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2008年11月 4日 (火)

女性農民工についてのルポ

 今日(11月4日)付けの人民日報では、「社会観察」という特集ページで、女性の農民工(農村から都会に出稼ぎに出てきている農民)の実態に関するルポルタージュを掲載していました。

(参考)「人民日報」2008年11月4日付け
「流動の中に咲いた青春(記者調査)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/04/content_131967.htm

 この記事のポイントは以下のようなものです。

○35歳のAさん。黒竜江省依安県の農村から、2005年末に家の稼ぎの足しにするため、彼女一人でハルビンに出稼ぎに出てきた。ファースト・フード店で皿を洗うのが仕事。朝の9時から夜の10時まで働き、休日はない。月給は1か月450元(6,750円)。6人で、1日に台車30個分の皿を洗うので、洗剤で手が荒れてしまう。1週間たたないうちに手の指が真っ白になった。その後、労働市場でパートタイムの職を見付けて、今は月1,100元の収入になっているので、今では生活に使った残りの700元ちょっとは貯めておける。

○統計によれば、黒竜江省の流動人口(戸籍がある場所ではない場所で生活している人々)のうち、39歳以下の女性の占める割合が50%前後で、そのうち75%は初等中学(日本の中学校)卒業以下の学歴である。彼女らは単純労働に従事し、月収は多くて500元前後である。

○Bさんは23歳。四川省宜賓からやってきた。2年ちょっとの間に4つの都市を渡り歩いた。四川省綿陽の電子計器組み立て工場で働き、四川省成都の卸売り市場で衣服を売り、貴州省のオモチャ工場でぬいぐるみを縫い、最後は広東省深センの正規のレジャー・センターでマッサージを勉強している。今の収入は月3,000元前後。彼女は「すごく疲れます。クーラーの効いた部屋の中でも汗だくになります。私は初等中学(日本の中学校に相当)しか出ていないので、欲しい給料の額がもらえる仕事に就くのはすごく難しいです。」と言っている。

○Cさんは江蘇省灌雲県朱橋村から来た28歳で、もうすぐ小学校3年生になるこどものことが心配だ。こどもが2歳の時、こどもをおばあさんに預けて、夫とともに蘇州市工業団地に出稼ぎに来た。前の学期、こどもの勉強の成績が急に落ちたので、彼女は1か月休みをもらって故郷に帰った。「近くにいてこどもを教育してやる人がいないと。でも、故郷以外で学校に行くと学費が高いし、住むのも食べるのも大変だ。」

○「女性労働者の家」の理事をしている方清霞さんは、自分が以前、女性出稼ぎ労働者だったので、都市に出稼ぎに来ている女性の境遇はよく知っている。彼女は言う。「病気になるのが一番怖い。カゼをひいて病院にいっただけで200元掛かる。これは部屋代1か月分に相当する。」「戸籍問題は非常にやっかいだ。都市の人ならば必要のない、いろいろな手続きや証明書が要る。住む場所を探すのも大変だ。家賃が高いだけでなく、よく夜中に戸籍調査を受けた。」

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、都市で働く出稼ぎ労働者の状況の根本原因は、都市と農村の二重戸籍制度にあると指摘している。ただし、彼らが欲しいと思っているのは「非農村戸籍」を示す一枚の証書ではなく、就業、分配、社会保障の点で都市住民と同等に競争できる社会できる地位なのである。

○山東省聊城から出てきたDさんは、北京のある倉庫設備会社の販売代表である。21歳の彼女は既に出稼ぎを始めて5年になる。去年、北京の通州で働いていた木板工場では、朝8時から夜8時まで働いて、その間に休憩は1時間だけ。いつも超過勤務手当なしで残業していた。「ひどいときは2日間一睡もしないこともあった」。

○労働契約が締結されておらず、超過勤務手当が支払われないことも多い。全国婦女連合会が実施した1,000名の都市で働く女性出稼ぎ労働者に対するアンケート調査によると、正式な労働契約を結んでいたのは48.2%、6割の女性労働者が毎日8時間以上働き、そのうち3割に満たない人しか法定の超過勤務手当をもらっていなかった。また、約半数が社会保障体系の中に入っていなかった。特に、若い女性労働者にとって重要な生育社会保険に至っては、使用者側も労働者側も重視しておらず、保険に入っている人はわずか0.8%しかいなかった。

○「出稼ぎ女性労働者の家」は1996年に成立した中国最初の女性出稼ぎ労働者のための公益組織である。この組織の笵暁紅理事は、労働者の権利保護の仕事をしているが、「労働契約法」が明確に要求しているにもかかわらず、多くの企業、特に正規ではない小規模の企業がいろいろな方法で規定を逃れている。

○女性出稼ぎ労働者は法律知識が乏しく、権利意識が希薄なので、権利侵害が起きても、それを主張しないことが多いか、自分が権利を侵害されていることすら知らないケースも多い。

○女性出稼ぎ労働者は結婚する年齢が遅くなるケースが多い。多くの女性出稼ぎ労働者は、内陸部の山村から出てきている人も多く、避妊や性病に対する知識がない人も多い。深セン市羅湖区がかつて調査したところによると、病院で人工中絶をした女性の6割は未婚の出稼ぎ女性労働者であったという。

○一部の出稼ぎ女性労働者の中には、都市で働く過程で、勉強と職業訓練を通じて自分の能力を高め、成功している例もある。全国婦女連合会のアンケート調査の中では、10.4%が管理職に、8.3%が会社社員になっていたという。

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、「女性出稼ぎ労働者は、中国の経済成長の推進の中で無視できない役割を果たしている。人材開発の観点で考えるのと同時に、女性労働者個人と社会の発展との関係にプラスをもたらすためには、社会が働く女性に自分の能力を発展させる機会を与えることができるかどうかがカギだ。」と述べている。

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 「人民日報」も農民工の実態については、こういったルポを時々掲載します。かなり多くのケースで、二重戸籍制度が問題だ、といった指摘がなされるのですが、実態はなかなか改善しません。「労働契約法」ができて施行されたのは、今年(2008年)の1月1日です。「中国の特色のある社会主義」とは「労働者がこういうふうに扱われている社会主義なのだ」ということは、中国の国内の人も、外国の人も知っているのですが、なかなか改善されません。多くの外国の企業は、こういった弱い立場におかれた多数の労働者がいることによって国際的に競争できる価格の中国製品の恩恵を受けているので、少なくとも外国からは、こういった状況を改善させよう、という圧力が働かないからかもしれません。

 中国共産党の機関誌「人民日報」が、こういった問題に目をつぶらずにちゃんと記事にしていること自体は「救い」なのですが、記事にはなるけれども、実態があまり改善されないのを見ていると、こういった記事も「党・中央は農民工の厳しい現状をちゃんと認識していますよ」といった「宣伝」の役割しか果たしていないのではないか、と思えてしまいます。

 現在の世界的な厳しい経済情勢の中で、今、中国の企業も相当に苦しんでいるところだと思います。一方で、労働者の権益保護の意識は、こういった「人民日報」の記事などを通じて、じわじわと労働者の中に根付いていくと思います。諸外国も、安い労働力の中国を利用することのメリットを享受する時代は終わった、と認識して、むしろ中国の数多くの労働者の権益を保護することによって、中国国内の労働者の収入を増やし、中国国内の内需を拡大して、中国を巨大な市場として活用することによって世界の経済成長につなげる、という方向に、中国との付き合い方を変えていく必要があるのではないかと私は思っています。

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