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2008年8月18日 (月)

発展改革委「オリンピック後の後退はない」

 国家発展改革委員会は、昨日(8月17日)、中国経済の状況についての記者会見を行いました。この席で、国家発展改革委員会経済研究院副院長の王一鳴氏は、「オリンピックは中国経済の分水嶺とはなり得ない」と述べ、「オリンピック後に中国経済にブレーキが掛かるのではないか」との見方を否定しました。

(参考1)「新京報」2008年8月18日付け記事
「中国では『オリンピック後の景気後退』は出現しない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-18/008@020530.htm

 この記事によると、王一鳴副院長が発言したポイントは以下のとおりです。

○オリンピックの終了は北京市の経済に影響を与えることになるだろうが、北京市の経済規模は全中国の3.6%に過ぎず、オリンピックの終了が中国経済全体に影響を与えることはあり得ない。

○マンション価格の動向もオリンピックとは関係しない。中国では急速な都市化が進んでおり、不動産に対する需要は強い。去年下半期以来、不動産市場における販売量は下降傾向にあるが、今年1月~7月の不動産に対する投資は依然として30%を超える速度で伸びている。現在、不動産市場は「模様眺め」の雰囲気が濃厚であるが、これは不動産市場の中のバブル的部分が消滅するまでのひとつのプロセスである。

○株式市場の動向もオリンピックとは無関係である。最近の株価の下降傾向は、マクロ経済的視点で見れば、中国経済がアメリカのサブ・プライム・ローン問題や地球規模の景気後退等の影響を受け、中国経済の不確定性が増加していることから来ている。原油、鉱物資源、食糧価格の大幅上昇も懸念材料になっている。しかし、多くの企業は安定的な成長を維持しており、いくつかの企業の株価は過小評価されている。国内の消費者物価指数が落ち着き、国際石油価格が安定し、投資者の安心感が増せば、株価は一時的な低迷状態から脱して、合理的な範囲に納まることになるだろう。

 で、問題は、この記者会見がなぜ日曜日である8月17日に行われ、8月18日(月)の朝刊にこの発言の内容が掲載されたか、にあります。今週、大手国有企業47社の株取引の制限が緩和され、額面総額1,200億元(約1兆8,000億円)に相当する株が株式市場に出ることになることから、この記者会見は、国家発展改革委員会が国有企業の株が市場に大量に放出されることに伴う株価の値下がりをできるだけ抑制することを意図して設定したものではないか、と私は推測しています。中国では、国有企業の持ち株を、コントロールしながら株式市場に出し、国有企業の経営にも市場原理を導入しようとする政策を採っています。そのため、毎週、なにがしかの国有企業の株が売買解禁となって市場に出されるのですが、たまたま今週は8月に解禁される株の69.2%がまとまって解禁される、とのことで、国家発展改革委員会は、その影響を最小限に抑えようとしたのだと思います。

(参考2)「新京報」2008年8月18日付け記事
「今週、189億株が解禁に~8月の解禁総数の69.2%を占める~」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2008/08-18/008@020626.htm

 しかし、この記者会見もあまり効果は大きくなかったようで、今日(8月18日)の中国大陸の株価は、またかなり下げたようです。

 王一鳴副院長が言うように、最近の株式市場の低迷の原因としては、オリンピック需要が終わることへの懸念、というよりは、世界的経済の低迷と人民元高による中国の輸出産業の不振に伴う中国経済全体への警戒感の方が大きいと思います。先月、国家指導者が相次いで沿岸部の輸出産業の中心地を視察したことも、逆に「中国の輸出産業の不振は意外に深刻なのかもしれない」という疑念を市場に与えたのかもしれません。。

 このブログの7月28日付け記事で、国家指導者たちが中国経済の牽引車である沿岸地域を相次いで視察するとともに、中国政府が当面の中国の経済状況を分析し、経済政策の運営方針を検討する会議を相次いで開いたことをお伝えしました。

(参考3)このブログの2008年7月28日付け記事
「中国経済は既に『オリンピック後』に突入」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_da68.html

 この記事の中でも触れましたが、胡錦濤主席は、7月21日に開いた中国共産党以外の民主党派や無党派の知識人を招いて行った検討会で6つのポイントを指摘しました。6つのポイントのトップは「安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること」でした。これは、それまでの経済政策はバブルが膨らみ過ぎてからはじけるのを防ぐために軽くブレーキを踏んでいた状態だったのを、今後はブレーキから足を離してアクセルに踏み換えアクセルを軽く踏み込むことにした、という経済政策の転換を意味していた、とみなすことができると思います。

 今日、日本から送られてきた日本で発売されている経済雑誌のお盆前の特集号を見たのですが、オリンピック後の中国経済の後退を憂慮する記事がいくつか載っていました。今の中国の経済状況を考えると、王一鳴氏が言っているように「今後の中国経済の動向はオリンピックの終了が原因となるわけではない」のはその通りだと思います。ただ、タイミングとしては、オリンピック終了をひとつのきっかけとして動き、方向性としては、世界的な経済低迷、原油高、中国の輸出産業の不振により、中国経済にブレーキが掛かる方向に振れることは、おそらく間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々はオリンピックに熱中していますので、オリンピックが終わるまでは、経済状況はそんなに大きくは変わらないと思いますが、来週の日曜日、オリンピックの聖火が消えた途端、多くの人々が「金メダルの夢」から醒めて、現実の経済状況に直面し、来週の月曜日(8月25日)から市場が動き始める可能性があります。その意味では今後の中国経済については「オリンピックの終了が原因ではない経済の変化がオリンピックの終了をきっかけとして始まる」と表現することが最も適切なのかもしれません。

 人民元レートは7月16日に1ドル=6.8128人民元まで上昇しましたが、その後、やや下落傾向にあり、今日(8月18日)現在1ドル=6.8665人民元となっています(正確なレートは中国銀行のホームページを御覧下さい)。これまでは「人民元は上昇する一方」だったのが、7月中旬以降、やや風向きが変わってきており、ここのところやや下降気味のトレンドが定着しているように見えます。当局が輸出産業にこれ以上打撃を与えないようにするために為替レートを「人民元安」の方向に誘導しようとしている可能性があります。もし「人民元が当面これ以上上がらない」という見方が定着した場合、これまで将来の人民元高を見て為替差益を当て込んで急速に中国国内に流入してきた「ホット・マネー」がどういう動きを見せるのでしょうか。輸出産業を救済しようとする政策が、ホット・マネーに支えられていた不動産バブルの崩壊を後押しすることになってしまう可能性もあります。

 経済システムは複雑ですから、「ブレーキからアクセスに踏み換える」と言っても、実はブレーキとアクセスは1対だけあるのではなく、いくつもあると考えるべきなのでしょう。そういった複数のアクセルとブレーキを間違うことなくコントロールして行くのは非常に難しい作業だと思います。

 中国は、あと1週間は「金メダルの夢」に酔いしれいていてよいと思いますが、オリンピック終了後はうまく切り替えて、中国の多くのオリンピック選手が試合で見せたような柔軟さとしたたかさをもって、「オリンピック終了を原因とはしないがオリンピック終了をきっかけとして動く中国経済」にしっかり対応して欲しいと思います。

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