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2009年4月23日 (木)

「中国の民主化」に関連するいくつかの話題

 最近、「人民日報」に「6つの『なぜ』」というシリーズが載り、なぜ西側のような複数政党制の議会制民主主義ではだめなのか、といった疑問に対する解答が掲載されていることを4月10日付けのこのブログで書きました。そういった社会の雰囲気に呼応しているのかどうか知りませんが、最近、北京の新聞「新京報」などににいくつかの記事が載りましたので、御紹介しておきます。

○「値上げ反対Tシャツ」は法律違反か

 最近、相次ぐ公共料金の値上げに反対して、重慶の市民が「値上げ反対」という文字の入ったTシャツを作って売り出したそうです。そうしたら、警察が出てきて、このTシャツを売っていた人は取り調べを受けて、拘留されたのだそうです。

 これについて、4月15日付けの「新京報」では、「公共料金値上げ反対」のTシャツは法律違反ではなく、去年の四川大地震の後に売り出された「I Love China」と書かれたTシャツと同じであって、正常な一般市民の表現である、と主張しています。

(参考1)「新京報」2009年4月15日付け総合評論欄の意見
「『値上げ反対Tシャツ』:理性を持って対処する新しい表現方式」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2009/04-15/044@081131.htm

 こういった自分の言いたいことを書き込んだTシャツを着て、集団で散歩する「集団散歩」を、私は北京でも見たことがあります。私が見たのは、どこかのマンションを購入した人たちらしい10人くらいの人が「マンション販売会社は約束を守れ!」というような主張を書いたTシャツを着て街を歩いていました。この「集団散歩」は、政治的なスローガンではなく、マンション販売会社と入居者との間のトラブルを多くの人に知って欲しいためのもので、たぶんこれを中国の法律で引っかけることは難しいでしょう。このグループは、城管(都市管理局)の係官に事情を聞かれていました。ただ、私が見ていた限り、このグループの人たちは事情を聞かれただけで、拘束されたりはしなかったようです。

 私がこのグループを見たのは、まだ寒い頃だったので、皆、コートの中に自分たちの主張を書いたTシャツを着ていたのでした。家で、主張を書いたTシャツを着て、その上からコートや上着を着て「集団散歩」をしたい場所へ行き、そこに到着したらみんな一斉にコートや上着を脱いで「散歩」を始める、というやりかたをしたら、取り締まり当局の方も阻止することはほとんど不可能だと思います。

 こういう「文字入りTシャツを着た集団散歩」は、これから中国各地で流行るかもしれません。そもそも、当局が主催するイベントなどで、例えば参加者が「緑を大切にしましょう」などといったスローガンの書かれたTシャツをみんなで着る、というようなことはよくあることなので、「文字の書かれたTシャツを着て集団で散歩する」ことだけで取り締まることは困難です。書かれた文字の中身が中国の基準で「反社会的かどうか」が判断基準になりますが、これはなかなか判断が難しいと思われます。例えば、「人民日報」に載っている「6つのなぜ」の疑問文、例えば、「なぜマルクス主義を指導原理にしなければならないのか?」「なぜ中国共産党の指導がなければダメなのか?」といった疑問文をTシャツに書いて街を歩いたら、警察に捕まるのでしょうか? なかなか判断が難しいところです。

○人民代表大会を公開せよとの主張

 今週開かれている全国人民代表大会常務委員会で、会議規則の改正が議論されました。多くの議員に発言の機会を与えるため、例えば、一人の発言の時間は、最初の発言は15分以内、同じ問題に対する二度目以降の発言は10分以内とする、などです。これに関連して、今日付の「新京報」の社説は、そういった議事進行上の規則だけでなく、全人代常務委員会(実質的に法律などはここで決まる)の会議を公開にし、市民が傍聴できるようにするほか、インターネットで中継するなど議事内容を公開すべきだ、と主張しています。全人代常務委員会の内容は、新聞やテレビで報道されますが、新聞やテレビでは全てを伝えることはできないのだから、(国家秘密に関連する事項の議論などを除いては)一般市民がいつでも見られるようにすべきだ、というのがこの社説の主張です。

(参考2)「新京報」2009年4月22日付け社説
「規則の力を用いて全人代の議事の民主化を向上させるべき」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2009/04-22/008@031503.htm

 中国の全人代では、政府提案の議案が否決されることはありませんが、票決の際にはかなりの数の反対票が出ることもあります。その意味で全人代は政府提案の議案を了承するだけのスタンプ機関ではありません(今年の全人代全体会議では、政府が提出した最高人民法院工作報告と最高人民検察院工作報告について、4分の1近い議員が反対または棄権をしています)。政府提案の法律案が全人代常務委員会の議論で修正されることはよくあることです。それだけに、最近では、議論の内容については関心を持っている市民も多いようです。

 全人代は、一番下層のレベルの人民代表は住民の投票により選ばれますが、省レベル、全国レベルの人民代表はそれぞれ下のレベルの人民代表によって選ばれるという間接選挙制度になっており、人民の意見が全国人民代表大会に直接届くようなシステムにはなっていないのですが、それでも最近の人民代表にはそれなりの問題意識を持っている人も多いので、今後、人民代表制度という制度を維持したまま、ある程度の制度の改革が進むことになるのかもしれません。

○「誹謗罪」から「ただし書き条項」を削除することの可否

 中国の刑法246条には「暴力またはその他の方法をもって他人を公然と侮辱し、または事実をねつ造することをもって他人を誹謗した場合は、その状況が重い場合には、3年以下の有期の禁固、懲役、管理処分または政治的権利剥奪とする。この犯罪は、被害を受けた者が告訴することによって成立する。ただし、社会秩序と国家利益に重大な危害を与える場合は除く。」と書かれています。つまり、通常、「誹謗罪」は被害を受けた人が訴えた場合に初めて警察が捜査に乗り出すのですが、「社会秩序と国家利益に重大な危害を与える場合」には、誹謗された者が訴え出なくても、警察が誹謗した人を逮捕し立件することができるようになっているのです。

 地方政府の幹部を批判する記事を書いた記者が、この条項によって警察に逮捕される例が多発しています。今日付の「新京報」の「観察家」という意見欄にこの「ただし書き」についての意見が掲載されています。「社会秩序と国家利益に重大な危害を与える場合」の定義があいまいであり、警察がこの条文を恣意的に解釈して、地方政府幹部に対する批判を「社会秩序と国家利益に重大な危害を与える場合」と判断して報道機関の言論の自由を制限するために使われているケースがある、と指摘しているのです。この意見記事では、法律を制定した全人代常務委員会は、少なともこの「ただし書き」部分についての法解釈を出すべきであり、この「ただし書き条項」の使われ方の実態を調査して、「ただし書き」部分の削除の可否について検討すべきだ、と述べています。

(参考3)「新京報」2009年4月22日付け「観察家」に載った意見
「『誹謗罪』の『ただし書き』条項を削除することは可能かどうか」(王剛橋(学者))
http://www.thebeijingnews.com/comment/guanchajia/2009/04-22/008@031504.htm

○環境汚染企業に関する情報を公開しなかった地方政府に対し記者が抗議

 最近、黒竜江省で開かれた環境保護状況管理工作会議において、10数人のメディアが参加していたにも係わらず、黒竜江省環境保護局は具体的な汚染企業に関する状況について「秘密事項だ」として説明しませんでした。これに憤慨した一部の記者が会議を退席したとのことです。

(参考4)「新華社」ホームページが斉魯晩報の報道を転載する形で2009年4月22日13:04にアップしている記事
「環境保護局が『汚染排出企業の秘密保護局』になってしまっている」
http://news.xinhuanet.com/local/2009-04/22/content_11231459.htm

 このできごとは、いまだに「メディアは政府の発表を伝えるだけの機関」だと思っている地方政府当局者の認識と「社会のために政府を監督する役目があるのだ」という意識に目覚め始めたメディア側の意識のずれを端的に表しています。 

 この黒竜江省での出来事については、今日付けの「人民日報」でも「某省であった話」として省の名指しは避けていますが、批判的な論評を掲載しています。

(参考5)「人民日報」2009年4月22日付け評論
「誰も汚染排出企業の『秘密を保護する』権利は持っていない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2009-04/22/content_237906.htm

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 これらの記事を読むと、地方政府とメディアと全人代と人々との間のそれぞれの「意識のずれ」が見て取れます。新聞側がその「意識のずれ」を指摘し、改善するべきだと主張しているところが、最近の中国の新しい局面を象徴していると思います。中国のメディアは全て中国共産党宣伝部の指導の下にありますから、こういった記事が掲載されていることは、中国共産党としても、社会の問題を取り上げて世論を見やすい形にまとめる役割をメディアに期待するようになってきていることを表しているのだと思います。

 ただし、中国共産党にとってこれは「両刃の刃」です。最初の「意見主張Tシャツ」の例や二番目の全人代の公開要求の例などは、中国共産党自身にも跳ね返ってくる可能性のある問題だからです。いずれにせよ、新聞メディアが、社会における問題意識の取りまとめの役割を果たすようになれば、社会は変革へ向かって徐々に動き出すのではないでしょうか。少なくとも、現在の中国共産党はその動きを「押し留めよう」とはしてないようです。それが自分自身の問題として跳ね返って来た時、それに虚心坦懐に対応して、新たな時代へ向けての進歩のために活用できるかどうかが今後問われてくることになると思います。

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