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2008年11月

2008年11月30日 (日)

どうする中国の司法制度改革

 11月28日、中国共産党政治局の会議及び中国共産党と党外有力者との座談会において、司法体制改革のあり方についての議論が行われました。私は具体的な中身は不勉強でよくわからないのですが、人民の要求と経済社会の発展に合わせた司法制度改革を行うようにとの議論が行われたのだそうです。

 党外有力者との座談会において党中央政治局常務委員(序列4位)で政治協商会議主席の賈慶林氏は、次のように述べたとのことです。

「改革は、絶対に中国の特色のある社会主義政治の発展の路線を踏み外すものであってはならず、党の指導を堅持し、人民の問題を処理することを主とすることと法により国を治めることを統一したものにしなければならない。人類の法治文明の優秀な成果を用いることが必要だが、絶対に西側の政治制度や司法制度のモデルをそのまま持ち込んだりしてはならない。」

(参考1)「人民日報」2008年11月29日付け記事
「中国共産党中央が党外有力者との座談会を開催」
~司法体制改革の進め方について意見を聴取~
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/29/content_148049.htm

 私は社会主義というのは、基本的に経済に関する制度であり、かつ司法は政治から独立しなければならないと思っているので、司法体制の改革についてなぜ「社会主義政治の発展の路線を踏み外すものであってはならない」とか「党の指導を堅持しなくてはならない」のかを理解することができません。また、なぜ西側の政治制度や司法制度のモデルをそのまま持ち込んではならいないのか、の理由もわかりません。要するに司法は中国共産党と独立した判断をしてはならない、ということを言いたいのかなぁ、と想像しています。(それが「改革」の名に値するのかどうか、私にはわかりません)。

 一方、先日の「新京報」では、北京の弁護士協会の幹部選定についての記事を載せています。中国では、法律によって、弁護士はそれぞれの地区の弁護士協会に所属しなければならないことになっているのですが、北京の弁護士協会は、会費が高い割にその会費に見合ったサービスを提供していない、と不満に思っている所属弁護士がいるのだそうです。

(参考2)「新京報」2008年11月25日付け記事
「北京司法局、弁護士協会幹部の選定に直接選挙を用いるのは状況がまだ成熟していないとの考えを示す」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/11-25/008@021141.htm

 この記事によると、ある弁護士が北京の4人の弁護士と山東省のある刑事事件について処理している最中、そのうちの3人が現地の警察に違法に拘禁されてしまったため、北京の弁護士協会に電話で助けを求めたけれども何もしてくれなかったのだそうです。記者が北京弁護士協会に取材したところ、北京弁護士協会の担当者は、北京弁護士協会の管轄地域は北京市内であり、問題となっている弁護士が北京に帰ってくれば対処することは可能だ、と説明したのだそうです(助けを求めている弁護士は山東省の警察に拘禁されてしまっているのですから、この北京弁護士協会の説明では、所属弁護士が不満を持つのも無理はないと思います)。

 こういった不満があるので、一部の弁護士が、弁護士協会の幹部を所属弁護士の直接選挙で選ぶべきだ、という主張をし始めたのですが、北京弁護士協会の所管機関である北京司法局の董春江副局長は次のように述べている、とのことです。

「直接選挙を行うためには弁護士業界をまとめるシステムが成熟している必要がある。個々の弁護士が持っている情報が不均一であり、相互理解が不十分であるので、直接選挙を行うことによって最終的結果が全ての弁護士の満足を得られることになるとは限らない。」

 中国の国内制度について外国人がとやかくいうのは差し控えるべきだと思いますが、弁護士協会に所属する弁護士が自分たちの協会の幹部を自分たち自身による選挙で選ぶことができない、というような状況で、「司法制度改革」などというものを本当にできるのだろうか、というのが私の率直な感想です(それよりも、中国の弁護士には非常に優秀な人たちが多いので、「上の方」がこういった態度を取り続けていると、弁護士たちは法的に認められている最大限のやり方で、自分たちの主張をするようになるのではないか、と想像しています)。

(以下、2008年11月30日夕方追記)

 上記の書き出しで「11月28日、中国共産党政治局の会議及び中国共産党と党外有力者との座談会において、司法体制改革のあり方についての議論が行われました。」と書きましたが、「人民日報」の記事をよく見ると、党外有力者との座談会は「先日行われた」とのことで、政治局の会議と同じ日に行われたわけではないので、訂正します。「党外有力者との座談会」を主宰した賈慶林氏は現在外国訪問中なので「おかしいな」と思って確認したら、「人民日報」の記事は前日の会議についての記事ではなかったのです。「人民日報」は、一応「新聞」なんですけど、随分前の「旧聞」を載せることもあるので、要注意なのでした。

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2008年11月28日 (金)

「史上最大のバブル」の予感

 この世界的信用縮小の時期に「『史上最大のバブル』の予感」とは何事か、とお思いのことと思います。しかし、私は、昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見の様子をネットで読んでいて、思わずそういうふうに感じてしまったのでした。

 御存じのように世界的な金融危機を受けて、中国は11月9日、2010末までに4兆元(約60億円)を投下する、という10項目の景気刺激策を発表しました。

(参考1)このブログの2008年11月10日付け記事
「中国の景気刺激策は世界を救うのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-cce7.html

 この景気刺激策の内容について、昨日(11月27日)、国家発展改革委員会の張平主任が記者会見を行ったのです。

(参考2)中国政府ネット「国務院記者会見」
「さらに内需を拡大させる問題に関する記者会見の状況」(文字記録)
http://www.gov.cn/wszb/zhibo288/wzsl.htm

 この中で張平主任は、4兆元を何に使うかについて、以下のように述べました。

(1) 安全な住居の提供:2,800億元(シェア7%)
(2) 農村の民生向上と農村インフラ建設:3,700億元(シェア9%)
(3) 鉄道、道路、空港、都市の電力網:1兆8,000億元(シェア45%)
(4) 医療衛生、文教事業:400億元(シェア1%)
(5) 生態環境保護事業:3,500億元(シェア9%)
(6) 自主イノベーションと経済構造改革:1,600億元(シェア4%)
(7) 災害を受けた地域の復旧・復興:1兆元(シェア25%)

 話の順番としては、住宅などの民生、農村・農民対策などを掲げていますが、金額的な割合を見ると、鉄道、道路、空港等の建設や災害被災地の復興・復旧で全体の7割を占めています。今回の景気刺激策が、いわゆる「ハコもの」「建設プロジェクトもの」を中心とする公共事業型景気刺激策であることがよくわかります。医療衛生・文教事業のシェアがたった1%とは、「第一は民生だ」と述べている張平主任の発言と、その中身とが一致していない、と言わざるをえません。

 この記者会見で、張平主任は、4兆元のうち中央による投資は11.8億元(全体の29.5%)である、と述べており、残りは地方などが投資を行う、との見通しを述べています。これら中央の景気刺激策発表を受けて、各地方では一斉に景気刺激のための景気のよい事業プロジェクトの発表が相次いでいるようです。上記の記者会見で、ある記者は、「中央は『4兆元の投資』と言っているが、不完全な集計ではあるが、各地方で発表されている各地の景気刺激のためのプロジェクトの投資額を全部合計すると18兆元にも上る、と言われている。1年後、世界経済が回復したら、中国はまたバブル状態に陥ってしまうのではないか。」と質問しています。これに対して、張平主任は「プロジェクトの実施は中央が許可するという制度は維持し、監督・監査を強化して、重複投資を防ぎ、地方の投資も中央が決めた方向へ向かうようにし、経済構造改革、発展方式の転換、民生問題の解決、生態環境問題の解決に向かうようにする」と答えています。

 今年(2008年)前半まで、中央政府のマクロ経済政策は、地方における過剰投資がバブル化して、北京オリンピック終了後に崩壊することを懸念して、地方の投資を抑えるための様々な方策を講じてきました。ところが、北京オリンピックが終了した後の今年9月に急激に深刻化したアメリカ発の国際金融危機を受けて、中央の経済政策は一変し、金融の緩和と景気刺激を進める方向になりました。このため、今まで地方における投資を抑制する方向ではまっていた「タガ」が一遍にはずれた格好になりました。何しろ今まで「過剰投資は抑制せよ」と言われていた中央が今度は「景気を刺激せよ」と言い始めたわけですから、もともとどんどん投資をしてGDPを上げてお金儲けと出世がしたい地方の党・政府の幹部にとっては「錦の御旗」をもらったのと同じですので、地方には「どんどん投資しよう」という機運が急激に広まっているのだと思います。

 この4兆元の景気刺激策のうち、もし7割近くが地方の負担になるのだとしたら、その財源はどうするのだろうか、という問題が生じます。この4兆元の財源問題は、現時点では必ずしも明らかになってはいません。

 今まで、中国各地で起きていたバブルとも言える建設ブームは、中国式社会主義の上に実現した「土地マジック」が産んだのだ、とも考えられています。中国の農村の土地(農地及び農民が住んでいる住宅地)は村などの地方政府の所有地です(社会主義を原則とする中国では、農民による土地の私有は認められていません)。村などの地方政府は、農民に住宅用地を貸しているとともに、各農家に割り当てられた農地に対して、生産を請け負わせ、請け負い量を上回って生産された農産物は農家の自主的な判断で売りさばいて自分の収入にしてよい、というのが、現在の改革・開放路線の根本になっている生産請負制度です。

 土地の所有権は地方政府が持っているのですから、地方政府が必要だと判断した時には、「合理的な補償金」を農民に支払うことによって土地を収用できます。現在、この「合理的な補償金」の額は、農地の場合、その農地で過去三年間に生産された農産品の価格に相当する金額、とされています。一般に中国の場合、農産品の価格はかなり割安に設定されているので、場所にもよりますが、農地をつぶして、そこをマンション用地や工業用地として売り出せば、地方政府は、補償金よりかなりの高額で「土地使用権」を転売することができます。ある学者は、大まかに言って、だいたい補償金として支払った値段の十倍の値段で売れる、と言っています。

(参考3)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 こうして地方政府は、農民から収用した土地の使用権を開発業者に売って、販売金額から農民への補償金を差し引いた残りの金額(上記の学者の言によれば、販売価格の十分の九)を収入とし、それによって、いろいろなプロジェクトの投資を行えるのです(そして、土地開発業者とうまく結託すれば、地方政府の幹部個人の懐も大いに肥える、というわけです)。

 今年前半は、そういった地方政府による土地政策に対する批判もあり、そういったことはおおっぴらにはやりにくかったのですが、今回、「景気刺激策」という「錦の御旗」が中央で掲げられたことは、こういった「農民から土地を収用して資金を調達し、公共事業を実施する」ことに対する正当性を得た、ということになり、地方政府を活気づけたのではないかと思います。

 さらにタイミングが悪いことに、今年10月の中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(第17期三中全会)では、長年にわたる農村・農業・農民問題(三農問題)を解決するための農地改革の一環として、農地の生産請負権の自由な譲渡・売買等を認める「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」が出されました。

(参考4)このブログの2008年10月28日付け記事
「第17期三中全会決定のポイント」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/17-86c4.html

 この第17期三中全会の決定は、あくまで「農地」の「農業生産請負権」の自由な譲渡等を認めるものですが、多くの地方政府においては、適用対象の土地を「農地」だけではなく「農民の住宅用地」にまで拡大するとともに、適用対象の権利を「農業生産請負権」ではなく、その農地の「土地使用権」であるとする拡大解釈が行われるのではないかと思います。第17期三中全会の決定の本来の趣旨は、譲渡・転売できるのは「農業生産請負権」ですので、農家からその権利を譲渡された人は農業をやらなければならないのですが、自由に移転できるのは「土地使用権」であり、「土地使用権」の譲渡を受けた者は、土地を農業ではなく別の用途で使うこと(マンション建設用地や工業用地への土地利用目的の変更)も自由にできるのだ、と拡大解釈するわけです(本当は、こういう農地の用途変更は上部機関の許可が必要とされています)。

 この「景気刺激策」と「第17期三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」を得た地方政府は、中央の意図とは関係なく、農民から土地の収用し、それで得た資金を公共事業に投資する傾向を歯止めなく進めるのではないか、と私は危惧しています。上記の記者会見で記者が言っていたように、全国で発表されている景気刺激策の公共事業プロジェクトの金額を全部合計すると、中央が言っている4兆元をはるかに上回る18兆元に上ってしまう、という現象も、そういった地方政府の動きが現れた結果ではないかと思います。

 もしこういった現象が歯止めなく進むとすると次のような現象が起きます。

(1)膨大な量のマンション、工業用地が数年間という短期間のうちに供給されますが、それに見合うだけの需要がなければ、これらのインフラ投資は遅かれ早かれバブル化(不良債権化)します(住宅地については、人口が多い中国では常に一定の潜在的な需要があるのでバブル化はしない、という人もいますが、あまり不便な場所に大量の住宅地が建設されても、購入する人がいない(または価格を高くできない)ことにより、投資した資金が回収できないおそれは常に生じると思います)

(2)土地を失った(土地の使用権を補償金を受け取って譲渡した)農民は、しばらくは補償金を食いつぶすことによって生活できると思いますが、いつかはその補償金も底を突きます。その後、農地を失った農民は農業に戻ることはできないので、何らかの職業に就かなければならないわけです。農地が工業団地となり、そこに計画通り工場が建てば、雇用も生まれるのでしょうが、それがうまく行かなかった場合には、元農民は失業者となります。こういった失業者が大量に発生した場合には、大きな社会不安が呼び起こされることになります。

(3)地方政府の農地の収用を中央がコントロールできなかった場合には、中国の人々が食べる食糧を生産するために必要な農地(現在、中国政府は18億ムー(120万平方キロ)を食糧確保のために下回ってはならない農地のレッド・ライン面積として設定しています)より農地面積が減ってしまい、中国の人々が食べていくために必要が食糧の確保ができなくなってしまう可能性があります。中国は、現在、食糧については、消費量とほぼ同程度の生産を行っている(特に穀物についてはここ5年間は増産が続いている)ので何も問題は生じていませんが、人口13億人を抱える中国が食糧の大輸入国になったら、これは世界にとっても大問題となります(ちなみに、大豆については、中国は既に大輸入国になっています)。

 こうならないように中央が地方政府をコントロールできればよいのですが、今、中国において、地方政府を中央がうまくコントロールするシステムが有効に機能しているのか、は、かなり疑問です。本来は、地方政府のトップやその地方政府をコントロールする党委員会のトップ(書記)は中央から派遣され、一定の任期の後に交代させ、もし賄賂をもらうなどの腐敗した行為をすれば処罰する、といったシステムで中央が地方をコントロールしているはずなのですが、省・自治区や直轄市(北京、上海、天津、重慶)のレベルではこのシステムによる管理がうまく行っているように見えますが、それより下の市、県、鎮(村)のレベルになると、その数が膨大になることもあり、中央の目が届かないのが実情だと思います。

 今日(11月28日)付けの「人民日報」(中国共産党の機関紙)の1面に「仲祖文」というペンネームで「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」という評論が掲載されています(「仲祖文」とは、特定の個人ではなく、中国共産党中央組織部が意見を書くときのペンネームだと言われています)。

(参考5)「人民日報」2008年11月28日付け1面に掲載された評論
「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/28/content_147866.htm

 この評論文では「国を治めるためには、まず党を治めなければならない」と指摘しています。中国共産党が支配する中華人民共和国が成立してもうすぐ60年になろうとしているのに、まだこんな当たり前のことを主張しなければならないのか、と溜め息が出ますが、人民日報に「仲祖文」がこうした文章を書かなければならないほど、党内の管理(特に地方の末端の地方の党・政府の幹部のコントロール)がうまく行っていないことを中国共産党自身は自覚しているのだと思います。逆の見方をすれば、外見の格好悪さを省みずに、こうした文章を正直に「人民日報」に掲げている、という点で(自分自身の内部にある問題点を隠さない、という点で)まだ救いはあるのだと思います。

 中国共産党も、県レベルの党の幹部を中央党校で研修させて、「腐敗に手を染めてはならない」などといった教育は一生懸命やっているのですが、こういった教育や研修で問題が解決するのならば、歴史上の数多くの政権は苦労はしなかったはずです。多くの諸国では、腐敗した政府の幹部はマスコミに批判され選挙で負けて失脚させられる、という報道の自由と民主主義とに立脚するシステムが一応その対策として成立しているわけですが、中国では、いまだにそのシステムを導入する気配はありません。少なくとも、ここ数年の間にその種の腐敗を防止するシステムが確立するとは思えません。

 ということは、「景気刺激策」と「土地に関する権利の自由な譲渡を認めた第17三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」をもらった地方政府の暴走を中央はコントロールできなくなる可能性があります。もし本当に地方政府をコントロールすることができなくなって、とてつもない金額の投資が短時間に行われるとしたら、それはたぶん「史上最大のバブル」になると思います。そして、上記(1)(2)(3)で書いた「とんでもないこと」が現実のものとなるおそれがあります。昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見について報じている今日(11月28日)の新聞を見てそう感じたので、今日、ここに「『史上最大のバブル』の予感」という文章を書いてみたくなった、というわけです。

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2008年11月25日 (火)

世論のリーダーになりつつある中国の新聞

 このブログでも、最近、いろいろなところで起きているタクシーのストライキについて、中国の新聞で報道されていることを書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

(参考2)このブログの2008年11月13日付け記事
「海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-617f.html

 最近、中国の新聞は、こういった中国国内の「マイナスの」事案についても、避けずに報道するようになっています。これは日本でも報道された案件ですが、11月17日に甘粛省蘭州市リュウ南市(リュウは「こざとへん」に「龍」:リュウ南市は「県」レベルの市で、蘭州市の中にある行政区域)で、土地の立ち退きを巡って60人の人々が行政機関に押し掛け、それを見て集まった約2,000人の人々が行政機関のビルを壊したり警察の車を壊したりする、焼き打ち・打ち壊し事件がありました。この件についても「新京報」は報じています。

(参考3)「新京報」2008年11月19日付け記事
「リュウ南市共産党委員会ビル、打ち壊し・焼き打ちに遭う」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-19/008@021215.htm

 この「新京報」の記事の冒頭に「本紙記者によると・・・」と始まっていますので、「新京報」は北京の新聞なんですけど、甘粛省まで記者を派遣して取材したようです。この手の事件を単に新華社通信の報道を転載するのではなく、自社の記者を派遣して取材して「自分の文章で」記事を書いているところが、さすが「新京報」だと思いました。

 さらに広東省スワトウ市(スワトウは、「さんずい」に「山」+「頭」)では、11月20日にタクシー1,000台が無許可タクシー(中国語で「黒車」)の横行に抗議してにストライキを行いました。このストライキでは、正規タクシーの運転手が無許可タクシーとの間でトラブルを起こして、3名が警察に拘束された、とのことです。

(参考4)「新京報」2008年11月22日付け記事
「スワトウ市で、1,000台のタクシーが運行停止」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-22/008@020204.htm

※この記事によると、スワトウ市では、正規のタクシー1,000台に対して、無許可タクシー(黒車)が3,000~5,000台いる、とのことです。こういう実態を聞くと、正規タクシーの運転手たちが怒るのももっともな話で、地方政府が、行政としての役割を全く果たしていないのではないか、と思えてしまいます。

 この種の「群体性事件」は、今年6月に貴州省甕安(日本語読みで「おうあん」)県でも起きました。

(参考5)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 この貴州省の事件も、香港や日本でも報道されましたし、中国国内でも報道されました。

 「新京報」は、このこららの「群衆による焼き打ち・打ち壊し事件」や各地のタクシー・ストライキ事件を取り上げて、11月23日付け紙面でこういった集団による事件についての意見を述べています。

(参考5)「新京報」2008年11月23日付け社説
「群体性事件の処理は、対処するタイミングがよければよいほど有効である」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-23/008@045059.htm

 この社説が述べている主張のメインのポイントは、この手の集団による騒ぎが持ち上がった時には、行政機関が迅速に対応して、群衆の意見を聞き、適切に対処することが大事である、ということです。ただ、それに加えて、背景の問題として、行政機関の幹部(地方政府と地方の党幹部)が日頃から群衆から遊離しており、大衆の利益や大衆からの訴えを無視し、大衆の意見を聞かない、という状態があることを指摘して、根本的な問題として、地方政府が大衆の意見をよく聞き、大衆がその意見を言えるルートを開けておくことが重要だ、と指摘しています。

 この社説では、はっきりは言っていませんが、これらの「群体性事件」のうち焼き打ち・打ち壊しがあった事件については、「警察が出動して『少数の不法分子』を取り締まった」とか、「行政機関が迅速に対応すれば『少数の破壊分子に機会を利用される』といった可能性も少なくなる」などと表現して「少数の不法分子」「少数の破壊分子」のところを、わざと「 」書きで書いています。これは、中国の新聞が台湾の指導者や機関のことを「いわゆる彼らが言っているところのそれ」という意味で、「総統」とか「国会」とか「 」付きで表現しているのと似たようなニュアンスだと思います。この社説ではハッキリとは言っているわけではありませんが、この社説の筆者が「これらの焼き討ち・打ち壊し事件は、人民日報や新華社などの公式メディアが言っているような『少数の不法分子』『少数の破壊分子』が起こしたものではなく、ごく普通の一般大衆が日頃の怒りを爆発させたものなのだ」という認識を持っていることがにじみ出ています。

 こういった中国国内の「マイナス」の面の報道は、新聞を検閲をしている党宣伝部としては、あまり書いて欲しくない案件なのでしょうが、それでもこういった記事を書かないと新聞は売れないので、新聞社としても、認められる範囲でできるだけ書こうとしているのだと思います。こうして中国の新聞も「読者が知りたいと思う情報を伝える新聞」になることを通じて、単なる「党の舌と喉」ではなく、多くの一般大衆の世論を反映し、世論をリードする正しい形でのジャーナリズムの形ができつつあるように思います。

(注)北京にはいろいろな新聞がありますが、一般大衆に人気のある「京華時報」が10月15日から1部1元(約15円)に値上げになりました。それまでは1部0.5元でした。紙代の値上げなどが続いて、価格引き上げをせざるを得なかったのでしょう。「新京報」は前から1部1元でしたので、「京華時報」の値上げで、かなりの読者が「新京報」に流れたのではないかと思います。こうした新聞社間の競争も、読者を獲得したい、という新聞社の意志を駆り立て、それによって「読者が今何を知りたいと思っているのか」といった新聞社が本来持つべき「嗅覚」を一層鋭くしたのだと思います。

 オリンピックが終わって、中国は、表面上、全く変わっていないように見えますが、あまり目立たない底辺の方で、大きな歴史の流れが動き始めているのを私は最近なんとなく感じるようになってきています。

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2008年11月17日 (月)

科学的発展観の実践について深く学習しよう

 今日(11月17日)の中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」では、9人の中国共産党政治局常務委員が10月下旬から11月上旬に掛けて、中国各地に出向いて科学的発展観の実践について学習する活動拠点を視察して回った、というのがトップ・ニュースでした。なんでまぁ、この経済危機で政策運営をどうすべきか、という重要な時期に、こんな新し味のないニュースをトップに持ってくるのかなぁ、と思いましたが、中国のテレビのニュースではこういうのはよくあるので、それほど気にせずに見ていました。

(参考)「新華社」2008年11月17日19:32アップ記事
「政治局常務委員、科学的発展観の実践を学習する活動拠点を視察」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-11/17/content_10372300.htm

 ところが、「新聞聯播」が終わって、天気予報を普段通りにやって、19:38からの「焦点訪談」の時間になったら、またさっき「新聞聯播」に出ていたアナウンサーが再登場して、「胡錦濤総書記が10月30日、31日に陝西省延安市安塞県へ出向いて、科学的発展観の実践について学習する人々を視察し、学習大会に参加した。」というのを引き続き報じていました。

 胡錦濤総書記が地元の村人や学校で勉強するこどもたちとにこやかに言葉を交わす様子は、この手の地方視察ではよくある光景なので、これも特段目新しいことはありません。「科学的発展観の実践」も胡錦濤総書記がずっと前から唱えているスローガンで、新しい話ではありません。ですが、どうして「新聞聯播」が終わった後、「焦点訪談」の時間をつぶしてまで、この胡錦濤総書記の安塞県訪問のニュースを長々と流したのか、私にはその理由が全くわかりませんでした。まるで、「科学的発展観の実践は安塞に学ぼう!」といったスローガンが、これから街中に張り出されるかのうような雰囲気でした(つまり、まるでテレビの雰囲気は、まるで文革時代のようで、改革開放30年後の経済発達した開かれた中国にはちょっとなじまない印象を受けたのでした)。

 とは言え、番組の前後のコマーシャルは普段通りだったし、この番組が終わった後は、いつもと同じように連続ドラマを放送していましたので、別に「世の中が変わった」わけでもないようです。でも、なぜ10月30日、31日の地方視察のニュースを今(11月17日)になってやるのかなぁ、という疑問は残ります。胡錦濤総書記は、昨日(11月16日)にアメリカのワシントンD.C.で開かれた金融危機対応を議論したG20会合に出席して帰国したばかりですので、11月17日(月)はたぶん1日休養されていたのだろうと思いますが、「胡錦濤総書記は、農村改革や経済危機対応に対して毎日奮闘している」という姿を中国人民に見せるために、半月以上前に「撮り溜めた」映像をテレビの登場させた、というのが本当のところかもしれまん。

 ただ、最近「政治局常務委員9人が全員そろって○○○した」というニュースが何回も出てくるので、そういうニュースを何回も見せられると、私のようなひねくれ者は、返って「政治局常務委員9人の内部に何らかの意見の対立があるのだろうか」などと思ってみたくなってしまうのでした。たぶんそれは「考えすぎ」なのでしょうけど。

(以下、2008年12月4日追記)

 上記の記述の中に「(胡錦濤主席は)昨日(11月16日)にアメリカのワシントンD.C.で開かれた金融危機対応を議論したG20会合に出席して帰国したばかりですので、11月17日(月)はたぶん1日休養されていたのだろうと思いますが・・・」という記述がありますが、胡錦濤主席はワシントンD.C.でのG20会合に出席した後、帰国せずに、キューバなど中南米諸国を訪問し、次の週末にペルーで開かれたAPEC首脳会談にそもまま出席しています。従って、上記の記述で「帰国したばかりですので」という部分は事実ではないので訂正します。しかし、これだけ強硬な外国訪問日程の中で、11月17日(月)を休養日にあてたのは事実のようで、この日は胡錦濤主席の特段の活動は報じられませんでした。

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2008年11月16日 (日)

中山大学の学生会主席選挙

 広州で売られている週刊紙「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)の2008年11月13日号の1面に、先頃、広東省にある中山大学で行われた学生会会長選挙(10月16日候補者決定、11月11日投票)の様子をリポートした記事が載っていました。

(参考1)「南方周末」2008年11月13日号記事
「学生会主席の直接選挙の全記録」
http://www.infzm.com/content/19860

 中山大学は、広東省広州市に本部を置く中国の革命の父・孫文(号は「中山」)にちなんだ由緒ある大学です。そこで、学生による学生会会長(主席)の選挙が、初めて個々の学生による直接投票により行われました。「有権者」の学生は、4キャンパスにわたり、総計33,123人いるとのことです。

 この記事では、4人の立候補者により約3週間に渡って繰り広げられた選挙の様子を克明にリポートしています。学生会は、法律的な権限を持つ組織ではありませんが、学生を代表して大学当局と話ができる、という意味では、一定の力を持つ組織だと思います。立候補の受付の後に「資格審査」がある、というのが、ちょっと「西側」の選挙と違うところですが、複数候補者制の下で自分たちの組織のトップを組織のメンバーが直接投票して選挙する、ということは、現在の中国では画期的なことです。(中国において日本の国会にあたる組織である全国人民代表大会の議員(全国人民代表)は、何層にも渡って行われる間接選挙の結果選ばれ、有権者による直接選挙ではありません)。

 この選挙では、立ち会い演説会があったり、ネット上での意見交換などがあったそうです。この「南方周末」の記事では、以下のようなネット上の意見を紹介しています。

○このような体制下では、学生会が真に独立して学生のためにことをなすのは難しいのではないか。

○「平民会長」の実現に期待している。

○アメリカの大統領選挙みたいだ。

 この記事では、立ち会い演説会で「学生会が政治的、政策的な問題に対処する時、某勢力に頼らざるを得ず、資金的にも何らかの組織によって制限を受けざるを得ず、人員上でも一定の『ブラックボックス操作』を受けることは避けられないのではないか?」といった「大胆な質問」も出されたそうです。この質問が出たときには「わぁ~」といういぶかる声が上がった、とのことです。投票結果は、投票率61.338%、第一位が7,644票、第二位が6,159票、第三位が3,474票、第四位が2,479票だった、とのことです。

 こうして当選した学生会会長が具体的にどのような問題で、どのような働きができるのかは、私にはよくわかりません。当選した学生会会長が翌日最初にする仕事は、大学の共産党委員会書記に挨拶に行くことなのだそうです。ただ、この「南方周末」には、中国人民大学政治学の張鳴教授による「大学は当然のこととして民主の練習場にならなければならない」というコメントが載っています。このコメントがこの中山大学の学生会会長選挙の意味を物語っていると思います。この中山大学の学生会会長選挙は、当然のことながら大学当局の公認の下に行われたのですが、この選挙は、複数候補制の下で自由な直接選挙を行った時、現代の若者たちがどのように対応するのか、を見るためのひとつの「実験」だった、と言えると思います。

 最近、新聞紙上では、地方政府がしっかりとした行政を行うためには、地方政府を第三者的立場からチェックするシステムが必要だ、という主張がよく見られるようになっています。地方政府における「司法の独立」「行政資源の分散」「定期的な選挙のよる行政トップの監視」を主張した「経済観察報」2008年11月3日号(11月1日発売)の論評「三鹿事件から政治体制改革を考える」もそのひとつです。

(参考2)このブログの2008年11月2日付け記事
「メラミン粉ミルク事件から政治改革を考える」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-23e8.html

 このほか11月14日付けの「新京報」の社説では、行政チェックの役割を人民代表(国会議員(=全国人民代表)を選ぶための選挙人)に負わせるべきだ、という主張をしています。

(参考3)「新京報」2008年11月14日付け社説
「都市建設の『腐敗の高度・多発』の根本には政策決定システムの欠陥がある」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-14/008@021055.htm

 巨額の資金が動く都市開発や交通政策に関する政策決定を地方行政政府が一存で決定でき、誰からも監視を受けないことが問題なのであり、都市開発計画や交通政策を決定するにはその地方の人民代表の議決を必要とする、というシステムにして、行政に対するチェック監督機能を果たせるようにすべきだ、というのがこの社説の主張です。

 地方の公共事業などについては、地方政府が勝手に決められる現状を改め、人民代表が票決で許可・不許可を決められるようにすべきだ、という主張は、かつて「人民日報」にも掲載されたことがあり、中国共産党の内部でもかなりまじめに議論されている主張なのだと思います。

(参考4)このブログの2007年8月16日付け記事
「地方の工事は人民代表が決めるという実験」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_5988.html

 従って、私は地方政府の政策決定に対する何らかのチェック機能を設けるべきだ、ということは、党内でかなり真剣に議論されているのだと思います。その地方の人民代表にチェック機能を持たせることもできるし、地方政府のトップを住民の直接選挙で選ばせることによってチェック機能を働かせることもできる、ということで、現在、具体的にどのようにすればよいのか、を党の内部で議論しているところではないかと思います。その検討に当たってのひとつのデータを得るために、例えば中山大学のようなところ(比較的大学の数が少なく首都の北京からも遠い広東省)で、かつ政治的にはそれほど大きな影響を与えない「学生会会長選挙」という場を借りて実験的に行ってみた、というのが、今回の中山大学の学生会会長選挙ではなかったのか、と私は思っています。

 いずれにせよ、様々な試行錯誤をやってみることはよいことで、こういった試行錯誤の中から、一番よい方法を採用すればよいと思います。

 問題は、人民代表による監視にせよ、地方政府トップの選定に直接選挙によるチェックにせよ、既に政策決定権を「既得権益」として確保している現在の地方政府の幹部は、こういった「チェック・システム」の導入には強硬に反対すると思うので、こういった「抵抗勢力」の動きを、中央がいかにコントロールできるか、が、実際にこういった地方政府に対するチェック制度を実現する際のカギになると思います。

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2008年11月13日 (木)

海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ

 先日、重慶市で起きた市全体のタクシー運転手のストライキについて書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

 ところが、その後、同様の動きが別の場所に広がり、11月10日、海南省三亜市、甘粛省蘭州市永登県でも、タクシー・ドライバーのストライキが起きた、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年11月11日付け記事
「三亜市で200人以上の集団ストライキが発生」
~タクシー会社への支払金が高過ぎるなどの問題解決を要求、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人が警察から事情聴取を受けた~
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-11/008@035146.htm

 タクシー運転手側の要求は、運転手が売上金の中から毎月タクシー会社に支払う金が高過ぎること、無許可営業のタクシー(中国語で「黒車」)が多くて営業が妨害されていること、といった状況の改善を要求するものでした。

 今回の三亜市(海南島の南端にある観光都市)のストライキでは、三亜市の市役所の前にタクシー運転手ら200名以上が集まり、市の幹部との面会を要求した、とのことです。また、通常通りの運行をしようとした(スト破りをしようとした)運転手に対して、何者か通行を妨害したり、打ち壊し行為に出たりした、とのことで、警察は、計画性を持った強行ストライキ事件だとして、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人から事情を聞いている、とのことです。この「新京報」の記事の書き方だと「計画性を持った強行ストライキ」が違法行為であるように見えますが、ストライキ自体には違法性はないはずで、暴力行為によってスト破りを阻止しようとした行為が違法である可能性があるとして、警察に事情を聞かれているのだと思います。

 三亜市のストライキは11日も継続しており、三亜市の代理市長とタクシー運転手側との間で話し合いが続けられている、とのことです。代理市長は、スト問題解決の原則として次の4点を打ち出しています。
・社会の安定を維持し、打ち壊し行為を行った不法分子を法に基づき取り締まること。
・タクシー運転手がタクシー会社に支払う金の問題を迅速に解決し、タクシー運転手集団の合法的権益を保護し、タクシー会社の行為を厳格に管理し、無許可タクシー(中国語で「黒車」)を取り締まること。
・タクシー運転手たちが自分たちの要求を取りまとめて訴えるために、自ら協会を設立することを市としても支持すること。
・市の公安・交通等の各部門は一般大衆の利益を守る必要があり、速やかにタクシーが正常運行に戻るように努めること。

(参考3)「新京報」2008年11月12日
「三亜市の代理市長がタクシー運転手たちに対して陳謝」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-12/008@030124.htm

 三亜市の代理市長は11日に行われたタクシー運転手らとの交渉(上記の記事では「座談会」と表現されている)の席で陳謝し、タクシー会社への支払い金の金額を引き下げる問題、無許可タクシーの取り締まりの問題の解決を図ることを約束し、12日からのタクシーの正常運行の再開を要請した、とのことです。

 これら相次ぐ、タクシーのストライキについて、11月12日付けの「新京報」では、次のような意見を掲載しています。

(参考4)「新京報」2008年11月11日付け評論欄「第三の目」
「『無許可タクシー(中国語で「黒車」)』の背後に民生問題があることに注意しなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/11-12/008@030129.htm

 この評論文では、重慶市では、8,000台の正規タクシーに対して、無許可タクシーが2,000台もいることを指摘して、これだけ無許可タクシーが多いのは、無許可タクシーに「従事」している人々が、主に、リストラされた失業者、農業戸籍から非農業戸籍に戸籍を転換した人々、三峡ダムの水没地域の人々などであり、生活のために無許可タクシーをやっている人が多いからである、と指摘しています。また、無許可タクシーを排除することは、これらの人々から「生存の糧」を奪うことである、とも指摘して、無許可タクシーの排除にあたっては、これら無許可タクシーで生活している人々の命運についても関心を払うべきだ、と主張しています。

 重慶市は、農村戸籍・非農村戸籍の一体化をモデル的に行っている地域です。

(参考5)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 農村戸籍から非農村戸籍になると、都市に住んで、都市住民としての行政サービスを受けることができますが、それは同時に農地という「生活の糧」を失うことを意味し、適切な職場が見つからなければ、失業状態となることを意味します。また、三峡ダムの水没地域に住んでいた人々には、立ち退きに際して代替の農地を与えられるか、そうでなければ補償金が支払われますが、補償金をもらって農地を失った人々のうち補償金を使い尽くす前に職を見付けることができなかった人々は、これもまた失業状態となります。

 上記(参考4)の評論の筆者は、タクシー・ストライキの背後には、単にタクシー業界内部の問題だけではなく、その地域の民生問題全体が絡んでいるのだ、と指摘しているのです。

 これまで急激な経済成長を続けてきた中国経済は「どこかの時点で長年に渡って行われてきた政策によって溜まり続けてきている『歪み』が社会の表面に出てくる時期が来る」と言われ続けてきました。今、その「時期」が始まりつつあるのではないか、と私は思っています。

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2008年11月10日 (月)

中国の景気刺激策は世界を救うのか

 11月9日(日)、中国でも世界的経済危機の影響により輸出企業に対する影響が大きいことから、中国の温家宝総理は、かなり思い切った(世界恐慌の後にアメリカのルーズベルト大統領が採ったニューディール政策を思わせるような)景気刺激策を発表しました。

(参考1)「人民日報」2008年11月10日付け1面
「十項目の内需拡大促進策が打ち出された~積極的な財政政策と貨幣政策の適度な緩和~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/10/content_135966.htm

 この景気刺激策は、下記の十項目について実施するもので、2010年末までの間に総額4兆元(約60兆円)に達するものだ、とのことです。

(1) 安全に暮らせる住居を建設するプロジェクトの加速

(2) 農村インフラ建設(メタンガス利用、飲用水プロジェクト、農業用道路、農村電力網、「南水北調」(揚子江水系の水を北方の乾燥地域へ導くプロジェクト)、危険なダムの撤去や補強など。

(3) 鉄道、道路等の重要インフラ整備の加速(旅客用線路、石炭運搬用線路、西部幹線鉄道、道路、中西部の飛行場及び地方飛行場の整備、都市電力網の改造)

(4) 医療衛生、文化教育事業の推進(医療サービス体系の確立、中西部農村の小中学校の校舎の改造など)

(5) 生態環境インフラの整備(都市汚水・ゴミ処理上の建設と河川汚染防止、保護林・天然林の保護プロジェクト、省エネ・排出減少プロジェクトの推進)

(6) 自主的イノベーション及び経済構造改革の加速(ハイテク技術の産業化と産業技術進展、サービス産業発展への支援)

(7) 地震被災地区の復旧プロジェクト

(8) 都市及び農村の住民の収入の向上(食糧最低購入価格の値上げ(2009年)、農業補助金の増加、社会保障レベルの向上など)

(9) 増値税(日本の消費税に相当)の改革と企業の技術改造促進のために1,200億元(約1兆8,000億円)相当の減税の実施

(10)「農業・農村・農民」支援のため及び中小企業の記述改造のための金融規模の合理的な拡大など。

 この発表を世界各国のマーケットはかなり好意的に受け取ったようで、11月10日のアジア、ヨーロッパの株式市場は軒並み上昇し、先ほど始まったばかりのニューヨーク市場も上昇傾向で始まりました。

 ここのところ、中国の新聞では、かなり正直に、世界的経済危機の影響で沿岸地域を中心とする輸出産業がかなりの打撃を受け、多くの企業が操業を停止して、農村から出稼ぎに出てきている農民工が職を失いつつある、という報道を流していました。

(参考2)このブログの2008年11月7日付け記事
「農民工の失業ショックには政府の支援が必要」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-ce6e.html

(参考3)「人民日報」2008年11月8日付け記事
「珠江デルタ地帯の出稼ぎ労働者の群像~最近、外国の経済環境の影響を受けて、広東省の一部の企業は困難に直面しており、農民工の影響もまた影響を受けている~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/09/content_135128.htm

 中国経済は、2007年までは北京オリンピックを前にして「バブル」と言えるほどに過熱気味でしたが、2008年7月頃から、ブレーキから足を離して、ごく軽くアクセルに足を掛ける程度に経済政策を転換してきていました。

(参考4)このブログの2008年8月18日付け記事
「発展改革委『オリンピック後の後退はない』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_189d.html

 それが9月以降の米国発の金融危機を踏まえて、今回はアクセルをぐっと踏み込む政策にまた一歩進んだと言えるでしょう。

 実は、私は、中国の景気刺激策を伝える今朝(11月10日朝)の人民日報を見て、この報道が世界のマーケットにどれくらい影響を与えるのだろうか、と関心を持って見守っていました。アメリカ市場はまだ開いたばかりですが、現在のところ、今回の中国の景気刺激策は、相当程度に世界のマーケットに影響を与えたようです。先ほど見たCNNのニュースでは、今回の中国の景気刺激策が世界のマーケットにプラスに作用したことをトップニュースで伝えていました。「世界の工場」と呼ばれる中国は、もはや世界の経済全体の動向を左右する相当に大きなプレーヤーに成長したと見るべきでしょう。

 問題は、そういった中国で、今後、政治的な動きも含めて、社会的な変動が起こった場合には、世界全体に対する影響は20年前とは比べものにならないくらい大きくなっている、ということです。中国で社会的な混乱が起きたら、近くにいる日本が大きな影響を被ることはもちろん、世界全体に大きな影響を与えることになります。そういったことを考えると、今、中国はいろいろな国内問題を抱えていますが、それは単に中国国内だけに関係する問題ではなく、世界全体に影響する大きな問題として、世界全体が解決へ向けてみんなで協力して対処していくことが必要なのだと強く感じました。 

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2008年11月 7日 (金)

農民工の失業ショックには政府の支援が必要

 今日(11月7日)付けの北京の新聞「新京報」では、世界に広がる経済危機の影響が中国の輸出産業に出ており、そのあおりを受けて農民工(農村から都市部に出てきている出稼ぎ労働者)がリストラされている現状を指摘して、政府はこういった失業の危機に直面している農民工たちを支援すべきである、と主張する社説を掲げています。

(参考)「新京報」2008年11月7日付け社説
「農民工が直面している失業ショックに対して政府は支援の手をさしのべるべきだ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-07/008@030133.htm

 この社説は、かなり率直に現在の中国経済が直面している困難を指摘しています。この社説の主張のポイントは以下のとおりです。

○輸出品製造企業の操業停止により、沿海地域においては大量の農民工の「故郷へ帰る流れ」が起きている。農民工の数は膨大で、今年8月に出されたデータでは、2007年の時点での中国の農村の外で働く労働者は1.26億人に達している。郷鎮企業(農村部にある中小の地場企業)の従業員は1.5億人であり、重複部分を除くと、2007年の時点で農民工の数は2.26億人に達していると見られている。

○農民工の地位はぜい弱である。2006年末の時点で、農民工に支払うべき給料のうち欠配となっているのが1,000億元に達しているという。建設業では、72.2%の企業で賃金の欠配が起きており、毎月きちんと給料が支払われている労働者はわずか6%に過ぎないという。

○我が国の多くの輸出企業は、低コストにより国際競争に勝つため、労働賃金の抑制にますます圧力を掛けている。これは農民工に満足した生活を与えないと同時に、こどもたちに対する十分な教育投資ができない現状を生み出し、低賃金労働者では貧困の世代間連鎖が起きている。

○農民工は都市では十分な社会保障を得られていない。一部の沿岸地域では、社会保障を与えるために農民工から社会保障経費を徴収しているところがあり、農民工はいったん故郷に帰ると今度は故郷の地方政府から一定額の社会保障費を徴収されるという現象も起きている。

○今、金融危機の影響を受けている中国経済の中で、多数の農民工が受けているショックは極めて大きい。その中でも「失業ショック」が最も厳しい。香港工業総会会長の陳鎮仁氏は、珠江デルタ地帯にある7万社の香港系企業のうち、今年年末までに四分の一は操業を停止するだろう、と見ている。もしこういったことが起これば、極めて多数の農民工の雇用が失われることになる。

○農民工の失業は、政府関係部門の失業統計の中には含まれていない。従って、表面上は重大な失業問題として統計数字に表れていなくても、中国の製造業で就業する労働力のおよそ半分は農民工なのであるから、彼らが職を失い、故郷に帰ったら、失業状況が重大な状況に陥るだけでなく、中国における都市化の進展という意味でも、大きなブレーキが掛かることになる。

○地方政府が経営が困難になった企業の労働者の賃金を肩代わりしたり、経営が困難になりそうな企業を見極めて支援したりすることにより、珠江デルタ地帯や浙江省においては、「突発的な事件」の発生を防止している。

○中国の経済の発展と都市化を進めていくためには、社会の安定が重要な前提であり、そのためには農民工に対して明るい就業状況の見通しが与えられなければならない。

○政府は、現在、鉄道建設等の公共事業に巨額の投資をして就業問題を解決しようとしている。それに加えて、農民工の雇用の90%を担っている中小企業に対する多種多様な税の優遇措置や、個人所得税・増値税(日本の消費税に相当)を減税して、中国経済を内需牽引型に転換しなければならない。農民工を農地にも工場にも居場所がない「根無し草」にしてはならない。

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 「人民日報」や「新華社」、「中央電視台」などの報道では、「世界的経済危機の中でも中国経済は堅実な成長が可能である」といった「あまり心配する必要はない」となだめるような報道が多いのですが、実態は、世界の金融危機は中国の輸出産業に相当な打撃を与えていると見た方がよいと思います。ただし、現時点では、農民工等による大きな社会的騒乱事件が起きていないのも事実であり、中国政府が今の時点では農民工の不満を何とかなだめている、というところなのだと思います。しかし、上記の社説の中で出てくる「珠江デルタ地帯の香港系企業の四分の一が年内に操業を停止するだろう」という見通しは、現在のような「なんとかなだめている」状況を長期間にわたって続けることを難しくする可能性が大きいのではないかと思います。

 上記の社説の中で出てきている「失業統計の中に農民工の失業が含まれていない」といった中国の統計上の数字の問題は、結構大きな問題を抱えていると思います。企業経営者や政策決定者が社会の状況を正しく把握できていない中で様々な判断をしている可能性があるからです。「公開はされていないが、党・中央は悲観的なデータも含めて経済に関する正確なデータを持っていて、正確に舵取りをするから心配ない」という見方もあります。しかし、党・中央の「事実を知りうる少数の人々」はスーパーマンではありませんから、少数の人だけが事実を知っているような社会がうまくコントロールできていくとは思えません。

 「救い」は、上記のような社説が新聞に掲載され、多くの人々が問題意識を共有するようになってきていることです。党や政府がどう考えているかに関わりなく、今後、多くの人々は解決策を模索し、それを党や政府に実施することを求めていく動きが強くなっていくのではないかと思います。

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2008年11月 6日 (木)

重慶市のタクシー・ストライキ

 11月3日(月)朝から重慶市のタクシー運転手が一斉にストライキに入りました。運転手に支払われる給料等の問題のほか、各タクシー会社だけでは解決できない問題もあったため、市全体のタクシー運転手が意志を統一させて一斉にストライキに入ったものだったようです。

 重慶市のタクシー運転手が要求していたポイントは以下の点です。

○運転手の手取り収入の値上げすること(必要があればタクシー料金自体を値上げすること)。

○(重慶のタクシーは天然ガスで動くのだが)天然ガス・スタンドの数が少なすぎ、ガスを補給するために長時間待たされることが多く、そのため稼働率が低下して、運転手の収入が減る結果になっている。これを解決すること。

○規則が多過ぎ、取られる罰金が多過ぎる。これを何とかして欲しいこと。

○「黒車」(不許可タクシー:日本で言う「白タク」)が多く(新華社の報道によれば、市内に「黒車」が3,000台あるという)、正規のタクシーの営業が妨害されている。これを何とかして欲しいこと。

 タクシー運転手側は、要求が入れられなければ、週明けの11月3日(月)からストライキに入るという意向を示していましたが、交渉が妥結せず、11月3日(月)早朝から重慶市のタクシーは実際に一斉ストライキに入りました。

(参考1)「新華社」(重慶支社)ホームページ2008年11月4日09:58アップ記事
「関心を集める重慶のタクシー・ストライキ事件」
http://www.cq.xinhuanet.com/2008-11/04/content_14821909.htm

 新華社の報道がアップされた時間を見ればわかるとおり、このストライキは実際に行われるまでは報道されなかったため、月曜日の朝になってタクシーが動いていないことを知った多くの市民は相当に困惑したようです。

 重慶市当局も問題を重視し、タクシー運転手側と交渉を行い、以下のような動きをし、いくつかの約束もしました。

・重慶市当局がタクシー会社側を呼んでタクシー運転手の収入が下がらないようにして欲しいと要請した。

・重慶市当局は、現在36か所ある天然ガス・スタンドを2年以内に60か所に増やすことを約束。

・重慶市当局は、「黒車」(不許可タクシー)の取り締まりには全力を上げることを約束。

 以上により、タクシー運転手側もストライキを解除し、11月5日(水)午前8時の時点で、重慶市内のタクシーの運行は正常に回復した、と11月5日午後5時に行われた重慶市当局による記者会見で発表されました。この場で、重慶市当局は、タクシー料金自体については、今後も検討を続けるが、当面は値上げしないことを発表しました。

(参考2)「新華社」(重慶支局)2008年11月5日付け記事
「重慶都市部タクシー運行の回復状況及びそれに関連する状況に関する重慶市政府の記者会見」
http://www.cq.xinhuanet.com/2008/czc/

 さらに今回の事態を重視した重慶市当局は、11月6日、重慶市党委員会の薄熙来書記が直接タクシー運転手の代表と話し合う場(中国語では「座談会」と表現)を設けました。重慶電視台とラジオのニュース・チャンネルはこの場の様子を生中継しました(詳細は不明ですが、タクシー運転手側がストライキを解除する条件として、このような場を設け、それをテレビ・ラジオで生中継するよう要求した可能性があります)。

 この「座談会」の場では、一部の運転手代表は、上記に出していた要求のほか、警察がタクシー運転手の写真を撮影してそれを交通取り締まりに使っていることに対する反発を示しました。

(参考3)「新華社」(重慶支局)2008年11月6日付け記事
「薄熙来書記、タクシー運転手、市民代表による座談会」
http://www.cq.xinhuanet.com/2008/czczt/

 この重慶市のタクシー・ストライキ事件は、中央でも重大な関心を寄せたと見えて、11月6日の夜の7時のニュース・天気予報に毎日放送される報道特集番組「焦点訪談」でこの件を取り上げて伝えていました。

 中国では、許可なくデモ行進をやったら違法になりますが、ストライキは違法行為ではありません(ストライキまで違法にしてしまったら、社会主義の国とか、共産党が政治を行う国とか言えなくなってしまいます)。従って、市民生活に多大の影響を与えたとは言え、今回のタクシー・ストライキについては、タクシー運転手側を非難するような報道はありません。

 今回の重慶市のタクシー運転手の一斉ストライキは、権利を侵害されていると思った同じ立場に立つ人々が団結すれば、物事を変えることができる、ということを示したと思います(労働者の国・社会主義国である「はず」の中国で、こういうことを「新しいこと」のように思うこと自体本来はおかしいのですが)。中国では、新聞を勝手に発行したり、印刷物をばらまく自由はありませんが、今は携帯電話というツールがあるので、携帯電話のメール等を使えば、数多くの人が団結の意志を固めることは可能です。インターネットの掲示板でストライキを呼びかけることも可能ですが、インターネット掲示板は掲示板運営者にその発言を削除される可能性があります。携帯電話のチェーン・メールを当局(または当局の意向を受けた者)がコントロールすることは実態的に不可能です。

 今回の重慶のタクシー・ストライキは、中国における新しい流れを示すできごととして注目してよいできごとだったと思います。

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2008年11月 4日 (火)

女性農民工についてのルポ

 今日(11月4日)付けの人民日報では、「社会観察」という特集ページで、女性の農民工(農村から都会に出稼ぎに出てきている農民)の実態に関するルポルタージュを掲載していました。

(参考)「人民日報」2008年11月4日付け
「流動の中に咲いた青春(記者調査)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/04/content_131967.htm

 この記事のポイントは以下のようなものです。

○35歳のAさん。黒竜江省依安県の農村から、2005年末に家の稼ぎの足しにするため、彼女一人でハルビンに出稼ぎに出てきた。ファースト・フード店で皿を洗うのが仕事。朝の9時から夜の10時まで働き、休日はない。月給は1か月450元(6,750円)。6人で、1日に台車30個分の皿を洗うので、洗剤で手が荒れてしまう。1週間たたないうちに手の指が真っ白になった。その後、労働市場でパートタイムの職を見付けて、今は月1,100元の収入になっているので、今では生活に使った残りの700元ちょっとは貯めておける。

○統計によれば、黒竜江省の流動人口(戸籍がある場所ではない場所で生活している人々)のうち、39歳以下の女性の占める割合が50%前後で、そのうち75%は初等中学(日本の中学校)卒業以下の学歴である。彼女らは単純労働に従事し、月収は多くて500元前後である。

○Bさんは23歳。四川省宜賓からやってきた。2年ちょっとの間に4つの都市を渡り歩いた。四川省綿陽の電子計器組み立て工場で働き、四川省成都の卸売り市場で衣服を売り、貴州省のオモチャ工場でぬいぐるみを縫い、最後は広東省深センの正規のレジャー・センターでマッサージを勉強している。今の収入は月3,000元前後。彼女は「すごく疲れます。クーラーの効いた部屋の中でも汗だくになります。私は初等中学(日本の中学校に相当)しか出ていないので、欲しい給料の額がもらえる仕事に就くのはすごく難しいです。」と言っている。

○Cさんは江蘇省灌雲県朱橋村から来た28歳で、もうすぐ小学校3年生になるこどものことが心配だ。こどもが2歳の時、こどもをおばあさんに預けて、夫とともに蘇州市工業団地に出稼ぎに来た。前の学期、こどもの勉強の成績が急に落ちたので、彼女は1か月休みをもらって故郷に帰った。「近くにいてこどもを教育してやる人がいないと。でも、故郷以外で学校に行くと学費が高いし、住むのも食べるのも大変だ。」

○「女性労働者の家」の理事をしている方清霞さんは、自分が以前、女性出稼ぎ労働者だったので、都市に出稼ぎに来ている女性の境遇はよく知っている。彼女は言う。「病気になるのが一番怖い。カゼをひいて病院にいっただけで200元掛かる。これは部屋代1か月分に相当する。」「戸籍問題は非常にやっかいだ。都市の人ならば必要のない、いろいろな手続きや証明書が要る。住む場所を探すのも大変だ。家賃が高いだけでなく、よく夜中に戸籍調査を受けた。」

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、都市で働く出稼ぎ労働者の状況の根本原因は、都市と農村の二重戸籍制度にあると指摘している。ただし、彼らが欲しいと思っているのは「非農村戸籍」を示す一枚の証書ではなく、就業、分配、社会保障の点で都市住民と同等に競争できる社会できる地位なのである。

○山東省聊城から出てきたDさんは、北京のある倉庫設備会社の販売代表である。21歳の彼女は既に出稼ぎを始めて5年になる。去年、北京の通州で働いていた木板工場では、朝8時から夜8時まで働いて、その間に休憩は1時間だけ。いつも超過勤務手当なしで残業していた。「ひどいときは2日間一睡もしないこともあった」。

○労働契約が締結されておらず、超過勤務手当が支払われないことも多い。全国婦女連合会が実施した1,000名の都市で働く女性出稼ぎ労働者に対するアンケート調査によると、正式な労働契約を結んでいたのは48.2%、6割の女性労働者が毎日8時間以上働き、そのうち3割に満たない人しか法定の超過勤務手当をもらっていなかった。また、約半数が社会保障体系の中に入っていなかった。特に、若い女性労働者にとって重要な生育社会保険に至っては、使用者側も労働者側も重視しておらず、保険に入っている人はわずか0.8%しかいなかった。

○「出稼ぎ女性労働者の家」は1996年に成立した中国最初の女性出稼ぎ労働者のための公益組織である。この組織の笵暁紅理事は、労働者の権利保護の仕事をしているが、「労働契約法」が明確に要求しているにもかかわらず、多くの企業、特に正規ではない小規模の企業がいろいろな方法で規定を逃れている。

○女性出稼ぎ労働者は法律知識が乏しく、権利意識が希薄なので、権利侵害が起きても、それを主張しないことが多いか、自分が権利を侵害されていることすら知らないケースも多い。

○女性出稼ぎ労働者は結婚する年齢が遅くなるケースが多い。多くの女性出稼ぎ労働者は、内陸部の山村から出てきている人も多く、避妊や性病に対する知識がない人も多い。深セン市羅湖区がかつて調査したところによると、病院で人工中絶をした女性の6割は未婚の出稼ぎ女性労働者であったという。

○一部の出稼ぎ女性労働者の中には、都市で働く過程で、勉強と職業訓練を通じて自分の能力を高め、成功している例もある。全国婦女連合会のアンケート調査の中では、10.4%が管理職に、8.3%が会社社員になっていたという。

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、「女性出稼ぎ労働者は、中国の経済成長の推進の中で無視できない役割を果たしている。人材開発の観点で考えるのと同時に、女性労働者個人と社会の発展との関係にプラスをもたらすためには、社会が働く女性に自分の能力を発展させる機会を与えることができるかどうかがカギだ。」と述べている。

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 「人民日報」も農民工の実態については、こういったルポを時々掲載します。かなり多くのケースで、二重戸籍制度が問題だ、といった指摘がなされるのですが、実態はなかなか改善しません。「労働契約法」ができて施行されたのは、今年(2008年)の1月1日です。「中国の特色のある社会主義」とは「労働者がこういうふうに扱われている社会主義なのだ」ということは、中国の国内の人も、外国の人も知っているのですが、なかなか改善されません。多くの外国の企業は、こういった弱い立場におかれた多数の労働者がいることによって国際的に競争できる価格の中国製品の恩恵を受けているので、少なくとも外国からは、こういった状況を改善させよう、という圧力が働かないからかもしれません。

 中国共産党の機関誌「人民日報」が、こういった問題に目をつぶらずにちゃんと記事にしていること自体は「救い」なのですが、記事にはなるけれども、実態があまり改善されないのを見ていると、こういった記事も「党・中央は農民工の厳しい現状をちゃんと認識していますよ」といった「宣伝」の役割しか果たしていないのではないか、と思えてしまいます。

 現在の世界的な厳しい経済情勢の中で、今、中国の企業も相当に苦しんでいるところだと思います。一方で、労働者の権益保護の意識は、こういった「人民日報」の記事などを通じて、じわじわと労働者の中に根付いていくと思います。諸外国も、安い労働力の中国を利用することのメリットを享受する時代は終わった、と認識して、むしろ中国の数多くの労働者の権益を保護することによって、中国国内の労働者の収入を増やし、中国国内の内需を拡大して、中国を巨大な市場として活用することによって世界の経済成長につなげる、という方向に、中国との付き合い方を変えていく必要があるのではないかと私は思っています。

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2008年11月 2日 (日)

メラミン粉ミルク事件から政治改革を考える

 最近、中国では、食品安全問題や炭坑・鉱山の安全操業問題で、地方政府が不法行為を行ったり環境汚染を続ける企業を十分に管理監督できていない、ひどい時にはそういった企業と地方政府が癒着して問題を覆い隠そうとしている、といった事件が多発して、社会問題になっています。このため、党・中央でも、そういった企業と癒着して企業の不法行為を見逃しているような地方政府の幹部については、解任したり、賄賂などをもらっていた場合には、司法の場で裁くようにすることなどにより、改善を図ろうとしています。こういった社会情勢の中で、先に問題となった河北省の三鹿集団によるメラミン混入粉ミルク事件に関連して、11月3日号の経済専門週刊紙「経済観察報」の「観察家」(オブザーバー)の欄に、長江商学院の王一江教授が「三鹿事件から政治体制改革を考える」と題する評論を書いています。

(参考)「経済観察報」2008年11月3日号(11月1日発売)
「三鹿事件から政治体制改革を考える」
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2008/11/03/118722.html

 この評論のポイントは以下のとおりです。

○長い間、地方政府の幹部はGDPの増大にのみ神経を使ってきた。GDPの増加により地方政府の財政収入が潤い、雇用も確保されるからである。GDPの増加に成功した地方政府は、往々にして出世が速い。これは「地方政府の企業化」を推進した。こういった考え方は、法律を省みない一部の企業の活動を助長した。こういった体質は、今回の三鹿集団によるメラミン入り粉ミルク事件や無許可で操業する炭坑・レンガ工場など、様々な問題を引き起こした。

○党・中央は、こういった状態を問題視し、「科学的発展観」「正しくかつスピードの速い経済発展(「又好又快」=良くかつ速く)」といったスローガンを掲げて、注意を促してきた。「科学的発展」や「正しくかつスピードの速い経済発展」とは、経済発展の過程において、環境の保護、エネルギー消費の適正化、土地やその他の自然資源の適正な利用、適正な収入の適正な分配、社会保障、医療衛生、教育、社会治安、住宅問題、交通問題、食品安全と人民の満足感・幸福感を大事にすべきだ、ということを主張しているのである。

○しかし、これらの目標はなかなか有効に実現することができていない。今後、地方政府が採るべき道には次の三つがある。

(1)今までと同じ路線:GDP至上主義を続けることであるが、この路線を続ける限り「地方政府の企業化」は今後も進み、「科学的発展」「正しくかつスピードの速い経済発展」という目標は実現できない。

(2)地方政府に経済発展を求めない路線:中国の特徴は、政府が資源をコントロールしていて、法律による支配が不完全なことであるから、地方政府に経済発展を求めなかったら、経済に対する積極性は失われ、雇用を確保し、人民の生活水準を向上させて、貧困問題を解消する、という目標を達成することはできない。

(3)先進国のモデルに見習う路線:日本の汚染米問題など、先進国でも食品安全問題は発生している。しかし、先進国では中国のように人々の健康被害に影響が及ぶほどに拡大することはあまりなく、先進国の食品は基本的に安全である。

○中国で先進国のモデルを導入できないのはなぜか。それは次の点で中国と先進国との間に国情の違いがあるからである。

「司法の独立性」:先進国では、司法の独立により、消費者は食品に対する不安に基づき食品安全に対して問題を起こしている利益集団を明らかにすることができる。違法行為を行っている企業は地方政府の保護を受けることができず、違法行為は結局は企業自身の損失となって跳ね返ってくる。

「資源の分散」:先進国では経済発展の力の源泉は政府ではなく民間企業にある。政府が企業の利益を保護する程度はあまり大きくない。

「定期的な選挙」:これが最も重要なことであるが、先進国の地方政府のトップは、定期的な選挙により、有権者の審判を受けている。有権者による評価が気になるので、地方政府のトップは、環境を保護せず、資源を浪費し、社会利益を損ない、法律を無視してまで、企業によるGDP増加のみを追求するようなことを敢えてしようとは考えない。

○司法の独立性と定期的な選挙による社会監督管理制度が、現在の中国の国情と比べて最も異なる点である。

○中国の国情と符号した形で改善を図る道はないのか? 先進国のシステムのポイントは、権限の分散化である。政府のトップは、有権者による選挙で選ばれているので、自らの地位を失わないためには、有権者がどう考えるか、を真っ先に考えるようになる。企業は、違法行為により短期的な利益が図れるとしても、地方政府からの保護がなく、法律システムに対する怖れがあるのであれば、そう簡単に違法行為に走ろうとは思わなくなる。

○改革開放の30年の間、我々は党と政府の分離、政府と企業の分離を進めてきた。今、職位(ポスト)の点では、確かに党と政府、政府と企業は分離されている。しかし、私は、現在のポスト上の分離は、依然として形式上の分離であり、集体が責任を負うという原則にある以上、異なるポストにいる者が真にそれぞれ担当すべき責任事項について独立して責任を果たしているとは言えない、と認識している。我々の「分離」は、往々にして「有名無実」と言わざるを得ないのである。

○地方政府自らが自分で経済発展を進めざるを得ないのだったら、「科学的発展」や「正しくかつスピードのある経済発展」という要求を実現することはできない。それであれば、市長や県長(行政府)がその地方の経済発展に責任を持ち、市や県の党委員会書記が環境保護や資源の問題・社会の調和の問題に責任を持つ、というふうに責任を分離する以外に方法はない。地方政府における党と政府の責任を分離し、それぞれが担当する責任分野に対して評価を受ける、というシステムこそが、中国の国情に符合し、かつ「科学的発展」「正しく・スピードのある発展」という目標を満たすために今後進むべき道なのである。

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 環境問題、食品安全問題、炭坑などの違法操業問題等に起因する労働安全問題等の様々な問題の根っこが現在の政治体制の問題にある、という点を、現在の中国の法律に違反しないというギリギリの範囲内で(=中国共産党による支配体制を批判しないというギリギリの範囲内で)鋭く指摘した評論だと私は思います。王一江教授は「集体が責任を負うという原則にある以上」という表現を使っていますが、はっきり言えばここの部分は「社会主義という原則を採っている以上」と表現した方がわかりやすいと思います。ただ、そこまではさすがにハッキリとは言えなかったのでしょう。

 「党と政府の分離」「政府と企業との分離」は、30年前に改革開放路線が始まって以来、中国共産党自らが認識して進めてきた方針(注)ですが、それが現在でも「形式的なもの」に留まっており、機能として分離していない(チェック・アンド・バランスの機能を果たしていない)ことを上記の評論の筆者は明確に述べています。筆者は、中国共産党が進めてきている改革開放路線を、その基本理念に基づいてきちっと進めるべきだ、と述べていて中国共産党の現在の路線を応援しているのであって、決してそれを否定しているわけではありません。

(注)1989年までは「党と政府の分離」の方針に基づき、党の総書記と国家主席(政府の代表)と党軍事委員会主席(軍の主導権を握る)は別の人物が就いていました。しかし、1989年の「政治風波」を境としては、1989年には党の総書記と党軍事委員会主席が、1993年からは国家主席も含めて、この三つの職位に同一人物が就任するようになっています。つまり、「党と政府の分離」という改革開放の当初の原則が1989年の「政治風波」を境にして変わったのです。これまでもこのブログで何回も紹介してきましたが、今、多くの新聞の評論で、1980年代の(1989年以前の)改革開放の原点に回帰すべきだ、という論調が多くなってきています。

 一方、上記の評論の最後の部分、政府(行政府)が経済成長に責任を持ち、党の方が環境保全・資源の確保や人民生活の保障に責任を持つべきだ、という考え方は、もっともな考え方ですが、見方を変えると江沢民前総書記が提唱した「三つの代表論」を批判的に見ている考え方だ、と捉えることもできます。「三つの代表論」とは、中国共産党は、(1)中国の先進的な社会生産力の発展に対する要求を代表する、(2)中国の先進文化の方向を代表する、(3)中国の広範な人民の根本的利益を代表する、ことを指しますが、三つのうち(3)がポイントであり、中国共産党は、労働者・農民(プロレタリアート)だけではなく、中小商工業者、企業家(昔の言葉で言えばブルジョアジー)や知識階層なども含めた人々の代表である、という点で、画期的な議論です。

 この「三つの代表論」は、よい意味では、中国共産党がイデオロギーに凝り固まった政党から脱却して中国社会の幅広い分野の人々の意見を結集した現実的な執政党に脱皮した、という言い方もできますし、別の言い方をすれば、労働者だけでなく企業家の意見も聞くようになった、といも言えます。後者の方は、意地悪な言い方をすれば、中国共産党の党員が企業家と癒着関係になっても即座にそれを否定することはできなくなった、とも言えます。上記の評論の筆者・王一江教授は、党の役割を経済成長を進める役割から分離させ、人民の生活を守る役割に特化させるべきだ、と主張しているわけであり、中国共産党の役割を「三つの代表論」で転換した方向から、本来の役割(経済的に力を持たない労働者・農民の権益を守る役割)に戻そうとしている、と考えることもできます。

 いずれにせよ、王一江教授は、「選挙がない」という現在の中国の最も重要なポイントを指摘している点で重要です(中国にも、人民代表を選ぶ選挙はありますが、人民代表選挙は間接選挙であり立候補に一定の制限がある点で「選挙と呼べるようなものではない」ということは、中国の内外の人はみなよくわかっています)。王一江教授が「だから選挙をやるべきだ」と主張していないのは、現在の中国の新聞に掲載できる論評の限界を示していますが、いずれにしても、こういった議論が新聞やネット上で自由に展開されていることは非常に重要です。こういった活発な議論がなされる中で、中国にとって実現可能な、最もよい方法が見つかることになるでしょう。

 世界的経済危機の中で、中国経済も苦しい状況にあります。しかし、中国政府は財政的には大幅な黒字であり、2兆ドルに達しようかという膨大な外貨準備もありますので、いざとなれば苦しい立場に立つ企業に「公的資金の注入」をすることはいつでもできますので、現在の世界の中では、中国の社会は、むしろ「比較的安心して見ていられる社会」と言ってもいいかもしれません。北京オリンピックが終わった後も、心配されていた「急激な経済バブルの崩壊」はありませんでした。こういった比較的安定した社会が続いているうちに、長期的な将来へ向けて、安定した社会を持続させることができるようなフィード・バック・システムが上記のような様々な議論を通して構築されていくことを期待したいと思います。

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