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2013年7月24日 (水)

中国経済の減速と政治的変動のリスク

 今日(2013年7月24日)発表された英国HSBCによる7月の中国の製造業PMI(購買担当者指数)の速報値は、前月を下回り、また、多くの市場予想も下回って47.7でした。私は昨日の「人民日報」が石炭工業に関する今年上半期のかなり悲観的な報道をしていたことから、HSBCのPMIもかなり悪い数字が出るだろうと思っていましたが、その通りでした(このブログの昨日(7月23日)付けの発言「『自力更生』は今年後半の中国経済減速を暗示か」を参照)。

 中国では、民間企業による市場調査等のアンケート調査は全て許可制であり、質問段階と結果発表段階の両方において当局の許可が必要です。ここでいう「当局」とはどこなのかはよくわからないのですが、おそらく「元締め」は、中国共産党中央宣伝部だろうと言われています。民間による調査も許可制になっているのは、都合の悪い調査結果が発表されるのを防ぐためだと言われています。ですので、民間企業における調査結果についても、常に中国当局は発表より前に承知しています。昨日の「人民日報」の石炭工業に関する悲観的な記事も、今日発表されるHSBCのPMIの数字を知った上で「ショックを和らげる」という意味で掲載していた可能性があります。今日のHSBCによる製造業PMIの発表によって上海や香港の株価指数はあまり反応しませんでしたが、これは、私のように「人民日報」の記事などを見て、「今回のPMIは悪い数字が出そうだ」とあらかじめ予想していた人が多かったからでしょう。

 今年下半期の中国経済は、中国政府による「下支え」はあると思いますが、それはあくまで目標年間成長率7.5%をキープするための最低限の「下支え」であって、「バブルを封じ込めて経済の構造改革を図る」ことが中国政府の大きな政策目標ですので、かつてのような高い経済成長はもやはありえず、今後、中国経済の減速傾向は相当長期間にわたり継続することになると思います。

 一方、今日(7月24日)、キャノンが4-6月期の決算発表を行い、業績見込みを下方修正しました。時事通信の報道によれば、この発表において、キャノンの田中稔三副社長は「想定からの誤差は欧州より中国が大きい」と述べる一方、中国経済の先行きに関しては「下期のどこかでは回復し、カメラの販売も回復するだろう」と語った、とのことです。

 今後、中国経済の減速に伴って行われる中国政府の「下支え」施策は、あくまで失業者を出さない、とか、庶民用の安価な住宅建設を進める、など、社会の最下層の人々に対する対処が主眼であって、高所得者層の購買意欲を高めるような施策は打たないと思います。その意味で、キャノンの田中副社長が何を根拠に中国経済が「下期のどこかでは回復し、カメラの販売も回復するだろう」とおっしゃっているのか、私は疑問に思っています。

 私も、中国政府が注意深くコントロールしながら「影の銀行行為」対策などの改革のための施策を打つと思うので、金融機関の連鎖倒産のような、リーマン・ショック型の中国発の経済危機は起きないだろうと思っています。しかし、中国の場合、経済改革、経済の減速に伴い「政治的大変動が起きるリスク」は、否定はできません。

 「政治的変動リスク」とは、

○指導部内のかなり高い地位の人物の失脚

○多くの人民によるデモの発生などによる経済活動への影響を伴う社会的変動

を指します。

 第二次天安門事件の後、1992年にトウ小平氏による「南巡講話」によって改革開放政策が再確認されて以来、中国では大きな政治的変動がなかった(あったとしても経済に影響しないようにうまくコントロールされてきた)ので、多くの人は、今の中国では政治的変動リスクはもうないだろう、と思っていると思います。

 私も、1980年代、文化大革命を克服し、国際的に日本やアメリカと良好な外交関係を打ち立て、経済的にも飛躍的に成長し、人民の生活も見違えるほどに豊かになりつつあった中国を見て、「政治的リスクはもうないだろう」と思っていました。しかし、1987年1月には中国共産党のトップである胡耀邦総書記が突然失脚し、1989年には多くの学生や市民によるデモが発生し人民解放軍がそれを武力で鎮圧するという「第二次天安門事件(六四天安門事件)」が起きたのです。

 状況は、1980年代と現在では多くの点で異なりますが、先が読めない、という点では同じだと思います。有力政治家の失脚については、政治局常務委員クラスの「大物」の失脚は「第二次天安門事件」の際の趙紫陽総書記の失脚以来ありませんが、2006年には上海市党委員会書記の陳良宇氏が失脚し、去年(2012年)には重慶市党委員会書記の薄煕来氏が失脚しています。上海市や重慶市は「直轄市」と呼ばれており、省と同じレベルの地方組織です。2007年の党大会で政治局常務委員になるまで、現在の習近平総書記は上海市党委員会書記でしたし、李克強総理は遼寧省党委員会書記でした。今でも、政治局常務委員に極めて近いレベルの政治家の「突然の失脚」はあるわけで、中国の政治変動リスクは1980年代より低いとは思えません。経済格差や党幹部の腐敗に対する中国人民の中に溜まっている不満という点で言ったら、マグマのエネルギーは1980年代に比べて現在の方がむしろ格段に大きいのは誰の目にも明らかです。

 1989年の「第二次天安門事件」も、前年の1988年に中国政府が実施した「社会主義的公共価格と余剰商品が市場で形成する市場価格が作る『一物二価』の是正」という改革の過程で起きたインフレが背景にあったことを思い起こす必要があります(詳しくは、左にリンクを張ってある「中国現代性概説の目次」の中から「4-1-6:中国の社会・経済で進む微妙な変化」以降の「第二次天安門事件」に関する記述を御覧ください)。今回の「影の銀行行為」対策という改革が中国共産党内部での権力構造の変化や中国人民の中に溜まった不満を噴出させるきっかけとなる可能性は大いにあり得るのです。

 中国人民銀行による適切な流動性供給や中国政府による適切な財政政策により、急激な経済的危機の到来はなさそうですが、「政治的大変動により経済活動に大きな支障が出るリスク」は、常に頭の片隅に置いておくべきだと思います。

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