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2008年7月28日 (月)

中国経済は既に「オリンピック後」に突入

 オリンピックまであと11日にせまり「いよいよ」の感じが強まってきています。オリンピック直前になったのに、まだ「きれいな青空」が出現しないのが気になりますが、中国政府にとっては「オリンピック後」の経済等の急激な落ち込みが気になるところです。

 今日(7月28日)、新華社通信は、最近、党中央と政府が相次いで最近の経済情勢に関する会議を開催したことを伝えています。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年7月28日
「中国共産党中央、目下の経済情勢を深く検討~科学的発展の堅持は揺るぎだにしない~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/28/content_8783721.htm

 この記事によると、7月8日~11日に、中国政府の国務院は連続して3つの経済情勢に関する検討会を開催した、とのことです。一つ目は7月8日に開催した地方の責任者からの報告と意見を聞く討論会、二つ目は7月10日に開かれた経済学の専門家によるマクロ経済情勢に関する検討会、三つ目は7月11日に開催された専門家による金融及び不動産情勢に関する検討会です。

 これらの会議で、温家宝総理は、厳しさを増す国際的な経済情勢と甚大な自然災害によっても中国の経済発展のファンダメンタルズ(基本的な状況)は変わらない、としながらも、体制上・構造上の矛盾は依然として存在しており、インフレ圧力が大きくなっている等の新しい問題が生じている、と指摘しています。

 引き続いて7月15日と16日の二日間、半日づつかけて温家宝総理は、国務院常務会議を開き、2008年上半期の経済情勢の分析と下半期の経済政策について議論を行った、とのことで、この席で、温家宝総理は次のように強調したとのことです。

・直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め、各項目の業務をしっかり行う自信を持たなければならない。
・中国は、今、戦略的に重要な時期に直面している、という認識は変えてはならない。
・企業の競争力と活力を絶え間なく向上させ、市場の変化に対応する能力を増強しなければならない。
・マクロ経済の調整能力は実践の中でこそ、さらなる改善と向上が図られるのである。
・2008年下半期における経済政策においては、安定的で比較的スピードのある経済発展を保持するとともに、マクロ経済調整のために最初にやるべき任務として物価の急激な上昇を抑制させ、真っ先に取り組むべき課題としてインフレを抑制することを位置付けなければならない。

 これらの発言は、株価の暴落や不動産価格の低迷によって多くの投資家たちが政府によるマクロ経済調整政策(景気の引き締め政策)に批判的になっているのに対して、温家宝総理は、今はインフレ懸念がありマクロ経済調整政策の基調は今後も継続させると宣言した、と取ってよいと思います。

 これらの会議と相前後して、この7月は、実に多くの国家指導者たちが、沿岸部等の中国経済の「機関車」となっている地区を相次いで訪問しています。列記すると以下のとおりです。

・陳徳銘商務部長:7月第1週、浙江省(温州、台州等)
・温家宝総理:7月4日~の6日、江蘇省蘇州、上海
・習近平政治局常務委員:7月4日~5日、広東省(深セン、東莞)
※この訪問は香港訪問の途上に行ったもの
・王岐山副総理:7月3日~5日、山東省(烟台、威海)
・李克強政治局常務委員・副総理:7月6日~8日、浙江省(温州、杭州等)
・呉邦国政治局常務委員・全国人民代表大会常務委員会委員長:7月7日~10日、内モンゴル自治区(フルンベル、満州里、オルドス、フフホト等)
・温家宝総理:7月19日~20日:広東省(広州、東莞、深セン)
・胡錦濤主席:7月20日、山東省青島
・賈慶林政治局常務委員・全国政治協商会議主席:7月21日~23日:天津

 これだけそうそうたるメンバーの国家指導者の方々がほぼ時期を同じくして各地を視察するのは極めて異例のことだと思います。行き先は呉邦国氏が行った内モンゴル自治区以外は、全て沿岸部の輸出型製造業の中心となっている地域です。オリンピックやオリンピックに対するテロへの警戒が話題になっていますが、現実世界の問題としては、中国経済が今曲がり角に来ていることの方が重要だと私は思います。

 2008年前半は、中国経済は人民元レートの上昇(ドル安と表裏一体の現象ですが)、原油価格の急騰による原材料コストの上昇、労働契約法の施行(2008年1月1日)に伴う労働コストの上昇、安全性の問題に対する各国からの懸念等が重なって、中国の輸出産業には大きなブレーキが掛かったことが上記の国家指導者の沿岸地域での視察に繋がっていると思います。上に述べたように温家宝総理がその講話の中で「直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め」といった緊迫感を持った表現を使っていることからも国家指導者の中国輸出産業に対する危機意識が窺えると思います。

 7月17日に発表された国家統計局の数字によると、2008年上半期の中国経済は、GDPは対前年比10.4%の伸びを示しましたが、その伸び率は前年を1.8ポイント下回った、とのことです。また、2008年上半期の輸出額は6,666億ドル、対前年同時期比21.9%の増でしたが、この伸び率は前年に比べて5.7ポイント下落しているとのことです(輸入額は5,676億ドル、対前年同時期比30.6%の増で、逆に伸び率は前年を12.4ポイント上回った)。安い労働力による労働集約型輸出産業に頼って急成長してきた中国経済が、今、曲がり角に来ていることは間違いないと思います。

 それに加えて、昨年秋にピークに達した後、ピーク時の半分以下に落ち込んでしまった株価や昨年暮頃から見え始めていたマンション等の不動産販売の低迷が「株や不動産に投資していた金持ち層が消費を手控える」という形で実態経済にも影響し始めているのではないかと思われます。今年1月の寒波・大雪被害や5月の四川大地震は、自然災害としての被害は甚大でしたが、大きな中国経済全体から見れば、経済の基本を動揺させるほどのものではないとは見られています。しかし、特に四川大地震については、無駄な出費を控えるという形で、心理的な消費抑制効果の面で中国経済に影響を与えている可能性があります。

 最後の追い打ちが「期待していたオリンピック景気が実際はそれほどでもないらしい。」ということを多くの人が感じるようになったことだと思います。北京市内のホテルは、かなり高めの価格設定をしたこともあり、一部の高級ホテルを除いて、まだかなり予約が入っていないところが多いようです。7月11日の時点で北京市旅遊局の熊玉梅副局長が述べたところによると、この時点でオリンピック期間中の5つ星級ホテルの予約率は78%、四つ星級ホテルは48.5%、三つ星級、二つ星級でも予約が入っているのは半分以下だ、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック期間中のホテルの宿泊代は最高で4倍近くに高騰」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025743.htm

 前々からオリンピックが終わった後は「オリンピック・バブル」が崩壊する、といった心配はなされてきましたが、それが現実のものになりそうな気配があることと、それに加えて中国経済の根本を支えている輸出産業にかげりが見え始めてきたことに対して、党と政府の指導者の方々はかなりの危機意識を持っているようです。上記のような国家指導者による輸出産業地域の視察と相次ぐ会議を踏まえ、(参考1)に掲げた新華社の記事によれば、まず7月21日に胡錦濤総書記は中国共産党以外の民主党派の幹部や無党派の知識人を招いた会議を開いて検討会が開催されたとのことです。胡錦濤総書記・国家主席は、この席で、次の6つのポイントを指摘したとのことです。

(1) 安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること。そのためには内需を拡大するとともに、対外貿易を安定的に発展させて、国際及び国内の両方の市場を十分に活用すること。

(2) 物価上昇のスピードを抑制すること。経済的な政策と法律による行政手段の両方を使って、供給量を増加させ、不合理な需要を抑制すること。特に食糧・食糧油・肉・野菜等の生活必需品の生産の増強に努めるとともに、市場の監視・監督を強化すること。

(3) 農業生産を着実に発展させること。品種のバランスに注意しながら、穀物の安定的な増産に努力すること。さらに一歩農業優遇政策を進めて、農業に対する補助金制度を強化し、農業生産コスト削減のための政策を採り、食糧生産農民の意欲を維持すること。

(4) 経済発展方式の転換を図ること。産業構造を変化させ、科学技術の進歩とイノベーションを積極的に推進し、全力で省エネ・汚染物質排出削減を図ること。

(5) 改革開放政策を継続すること。資本市場体系の整備を急ぎ、行政管理体制改革をより前に進め、対外開放を拡大すること。

(6) 人民生活を保障する業務を誠心誠意行うこと。地震災害に対する救援・復旧作業をしっかり行い、困窮する大衆と大学卒業生の就業対策をしっかり進め(注)、自然災害被災地区の労働者に就業機会を与えること。特に物価の上昇が低収入の大衆の生活レベルに影響していることに関心を払い、財政支出をもって人民生活を支え、低収入の大衆の生活レベルがこれ以上低下しないように努力すること。

(注)中国では2000年代初頭から大学生の数が急速に伸びたのに対し、中国の多くの企業は低賃金労働者を大量に雇用する経営形態から脱しておらず、大学卒業以上の高学歴者に対する求人はあまり多くないのが実態です。高学歴化は進んだのに、産業構造の変化がそれに追い付いていない、という人材の需給の面でのミスマッチが中国では問題になっているのです。

 これらの胡錦濤主席の指摘は、そのまま現在直面している問題点のポイントを突いていると思います。

 こういった認識に基づき、胡錦濤総書記は、7月25日、中国共産党中央政治局会議を開き、上記の認識に基づく現在の経済政策と今後の経済政策についての議論が行われました。そしてこの会議でこの10月に第17期中国共産党中央委員会第三回全体会議(第17期三中全会)を開いて、農村改革問題について検討を進めることが決められました。

 今年は、1978年にトウ小平氏が、それまでの「文化大革命」路線から大きく舵を切って改革開放路線を始めてから30年目に当たります。改革開放路線への転換を決めた会議が第11期三中全会だったのですが、この10月に開催が決まった第17期の三中全会も重要な会議になりそうです。オリンピックが終わったのを受けて、オリンピック後の次のステップの中国の歩むべき道を議論する会議になるだろうと思われるからです。

 中国経済が曲がり角を迎えた今、新しい時代を乗り切るには科学技術の面での「創新」(「より新しいもの・システム・制度を作る」という意味で技術的な「イノベーション」よりも幅の広い言葉)が必要である、という点について、最近、人民日報でもいくつかの論評が掲載されました。この点については、このブログに書かれていることと重複する部分もありますが、下記のページも御参照ください(下記の文章を書いたのはこのブログの筆者です)。

(参考3)科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター
「JST北京事務所快報:2008年第7号」(2008年7月23日)
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://crds.jst.go.jp/CRC/newsflash/beijing/b080723.html

 今、世界のトップ・アスリートたちは、本番のオリンピックへ向けて、集中力を高めつつある時期だと思いますが、中国経済の実態と、それにうまく対処しようと考えている中国の国家指導者の方々の頭の中は、既に「オリンピック後」へ向けて始動し始めているようです。

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