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2008年11月25日 (火)

世論のリーダーになりつつある中国の新聞

 このブログでも、最近、いろいろなところで起きているタクシーのストライキについて、中国の新聞で報道されていることを書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

(参考2)このブログの2008年11月13日付け記事
「海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-617f.html

 最近、中国の新聞は、こういった中国国内の「マイナスの」事案についても、避けずに報道するようになっています。これは日本でも報道された案件ですが、11月17日に甘粛省蘭州市リュウ南市(リュウは「こざとへん」に「龍」:リュウ南市は「県」レベルの市で、蘭州市の中にある行政区域)で、土地の立ち退きを巡って60人の人々が行政機関に押し掛け、それを見て集まった約2,000人の人々が行政機関のビルを壊したり警察の車を壊したりする、焼き打ち・打ち壊し事件がありました。この件についても「新京報」は報じています。

(参考3)「新京報」2008年11月19日付け記事
「リュウ南市共産党委員会ビル、打ち壊し・焼き打ちに遭う」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-19/008@021215.htm

 この「新京報」の記事の冒頭に「本紙記者によると・・・」と始まっていますので、「新京報」は北京の新聞なんですけど、甘粛省まで記者を派遣して取材したようです。この手の事件を単に新華社通信の報道を転載するのではなく、自社の記者を派遣して取材して「自分の文章で」記事を書いているところが、さすが「新京報」だと思いました。

 さらに広東省スワトウ市(スワトウは、「さんずい」に「山」+「頭」)では、11月20日にタクシー1,000台が無許可タクシー(中国語で「黒車」)の横行に抗議してにストライキを行いました。このストライキでは、正規タクシーの運転手が無許可タクシーとの間でトラブルを起こして、3名が警察に拘束された、とのことです。

(参考4)「新京報」2008年11月22日付け記事
「スワトウ市で、1,000台のタクシーが運行停止」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-22/008@020204.htm

※この記事によると、スワトウ市では、正規のタクシー1,000台に対して、無許可タクシー(黒車)が3,000~5,000台いる、とのことです。こういう実態を聞くと、正規タクシーの運転手たちが怒るのももっともな話で、地方政府が、行政としての役割を全く果たしていないのではないか、と思えてしまいます。

 この種の「群体性事件」は、今年6月に貴州省甕安(日本語読みで「おうあん」)県でも起きました。

(参考5)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 この貴州省の事件も、香港や日本でも報道されましたし、中国国内でも報道されました。

 「新京報」は、このこららの「群衆による焼き打ち・打ち壊し事件」や各地のタクシー・ストライキ事件を取り上げて、11月23日付け紙面でこういった集団による事件についての意見を述べています。

(参考5)「新京報」2008年11月23日付け社説
「群体性事件の処理は、対処するタイミングがよければよいほど有効である」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-23/008@045059.htm

 この社説が述べている主張のメインのポイントは、この手の集団による騒ぎが持ち上がった時には、行政機関が迅速に対応して、群衆の意見を聞き、適切に対処することが大事である、ということです。ただ、それに加えて、背景の問題として、行政機関の幹部(地方政府と地方の党幹部)が日頃から群衆から遊離しており、大衆の利益や大衆からの訴えを無視し、大衆の意見を聞かない、という状態があることを指摘して、根本的な問題として、地方政府が大衆の意見をよく聞き、大衆がその意見を言えるルートを開けておくことが重要だ、と指摘しています。

 この社説では、はっきりは言っていませんが、これらの「群体性事件」のうち焼き打ち・打ち壊しがあった事件については、「警察が出動して『少数の不法分子』を取り締まった」とか、「行政機関が迅速に対応すれば『少数の破壊分子に機会を利用される』といった可能性も少なくなる」などと表現して「少数の不法分子」「少数の破壊分子」のところを、わざと「 」書きで書いています。これは、中国の新聞が台湾の指導者や機関のことを「いわゆる彼らが言っているところのそれ」という意味で、「総統」とか「国会」とか「 」付きで表現しているのと似たようなニュアンスだと思います。この社説ではハッキリとは言っているわけではありませんが、この社説の筆者が「これらの焼き討ち・打ち壊し事件は、人民日報や新華社などの公式メディアが言っているような『少数の不法分子』『少数の破壊分子』が起こしたものではなく、ごく普通の一般大衆が日頃の怒りを爆発させたものなのだ」という認識を持っていることがにじみ出ています。

 こういった中国国内の「マイナス」の面の報道は、新聞を検閲をしている党宣伝部としては、あまり書いて欲しくない案件なのでしょうが、それでもこういった記事を書かないと新聞は売れないので、新聞社としても、認められる範囲でできるだけ書こうとしているのだと思います。こうして中国の新聞も「読者が知りたいと思う情報を伝える新聞」になることを通じて、単なる「党の舌と喉」ではなく、多くの一般大衆の世論を反映し、世論をリードする正しい形でのジャーナリズムの形ができつつあるように思います。

(注)北京にはいろいろな新聞がありますが、一般大衆に人気のある「京華時報」が10月15日から1部1元(約15円)に値上げになりました。それまでは1部0.5元でした。紙代の値上げなどが続いて、価格引き上げをせざるを得なかったのでしょう。「新京報」は前から1部1元でしたので、「京華時報」の値上げで、かなりの読者が「新京報」に流れたのではないかと思います。こうした新聞社間の競争も、読者を獲得したい、という新聞社の意志を駆り立て、それによって「読者が今何を知りたいと思っているのか」といった新聞社が本来持つべき「嗅覚」を一層鋭くしたのだと思います。

 オリンピックが終わって、中国は、表面上、全く変わっていないように見えますが、あまり目立たない底辺の方で、大きな歴史の流れが動き始めているのを私は最近なんとなく感じるようになってきています。

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