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2008年9月28日 (日)

中国にとっての有人宇宙飛行の意義

 2008年9月25日、中国にとって3回目となる有人宇宙飛行船「神舟7号」が打ち上げられ、9月27日には中国にとって初めての宇宙遊泳に成功しました。私も「打ち上げ」と「宇宙遊泳」を中国中央電視台の生中継で見ました。打ち上げ時にはロケットにテレビカメラが付いていて、固体ブースター・ロケットが切り離される瞬間が映っていたし、宇宙遊泳の時は、船内に1台、船外に2台のテレビカメラがあり、宇宙飛行士の様子を克明に中継していました。映像の中の地球表面の様子や、宇宙船の進行とともに地球の陰に沈んでいく漆黒の宇宙に浮かぶ太陽も非常に美しいものでした。中国の宇宙開発も相当に「テレビ」を意識していると思いました。

 さて、今回の有人宇宙飛行については、中国の多くの新聞・テレビでは、この有人宇宙飛行を称賛する記事であふれていますが、広州で売られている週刊新聞「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)に、ちょっと違った観点の論評が載っていました。「南方周末」は、独自の視点で記事を書く新聞として有名で、去年放送されたNHKの「激流中国」の「ある雑誌編集部 60日の攻防」で果敢に記事を書く雑誌社として紹介された「南風窓」もこの「南方周末」系の雑誌です。独自の視点からの記事を書くので人気が高く、1部3元(約45円)と中国の新聞としては高い(大衆的な日刊紙は1部0.5元(約7.5円))のですが、結構売れています。実はこの新聞は、広州で発売されているのですが、北京の新聞スタンドでも買えます。北京に運んでくる運賃を考慮しても、売れるので儲かるからでしょう。

(参考)「南方周末」2008年9月25日号
「神船7号:全解説」特集の中の評論
「経済のため? 国防のため? それとも中華復興のため?」中国有人宇宙プロジェクトの意義(本誌特約評論員:趙洋)
http://www.infzm.com/content/17637

 この「趙洋氏」のような考え方は、まだ、現在の中国では「主流」にはなっているわけではないと思いますが、この評論のポイントを御紹介すると以下のとおりです。

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○普通の人は皆「神舟宇宙船」について全国的な慶事だと思うし、宇宙飛行士の高度な技術による科学技術サーカス(原文は「科技雑技」)を鑑賞するのだろう。しかし、私には、巨額な資金を消耗させる有人宇宙プロジェクトにのこのような「晴れ」の舞台の裏側に、深い「いわく」があることを考えさせる。

○有人宇宙飛行プロジェクトは、経済のためではない。アメリカやロシアでも有人宇宙飛行プロジェクトが宇宙産業以外の産業にもたらすインパクトは限定的である。日本、ドイツ、イギリス、フランスはいずれも独自の有人宇宙飛行計画を持っていないが、だからと言って他の科学技術領域やイノベーションの実力が弱いというわけではない。

○有人宇宙飛行プロジェクトは国防のためでもない。同じ金額があれば、大陸間弾道ミサイルや偵察衛星の方が効果的だ。

○それでは、中国の有人宇宙飛行プロジェクトは何のためにやっているのか。2006年の「中国の宇宙白書」(「2006年中国的航天」)によれば、中国の宇宙開発は「民族の結集力を強めて強国のための戦略を推進し、もって国家が全体的に発展するための戦略の重要な部分をなす」と書かれている。

○有人宇宙飛行プロジェクトは、有史以来、最もお金を使うプロジェクトである。それはピラミッドや万里の長城、教会の大聖堂を建設するプロジェクトを超えている。1950年代以来、大国が宇宙開発競争をやってきたのは、ピラミッドや万里の長城や教会の大聖堂と同じように、人々を畏怖させ、自分たちが力を持っていることを示すためだった。有人宇宙プロジェクトは、ピラミッドや万里の長城や教会の大聖堂を建設することが古代人に与えたのと同じ効果を現代人に与えるものである。

○米ソ両国は冷戦終結後は宇宙開発分野で協力を始めて、資源の節約を図った。交流は、秘密を保持するのに比べて科学技術の発展を促進した。一方で、宇宙ステーション協力問題で両国はしばしばそれを「外交カード」として使った。

○こうした情勢の下、1992年、中国は有人宇宙プロジェクトを始めたが、それは原爆、水爆の開発や人工衛星の打ち上げと同じように、国際社会における中国の地位を発展させるために選択したものであった。今後、中国が平和を希求し、国際関係を発展させようというのであれば、有人宇宙飛行プロジェクトも国家の外交目標に合致するものでなければならない。

○中国には「中国は宇宙において国際協力をする必要はない。少なくとも宇宙ステーションについては国際協力をすべきではない。」と主張する人がいるが、筆者の考えはそれとは異なる。歴史的に見て、鎖国的な政策は中国を強くはしない。

○2010年にはアメリカのスペースシャトルが退役することになっているが、アメリカは国際宇宙ステーションへの人や物資の輸送をロシアにいつまでも頼ることはできないので、スペースシャトル後の輸送手段について計画中である。

○中国は、自力で宇宙遊泳とドッキングの技術を確立した後、独立して技術を保持できるという前提の下、国際宇宙ステーションに有人宇宙飛行サービスを提供するという「宇宙外交」を展開することも悪くはない選択肢である。

○世界で最も力の強い国家と世界で最も人口が多い国家が宇宙において協力することは、世界大戦の可能性をさらに一段と微々たるものにする。その意味では有人宇宙飛行における国際協力は、国家安全のための施策の一つなのである。

○もしかつて閉鎖的だった中国がこの高度に敏感で困難な領域において西側と協力を展開したら、それは他の領域の国際協力におけるモデルとしての役割を果たすだろう。そして、それは中国の技術のグローバル化を実現し産業にも新たな道を切り開くものになるだろう。

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 今回の「神舟7号」の有人宇宙飛行でも、打ち上げ時には胡錦濤主席自らが打ち上げ上の甘粛省酒泉まで出向いて、宇宙飛行士の「出征儀式」に参加して宇宙飛行士たちを激励し、打ち上げの時は現地で視察したし、宇宙遊泳成功後は、北京の管制センターから宇宙飛行士たちと交信回線を使って直接話をしたりして、「国家的イベント」としての演出は色濃く見えました。その意味で、上記の趙洋氏の評論が指摘しているように、有人宇宙飛行は、国内及び国際社会に対する政治的メッセージの色彩が強いと言えます。ただ、そういったことを有人宇宙飛行の成功を讃える記事ばかりが並ぶ中国の新聞において、きちんと分析して、自らの意見を主張していた上記の「南方周末」の評論は出色のものだと思います。

 この評論では、文章表現として、宇宙遊泳のことを「科学技術サーカス」と言ったり、有人宇宙飛行プロジェクトを古代のピラミッドや万里の長城の建設にたとえたりしているのが、ちょっと刺激的かなぁ、という気はします。また「世界で最も力の強い国家(アメリカのこと)と世界で最も人口が多い国家(中国のこと)が宇宙において協力することは・・・」といった表現は、中国の民族ナショナリズムの感覚が強い人から見れば、ちょっと「カチン」と来る表現だと思います。こういった「国家の公式の考え方」「国家が公式に認める表現の仕方」とは異なる考え方・表現の仕方の論評が新聞に載り、ネット上でも削除されずに見ることができる、ということは、今の中国では、それなりに評価すべきことだと思います。

 1969年7月のアメリカの「アポロ11号」による人類初の月着陸成功の時も、「地上に貧しい人々が数多くおり、アメリカはベトナムで泥沼の戦争を戦っているというのに、これだけ巨額の費用を宇宙開発に使ってよいのか」という議論がありました。そういう様々な意見があり、議論がなされることは健全なことです。

 今回の「神舟7号」の打ち上げや宇宙遊泳は、映像もきれいだったし、それ自体、掛け値なしに「快挙」だと私は思いますが、それとともに、上記のような論評が中国の新聞に掲載されたことも、ひとつの「快挙」だと私は思いました。

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