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2008年7月20日 (日)

「コメントする自由」「文句を言う自由」

 今日(7月20日)から北京市内では、オリンピック期間中の渋滞の防止と大気汚染緩和のため、ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制が始まりました。パラリンピック終了後の9月20日までの期間、北京市内では偶数日には奇数番号の車、奇数日は偶数番号の車は通行が許されません(バス、タクシー等の公共交通機関の車、消防・救急等の緊急車両、オリンピック関係車両、大使館関係車両等を除く)。

 ところが規制当日の今日(7月20日)になって「人民日報」の朝刊に「毎日午前0時から3時までの3時間については、ナンバープレート規制を緩和する」との発表が載っていました。

(参考1)「人民日報」2008年7月20日付け記事
「午前0時から3時までは偶数・奇数制限は実施しない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/20/content_61849.htm

 この規定緩和措置は7月19日に北京市交通管理局が発表したものだそうです。なぜまた突然規制開始の前日になって規制の一部を変更する発表を行ったのでしょうか。それまでは、みんな「夜中の0時きっかりで北京市内を通行できる車が切り替わる。それに違反したら罰金100元(約1,500円)を取られる。」と思っていたのです。それが証拠に7月19日付けの「新京報」では「今日は奇数番号の車は夜中の24時までにお家に帰ろう」と呼び掛ける記事を掲載していました。

(参考2)「新京報」2008年7月19日付け記事
「奇数番号車は今日は24時の前に必ず家に帰らなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-19/018@073151.htm

 この記事によると、北京市交通管理局の担当者が「19日は土曜日なので外出する人が多いと思うが、24時を過ぎると奇数番号車に対しては規制が掛かるので、奇数番号車を運転している人は必ず早めに家に帰らなければならない」と発言したことを引用して、読者に対して注意を喚起しています。

 よく考えてみると「規制期間中であっても、午前0時から3時の間は偶数・奇数両方の車両の通行を認める」というのは、至極当たり前の措置です。夜中の0時時点で北京市内を走行中の車に対して「今、午前0時を過ぎたから罰金」などと言うのは現実的ではないからです。かと言って、偶数番号車、奇数番号車は、それぞれ偶数日、奇数日の24時までに家に帰り着くようにせよ、というのだったら、毎日午前0時直後は、北京市内には車が全くない状態になることになります。1,700万人都市・北京でそんなことが現実にできるわけがありません。午前0時~3時までの3時間はどちらの車の通行も認めるので、規制が掛かる車は午前3時までに家に帰り着くように、ということならば現実的に対処は可能です。午前0時~3時の時間帯なら車の渋滞は関係ないし、この時間に走っている車の数はそれほど多くはないと思うので、この規制緩和をやっても大気汚染防止の効果にはそれほど影響は出ないと思います。

 こういった「当たり前の措置」がなぜ規制の前日まで発表されなかったのか、を考えると、以下の二つが考えられます。

(1) 北京市当局は、規則上は午前0時で規制を切り替える、ということにしているが、取り締まりの現場では午前3時頃までは、偶数奇数規制に違反している車でも「大目に見る」ことで対応しようと思っていた。

(2) 取り締まりを担当する現場の担当官や多くの市民は「0時きっかりに規制を切り替えるのは現実には無理だ」と考えていたが、誰もそれを口に出さず、規制を作った北京市の上層部は「この規則を厳格に適用すると現場で無理が生じる」という認識を持っていなかった(「新京報」の記事を見て、北京市上層部がこの規制に無理があることを始めて認識した。だから19日、北京市上層部の「鶴の一声」で急遽午前0時からの3時間については規制を緩和することを決定した)。

 もし(1)だとすると、北京市当局は規則を作っておきながら、そもそもその規則を規則通りには運用するつもりがなかった、ということになります。これは、法律や規則がありながら、現実にはその通りに規制されていない、という中国の実情を反映していますが、中国が「法治国家」ではなく、まだ、現場の取り締まり担当官の判断でいかようにもできる「人治国家」であることを世界中に示すことになってしまいます。まじめに規則を守ろうと考えていた北京市民はバカを見たことになります(こういうことはしょっちゅうで中国の人々は慣れているので、そもそも多くの北京市民は「規則を規則通りにまじめに守ろう」とは考えていなかった、と言った方が正しいのかもしれませんけど)。

 もし(2)だとすると、北京市当局の内部で現場の声が上層部に届くシステムができていない、新聞等も規制の問題点について何も指摘せず、中国では「社会を監視する」というマスコミが果たすべき役割を全く果たしてない、ということになります。

 中国では、憲法に「中国共産党による指導により政治を行う」という大原則が規定されており、これに反する報道をすることは「法律違反」となります。従って、新聞の記事等が「法律違反」にならないように、当局の「指導」がなされています。ただ、北京のローカル新聞ですと、例えば夜中の2時前に起きた火事がその日の朝刊に載ったりしていますので、たぶん全ての記事の「事前検閲」はやっていないと思います。問題のある記事が掲載された場合には、事後的に直ちに「指導」が入るというふうな「事後検閲システム」になっているのだと思います。重大な「法律違反」の記事が新聞に掲載された場合には、新聞は発刊停止に追い込まれ、重大な場合は記事を書いた記者や編集者が「国家転覆罪」に問われる場合もありますし、そうでなくても免職にされ、言論人としての生命を絶たれてしまう可能性もあります。そのため、言論人は、常に「どこまでは発言が許される範囲なのか」を意識しながら「自主規制」をしているのです。

 こういった「自主規制」が習い性となっているので、今回のような交通規制のあり方、といった政治には全く関係のない案件についても「当局が決めたことに対してコメントしたりしてはいけない」「ましては当局が決めたことに対して文句を言うなどとんでもない」という感覚が言論人の中に定着してしまっているのだと思います。

 ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制は、昨年(2007年)8月に4日間だけ試験的に実施されました。夜中の0時に偶数・奇数の規制を切り替える際に発生する問題点は、その時には認識されていたはずなのですが、どの新聞もそこに問題がある、というコメントをしませんでした。そして、今年(2008年)6月20日に発表された規制の規則では、午前0時の切り替え時の移行措置については何らの考慮もなされなかったのでした。

 何らかの措置を講じた時、それに対する「コメントを受ける」「文句を聞く」ということは将来の改善のために非常に重要です。一般ビジネスにおいては「お客からのクレームはビジネス改善のための大切な宝の山」と認識されており、「クレーム処理を大事にしない会社は伸びない」ことは常識とされています。中国において、政治問題の大原則に対して批判を許さない、という政策を取っていることに対しては、中国の内政問題ですので私はコメントしませんが、それをやることによって、政治とは全く関係ない「社会の便利さ・暮らし良さ」といった点に対しても「コメントする自由」「文句を言う自由」が実質上ない、というのは、社会全体の改善の観点から言ったら大きなマイナスだと思います。中国の関係者は「法律に違反しなければ、当局の施策に対して、コメントする自由も文句を言う自由もある」と反論すると思いますが、新聞等の報道機関が「自主規制」して「当局が決めたことに対してコメントや文句は言わない方がよい」と考えているのだったら、実質的に「コメントする自由」「文句を言う自由」はない、といっても差し支えないと思います。

 問題は、こういった感覚が、政府機関や会社などの中国の組織の中に深く浸透しているのではないか、ということです。即ち、トップが決めたことは、部下は唯々諾々とそれに従うのが賢い処世術であり、上司のやり方に対してコメントしたり文句を言ったりしないようにしている、という人が多いのだったら、それは中国の組織の発展を阻害することになると思います。はしなくも今回の車の偶数・奇数制限の問題で明らかになりましたが、(政治的な意味での言論の自由の問題は別に置いておくとしても)ごく一般的な意味で「自由にコメントし、自由に文句を言える雰囲気を作ること」が中国の今後の発展にとって非常に大事だと思いました。 

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