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2008年8月 9日 (土)

北京のテレビで見たオリンピック開会式

 昨夜(2008年8月8日夜)の北京オリンピック開会式は、北京で中国中央電視台とNHK-BS1をチャンネルを切り替えながら見ていました。感想や気が付いた点を書いてみます。

○人文字カウントダウン:

 人文字ライトアップによるカウントダウンはなかなか良かったですね。漢数字のわかる日本人としては、漢数字とアラビア数字によるカウントダウンは面白かったと思います。最初は、8月8日午後8時8分に開始なのかと思っていたのですが、8:00ちょうどの開始だったのですね。

○北京市内を走った花火:

 開会式の行われた国家運動場(通称「鳥の巣」)は、天安門と故宮を結ぶ南北の線(北京の中心線)の延長線上の北の方(第四環状路の少し北側)にあります。開会式の始まりを告げる花火は、この北京市を南北に連ねる中心線上に沿って、まず天安門の南にある永定門から始まり、前門、天安門、故宮の中にある神武門、景山公園、その北にある城市公園、第三環状路の北にある科学技術館で打ち上げられた後、オリンピック公園で打ち上げられました。これを空撮ヘリコプターで撮影していました。足跡の形をした花火だったのだそうですが、テレビを見ていた時は「足跡の形」だとは気が付きませんでした。巨大な足跡が南からオリンピック・スタジアムへやってくる、というストーリーだったようです。街全体をキャンバスにしてしまう、という発想には恐れ入りました。

 普段は警備が厳しい北京市のど真ん中の上空を空撮用のヘリコプターが飛び、そこから生中継で映像が送られる、など前代未聞のことです。それに天安門や故宮の周辺はそれなりに広い場所があるとは言え、国宝級の建物の上空や街のど真ん中の公園の上空に花火を打ち上げる、というのは、これまた日本的感覚から言ったら、ちょっと乱暴な感じがしました(不発弾の落下や火の付いた破片の落下を想定して、日本ならば普通は花火は海や川、湖など水の上で花火を打ち上げますよね)。これもオリンピック・スペシャルなんでしょう。

○中国国旗(五星紅旗)の掲揚:

 中国国旗が入場して掲揚塔のところまで運ばれる際に流れていた歌は「歌唱祖国」で、中国では「第二の国歌」とも呼ばれる曲です。中華人民共和国の成立直後に作られた曲で、勇ましい行進曲ふうの曲です。「我らの指導者・毛沢東は、我々の進むべき道を導く」といった歌詞が出てくる革命歌です。国旗を運ぶ場面でのこの曲を使うのは中国では不思議ではないのですが、今回の演出では、この曲を幼い女の子に歌わせていたので、非常に軟らかいイメージの曲に聞こえたと思います。毎日、この局は中央人民ラジオ局のニュースの時間のオープニングに流れますが、いつものような勇ましい行進曲ふうの演奏の仕方だったら、世界中に人に相当にまるで軍事国家のような印象を与えてしまうところでしたからね。小さな女の子に歌わせたのは正解だったと思い思います。

 その後、国旗の掲揚は(最後の方で出てくるオリンピック旗の掲揚の時も同じでしたが)人民解放軍の兵士の手によって行われました。これは、毎日、天安門前広場で日の出時の国旗掲揚と日没時の国旗降旗で行われている中国ではごく一般的な儀式なんですが、見慣れない人には、相当にお堅い「社会主義国中国」らしいイメージを与えたかもしれません。

 国旗を様々な少数民族の民族衣装を着たこどもたちが運んできましたが、多くの少数民族の衣装をまとった人々を登場させて民族間の融和を強調するのは、こういったイベントでは必ずやる趣向です。別に最近チベットやウィグル自治区で事件が起きたから、あえてこういう趣向にしたわけではありません。

○歴史絵巻の巻物:

 「歴史絵巻」を光の投射で表現する、というのが、今回の開会式の演出のひとつの「機軸」でした。「漢字」「印刷術」「羅針盤」といった中国の発明が文化を創った歴史を表現していました。「漢字」の表現のところで「和」という字の歴史的移り変わりを表現していましたが、これは「平和」という意味と、現在の胡錦濤政権が掲げる「和諧社会」との両方をイメージさせるものだったと思います。

 活字をイメージしたマスゲームがありましたが、最後に「活字」に入っていた若者たちが顔を出して手を振ったのはよかったですね。「顔の見える演出」だったと思います。

 そのほか、太極拳とか中国古来の伝統的なものが次々に出てきましたが、中国に住んでいる私にとっては、そんなに珍しいものでもなかったので、若干「長いな」という印象を持ちました。最初の30分くらいはテンポがよく引き込まれる感じがあったのですが、後半は蒸し暑さのせいもあり、ちょっと見ていても「疲れ気味」でした。

 でも、全体的には圧巻だったと思います。

○夢:

 宇宙服を着た宇宙飛行士が天井から降りてきましたが、これは今年10月に打ち上げられる予定の中国としては3回目の有人宇宙飛行を意識していたと思います。今度の有人宇宙飛行では宇宙飛行士が宇宙遊泳をすることが計画されています。

○主題歌:

 中国の男性歌手・劉歓とイギリスのソプラノ歌手サブ・ブライトマンが「You and I」という主題歌を歌いました。なぜ女性歌手が中国人じゃないのかなぁ、と思っていたのですが、この主題歌を歌う場面は、中国が世界と手を携えていく、という流れの中だったので、外国人の歌手の方がピッタリだったのですね。これは納得でした。

○選手の入場行進:

 東京オリンピックの頃は、行進曲に乗って各国選手団が整然と入場行進する、というのがオリンピック開会式のお決まりのパターンだったのですが、デジタルカメラが普及して以降、選手自身がカメラを持って撮影しながら行進するようになったので、最近は、オリンピック開会式の入場行進は、悪くいえばダラダラ、よく言えばリラックスした雰囲気の入場行進になっていますね。選手の入場行進は、選手団はのんびり歩いていたので、式を企画した人の想定より、時間が掛かってしまったようでしたね(そのため、今回の開会式は約3時間半掛かる、と言われていたのですが、実際は4時間10分掛かりました)。

 入場行進をする選手たちの歩く道筋を整理するために人垣を作って踊りながら立っていた若い女性の皆様方は、2時間以上続いた選手の入場行進の間ずっと踊っていたようなので(たぶん途中で交代していたと思いますが)、あの蒸し暑さの中、御苦労様でした。

 今回の入場行進は、最初のギリシャと最後の中国は別として、中国語の漢字(簡体字)で表記した際の総画数順というのはユニークでした。日本の「日」は4画なので比較的前の方の登場でした。中国語をご存じない方には全く順番が予想できなかったと思いますが、「智利(チリ)」「墨西哥(メキシコ)」「徳国(ドイツ)」「澳大利亜(オーストラリア)」などは最初の文字の画数が多いので順番が後ろの方になってしまうのですね。

 参加国・地域が204と「史上最多」と言われますが、昔に比べれば、ソ連や旧ユーゴスラビアが解体して国の数は増えていますから、昔と比較するのはあまり意味がないと思います。それにオリンピック委員会ごとの入場なので、「中華台北」「中国香港」と中国は別々ですし、グアムやプエルトリコのような自治領はアメリカとは別、といったふうに、この際「国」はあんまり関係ない、という印象を強く受けました。それにしても、私自身、アフリカやカリブ海に浮かぶ島国など、全然知らない国が意外に多かったのはお恥ずかしい限りでした。

 日本選手団が入場したとき、会場からウォーという声が上がりましたが、歓声なのかブーイングなのかは、よくわかりませんでした。フランスに対しても明らかなブーイングのようなものはなく、開会式に関する限り、観衆は非常にお行儀が良かったと思います。台湾(中華台北)選手団の入場に対して大きな拍手が沸き上がったのはよかったと思います。

○北京オリンピック委員会と国際オリンピック委員会の挨拶:

 今回のオリンピックでは「中国百年の夢」ということがいろいろなところで言われました。清朝末期の1908年、列強各国による半植民地化された当時の中国において、ある雑誌が「中国はいつオリンピックを開催できるのだろうか」という問題提起を掲げてから今年でちょうど100年になるからです。北京オリンピック委員会の劉淇会長は、そのことを強調していました。

 このオリンピック開会式では、5月に起きた四川大地震に配慮して、少し派手さを抑えた演出になるのかなぁ、という観測もありましたが、四川大地震の件は影響していなかったようです。ただ、中国選手団の旗手を務めたバスケットボールの姚明選手は、傍らに林浩という震災の時に友だちを助けた「震災英雄少年」を伴っていました。国際オリンピック委員会のロゲ会長は、その挨拶で5月に起きた四川大地震に言及し、中国の人々の団結を讃えました。

 いつも言う言葉なのでしょうが、ロゲ会長は、選手たちに対して「国籍、人種、性別、信じる宗教、政治システムの違いを超えて、試合をし、交流をすることを求めました。「政治システムの違い」という部分は、いつものオリンピックでも言っていることだとは思いますが、これは国際オリンピック委員会の北京オリンピックにおけるひとつのメッセージだと私は思いました。

○聖火台への点火:

 聖火ランナーは、歴代の中国のメダリストが受け継いだ後、最後は1984年、中国が最初にオリンピックに参加したロサンゼルス大会で金メダルを獲得した李寧氏でした。その意味ではそれほどの「サプライズ人選」ではなかったのですが、後で報道で知ったところによれば、李寧氏は漢族ではなく、チュワン族なのだそうで、そういったところにも民族融和を印象付けたいという企画側の意図があったように思います。

 なお、開会式の進行が予定より遅れたため、胡錦濤主席の開会宣言は8月8日のうちに行われましたが、成果への点火は24時を回っており8月9日になってからでした(聖火台に点火されたのは8月9日0時05分)。

(参考)「新京報」2008年8月9日付け記事
「開会式の時系列」
http://www.thebeijingnews.com/news/xatk/2008/08-09/008@101746.htm

○開会式終了時の花火:

 開会式終了時には一斉に花火が打ち上げられました。天安門前広場でも花火が打ち上げられた、とのことです。私が住んでいるところは、オリンピック・スタジアムからも天安門前広場からもかなり離れているのですが、この最後の花火の音は相当大きく聞こえました。花火の音が聞こえただけで、リアルタイムで北京にいたことを実感できて、私としてはよかったと思っています。

 今終わって考えれば、北京市の中心部に花火という大量の火薬が持ち込まれていたわけです。これは考えようによっては、相当なリスクを背負っての演出だったと思います。日本だったら演出家がそういう提案をしても、消防署や警備担当の警察が許可を出さなかった可能性があります。いろいろな演出で天井から人をぶる下げる演出が多かったり、「中国では安全についてはそれほど気にしない。少しぐらいのリスクならば怖がらずに挑戦する。」という傾向がよく現れていたと思います。

○蒸し暑さと長さ:

 「鳥の巣」に行ったことのある人に聞くと、鳥の巣はすり鉢状で風が通り抜けないため、相当に暑いのだそうです。昨晩は、湿度がかなり高く「熱帯夜状態」だったので、特にきちんとした服を着ていた選手団の皆さんは相当に扱ったのではないかと思います。外国要人の方々には記念品として、大きな「扇」がプレゼントされたようで、皆さんそれで扇いで涼をとっていました。それでも開会式は4時間を超えたので、各国指導者や中国の国家指導者の皆様も、最後の方はちょっとぐったり気味の感じでした。

○テレビが生放送だったかどうかについて:

 一部日本の報道では中国中央電視台の放送が「生放送」より10秒程度遅れていた、と報じていますが、私が見ていた限り、中国中央電視台とNHK-BS1とは同時の画面を放送していました。NHK-BS1は静止軌道上にある放送衛星まで電波が行って帰ってくるまでの時間(約0.24秒)遅れるのですが、最近の放送はデジタル化しているので、デジタル化処理に数秒掛かることを考えると、中国中央電視台の放送はほぼ「生放送」であったと考えて良いと思います。検閲を入れるためには普通最低20秒程度は「遅れ」を入れますので、今回のオリンピック中継については、中国側は「検閲」することはあきらめていると思います。

○政治指導者の映像への登場について:

 中国中央電視台が中国選手団を多く撮し、NHK-BS1が日本選手団の映像を多く選んで放送していたのは当然として、それ以外の部分では、中国中央電視台とNHK-BS1はほとんど(95%以上)同じ映像を使っていました。ただし、中国中央電視台では、中国共産党政治局常務委員ら国家指導者の映像を何回も撮していましたが、同じ時、NHK-BS1では選手団や観客の映像など別の映像を放映していました。中国国家指導者の映像については、中国国内向けのスペシャルだったようです。

 なお、今回の開会式の席順は、国際オリンピック委員会のロゲ会長の隣に胡錦濤国家主席、その隣に現在は何の役職についていない江沢民前国家主席が夫人とともに座り、その隣が呉邦国全国人民代表大会常務委員会委員長(政治局常務委員会ナンバー2)、温家宝国務院総理(政治局常務委員会ナンバー3)・・というふうに「通常の序列順」に着席していました。つまり、江沢民氏がナンバー1の胡錦濤主席とナンバー2の呉邦国氏の間に割って入った形で着席していました。江沢民氏は、北京にオリンピックを誘致した時の国家主席ですので、胡錦濤主席の隣に座っていても不自然ではない、と言えばそれまでですが、江沢民氏が今でもまだ政治的影響力を持っていることを示す席順でした(なお、北京オリンピック誘致時の国務院総理の朱鎔基氏や元総理の李鵬氏は、私が見る限り画面では登場しませんでした)。

 選手団に拍手を送る胡錦濤主席の映像はNHK-BS1でも放送していましたが、中国中央電視台が江沢民氏を撮している時はNHK-BS1では別の場面を放送しており、私が見た限り、NHKの映像には江沢民氏は登場しなかったと思われます。このあたり、どの指導者の映像を国内へ流すのか、国際映像として海外に流すのか、については、中国の放送局はものすごく神経を使っていたと思います。

 各国選手団が入場すると、それぞれの国の首脳クラスは立ち上がって拍手をしますが、今回の開会式では、ブッシュ・アメリカ大統領、日本の福田総理、韓国のイ・ミョンバウ大統領、ロシアのプーチン首相、フランスのサルコジ大統領、イスラエルのシモン・ペレス大統領、アフガニスタンのカルザイ大統領、オーストラリアのケビン・ラッド首相などそうそうたる顔ぶれが画面に登場しました(これらの各国指導者の映像はNHK-BS1でも流れていました)。

○人工消雨について

 一部日本の報道では、開会式で雨が降らなかったのは中国側がヨウ化銀ロケットを1,000発以上打ち込んだ成果だ、として人工消雨に成功したとの報道がなされていますが、私が中国気象局のレーダーを見ていた限り、ヨウ化銀ロケットを打たなくても開会式の時間帯に北京に雨雲が掛かる可能性はあまりなかったと思われますので、あまり科学的根拠もなく「人工消雨」に「成功した」と報じるのはいかがなものかと思います。ヨウ化銀ロケットは、上空に湿った大気がある時、雨が降る確率をいくぶん高める、あるいは、雨が降る場合でも降る量をいくぶん大目にする効果があるとされていますが、全く湿気のないところで雨を降らせたり、大雨が降りそうな気象状況で雨を降らないようにすることはできません。

 ヨウ化銀は人間や動物には無害だとされていますが、降雨効果とヨウ化銀という自然界にない化学物質が環境中にばらまかれることに対する懸念とを天秤に掛けて、日本ではこの方法はあまり実施されていません。これは科学の問題というより、環境に自然界にない化学物質をばらまくことがいいかどうか、という環境に対する発想の問題だと私は思っています。

 8月9日に発表された北京の大気汚染指数(8月8日正午から8月9日正午までの観測値の平均値)は78でした。ヨウ化銀を空気中にばらまく、ということは、大気汚染の原因になる微粒子物質をばらまくことになるので、消雨ロケット作戦は大気汚染指数に悪い影響が出るのではないかと思ったのですが、それほどの影響はなかったようです。

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 いずれにしても開会式が今回のオリンピックのひとつの大きな「ヤマ」だったので、それが無事に終了して、ちょっとホッとした気分です。後は、選手の皆さんの伸び伸びとした活躍を楽しみにしたいと思います。

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