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2008年7月29日 (火)

北京の大気汚染指数は「作って」はいない

 今日(2008年7月29日:オリンピック開幕まであと10日)の北京は、午前中に雷雨があり、午後から晴れてきましたので、空気がだいぶきれいになりました。午後、太陽が出てきた時には、太陽がまぶしくて肉眼では直視できない程度にはなっていました。(とは言え、雨が降った後でも、何となくぼんやりかすんだ感じで、私が先週、東京で見たスカッとした夏の青空とはやはり違う感じでした)。

 ここ数日間スモッグがかなりひどかったことについては、多くの北京市民も「交通規制については、オリンピックだからしかたがない、と思って不便な思いを我慢しているのに、どうなっているんだ」という不満が募っていたようです。今朝の中央電視台の朝のニュース「新聞天下」では、こういった一般市民の不満をなだめるように、気象の専門家は、オリンピック期間中は「サウナ・スモッグ」が持続するようなことはないと言っている、というニュースを伝えていました(「サウナ」は中国語では「桑拿」(音訳))。

(参考1)中国中央電視台ホームページ2008年7月29日「新聞天下」のニュース
「北京ではオリンピック期間中に『サウナ・スモッグ』が持続することはあり得ない」
http://news.cctv.com/china/20080729/100279.shtml

 ただ、逆に言うと、このテレビのニュースは、多くの人が、ここ数日間の北京の天気を「サウナ・スモッグ」だと思っていた、ということを表していると思います。オリンピック期間になったら「サウナ・スモッグ」が持続しない理由として、このニュースでは、8月7日が立秋であり、北京では立秋以降は毎年爽快な日が多くなるから、という説明をしていました(あんまり説得力のある説明ではないと思いますが)。

 また、今日の「新京報」では、こういった一般市民の気持ちを代弁してだと思うのですが、北京市環境保護局副局長で同局スポークスマンの杜少中氏への単独インタビュー記事を載せていました。

(参考2)「新京報」2008年7月29日付け記事
紙面上の見出し「北京の大気汚染指数は『作られた』ということはない」
ネット上での見出し「大気汚染は健康に影響を与えるものではない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-29/039@073737.htm

 杜少中副局長が言っていることの中心は「今年の7月は去年の7月よりは北京の大気汚染の状態は良くなっている」「7月下旬はたまたま汚染物質が拡散しにくい不利な気象条件になっているだけ」「大気汚染の程度は視界が悪いことだけではなく科学的データに基づいて判断して欲しい」といった今まで何回も記者会見で述べてきたことの繰り返しでした。ただ、新しい点として、次の二つを言っていました。

・7月28日は汚染指数が96で100を下回っており、29日は雨が降る予報が出ているので、改善の兆しがある(実際、29日には雨が降って、大気汚染はかなり改善しました)。

・(「新京報」の記者が「一部の外国メディアが、大気汚染指数100前後の日では、100という境界線をちょっと下回る日が不自然に多く、汚染指数が一定の値を越えた日の数が『修正』されているのではないか、と疑問を投げかけているが、これについてどう考えているのか、と問うたのに対し)北京では科学的事実をもって大気汚染問題に対処しているのであり、「虚偽をもてあそぶ」といった不誠実な言葉を使うことは、自分で自分のボロを出すのと同じである。

 日本のメディアの報道によると、杜少中副局長は7月10日の記者会見で「汚染指数が100を越えそうな日は、観測点周辺で(工場を停止するなどの)応急措置を取る」と答えています。確かにデータをねつ造しているわけではないのですが、この発言を捉えて日本のメディアは「大気汚染指数が基準内だった日の日数を人為的に操作」といった表現で報じたわけです。上記の「新京報」の記事の紙面上での見出しは「汚染指数は作られたわけではない」(中国語で「北京空気汚染指数不存在作假」)となっています。汚染指数が基準値を超えそうな時は、観測点周辺の工場の操業を停止するなどの措置は、「ニセのデータを作る」ことではないので、杜少中副局長の発言は確かに「ウソ」ではありませんが、中国語独特の修辞術を使った「ごまかし」であると言われても仕方がないと思います。紙面で使われた「不存在作假」という見出しがネット記事の報では削除されてしまったのは、こういった「ごまかし」があからさまにならにように、との配慮によるものと思われます。

 通常、中国のスポークスマンは「ウソ」は言いませんが、外国メディアに対する時と中国のメディアに対する時とで微妙に言い回しを変えることがあります。中国のメディアは「党の舌と喉」ですから、スポークスマンが言わんとすること(あるいは言いたくないこと)を忖度(そんたく)して、ウソにならない範囲で記事を作ります。そのため、同じスポークスマンの発言でも、外国メディアと中国のメディアとでは、ほとんど正反対の印象を読者に与えることがあります。「新京報」の記者は、中国の他のメディアでは取り上げていない「大気汚染指数を操作しているのではないかとの疑惑」をあえて取り上げ、そこを突っ込んで質問した、という点で評価されるべきなのでしょう。「新京報」の記者に「汚染が基準を超えそうになったときに、緊急に観測点周辺の工場の操業を停止させるのは『大気汚染指数の基準を超える日の数を操作している』と言われても仕方がないのではないのか。」と質問することまで期待することは、今の中国では無理なのでしょう。

 中国側がオリンピックのために一生懸命大気汚染改善のために努力をしているのに、西側のメディア(私のこのブログも含めてですが)が盛んに北京の大気汚染がオリンピックに影響を与えるのではないか、との憂慮を表す記事を書くので、新華社通信は相当頭に来たらしく、以下のような論評を配信しました。
 
(参考3)「新華社」ホームページ2008年7月28日13:02アップ論評
「マスクをしてオリンピックに参加する、というのは誇張のし過ぎ」(言立侖)
http://news.xinhuanet.com/comments/2008-07/28/content_8834302.htm

 この論評では、北京の大気汚染は10年前より相当に改善しており、今回のオリンピックに対しては北京市民が交通規制など大変な犠牲を払いながら大気汚染の改善を図っているのに、西側メディアは意図的に事実を歪曲して報道している、「選手はマスクをしてオリンピック競技に参加した方がよい」といった表現は誇張のし過ぎ、と指摘しています。北京の大気汚染が昔より改善していることも、多くの北京市民が犠牲を強いられていることも事実ですが、「西側メディアが歪曲報道をしている」という表現は相当に刺激的な論評です。まるで、外国で聖火リレーをやっていた時の「西側報道タタキ」を連想させるような言い回しです。中国のメディアではこういうような報道しかしないので、多くの中国の人々は「西側メディアは中国のことを正しく伝えていない」「世界は中国のことを間違って理解している」と思ってしまうのです。

 北京市環境保護局の「大気汚染指数が基準値を超える日の日数を少なくしようとして行った人為的操作」についての報道を「虚偽をもてあそぶ」と表現することが「正しい報道」であり、実際に肉眼で太陽が凝視できてしまうような白い空気の中でマラソンをすることが心配だ、と報じるのは「事実を歪曲した報道」である、といった認識を、もし中国の関係者の多くが持っているのだとしたら、私はいつまでたっても中国は世界の仲間には入れないと思います。

 北京の大気汚染指数は、昨日(7月28日)は96、今日(29日)は90でしたが、国家環境保護部のホームページでは、昨日の分の指数がずっと発表になりませんでした。普通は、毎日午後2時頃には発表になるのですが、今日の午後になって今日の分が発表になるまで、昨日の大気汚染指数は国家環境保護部のホームページでは見ることができませんでした。このホームページでは過去の大気汚染指数も検索できるので、今日の指数が発表になった後で、昨日の分を検索したら96だということがわかりました。システムのトラブルで昨日の時点でアップできかなかったのか、それとも意図的にアップしなかったのか、については不明です。

 中国では、大気汚染データの測定をはじめ、気象観測データの測定を行うには関係当局の許可が要りますので、外国の報道機関や研究者が勝手に大気汚染の観測を行うことは認められていません(気象観測データは「国家秘密」の扱いになっているためです)。ですから、国家環境保護部の観測データ自体が正しいのかどうか、誰もクロスチェックできないのも、外国の人からすると、何となく「ふに落ちない」ところです。せめてオリンピック期間中だけでも、外国の研究者は大気汚染観測を自由にやってよい、といったような措置を採ってくれれば、かなり信用の回復には効果があったと思うんですけどね。

 北京オリンピックは、こうした中国で現実に行われている様々なこと世界の面前にさらけ出した、という意味では、非常に意味のあるイベントだと思います。

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