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2008年10月12日 (日)

北京の新交通規制に異議を述べる社説

 北京で10月11日から来年4月10日までの間、平日の運行車両を5分の1減らす交通規制を始めたことについては、10月7日付けのこのブログで書きました。

(参考1)このブログの2008年10月7日付け記事
「北京で新たな交通規制実施へ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/post-6f7a.html

 ところがこの措置に対して、10月13日号(10月11日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」は、1面の社説で、個人所有の自家用車に対してはこの措置は緩和すべきだ、との主張を掲げています。

(参考2)「経済観察報」2008年10月13日号(10月11日発売)社説
「北京では自家用車に対しての規制はゆるめるべきだ」
http://www.eeo.com.cn/observer/pop_commentary/2008/10/11/116008.html

 この社説の主張のポイントは次の通りです。

○「道路交通安全法」や「大気汚染防止法の実施細則」によって北京市政府が大気汚染防止等のために交通規制を実施できることは規定されているが、それは特殊な緊急事態における措置を想定しているのであって、今回の北京市の交通規制のように恒常的な規制をする権限は北京市にはない。

○自家用車は個人の財産であって、「物権法」に基づき、自動車の所有者が自由に占有し、使用する権利があるのであって、北京市が国の法律に基づき行政権限を行使する場合には、個人の財産権を侵害するようなことがあってはならない。

○今回の措置は立法機関(人民代表大会)で十分に議論されておらず、北京市は立法機関から授権されている範囲を超えて行政権限を行使はできない。

○北京市人民政府に市民に良好な生活環境を提供する責務があることはわかるが、だからと言って、今回のように恣意的に私的財産権に制限を加えるような規制を実施してはならない。

○北京市当局者は、9割以上の北京市民がオリンピック期間中の交通制限により渋滞緩和と大気汚染の改善が図られたと認識していると指摘しているが、これは北京市民と周辺の都市の貢献が大きかったことによるひとつの特殊な例である。北京市当局は、こういった市民の意見でもって、今回の措置の必要性と合理性を説明することはできない。

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 私はこの社説は至極まともな主張だと思います。通常(日本などの場合)、国民の権利を制限したり国民に義務を掛けたりする場合には、必ず立法府(国会)が作った法律に基づかなければなりません。内閣が決める政令や各省が決める省令などもありますが、これらの政令や省令等は、法律を実施するための細目を決めるためのものであって、政令や省令で国民の権利を制限したり国民に義務を掛けたりすることはできません。国会で決める法律の中に法律が定める範囲内で政令や省令に権利制限や義務の「掛け方」を委任している場合はありますが、こういった場合でも「権利を制限する」「義務を掛ける」こと自体は国会での議決が必要な法律にその根拠がなければなりません。

 その点、中国では、人々の権利を制限したり義務を掛けたりする規則が、人民代表大会で決める法律の中に出てくるだけではなく、行政府である国務院が決める国務院令で出てきたり、北京市など地方政府が決める規則に出てきたりします。「紅頭文件」と言って、人民代表大会でも地方政府でもない、その地区の中国共産党委員会が出す通達で、人民の生活を規制することもあります(ありました)。さすがにこの「紅頭文献」によって人々の権利や義務に関する指示を出すことは「法治主義に反する」ということで止めるようになってきています(「全くなくなったわけではない」というのが現状だと思いますが)。

 上記の「経済観察報」の社説は、こういった行政府が人々の権利を制限したり義務を掛けたりする規則を作ることに対して、かなり「ピシャリ」と的を得た指摘をしています。中国の新聞は「党の舌と喉」と言われ、中国共産党の監視と指導を受けていますが、こういうふうに行政府が制定した規則に対して、真正面から異議を唱えているのは、政府の方針から一歩下がった鋭い指摘をすることの多い「経済観察報」ならではのことだと思います。

 「経済観察報」は、週刊の新聞ですが、1部3元(約45円)と中国の新聞の中ではかなり高いほうです。また、その記事の内容は「お金持ち階層」が読むものですから、この新聞の読者には自家用車を持っている人たちが多いのだと思います。今回の社説は、そういった「経済観察報」の読者の意見を代弁する、という意味があると思います。それにしても、政府の措置にこれだけまともに「ビシャッ」と意見を述べる新聞があると、私も胸がスカッとしました(同じ感覚を持った北京市民は多いと思います)。

 さすがに今回の交通規制に関する問題のような政治性のないテーマについての議論で、「政府が決めた規則に異議を唱えるのはけしからん」などと言われて発刊停止処分などが行われるはずはないと思います(「経済観察報」はそう思ったからこそ堂々と社説に書いたのだと思います)。これから、こういった問題について、政府の施策に対して異議を唱える意見であっても、どんどん自由に新聞に意見や主張が書かれるようになると、中国の社会も少しずつ新しいものに変わっていくのではないか、と私は思っています。

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