種全体で赤字である。

○中国石炭工業協会では、上記の状況が改善されなければ、石炭企業の困難が加速されることが予想され、この業種全体において赤字となる可能性があり、引き続き強い関心を持って注視する必要がある、としている。

 「人民日報」の経済関係記事でこういう悲観的な数字をハッキリ報じることは珍しいように思います。

 上記二つの記事を見ると、今年(2013年)下半期の中国経済の見通しは非常に厳しいことが予想されます。「人民日報」にこうした厳しい経済見通しが出たことと、冒頭に書いた「自力更生」を主張する記事が出たことは、中国人民に対して、「刻苦奮闘」して勤勉に働こう、と呼び掛けるとともに、必要な財政出動を求める中国共産党内部の意見を表していると思います。

 こうした中国国内での財政出動を求める意見の高まりを「政策期待」と受けとめたからか、今日(7月23日)の上海株式市場の総合指数は対前日比1.95%上昇して引けました。経済成長に急ブレーキが掛かることを防ぐために財政出動するのはいいのですが、また不動産開発、鉄道建設などに資金が回り、バブルが更に拡大するのではないか、と心配です。中国政府には、今年(2013年)下半期は、経済減速とバブル拡大の防止、という非常に難しい舵取りが求められています。

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