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2008年7月14日 (月)

時事ネタ・ジョークはどこまで許されるのか

 6月28日に起きた貴州省甕安県での暴動事件は、ある少女が川で死亡しているのが見つかり、警察は自殺だと断定したが、少女が死んだ現場にいた男友達の中に県や公安の幹部の息子がいて、本当は少女を乱暴して死に至らしめたものを警察が自殺だと決めつけたからではないか、と多くの民衆が疑ったことから発生したのでした。

(参考1)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 上記のブログの記事にも書きましたが、この事件について、貴州省の公安当局は、少女が死亡した時の状況について次のように説明しています。

○男女4人が夜に川の上の橋のところへ来て話をしていたところ、少女が「川に飛び込んで死ぬのはやめた」と言った。

○この少女の男友達が離れていった後、もう一人の男性が橋の上で腕立て伏せを始めたところ、少女が川へ飛び込んだ。

○急いで助けようとしたが助けられず、警察を呼んで少女を引き上げた時には既に少女は死亡していた。検死の結果、死亡の原因は溺死だった。乱暴された形跡は見つからなかった。

 この公安当局の発表を聞いて、多くのネットワーカーたちは、若い男女4人が夜に橋の上に行って話をしているうちにそれぞれがバラバラになった、という状況の下で、その中の男が突然「腕立て伏せを始めた」という状況がどう考えても不自然だと感じたのでした。「この説明では納得できない」「ウラに何かあるはずだ」として、インターネットの掲示板でこの件に関する議論が燃え上がったのでした。そして、「寝苦しい夜には腕立て伏せをしよう」といったような、皮肉を込めた言い方が流行し、「腕立て伏せ」という言葉は、あっという間に中国のネット上での「流行語」になったのでした。

 こうした状況を背景にして、南京市内のあるマンションの建設現場で、マンション販売会社が「マンション価格は水に飛び込むようなことになるはずはない。ただ、腕立て伏せをしているだけだ!」という大きな広告板を出しました。これは最近、不動産バブルがはじけ気味で、マンション価格が低落している地域があることを踏まえて、「マンション価格が急落することはありませんよ。今、少し価格が下がっていますが、またしばらくすると上がってきますよ(だから、心配しないでマンションを購入しましょう!)」とお客に訴える広告なのです。貴州省甕安県での事件を念頭において、「水に飛び込む」「腕立て伏せ」という今ネット上で流行っている言葉を使った一種のジョークです。

 客観的に言って、少女が死亡し多くの住民が暴動を起こした事件をジョークで茶化すことは極めて不謹慎で、ひんしゅくモノだと私も思いますが、今の中国で、こういった政治的背景がある時事ネタを使ったジョークがどこまで許されるのか、を計る上では、ユニークな例だと思います。この広告は、今のところ、当局から「ケシカラン」というおしかりは受けていないようです。この広告主は、不動産価格が不安定になっている現状に対して有効な手を打っていない政府の政策にひとこと物言いをしたかったのかもしれません。その意味では、この広告は、社会的には相当に不謹慎でひんしゅくモノだとは思いますが、政治的には、結構、辛辣な風刺も含んでいると思います。

(参考2)「現代快報」2008年7月9日付け記事
「『腕立て伏せ』がマンションの広告になる」
http://www.kuaibao.net/html/2008-07/09/content_64068671.htm

 今、私の住んでいるアパートメントでは、香港で制作され衛星を使って配信されている普通話(中国の標準語)の音楽専門チャンネル「チャンネルV」を見ることができます。去年の夏頃、このチャンネルで流れていたある音楽配信サイト運営会社のコマーシャルを見ていたら、アニメーションで若い労働者風の男女が集団でピンク色の旗を高く掲げたり拳を高く振りかざしながら行進している場面が出てきました。1950年代の社会主義の宣伝映画の場面のような雰囲気でした。そして、「為音楽服務」という文字が大きく出て、この音楽配信サイトの会社名がバーンと画面に出たのでした。「為人民服務」(人民のために奉仕する)というのは中国共産党の最も重要なキャッチ・フレーズなので、このコマーシャルを見て、私は大いに受けてしまいました。掲げているのが紅い旗ではなくて、ピンク色の旗なので、まぁ、これくらいのジョークは許されるのだろうなぁ、と思いながら見ていました。しかし、このコマーシャルは、この時1回だけ見ただけで、その後は一度も見ることはありませんでした。

 私個人としては、大いに「受けた」このコマーシャルですが、誰が見ても中国共産党のキャッチ・フレーズのパロディであることは明らかなので、「その筋」からおしかりを受けたのかもしれません。このチャンネルは制作されているのが香港なので、そういったCMを制作する表現の自由は保証されているはずなのですが、この衛星放送局は大陸に配信することが大きな収入源ですから、「その筋」からおこられたら従わざるを得ないのでしょう。このCMが二度と見られなくなってしまったことから、私は、やはり、中国共産党のパロディというのは、中国においては「許される範囲を超えたジョーク」なのかなぁ、と思ったのでした。

 「これを言ってはいけない」「こういう表現をしてはいけない」という規制を掛けると、人々はそれに触れない範囲で微妙な言い回しで婉曲な表現を使って、自分の言いたいことを表現するようになります。上記の貴州省での暴動についてのこのブログの記事にも書きましたが、「水は船を浮かべることができるが、水は船をひっくり返すこともできる」といった掲示板の発言は、これだけ見れば、表現禁止の内容には当たりませんが、周囲の状況を踏まえると、相当きわどいことを表現していることがわかります。従って、上で紹介したマンション販売会社の広告板は、社会的にはいささか不謹慎だとは思いますが、今の中国では、政策に対する風刺、という意味では、なかなかひねった傑作のひとつと言えるのかもしれません。

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