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2008年7月

2008年7月31日 (木)

開会式リハーサルと緊急追加規制の発表

 今日(2008年7月31日:オリンピック開幕まであと8日)の北京は、朝のうち霧で視界が悪かったのですが、お昼頃には薄日が差し、夕方から夜に掛けては雨が降る、という不安定な一日でした。気温が30度に届かず、気温的には過ごしやすい1日でした。今日(7月31日)の北京の大気汚染指数は69で、昨日予想したよりは若干よかったようです。朝は視界が悪かったのですが、「真っ白い視界の悪さ」だったので、これは汚染ではなく霧だったのでしょう(スモッグの場合は「真っ白」ではなく、やや茶色がかった感じがするので、何となくわかります)。

 昨夜、かなり強い雨が降り、今朝はやや気温が低かったので、たぶん昨晩寒冷前線が通過したのではないかと思います。「たぶん」と書いたのは、中国では、新聞やテレビの天気予報に高気圧や低気圧、前線などの天気図が登場しないので、「想像」するしかないのです。詳しくはよく知りませんが、気圧配置も気象情報のひとつなので、「国家機密」扱いになっており、基本的には公表しない、という方針なのだろうと私は思っています。

 昨日(7月30日)夜、オリンピック・スタジアム(通称「鳥の巣」)で、開会式のリハーサルがあったそうです。リハーサルをやる、という話を私は知りませんでした。今朝の新聞を見て始めて知りました。開会式のプログラムの秘密を保持するため、リハーサルをやるスケジュール等は公表していないようです。

 新聞では「彩排」とありましたので、いわゆる「ドレス・リハーサル(本番と同じ衣裳を付けて行う最終的なリハーサル)」だったようです。このリハーサルは開会式の入場券を持っている人やボランティアなど7万人が「観客」として参加しました。この参加人数で、「鳥の巣」の観客席は8割方埋まったのだそうです。大勢の人が参加するために、開会式の演目の内容が漏れる恐れがありましたが、撮影ができる機器は持ち込み禁止、見た内容は知人に対しても口外禁止、漏らした者は法律に基づき措置される、という「おふれ」が出ていたのだそうです。新聞記事によると、秘密を口外しない、といった契約のようなものは交わしていなかったのだそうで、いったい何の法律に基づいて「措置」されるのかは、よくわかりませんでした。開会式のプログラムの内容は、商業秘密でもないし、漏洩を処罰する法律などはないと思います。まさか「国家秘密保護法」を適用するわけにはいかないと思うのですが。

 このリハーサルについては、一部の外国メディアがリハーサルの内容を撮影して報道して、オリンピック委員会や中国国内の多くの人から非難を浴びているとのことです。興味本位の報道合戦もいいですが、興醒めなことはやらないで欲しいと思います。

 このリハーサルで、演目に関する秘密漏洩の恐れがあったにもかかわらず、大勢の観客を入れたのは、やはり観客の誘導等について「ぶっつけ本番」でやるわけにはいかない、と考えたからでしょう。私は、イベントが終わった後にお客を帰す足の確保が一番問題ではないかと心配していました。その点は、担当当局もわかっていたようで、昨日のリハーサルではバスをフル回転させて、約40分間で7万人以上の観客をスムーズに帰宅させることができた、とのことでした。

(参考1)「新京報」2008年7月31日付け記事
「オリンピック開会式ドレス・リハーサル、7万人が『人より先に見られて嬉しい』」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-31/018@073238.htm

 こういったリハーサルは結構入念に行っているようですので、観客の移動などでは問題は起きなさそうです。後はダフ屋とか「黒車」(無許可タクシー)とか「不法のやから」がどれだけ暗躍するかだと思います。オリンピック・スタジアム周辺は、相当に警備が厳重なので、こいった「不法のやから」も出現する余地はないのかもしれません。

 それより今日(7月31日)の新聞を見てびっくりしたのは、今後48時間以内に大気汚染の悪化が予想される場合には、これまで北京市内で実施している偶数・奇数のナンバープレート制限に加えて、緊急追加規制措置を講ずることとする、との発表があったことです。「緊急追加規制措置」の内容は以下のとおりです。

・北京市内では、偶数・奇数制限に加えて、ナンバープレートの下1桁の数字がその日の下1桁の数字と同じ車は通行を禁止する。

・天津市(北京市の南東側に隣接している)でも偶数奇数番号制限を実施する。天津市内の56の石炭火力発電所、石炭火力熱供給ステーション、建築材料、化学、機械電気のうち揮発性有機物や微粒子などの汚染物を放出する生産工程をストップさせる。

・河北省(北京の隣の省)では4つの都市(石家庄、保定、廊坊、唐山)において7時から22時まで奇数偶数交通規制を実施する。その上、これら4都市の61の揮発性有機物や微粒子、悪臭などを放出する企業を一時的に操業停止にする。また、張家口、承徳、石家庄、唐山等の小規模鉄鋼工場において大幅な減産を行う。大型鉄鋼工場においては、状況を見て減産を行う。

(参考2)「新京報」2008年7月31日付け記事
「今後2日間大気汚染指数が基準を超えそうになったら、自動車の運行をさらに10%制限」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-31/018@072119.htm

 北京市以外で車の偶数奇数規制を行う、という話は私は始めて聞いた話です。天津市や河北省の人たちはこういうことがあり得る、ということは知っていたのでしょうか。おそらく北京市における車の規制による大気汚染の改善が思っていたほどに効果が上がらないので、「奥の手」を出してきたのでしょう。天津市や河北省の人にとっては「寝耳に水」の話だと思います。オリンピック開始の一週間前になって、こういう措置をやる、と急に発表する、というのは、いくら中国だとは言っても、ちょっと乱暴な気がします。一昨日の記者会見では、北京市環境保護局の担当副局長は「汚染物質は確実に減少しており、追加的措置は必要ない。」と言っていたばっかりでした。この緊急措置の発表は、たぶん、北京市の責任範囲を超えた国レベルの「上の方」からの指示なのでしょう。

 汚染を出す工場を一時的に停止する、とひとことで言っていますが、これは社会的影響はかなり大きいと思います。発電所や鉄鋼工場は、経済を支える部門ですから、経済活動全般に影響を与える可能性もあります。かなり市場経済化が進んで来たとは言え、中国ではまだまだ国有企業が多いので、こういった「中央政府の指示で工場を停止する」ことが、法律の根拠がなくてもできてしまうのだな、と改めて感じました。こういうふうに、市場原理とは全く別の世界で、政府の命令でコストを背負い込まされることがあり得ることが、国有企業になかなかコスト意識が育たない原因なのだと思います。

 これらの措置を講じて、北京の大気汚染がどれだけ改善するのかはわかりません。オリンピックのためにあまり無理なことを強制すると反発が出るのではないかと心配になります。北京の交通規制だけで、既に相当に無理をしているのですから、これ以上の無理はせずに、ある程度の大気汚染があったらあったなりで、オリンピックを運営した方がよいのではないかと思います。「無理」を重ねるごとに中国の人々自身が「オリンピックを楽しむ」という気分からは遠のいていってしまうように思えるからです。

 北京に来る外国人の数が以前に予想したほどには多くないようですので、少なくとも中国の人たちにとっては楽しめるオリンピックであって欲しいと思います。

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2008年7月30日 (水)

北京オリンピック会場では横断幕は禁止

 ここのところ夏休みの宿題の日記のように、毎日「今日の北京の天気は・・・」と書いていますので、今日もそこからスタートしましょう。今日(2008年7月30日:オリンピック開幕まであと9日)の北京は、曇りで、朝方は空気が比較的きれいだったのですが、午前10時頃からだんだんかすんだ感じが強くなり、午後には視界が2km程度の「いつもの白い空気」に戻りました。昨日の午前中の雨で空気がきれいになりましたが、雨による空気の清浄効果は24時間は保たないようです。車の数は確かに偶数奇数規制により数割程度は減っていると思うし、工場の操業停止などもやっていると思うので、雨が降っても復活してしまうこの大気汚染の元は、いったいどこから来るのでしょうか。天津市や河北省から流れてくるのでしょうか。

 今日(7月30日)の北京の大気汚染指数は43の「優」でした。大気汚染指数は前日のお昼の12時から当日のお昼の12時までの24時間の観測値の平均値なので、確かに昨日(29日)の午前中に降った雨の影響で、昨日の午後から夜に掛けてと、今日(30日)の明け方までは空気はきれいだったので、今日の汚染指数が43だったのはそれなりに納得できます。今日(30日)は午後から汚染が戻ってきたので、明日(31日)の大気汚染指数は(夜の間と明日の午前中の状況次第ですが)70~80といった程度になるのではないかと思います。「基準」では「100以下は青空」と定義されていますが、汚染係数が80程度の日は「スッキリ晴れた」というイメージではありません。どうやら、こんな状態のまま、オリンピックが始まりそうです。オリンピックが始まれば、毎日北京からの中継を日本の方も見ることになると思うので、どんな感じかは日本の方々も毎日テレビの画面で確認できることになるでしょう。

 さて、既に日本でも報道されているとおり、今回の北京オリンピックでは、ただ観戦するだけでもいろいろな規制があって結構やっかいです。警備上の都合や安全の確保のためのものもあるのですが、政治的な「もめごと」を避けるための規制もあります。観戦会場にビンや缶類を持って入ってはいけない、といった類のものは、安全上の配慮から納得できますが、「横断幕は一切禁止」というのは、ちょっと違和感があります。

 「新京報」などでは、この観戦ルールが発表された時、「中国がんばれ!」(中国語で「中国、加油!」)といった横断幕もダメだそうです、などと表現して、暗に「規制のし過ぎ」について批判したように読める文章の記事を掲載していました。観戦ルールを作った担当者によると「オリンピックは国際大会なので『中国、加油!』などと横断幕に書いても世界の人にはわからず『世界は一つの大家族だ』という雰囲気を壊してしまうので、ダメなのだ。」といったわかったようなわからないような理屈で、横断幕がダメな理由を説明していました。

(参考1)「新京報」2008年7月23日付け記事
「『中国がんばれ!』の横断幕も試合会場には持ち込み禁止」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-23/039@073857.htm

 要するに、外国語で政治的なスローガンの横断幕を掲げる人が出た場合、それを取り締まることが難しいため、一律に何が書いてあっても横断幕は禁止、ということにしたのだと思います。「環境を保護しよう」とか「動物愛護!」とかいう横断幕もダメなのだそうです。素直に応援したいと思っている観客とそれを認めない管理者との間でもめごとが起きないとよいがなぁ、と私は思っています。一般の中国の人の感覚からすると、応援したい中国の選手の名前を書いた横断幕や「中国がんばれ!」と書いた「愛国的な」横断幕がなぜダメなんだ、と感じるだろうと思うからです。

 一方で、当局から、市内の3つの公園(世界公園、紫竹院公園、日壇公園)を「デモ許可区域」として指定し、そこではデモをやってもよろしい、という発表がありました。この発表の真意についてはいろいろな憶測が流れているようです。法律に基づき「デモ許可区域」の公園でもデモをやるためには事前許可が必要ですので、「デモ許可公園の設置」は、むしろ「これらの公園以外ではデモは一切禁止である」ことを明示するためのものだ、という解釈をする人もいます。限定された公園の中だけで、それなりに批判的なデモも認めて、外国メディアに対して「ほら、こういったデモも認められていますよ。」とアピールするためのものだ、と考える人もいます。

(参考2)「財経網」2008年7月23日16:07アップ記事
「オリンピック期間中、北京で三か所のデモ地点を開設」
http://magazine.caijing.com.cn/20080723/76050.shtml

 いずれにせよ、「デモ行進」というものは、「街行く人に自分たちの主張をアピールするためのも」ですから、閉じられた公園の中でデモをやっても、デモを主催する側としては単なる自己満足にしかなりません。「閉じられた公園の中でデモをやりたい」と思う人がいるのかどうかわかりません。「これだけのデモを許可している」ことを外国の報道陣に見せるための官製の「やらせデモ」があるのではないか、と見る人もいますが、どうなるかはわかりません。いずれにせよ、この「デモ許可公園」をした当局側の意図は、私にはよくわかりません。

 いろいろな面で、今回の北京オリンピックは、「世界標準」と違うところがあるので、それが原因でもめごとが起こらなければよいなぁ、と思っています。特に、私としては、オリンピック期間中、中国の法律をよく知らない外国の人が、許可なくプラカードや横断幕や旗を持って街を歩いて、中国の公安当局とトラブルを起こさないとよいがなぁ、とちょっと心配しています。

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2008年7月29日 (火)

北京の大気汚染指数は「作って」はいない

 今日(2008年7月29日:オリンピック開幕まであと10日)の北京は、午前中に雷雨があり、午後から晴れてきましたので、空気がだいぶきれいになりました。午後、太陽が出てきた時には、太陽がまぶしくて肉眼では直視できない程度にはなっていました。(とは言え、雨が降った後でも、何となくぼんやりかすんだ感じで、私が先週、東京で見たスカッとした夏の青空とはやはり違う感じでした)。

 ここ数日間スモッグがかなりひどかったことについては、多くの北京市民も「交通規制については、オリンピックだからしかたがない、と思って不便な思いを我慢しているのに、どうなっているんだ」という不満が募っていたようです。今朝の中央電視台の朝のニュース「新聞天下」では、こういった一般市民の不満をなだめるように、気象の専門家は、オリンピック期間中は「サウナ・スモッグ」が持続するようなことはないと言っている、というニュースを伝えていました(「サウナ」は中国語では「桑拿」(音訳))。

(参考1)中国中央電視台ホームページ2008年7月29日「新聞天下」のニュース
「北京ではオリンピック期間中に『サウナ・スモッグ』が持続することはあり得ない」
http://news.cctv.com/china/20080729/100279.shtml

 ただ、逆に言うと、このテレビのニュースは、多くの人が、ここ数日間の北京の天気を「サウナ・スモッグ」だと思っていた、ということを表していると思います。オリンピック期間になったら「サウナ・スモッグ」が持続しない理由として、このニュースでは、8月7日が立秋であり、北京では立秋以降は毎年爽快な日が多くなるから、という説明をしていました(あんまり説得力のある説明ではないと思いますが)。

 また、今日の「新京報」では、こういった一般市民の気持ちを代弁してだと思うのですが、北京市環境保護局副局長で同局スポークスマンの杜少中氏への単独インタビュー記事を載せていました。

(参考2)「新京報」2008年7月29日付け記事
紙面上の見出し「北京の大気汚染指数は『作られた』ということはない」
ネット上での見出し「大気汚染は健康に影響を与えるものではない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-29/039@073737.htm

 杜少中副局長が言っていることの中心は「今年の7月は去年の7月よりは北京の大気汚染の状態は良くなっている」「7月下旬はたまたま汚染物質が拡散しにくい不利な気象条件になっているだけ」「大気汚染の程度は視界が悪いことだけではなく科学的データに基づいて判断して欲しい」といった今まで何回も記者会見で述べてきたことの繰り返しでした。ただ、新しい点として、次の二つを言っていました。

・7月28日は汚染指数が96で100を下回っており、29日は雨が降る予報が出ているので、改善の兆しがある(実際、29日には雨が降って、大気汚染はかなり改善しました)。

・(「新京報」の記者が「一部の外国メディアが、大気汚染指数100前後の日では、100という境界線をちょっと下回る日が不自然に多く、汚染指数が一定の値を越えた日の数が『修正』されているのではないか、と疑問を投げかけているが、これについてどう考えているのか、と問うたのに対し)北京では科学的事実をもって大気汚染問題に対処しているのであり、「虚偽をもてあそぶ」といった不誠実な言葉を使うことは、自分で自分のボロを出すのと同じである。

 日本のメディアの報道によると、杜少中副局長は7月10日の記者会見で「汚染指数が100を越えそうな日は、観測点周辺で(工場を停止するなどの)応急措置を取る」と答えています。確かにデータをねつ造しているわけではないのですが、この発言を捉えて日本のメディアは「大気汚染指数が基準内だった日の日数を人為的に操作」といった表現で報じたわけです。上記の「新京報」の記事の紙面上での見出しは「汚染指数は作られたわけではない」(中国語で「北京空気汚染指数不存在作假」)となっています。汚染指数が基準値を超えそうな時は、観測点周辺の工場の操業を停止するなどの措置は、「ニセのデータを作る」ことではないので、杜少中副局長の発言は確かに「ウソ」ではありませんが、中国語独特の修辞術を使った「ごまかし」であると言われても仕方がないと思います。紙面で使われた「不存在作假」という見出しがネット記事の報では削除されてしまったのは、こういった「ごまかし」があからさまにならにように、との配慮によるものと思われます。

 通常、中国のスポークスマンは「ウソ」は言いませんが、外国メディアに対する時と中国のメディアに対する時とで微妙に言い回しを変えることがあります。中国のメディアは「党の舌と喉」ですから、スポークスマンが言わんとすること(あるいは言いたくないこと)を忖度(そんたく)して、ウソにならない範囲で記事を作ります。そのため、同じスポークスマンの発言でも、外国メディアと中国のメディアとでは、ほとんど正反対の印象を読者に与えることがあります。「新京報」の記者は、中国の他のメディアでは取り上げていない「大気汚染指数を操作しているのではないかとの疑惑」をあえて取り上げ、そこを突っ込んで質問した、という点で評価されるべきなのでしょう。「新京報」の記者に「汚染が基準を超えそうになったときに、緊急に観測点周辺の工場の操業を停止させるのは『大気汚染指数の基準を超える日の数を操作している』と言われても仕方がないのではないのか。」と質問することまで期待することは、今の中国では無理なのでしょう。

 中国側がオリンピックのために一生懸命大気汚染改善のために努力をしているのに、西側のメディア(私のこのブログも含めてですが)が盛んに北京の大気汚染がオリンピックに影響を与えるのではないか、との憂慮を表す記事を書くので、新華社通信は相当頭に来たらしく、以下のような論評を配信しました。
 
(参考3)「新華社」ホームページ2008年7月28日13:02アップ論評
「マスクをしてオリンピックに参加する、というのは誇張のし過ぎ」(言立侖)
http://news.xinhuanet.com/comments/2008-07/28/content_8834302.htm

 この論評では、北京の大気汚染は10年前より相当に改善しており、今回のオリンピックに対しては北京市民が交通規制など大変な犠牲を払いながら大気汚染の改善を図っているのに、西側メディアは意図的に事実を歪曲して報道している、「選手はマスクをしてオリンピック競技に参加した方がよい」といった表現は誇張のし過ぎ、と指摘しています。北京の大気汚染が昔より改善していることも、多くの北京市民が犠牲を強いられていることも事実ですが、「西側メディアが歪曲報道をしている」という表現は相当に刺激的な論評です。まるで、外国で聖火リレーをやっていた時の「西側報道タタキ」を連想させるような言い回しです。中国のメディアではこういうような報道しかしないので、多くの中国の人々は「西側メディアは中国のことを正しく伝えていない」「世界は中国のことを間違って理解している」と思ってしまうのです。

 北京市環境保護局の「大気汚染指数が基準値を超える日の日数を少なくしようとして行った人為的操作」についての報道を「虚偽をもてあそぶ」と表現することが「正しい報道」であり、実際に肉眼で太陽が凝視できてしまうような白い空気の中でマラソンをすることが心配だ、と報じるのは「事実を歪曲した報道」である、といった認識を、もし中国の関係者の多くが持っているのだとしたら、私はいつまでたっても中国は世界の仲間には入れないと思います。

 北京の大気汚染指数は、昨日(7月28日)は96、今日(29日)は90でしたが、国家環境保護部のホームページでは、昨日の分の指数がずっと発表になりませんでした。普通は、毎日午後2時頃には発表になるのですが、今日の午後になって今日の分が発表になるまで、昨日の大気汚染指数は国家環境保護部のホームページでは見ることができませんでした。このホームページでは過去の大気汚染指数も検索できるので、今日の指数が発表になった後で、昨日の分を検索したら96だということがわかりました。システムのトラブルで昨日の時点でアップできかなかったのか、それとも意図的にアップしなかったのか、については不明です。

 中国では、大気汚染データの測定をはじめ、気象観測データの測定を行うには関係当局の許可が要りますので、外国の報道機関や研究者が勝手に大気汚染の観測を行うことは認められていません(気象観測データは「国家秘密」の扱いになっているためです)。ですから、国家環境保護部の観測データ自体が正しいのかどうか、誰もクロスチェックできないのも、外国の人からすると、何となく「ふに落ちない」ところです。せめてオリンピック期間中だけでも、外国の研究者は大気汚染観測を自由にやってよい、といったような措置を採ってくれれば、かなり信用の回復には効果があったと思うんですけどね。

 北京オリンピックは、こうした中国で現実に行われている様々なこと世界の面前にさらけ出した、という意味では、非常に意味のあるイベントだと思います。

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2008年7月28日 (月)

中国経済は既に「オリンピック後」に突入

 オリンピックまであと11日にせまり「いよいよ」の感じが強まってきています。オリンピック直前になったのに、まだ「きれいな青空」が出現しないのが気になりますが、中国政府にとっては「オリンピック後」の経済等の急激な落ち込みが気になるところです。

 今日(7月28日)、新華社通信は、最近、党中央と政府が相次いで最近の経済情勢に関する会議を開催したことを伝えています。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年7月28日
「中国共産党中央、目下の経済情勢を深く検討~科学的発展の堅持は揺るぎだにしない~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/28/content_8783721.htm

 この記事によると、7月8日~11日に、中国政府の国務院は連続して3つの経済情勢に関する検討会を開催した、とのことです。一つ目は7月8日に開催した地方の責任者からの報告と意見を聞く討論会、二つ目は7月10日に開かれた経済学の専門家によるマクロ経済情勢に関する検討会、三つ目は7月11日に開催された専門家による金融及び不動産情勢に関する検討会です。

 これらの会議で、温家宝総理は、厳しさを増す国際的な経済情勢と甚大な自然災害によっても中国の経済発展のファンダメンタルズ(基本的な状況)は変わらない、としながらも、体制上・構造上の矛盾は依然として存在しており、インフレ圧力が大きくなっている等の新しい問題が生じている、と指摘しています。

 引き続いて7月15日と16日の二日間、半日づつかけて温家宝総理は、国務院常務会議を開き、2008年上半期の経済情勢の分析と下半期の経済政策について議論を行った、とのことで、この席で、温家宝総理は次のように強調したとのことです。

・直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め、各項目の業務をしっかり行う自信を持たなければならない。
・中国は、今、戦略的に重要な時期に直面している、という認識は変えてはならない。
・企業の競争力と活力を絶え間なく向上させ、市場の変化に対応する能力を増強しなければならない。
・マクロ経済の調整能力は実践の中でこそ、さらなる改善と向上が図られるのである。
・2008年下半期における経済政策においては、安定的で比較的スピードのある経済発展を保持するとともに、マクロ経済調整のために最初にやるべき任務として物価の急激な上昇を抑制させ、真っ先に取り組むべき課題としてインフレを抑制することを位置付けなければならない。

 これらの発言は、株価の暴落や不動産価格の低迷によって多くの投資家たちが政府によるマクロ経済調整政策(景気の引き締め政策)に批判的になっているのに対して、温家宝総理は、今はインフレ懸念がありマクロ経済調整政策の基調は今後も継続させると宣言した、と取ってよいと思います。

 これらの会議と相前後して、この7月は、実に多くの国家指導者たちが、沿岸部等の中国経済の「機関車」となっている地区を相次いで訪問しています。列記すると以下のとおりです。

・陳徳銘商務部長:7月第1週、浙江省(温州、台州等)
・温家宝総理:7月4日~の6日、江蘇省蘇州、上海
・習近平政治局常務委員:7月4日~5日、広東省(深セン、東莞)
※この訪問は香港訪問の途上に行ったもの
・王岐山副総理:7月3日~5日、山東省(烟台、威海)
・李克強政治局常務委員・副総理:7月6日~8日、浙江省(温州、杭州等)
・呉邦国政治局常務委員・全国人民代表大会常務委員会委員長:7月7日~10日、内モンゴル自治区(フルンベル、満州里、オルドス、フフホト等)
・温家宝総理:7月19日~20日:広東省(広州、東莞、深セン)
・胡錦濤主席:7月20日、山東省青島
・賈慶林政治局常務委員・全国政治協商会議主席:7月21日~23日:天津

 これだけそうそうたるメンバーの国家指導者の方々がほぼ時期を同じくして各地を視察するのは極めて異例のことだと思います。行き先は呉邦国氏が行った内モンゴル自治区以外は、全て沿岸部の輸出型製造業の中心となっている地域です。オリンピックやオリンピックに対するテロへの警戒が話題になっていますが、現実世界の問題としては、中国経済が今曲がり角に来ていることの方が重要だと私は思います。

 2008年前半は、中国経済は人民元レートの上昇(ドル安と表裏一体の現象ですが)、原油価格の急騰による原材料コストの上昇、労働契約法の施行(2008年1月1日)に伴う労働コストの上昇、安全性の問題に対する各国からの懸念等が重なって、中国の輸出産業には大きなブレーキが掛かったことが上記の国家指導者の沿岸地域での視察に繋がっていると思います。上に述べたように温家宝総理がその講話の中で「直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め」といった緊迫感を持った表現を使っていることからも国家指導者の中国輸出産業に対する危機意識が窺えると思います。

 7月17日に発表された国家統計局の数字によると、2008年上半期の中国経済は、GDPは対前年比10.4%の伸びを示しましたが、その伸び率は前年を1.8ポイント下回った、とのことです。また、2008年上半期の輸出額は6,666億ドル、対前年同時期比21.9%の増でしたが、この伸び率は前年に比べて5.7ポイント下落しているとのことです(輸入額は5,676億ドル、対前年同時期比30.6%の増で、逆に伸び率は前年を12.4ポイント上回った)。安い労働力による労働集約型輸出産業に頼って急成長してきた中国経済が、今、曲がり角に来ていることは間違いないと思います。

 それに加えて、昨年秋にピークに達した後、ピーク時の半分以下に落ち込んでしまった株価や昨年暮頃から見え始めていたマンション等の不動産販売の低迷が「株や不動産に投資していた金持ち層が消費を手控える」という形で実態経済にも影響し始めているのではないかと思われます。今年1月の寒波・大雪被害や5月の四川大地震は、自然災害としての被害は甚大でしたが、大きな中国経済全体から見れば、経済の基本を動揺させるほどのものではないとは見られています。しかし、特に四川大地震については、無駄な出費を控えるという形で、心理的な消費抑制効果の面で中国経済に影響を与えている可能性があります。

 最後の追い打ちが「期待していたオリンピック景気が実際はそれほどでもないらしい。」ということを多くの人が感じるようになったことだと思います。北京市内のホテルは、かなり高めの価格設定をしたこともあり、一部の高級ホテルを除いて、まだかなり予約が入っていないところが多いようです。7月11日の時点で北京市旅遊局の熊玉梅副局長が述べたところによると、この時点でオリンピック期間中の5つ星級ホテルの予約率は78%、四つ星級ホテルは48.5%、三つ星級、二つ星級でも予約が入っているのは半分以下だ、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック期間中のホテルの宿泊代は最高で4倍近くに高騰」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025743.htm

 前々からオリンピックが終わった後は「オリンピック・バブル」が崩壊する、といった心配はなされてきましたが、それが現実のものになりそうな気配があることと、それに加えて中国経済の根本を支えている輸出産業にかげりが見え始めてきたことに対して、党と政府の指導者の方々はかなりの危機意識を持っているようです。上記のような国家指導者による輸出産業地域の視察と相次ぐ会議を踏まえ、(参考1)に掲げた新華社の記事によれば、まず7月21日に胡錦濤総書記は中国共産党以外の民主党派の幹部や無党派の知識人を招いた会議を開いて検討会が開催されたとのことです。胡錦濤総書記・国家主席は、この席で、次の6つのポイントを指摘したとのことです。

(1) 安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること。そのためには内需を拡大するとともに、対外貿易を安定的に発展させて、国際及び国内の両方の市場を十分に活用すること。

(2) 物価上昇のスピードを抑制すること。経済的な政策と法律による行政手段の両方を使って、供給量を増加させ、不合理な需要を抑制すること。特に食糧・食糧油・肉・野菜等の生活必需品の生産の増強に努めるとともに、市場の監視・監督を強化すること。

(3) 農業生産を着実に発展させること。品種のバランスに注意しながら、穀物の安定的な増産に努力すること。さらに一歩農業優遇政策を進めて、農業に対する補助金制度を強化し、農業生産コスト削減のための政策を採り、食糧生産農民の意欲を維持すること。

(4) 経済発展方式の転換を図ること。産業構造を変化させ、科学技術の進歩とイノベーションを積極的に推進し、全力で省エネ・汚染物質排出削減を図ること。

(5) 改革開放政策を継続すること。資本市場体系の整備を急ぎ、行政管理体制改革をより前に進め、対外開放を拡大すること。

(6) 人民生活を保障する業務を誠心誠意行うこと。地震災害に対する救援・復旧作業をしっかり行い、困窮する大衆と大学卒業生の就業対策をしっかり進め(注)、自然災害被災地区の労働者に就業機会を与えること。特に物価の上昇が低収入の大衆の生活レベルに影響していることに関心を払い、財政支出をもって人民生活を支え、低収入の大衆の生活レベルがこれ以上低下しないように努力すること。

(注)中国では2000年代初頭から大学生の数が急速に伸びたのに対し、中国の多くの企業は低賃金労働者を大量に雇用する経営形態から脱しておらず、大学卒業以上の高学歴者に対する求人はあまり多くないのが実態です。高学歴化は進んだのに、産業構造の変化がそれに追い付いていない、という人材の需給の面でのミスマッチが中国では問題になっているのです。

 これらの胡錦濤主席の指摘は、そのまま現在直面している問題点のポイントを突いていると思います。

 こういった認識に基づき、胡錦濤総書記は、7月25日、中国共産党中央政治局会議を開き、上記の認識に基づく現在の経済政策と今後の経済政策についての議論が行われました。そしてこの会議でこの10月に第17期中国共産党中央委員会第三回全体会議(第17期三中全会)を開いて、農村改革問題について検討を進めることが決められました。

 今年は、1978年にトウ小平氏が、それまでの「文化大革命」路線から大きく舵を切って改革開放路線を始めてから30年目に当たります。改革開放路線への転換を決めた会議が第11期三中全会だったのですが、この10月に開催が決まった第17期の三中全会も重要な会議になりそうです。オリンピックが終わったのを受けて、オリンピック後の次のステップの中国の歩むべき道を議論する会議になるだろうと思われるからです。

 中国経済が曲がり角を迎えた今、新しい時代を乗り切るには科学技術の面での「創新」(「より新しいもの・システム・制度を作る」という意味で技術的な「イノベーション」よりも幅の広い言葉)が必要である、という点について、最近、人民日報でもいくつかの論評が掲載されました。この点については、このブログに書かれていることと重複する部分もありますが、下記のページも御参照ください(下記の文章を書いたのはこのブログの筆者です)。

(参考3)科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター
「JST北京事務所快報:2008年第7号」(2008年7月23日)
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://crds.jst.go.jp/CRC/newsflash/beijing/b080723.html

 今、世界のトップ・アスリートたちは、本番のオリンピックへ向けて、集中力を高めつつある時期だと思いますが、中国経済の実態と、それにうまく対処しようと考えている中国の国家指導者の方々の頭の中は、既に「オリンピック後」へ向けて始動し始めているようです。

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2008年7月27日 (日)

北京で追加的な交通規制を実施

 今日(7月27日)、オリンピック村の開村式がありました。まず中国選手団が入村し、日本選手団の一部も既にオリンピック村へ入ったとのことです。といったふうに、そろそろ「オリンピック直前」になりつつあるのですが、今日(7月27日)も北京は白い「かすみ」が掛かったような状態で、曇ってはいないのですが空が白い状態です。視界は700~800メートルといったところでしょうか。国家環境保護部の発表によると、今日の北京の大気汚染指数は113で、これで4日連続で「軽微汚染」になってしましいました。

 一昨日、このブログに車の偶数・奇数制限が始まったのに、車の量はあまり減っていないし、大気汚染もあまり良くなっていない、と書きました。

(参考1)このブログの2008年7月25日付け記事
「変わっていない!車の数も大気汚染も」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_5363.html

 こういった私の印象は、北京の一般市民も持っているようで、今日(7月27日)付けの北京の大衆紙「新京報」には、当局関係者の「言い訳」のようなものが載っていました。特に「車の量があまり減っていない」ことに関しては、北京市当局もさらなる対策を講じるとのことです。北京市内の交通規制は、大気汚染対策と観光客が渋滞に巻き込まれないようにするための対策だったのですが、市内の幹線道路のひとつである第二環状路(片道3車線)では、1車線の「オリンピック関係者用専用レーン」を設けたところ、先週(7月21日(月)からの週)、ナンバープレート偶数奇数の規制を始めたのに、今までと同じような渋滞が起きてしまいました。このため、北京市交通管理局では、第二環状路については、偶数奇数制限に加えて、随時、入り口を閉鎖して、車を入れない措置を新たに講ずることになった、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月27日付け記事(1面トップ記事)
「第二環状路、渋滞したときは入り口を閉鎖」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/07-27/011@072344.htm

 北京市交通管理局の当局者は、7月20日からナンバープレートの偶数・奇数の規制を始めたのに交通量があまり減らず第二環状路で相変わらず渋滞が起きていることについて、以下の4つの原因があるのではないか、と推測しています。

(1) オリンピック車両専用レーンを設けたことにより一車線少なくなったこと。

(2) 過去にも国際イベントで交通規制を行ったことがあるが、多くは週末であったが、今回は平日の通常勤務時間帯も規制を行っていること。

(3) 偶数・奇数制限の期間が長い(2か月間)ことから、普段は2日に分けて行う業務を1日で済ませてしまおうと考える人が多く、結果的に1台の車が街へ出る回数が通常より多くなってしまったと考えられること。

(4) 第二環状路は、沿線にいろいろな機能を持った機関が集まっていて便利なことから、規制を始める前よりもかえって、あまり移動せずにいろいろな用が足せる第二環状路周辺地区に車が集まってしまったこと。

 渋滞が発生しそうな時には第二環状路への乗り入れ制限が行われる、となると、今度は第三環状路など、別の場所で渋滞が発生しそうです。渋滞が発生すると、それだけ自動車の排ガスの量は増えますので、結局のところ、オリンピックのための大気汚染対策として実施した車の偶数・奇数制限は、予想していたほどには効果が上がらないのかもしれません。

 車の数が減らないことと直接的に関係しているのかどうかはわかりませんが、ここ数日間、大気汚染係数が101以上の「軽微汚染」の日が続いています。北京のビル群を遠くから眺めれば、大気がかすんで視界が悪くなっているのは誰の目にも明らかです。このブログの昨日の記事にも載せましたが、7月25日に撮影した下の写真などを見ていただければ、雰囲気がわかると思います。

(参考3)北京地下鉄空港線から見た空港高速道路料金所(2008年7月25日撮影)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kosokuryoukinjo.jpg

 これについて、北京市環境保護局副局長で同局スポークスマンの杜少中氏が説明をしています。

(参考4)「新京報」2008年7月27日付け記事
「景色がぼやけて見えるのは、大気汚染の状態が良くないことを表しているわけではない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-27/011@075458.htm

 杜少中氏は「浴室の中では近くものでもよく見えないが、だからといって浴室の空気が汚染されているわけではない。」という例示を示して、視界を左右しているのは水蒸気であって、汚染物質そのものではないことを強調しています。核となる微粒子が空気中に存在し、そこで湿度が高くなると微粒子の回りに水分が凝集することによって視界が悪くなるのであって、大気汚染物質があっても湿度があまり高くなければ視界は悪くならないし、汚染物質が少なくても、湿度が過度に高いと視界が悪くなることは事実です(実際、大気中に汚染物質がなくても自然現象としての霧は発生します)。ただ、大気中に汚染物質がなければ、空気中の湿度が高くても水蒸気として凝集する可能性が少なくなるので、大気中の汚染物質の量が多い方が視界が悪くなる確率が高くなることは間違いないと思います。

 杜少中氏は、ここ数日の北京は、気温が高い、湿度が高い、風が弱くて汚染物質が拡散しにくい、という大気汚染にとって不利な気象条件が重なっているが、汚染の原因となる物質は明らかに減少してきている、と指摘しています。ただ、北京市環境保護局のスポークスマンが記者会見でこういう「言い訳」のような説明をしているということ自体、北京市民の間に「交通規制により自分たちは不便な思いをしているが、大気汚染は全然改善していないじゃないか。」という不満があることを示していると思います。

 この北京市環境保護局の杜少中副局長は、7月10日の記者会見で、過去の北京の大気汚染指数のデータをグラフにすると「軽微汚染」か「良」かの境目となる100より少し汚染指数が高い日の数が極端に少ないことについて質問された際、「汚染指数が基準をわずかに上回りそうな時は、観測点周辺で応急措置を取る」と答え、「軽微汚染」になる日を少なくするための「操作」をしていることを認めた人です。従って、私としては、杜少中副局長の説明を聞いても、素直には納得できない気持ちです。

(参考5)このブログの2008年7月11日付け記事
「2008年上半期の北京の大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/2008_d352.html

 なお、北京の大気汚染指数を減らすために「操作」が行われていることを杜少中副局長が認めた、という件については、日本では報道されていましたが、中国の新聞等で報道されているのは、少なくとも私は見ていません。

 今日(7月27日)、一部の日本選手団が北京へ来てオリンピック村に入りましたので、その日本選手団が今日の北京の空気を見てどのような感想を言うのか、については、日本でも報道されると思います。「視界が悪いのは水蒸気のせいであって必ずしも大気汚染がひどいことを表しているわけではない」というのは、間違いではないと思うのですが、日本では、この北京のような「晴れているけれども視界が悪い」という天候はあまりないので、日本選手団は、おそらくは「やはり空気が悪いなぁ」という印象を持ったと思います(今日、北京入りした競泳選手団は29日に韓国へ移動して最後の調整を行うとのことです)。

 天気予報では、明日(7月28日)夕方には雷雨が降るかもしれない、と言っていますので、雷雨によって汚染物質が流されて、北京でもスッキリとした青空が広がることを期待したいと思います。

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2008年7月26日 (土)

北京地下鉄空港線に乗ってみました

 昨日(7月25日)、北京空港から市内まで、7月19日に開通したばかりの北京地下鉄空港線(北京首都空港鉄道)に乗ってみました。

 北京地下鉄空港線は、通常の鉄の線路の上を走り、電源は第三軌道から取ります(パンタグラフからではなく軌道脇の第三のレールから電源を取る方式:東京の地下鉄でいうと東京メトロの銀座線と丸ノ内線と同じ形式)。車輪で車体を支えていますが、2本のレールの真ん中に金属板が設置されているリニア・モーターカーです(この方式は東京の地下鉄でいうと都営地下鉄の大江戸線と同じ形式)。4両編成で、車内は向かい合わせの座席が着いているモダンなデザインです。運転士のいない自動運転で運行を行っています。

 北京首都空港は、北京市市街地の北東にありますが、この空港線の路線は、北京市内の第二環状路の下を通っている地下鉄2号線の東北部にある「東直門駅」を乗り換え駅としてこの駅を出発点とし、第三環状路付近を通っているこれも7月19日に開通したばかりの地下鉄10号線との乗換駅である「三元橋駅」に停車し、その後は地上に出て北京空港へ向かいます。まず、国際線や一部国内線が発着する世界最大級といわれる巨大な「第3ターミナル駅」(これは地上にあります)に到着します。その後、進行方向を変えて(後ろ向きに出発し)、「第1・第2ターミナル駅」(これは地下にあります)へ向かいます。第1ターミナルは最も古いターミナルで一部の国内線が運航しています。第2ターミナルは、この3月まで国際線などが使っていたターミナルです(今は一部の国内線のみが使っています)。第1ターミナルと第2ターミナルは比較的近いので、地下鉄空港線の駅は共通でひとつの駅を使っています。

※第3ターミナルはほとんどの国際線(日本航空と全日空を含む)と一部の国内線が利用しています。

 「第1・第2ターミナル駅」でのお客の乗降が終わると、今度は再び進行方向を変えて(後ろ向きに出発し)市内へ向かい「三元橋駅」「東直門駅」の順に止まります。運行の順序は「東直門駅」→「三元橋駅」→「第3ターミナル駅」→「第1・第2ターミナル駅」→「三元橋駅」→「東直門駅」の順番で、「第1・第2ターミナル駅」から「第3ターミナル」へ向かう便はありません。従って、国際線で第3ターミナルに到着し、第1または第2ターミナル発の国内線に乗り換える時は便利ですが、逆に国内線で第1または第2ターミナルに到着し、第3ターミナルから国際線に乗り換えて外国へ出る場合には、この地下鉄空港線は使えません。別途、ターミナル間を運行しているシャトルバスを使う必要があります。地下鉄空港線の空港←→市内(三元橋駅または東直門駅)間は統一料金で25元(約375円)です。

 飛行機を降りてから、まず、第3ターミナルを出てターミナル前の道路の上を通っている橋を渡ると、巨大な亀の甲羅上の半透明な屋根の付いた「第3ターミナル駅」に出ます(この第3ターミナル駅の地下が巨大な駐車場になっているので、車を止めている人は、ここからエスカレーターで地下へ降ります)。屋根が半透明なので、自然光が入って明るいのですが、今のような夏の時期は「巨大な温室」になってしまい、空調は入れているのでしょうがほとんど効いておらず、非常に蒸し暑く感じました。

 切符の自動販売機は2台ありましたが、1台は停止中でした。稼働中の1台も、100元札を入れたら「現在、お取り扱いしておりません」の表示(中国語)が出ました。20元札を入れたら、また「現在、お取り扱いしておりません」の表示が出ました。10元札と5元札は受け付けたので、10元札1枚と5元札3枚で切符を買いました。100元札の場合は「おつりがない」場合には「お取り扱いできない」のはわかるのですが、おつりを必要としない20元札も受け付けなかった理由は不明です。外国から来たお客さんは、普通は細かいお金は持っていないと思うので、100元札、20元札が使えないと不便だと思いました。ただし、自動販売機のすぐ隣に係員のいる窓口があるので、窓口に行けば切符を買えます(ただし、窓口ではお客が並んでいるので、少し時間が掛かります)。

 切符は名刺大のICカードタイプで、記念に持って帰りたかったのですが、降りた駅で自動改札機に回収されてしまい、手元に残りませんでした。改札は自動改札機で、切符を挿入するか、感知部分に切符をタッチすることで中に入れます。

 ホームと列車はホームドアと列車ドアの2重ドア方式です(東京の地下鉄でいうと東京メトロ南北線と同じ形式)。列車が入線して右側が降車専用ホーム、右側が乗車専用ホームとなっています。右側からお客の降車が終わると乗車側のドアが開きます。

 ドアが閉まって、列車が発車すると「第1・第2ターミナル駅」へ向かいます。途中で地下に潜ります。「第1・第2ターミナル駅」は地下にあります。「第3ターミナル駅」から「第1・第2ターミナル駅」までは、8分程度かかります。同じ北京空港ですが、第3ターミナルは第1・第2ターミナルからかなり離れていますので、国際線と国内線を乗り換える際には、自分の乗る国内線航空会社がどこのターミナルを使っているか注意する必要があります。航空会社によって、第1・第2ターミナルと第3ターミナルとで乗り換える必要がある場合には、移動のために十分な時間的余裕を持った便を予約しておく必要があります。

 「第1・第2ターミナル駅」で乗客の乗降が終わると、列車は来た方向に後戻りして、今度は市内へ向かう路線に入ります。途中で地上に出て、空港へ向かう高速道路とほぼ並行して走ります。途中、ほぼ中間点の第五環状路と交差するあたりで、上り線と下り線を入れ替えるポイントがあります(中国の鉄道は基本的に日本と逆の右側通行です)。第四環状路を越え、第三環状路が近づくと、列車は再び地下に潜ります。そして「三元橋駅」に付きます。「第1・第2ターミナル駅」から「三元橋駅」までは20分です(「第3ターミナル駅」を出発してからは約30分です)。

 「三元橋駅」も列車ドアとホームドアの二重ドア方式です。「三元橋駅」のホームから1階上がると改札口で、一度改札を出ます。連絡通路を100メートルくらい歩くと、地下鉄10号線「三元橋駅」に出ます。改札を入って階段を下りると地下鉄10号線のホームです。地下鉄10号線も空港線と同じようにホームドアがあります。乗り換えは階段の脇に上りエスカレーターがあるので、荷物を持っていても楽です。空港線も10号線もホームと改札階との間にはエレベーターもありますが、身障者マークが付いていたので私は使うのは遠慮しました。地下鉄10号線の駅の切符自動販売機では北京地下鉄共用ICカード「イーカートン」のチャージができましたので、次に載るときのためにチャージをしました(「イーカートン」は新たに買うときは窓口で買う必要があります。いくらかディポジットを取られます)。市内の地下鉄は、何回乗り換えても2元(約30円)単一料金です。

 空港の「第3ターミナル駅」は「温室効果」で非常に暑かったのですが、空港線、地下鉄10号線とも車両の中は冷房が効いており、快適でした。混雑が心配されたのですが、空港線は座席の数に対して乗車率が80%程度でした。地下鉄10号線も「立っている人がちらほら」という程度で全く問題ありませんでした(私が乗ったのが平日の昼間だったからだと思います。地下鉄10号線は6両編成なので朝夕のラッシュ時はもっと混むと思います)。

 ということで、空港から市内へ地下鉄を乗り継ぎましたが、「第3ターミナル駅」が暑かったことを除いては、非常に快適でした。心配された保安検査ですが、空港で飛行機を降りて荷物を受け取って出るところで、荷物をレントゲン検査機に通すように言われましたが、地下鉄空港線への乗車、10号線への乗り換えについては、保安検査はありませんでした(ただし、レントゲン検査装置は置いてありましたので、必要に応じ、随時、地下鉄の乗り換え時点でも保安検査が実施される可能性があります)。

 下記の「新京報」の記事によると、7月19日の開業当日には、いろいろトラブルがあったようですが、少なくとも私が乗った7月25日は、トラブルもなく順調に運行されていました。「新京報」の記事では、7月19日の開業当日に記者が乗った時には、空港線では加速・減速時にかなりの揺れがあった、とされていますが、私が乗ったときは、空港線も10号線も揺れについては全く問題ありませんでした(日本の地下鉄と同じ程度です)。

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(参考)「新京報」2008年7月20日付け記事
「地下鉄空港線、初日から故障」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/07-20/018@075421.htm

 上記の「新京報」の試乗体験記事のポイントは以下の通りです(運転開始は7月19日14:00でした)。

○14:50、3番列車が出発した。列車や240人ほどの乗客で満員だった。列車が第三ターミナルに入り、乗客が乗ってドアが閉まったが、列車は動かない。約15分後、「ブレーキ系統に故障が生じたたため、乗客の皆様、下車をお願いします」とのアナウンス。ホームの反対側に乗り換え用の列車が入ってきて、乗客はそちらに乗り換えた。故障した列車は車庫へ回送された。

○地下鉄10号線との乗り換え駅「三元橋駅」に着いた時と、地下鉄2号線との乗り換え駅(=空港線の終着駅)「東直門駅」に着いた時、短い臨時停車があった。列車は、急停車した後、1~2秒してからゆっくり動き出した。地下鉄会社の担当者によると、1回は信号系統の故障で、1回は車両の連結器の故障、とのことだった。安全の観点から列車を停止させてから、調整を行った、とのことだった。

○地下鉄空港線では、設計の段階から、車両故障対策が施してある。車両故障が起きても運行に支障が出ないように、予備の軌道を作ってある。例え1台車両が故障して立ち往生しても、予備用軌道を使うことにより、他の列車に遅延を来さないようにしている。

○北京市地下鉄運営公司のスポークスマンの話:「開通当初は、どうしても不具合が出てしまう。これはある意味で正常な現象である。我々は正式開通前に、お客を乗せない試運転を3か月間実施したが、やはりお客を乗せると試運転とは異なるので、どうしても初期の段階では故障が出てしまう。オリンピック開始までには調整可能なので、オリンピック期間の正常な運行は保証できる。」

○記者が感じた問題点は以下のとおり。

【問題点1】空港線はかなり揺れる。加速時、減速時は立っている客は「あっちによろめき、こっちによろめき状態」だった。イスに座っている必要がある。地下鉄会社の人は「最初の段階は『摺り合わせ』が必要ですから」と言っていた。

【問題点2】待ってる場所が狭い。東直門駅では1列に並ぶのがやっとの場所がある。ある女性は「開通初日でこんなに混んでるのだったら、今後お客が増えたらどうなるのかしら。」と言っていた。

【問題点3】第3ターミナルの待合い場所が暑過ぎ。亀の甲羅のようなガラス張りの屋根の下、ほとんど風が通らないので「悶熱的温室」になっている。ある客は「太陽の光を遮るとか、空調を強くしなくちゃダメだよ。設計思想がよくわからん。エネルギーの無駄だ。」と言っていた(筆者注:北京オリンピックのために作った世界に誇る第三ターミナルについて、中国の新聞がここまで書くとはちょっと驚きです)。

【問題点4】7月20日から空港施設内に入る時に保安検査を実施することになるが、地下鉄空港線では地下鉄に乗るときにまた保安検査がある。これは無駄ではないか。

○北京大学で中国を勉強しているアメリカ人のマイクは「ニューヨークにも飛行場から市街地へ一本で行ける地下鉄はないよ」と地下鉄空港線を絶賛していた(筆者注:「新京報」としても、ひとことぐらい「お褒めの言葉」を入れないとまずい、と思ったのでしょう)。
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 上記のように運行初日はいろいろトラブルがあったようですが、少なくとも私が乗った時は何の問題もありませんでした。

 ただ、「新京報」の記事の中で地下鉄会社の担当者が言っていた「車両故障が起きても運行に支障が出ないように、予備の軌道を作ってある。」という部分は不可解です。「予備の軌道」なんてありませんでしたから。もしかしたら、「中間の地点で上り下りの軌道の相互乗り入れができるようになっており、片方の軌道で故障して立ち往生しても、もう一方の軌道に乗り入れることにより正常運行が続けられるようになっている」という意味なのかもしれません。もしそうだとすると、運転士のいない自動運転で、上り下りを同じ軌道で運行する、というような事態を想定しているのだとしたら、ちょっと「怖い」ような気もします。

 また、「新京報」の記事の【問題点4】で指摘している「保安検査が多すぎ」という点については、地下鉄会社の方も気にしているようで、少なくとも私が乗った時には、空港での保安検査はありましたが、地下鉄の乗り降り時の検査はありませんでした(保安検査は、必要な時に随時やるのだと思います)。

 なお、意外にお客が少なかったことについては、日本的感覚だと、空港線の25元(約375円)は非常に安いのですが、ほぼ同じ路線も走っている空港シャトルバス(リムジンバス)は16元(約240円)、市内の地下鉄は乗り換え自由で2元(約30円)なので、中国の多くの人にとっては「地下鉄空港線は高い」と思っているのでしょう。バスはターミナルの入り口まで乗り付けてくれるので、大きな荷物を持った人はバスの方が便利かもしれません。

 御参考までに私が撮した写真が見られるように下記にリンクを張っておきます。

北京地下鉄空港線・第3ターミナル駅
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/daisanterminaleki.jpg

北京地下鉄空港線・第3ターミナル駅に入る列車
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/ekinihairuressha.jpg

北京地下鉄空港線・車内の様子
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/shanainoyousu.jpg

北京地下鉄空港線・軌道の様子
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kidounoyousu.jpg

北京地下鉄空港線から見た空港高速道路料金所
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kosokuryoukinjo.jpg
※このあたりの写真では、北京の大気の雰囲気がわかると思います

北京地下鉄空港線の車両基地
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/sharyoukichi.jpg

北京地下鉄空港線・三元橋駅のホーム
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/sangenkyouhomu.jpg

北京地下鉄10号線・三元橋駅改札口
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/jugousenkaisatu.jpg

 いずれにせよ、私が「新京報」の記事を見て想像していたよりも、地下鉄空港線は格段に快適でした(これはお世辞ではありません。実感です)。これからも、安全で快適な運行が続くことを願いたいと思います。

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2008年7月25日 (金)

変わっていない!車の数も大気汚染も

 今日、久しぶりに日本から北京に戻ってきました。飛行機が上空を飛んでいる時、機内のアナウンスでは「北京の天気は薄曇り」と言っていました。飛行機は、北京空港へ向けて徐々に高度を下げていきましたが、なかなか地面が見えてきません。雲がある高度より低くなっているはずなのに、あたりは真っ白で何も見えないのです。飛行機はさらに高度を下げて翼のフラップを下ろしましたが、まだ地面が見えません。「ガタン」と車輪が降りる音がしてもまだ外は真っ白のままです。ようやく事情の建物が見えてきたのは高度100メートルくらいになってからでした。

 窓際の席ではなかったので、ちょっと外が見にくかったのは事実ですが、今日の昼間の北京の視界は確実に500メートル以下でした。例によって雲はなく、太陽は空に白く見えており、肉眼で日食観測ができる状況でした。空の状態は天津市上空あたりからずっと同じだったので、天津と河北省に囲まれている北京市だけでは、北京市(岩手県より少し広く四国より少し狭いくらいの面積がある)だけで大気汚染対策をやってもムリだ、ということが、飛行機の上から見てよくわかりました。

 今日は湿度が相当高かったので、視界が悪いのはそのせいだと思われます。大気汚染だけでは、さすがにこれだけ視界が悪くなることはないのですが、たまたま空気中に微粒子の浮遊物が多い時に湿度が高くなる気象条件が重なると、今日の北京のように「晴れだけれども視界が効かない」状態になるようです。国家環境保護部の発表によると、今日(7月25日)の大気汚染指数は109で、昨日に引き続き「軽微汚染」でした。

 夕方6時頃、市内を車で通りましたが、夕方のラッシュはいつもとほとんど同じでした。心持ち車の数は少ないかなぁ、という感じはしましたが、パッと見で、いつもの金曜日の夕方の9割くらいの車の量だったと思います。回りの車のナンバープレートは、タクシーやバスを除くと確かに奇数です(今日は7月25日なので奇数ナンバー車しか走れない)。ごくたまに特別許可を受けた偶数番号車もいましたが、それはほんの一部で、バス・タクシー以外はほんと奇数ナンバーばかりです。偶数奇数で制限し、政府機関の車も減らすので、車の数は4割程度に減るはず、と当局は見ていたようですが、実際にはそれほど減っていないのは明らかでした。

 「上に政策あれば下に対策あり」と言われるのが中国の社会ですから、みんな「なんとか」したのでしょうか。この交通規制の一環として、北京ナンバー以外の車はそもそも特別な許可がなければ北京市に入れないようになっているので、北京以外から奇数番号車を借りてきた、というわけではありません。お金持ちの中には、奇数偶数規制に備えて、事前にいつも使っている車に加えて車を買ったという人もいる、とのことです。でもそういった人はそんなに多くいるとは思えないので、この車の数の多さはどうやって説明すればよいのでしょうか。さすがに車のナンバープレートでは「ニセモノ」が出回っているとは思えないのですが。

 7月20日(日)に車の奇数偶数規制が始まったのに大気汚染指数は24日、25日と連続で「軽微汚染」になってしまいました。大気汚染指数は、風の強さなどが影響するので、車の数だけが原因ではありませんが、今のところ大気汚染の劇的な改善は見られていないのは事実です。もしかすると、このような状況のままオリンピック期間に突入するのかもしれません。私は何回も「さすがに、本番のオリンピックになれば、きれいな青空になると思う」と書いてきましたが、自信がなくなってしまいました。既に車の規制は実施され、汚染を出す工場は停止され、建物の建設・解体工事は中断状態にする、など打つべき手は打っているからです。はっきり言って、今日の北京の空気の状態では、マラソンはちょっとムリだと思いました。

 今、夏ですから、夕立(雷雨)が一度降るとだいぶ空気もきれいになると思います。8月8日のオリンピック開幕まで、まだ2週間ありますので、それまでの間に何回か雨に降ってもらって、もうちょっときれいな空気になればいいなぁ、と思います。今日、すっきり青空の東京から北京に来たので、改めて、この落差にショックを受けて、昨日と同じようなことを書いてしまいました。

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2008年7月24日 (木)

青空はすばらしい

 夏休みで、今、一時的に日本にいます。今日は、長野県から東京へ移動しました。「梅雨明け十日」ですばらしい青空でした。長野から東京へ移動しても、青空はほとんど変化しませんでした。北京だと、こういう青空は1年に3日あるかどうか、という感じです。北京は降水量が少ないので、雲のない日は多いのですが、「空が白い日」が多いのです。北京では空気汚染係数が100以下の日を「青空の日」としていますが、実際は50以下にならないと「すっきり青空」という感じにはなりません。

 北京で「空が白い日」が多いのは、もちろん大気汚染が大きな原因であるのは間違いないのですが、そのほかに自然条件も大きいと思います。日本は島国であるところが非常に有利に働いています。海の上は人間活動による汚染や砂ぼこりがありませんから、日本の場合、日本列島である程度汚染が生じても、どちらかの方向から少し風が吹けば、海の上のきれいな空気が日本列島の上空を「掃除」してくれるのです。北京の場合、西から風が吹けば河北省や山西省の汚染が、南東から風が吹けば天津の汚染が北京に流れてきますから、少しくらい風が吹いても北京の空はきれいになりません(北京でも、雨が降ると次の日はかなりすっきりとした空気になります)。

 それから地表面の状況もだいぶ違います。今日、長野県へ行って改めて思いましたが、日本は山々はびっしりと緑に覆われ、平地には水田の緑が広がっています。この日本の夏の緑と青空のコントラストは非常にすばらしいです。北京から来た私は「白黒テレビの世界からカラーテレビの世界に入った」ような気がしました。日本にいる人たちは、そういった日本の美しさに気が付いていないのです。

 一方、中国大陸の自然はそんなに甘くありません。北京周辺の地方は、降水量が少ないので、山々は緑の少ない岩山がほとんどです。平地の農業地帯も冬小麦が栽培されている地域は6月の刈り取りが終わると、乾いた地面がむき出しになります。そもそも河北省あたりの小麦の大穀倉地帯は、小麦の生長に必要な水のうち、降水でまかなわれるのは3割程度で、後は地下水を汲み上げることによるかんがいに頼っています。従って、作物が栽培されていない時期の畑は表面は常に乾燥しており、風が吹けば砂塵が舞い上がりやすい状態です。水を張った状態の期間の長い水田が主体となっている日本では、農村部では砂塵がほとんど舞い上がらないのです。

 北京地方の場合は、さらに北西方向には砂漠地帯があり、気象条件によっては、砂漠地帯で舞い上がった砂塵が運ばれてくることがあります(春の黄砂は日本まで飛んできます)。このように人工的な大気汚染がなくても、中国の大気は日本の大気に比べると、ただでさえ浮遊微粒子が多い状態なのです。

 北京の大気汚染の主要原因は「可吸入顆粒物」ですが、この「可吸入顆粒物」を構成しているのが何なのか(自然に発生する砂塵の類なのか、自動車から発生する「スス」の類なのか、建物解体作業等に伴うコンクリートの粉塵なのか)は分析すればすぐわかると思うのですが、こうった分析結果が発表されたのは見たことがありません。北京オリンピックのために、汚染物質を多く出す工場を停止させ、建設・解体工事も停止させ、車の運行もナンバープレート偶数奇数規制で減らす、ということをやっているわけですから、当局としては、大気汚染の原因となっている「可吸入顆粒物」が何なのかはわかっているのでしょう。

 国家環境保護部のホームページによると今日(7月24日)の北京の大気汚染指数は113で「軽微汚染」だそうです。

(参考)国家環境保護部ホームページ
「重点都市大気汚染指数日報」
http://www.mep.gov.cn/quality/air.php3

 7月20日から「オリンピック・モード」に入って、工場の操業停止や建設・解体工事の停止、車の運行制限も始まったのに、まだそれほど「劇的」には改善していないようです。たぶん、一度雨が降って空気中に舞い上がっている汚染物質が一度地面に落ちれば、あとはいろいろな規制により汚染物質の「発生」は押さえられているので、たぶん、オリンピック期間中は、北京でも「青空」が見られると思います。

 それにしても、いくら島国とは言え、降水量が多く都市部以外はほとんど緑で覆われているという好条件があるとは言え、日本の青空は掛け値なしにすばらしいと思います。日本に住んでいる人たちは、1970年代の「公害列島」と言われた時代をいかにして克服してきたか、を忘れずに、現在の日本の青空の大事さを再認識し、しっかり守っていって欲しいと思います。

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2008年7月23日 (水)

「言葉のせき止め湖」の危険にどう対処する

 今日(7月23日)付けの「人民日報」に「『言葉のせき止め湖』の危険をどうやったら取り除くことができるか」という評論が載っていました。

(参考)「人民日報」2008年7月23日の「人民時評論」
「『言葉のせき止め湖』の危険をどうやったら取り除くことができるか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/23/content_65205.htm

 これは四川大地震をきっかけにして多くの人の口に上るようになった「せき止め湖」(中国語で「堰塞湖」)という言葉になぞらえて、人々の政治に対する不満が溜まって一気に爆発しそうになる現象を「言葉のせき止め湖」(中国語で「言塞湖」)と表現して、それにどう対処すべきか、を論じたものです。「堰塞湖」と「言塞湖」は、中国語では「堰」はyanの4声、「言」はyanの2声、で、声調だけは違いますが発音は同じなので、同じ発音の文字を入れ替えた、一種の「ダジャレ言葉」です。

 人民日報にこういう評論が載る、ということは、党中央も、最近の地方での集団騒乱事件の頻発などを受けて、人々の間に不満がうっ積しつつあることを認識し、地方政府は、それにちゃんと対処しなければならない、との問題意識を持っていることの表れだと思います。この論評では、地方政府の幹部が豪華な政府庁舎や官舎を建て、地域住民が不満に思っていたことが、何かのきっかけで明るみに出て問題になる、というケースが続いていることを指摘しています。例として、安徽省阜陽市で、市政府が豪華な庁舎を建て、住民から「ホワイト・ハウス」と呼ばれて批判されていたが、この豪華庁舎問題を指摘した人が死亡し、その死因に不審なところがあったことから中央のメディアが取り上げ、結局は市の党書記が人民代表の職を解かれたケースを挙げています。

 こういったケースは「何かのきっかけ」がなければ明るみに出なかった可能性があり、その場合、人々の不満はうっ積し「言葉のせき止め湖」ができてしまうので、それを避ける方策を考えなければならない、とこの論評は指摘しています。

 この評論では、「言葉のせき止め湖」に対処する方法として、既に下記のような仕組みが実施されていることを指摘して、これらの方法を通じて民意を汲み上げる「トンネル」を確保することの重要性を指摘しています。

○中国共産党の伝統である大衆の声を聞く路線を実践すること。
○人々の訴えをよく聞くこと(「信訪制度」を活用すること)
○世論の動向をよく見極めること。
○最近よく行われるようになった公聴会制度や政府情報公開請求制度を活用すること。

 こういった論評を読むと、私などは、どうしてここに「地方政府幹部を選挙で選ぶこと」というのが入って来ないのかなぁ、と思ってしまいます。「住民の間に不満の声が溜まったら、次の選挙で落選してしまう。」というシステムを作り上げることが最も単純で確実な「言葉の堰き止め湖」に対する対処だと私は思います。ここでそういった議論がなされないのは、「選挙」という手法は、地方政府の幹部は中央が指名する、という現在の体制を崩してしまうことになるからだと思います。

 中国には、住民に不満がある場合には、上部機関に直接訴える「信訪制度」があります。例えば、ある県の幹部のやり方を不満に思う住民は、県を飛び越えて、その上にある市やさらにはその上の省、最終的には国の「訴え受付機関」に訴えて解決を要請することができます。これを「信訪制度」といいます。これもひとつの方法だと思いますが、「信訪制度」は、結局は封建時代の「直訴」と同じです。上部機関が住民から寄せられる数多くの「直訴」に全て対処できるのか、「直訴」があったものだけ改善していたのでは、一種の対処療法であり、根本的な解決にはならないのではないか、と私は思うのですが、そういった議論が残念ながら中国では行われません。結局は、「選挙の必要性」に行き着いてしまうので、議論ができない、ということなのでしょうか。

 中国では、昔から、地方政府に対する不満を爆発させた住民による集団暴動事件は数多く発生しています。最近は、北京オリンピックで注目されていることと、住民がすぐにネットに情報をアップするようになったことで、外国のメディアでも報道されるケースが多くなっているのだと思います。「言葉のせき止め湖」が大きくなって、一気に決壊することは、誰も望んでいません。しかし、この問題は「住民の声をよく聞くようにしよう」といった呼び掛けだけで改善するような問題ではありません。この人民日報の評論によって「言葉の堰止め湖」という言葉が一種の「流行語」のようになって、中国国内でも真剣な議論が起こることを期待したいと思います。

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2008年7月21日 (月)

雲南省昆明市でバス爆破事件が発生

 7月21日(月)朝の通勤時間帯、中国雲南省の省都・昆明市で約1時間間隔で2つのバス爆破事件が相次いで発生しました。今までにわかっているところでは、2人が死亡し14人が負傷したとのことです。本件については、中国中央テレビのお昼のニュースで報道されたほか、新華社通信の雲南報道のページに「特設ページ」が設けられ、逐次、新しい情報がアップされつつあります(昆明市は人口620万人のこの地方では大都市です)。

(参考1)「新華社」雲南報道のページ
「昆明市で発生したバス爆破事件特設報道ページ」
http://www.yn.xinhuanet.com/topic/2008/explosion/

 朝の通勤時間帯に2つの爆破が続けて起きた、爆発が起きたのが座席の下だった、という事実から、当局もこれがテロであると見ており、目下、全力で犯人の捜索に当たっているとのことです。上記のように(最近の中国ではこういう傾向にあるのですが)異例の速さで、新華社通信等が写真等も含めた最新の映像を続々と流しています(不要なデマの発生を防ぐため、できるだけ速く詳細な情報を報道しようとしているのだと思います)。

 それにしても、私は、中国では、民衆の集団による暴動事件が起きることはあっても、爆弾テロは起きないと思っていました。いかなる政治的目的を持っているにせよ、中国では多数の人民を味方に付けなければその政治目的を達成できないのは明らかであり、テロ行為を行うことは、理由の如何を問わず人心を離れさせることになり、一定の政治目的を持つグループにとっては逆効果以外の何者でもないからです。雲南省は、中国の中でも少数民族が多い地区ですが、雲南省は昔から多くの少数民族が混在して居住している地域であり、少数民族問題を理由とした暴力事件やテロ事件があったという話は私は聞いたことはありません。

 今回の昆明市のバス爆破事件の背景について、今の段階で軽々に推測するのは慎むべきですが、今回の事件は、北京オリンピックへ向けて、北京で交通規制が始まるなど「オリンピック特別期間」が始まった最初の月曜日の朝の通勤時間帯を狙って約1時間の時差を付けて複数の爆発を起こした、という事実だけを見ると、相当に冷徹に計画されたもののように見えます。

 今までも、政治的な背景とは関係なく、会社から解雇された人が自爆テロ的に会社の車に放火するというような個人的恨みに基づく事件はありました。

(参考2)このブログの2007年10月3日付け記事
「重慶でバス火災27人死亡・放火か?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/27_7d11_1.html

しかし、今回の昆明でのバス爆破テロは、この重慶のバス放火事件のような「個人的な恨みによるもの」とは違うように思います。

 また、中国では、無数の違法な炭坑で操業が行われ、そこで使われるダイナマイトがずさんに管理されているのが実態です。そういう状態で今まで中国ではいわゆる「爆弾テロ」のような事件はあまり起きていなかったのですから、基本的に中国では爆弾テロの起きる素地はないものだと思っていました。

(参考3)このブログの2007年7月6日付け記事
「遼寧省のカラオケ店の爆発で25人死亡」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/25_07f6.html

 なお、雲南省では7月19日に雲南省プーアル市孟連ダイ族ラフ族ワ族自治県で、ゴム農民とゴム生産企業との間に起きていたトラブルに関連して、ゴム農民が数百人集まって公安当局を取り囲んで暴力行為を働いたため、公安当局が自衛のために発砲し、村民多数が負傷し、うち2名が死亡する、という事件がありました(これは新華社がそう報道しているのでこの事実に間違いないと思います。一部、日本の報道では「公安当局がゴム弾を発射し」とありますが、新華社の報道では「ゴム弾」の記述はありません。「ゴム弾」の発射で死亡することは考えにくいので、集まった群衆に対しては銃の実弾が発射されたものと思われます)。

※雲南省プーアル(普○:「○」は「さんずい」に「耳」)市はプーアル茶で有名です。

(参考4)新華社・雲南報道ページ2008年7月20日付け記事
「雲南省孟連県で暴力事件が発生」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/20/content_13873445.htm

 この事件について、新華社は続報を報じており、翌日の20日にも約450人の群衆が集まったこと、雲南省幹部が死亡した2名の死因については調査を行うことを集まった群衆に説明したこと、20日に集まった群衆は衝突事件などは起こさず夜になってから解散したこと、などを伝えています。

(参考5)新華社・雲南報道ページ2008年7月20日付け記事
「雲南省孟連県『7・19事件』で集まったゴム農民は説得されて引き上げた」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/20/content_13873451.htm

(参考6)新華社・雲南報道ページ2008年7月21日付け記事
「雲南省では、全力を挙げて孟連でのゴム農民集団事件に対する対処が行われている 雲南省の指導部は現場に行って群衆の訴えを聴取した」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/21/content_13878264.htm

 これらの報道によると、このゴム生産会社は数年前に私営企業になったが、ゴム農民たちとの間で利益配分について意見の相違があり、ゴム農民たちは会社に自分たちの権利が侵害されていると考えていたとのことです。このため数年前からゴム農民たちは何回もゴム生産会社を包囲して焼き討ちする騒ぎを起こしていた、とのことです。事件が起きた7月19日、公安当局が5人の犯罪容疑者を取り調べていたところ、約500人のゴム農民たちがゴム採取作業に使う長刀や鉄パイプ、棍棒などを持って集まって公安当局を取り囲んで襲撃したため、41名の民事警察官が負傷し、8台の警察車両が破壊された、とのことです。公安当局側は自衛のために発砲し、15人のゴム農民が負傷し、そのうちの2名が死亡した、とのことです。

 新華社の記事では触れていませんが、上記の状況を踏まえると、ゴム農民たちは、ゴム生産企業と公安当局が「グル」になっていると考えて、普段から公安に対する不満を募らせていたのではないか、と思います。

 この孟連県でのゴム農民たちと公安当局との衝突事件と、昆明で起きたバス爆破事件が関係があるのかどうかはわかりません。地理的に言うと、プーアル市孟連県と昆明市とは数百キロ離れていますし、例えゴム農民たちが公安当局に対して不満をうっ積させていたとしても、彼らとしては昆明市民を殺傷する爆破テロを起こしても何の意味もないので、この2つの事件は関係はないのではないかと思います。

 いずれにしても、今回の昆明市でのバス爆破事件については、早く犯人が特定され、真相が解明されることを望みたいと思います。

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2008年7月20日 (日)

「コメントする自由」「文句を言う自由」

 今日(7月20日)から北京市内では、オリンピック期間中の渋滞の防止と大気汚染緩和のため、ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制が始まりました。パラリンピック終了後の9月20日までの期間、北京市内では偶数日には奇数番号の車、奇数日は偶数番号の車は通行が許されません(バス、タクシー等の公共交通機関の車、消防・救急等の緊急車両、オリンピック関係車両、大使館関係車両等を除く)。

 ところが規制当日の今日(7月20日)になって「人民日報」の朝刊に「毎日午前0時から3時までの3時間については、ナンバープレート規制を緩和する」との発表が載っていました。

(参考1)「人民日報」2008年7月20日付け記事
「午前0時から3時までは偶数・奇数制限は実施しない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/20/content_61849.htm

 この規定緩和措置は7月19日に北京市交通管理局が発表したものだそうです。なぜまた突然規制開始の前日になって規制の一部を変更する発表を行ったのでしょうか。それまでは、みんな「夜中の0時きっかりで北京市内を通行できる車が切り替わる。それに違反したら罰金100元(約1,500円)を取られる。」と思っていたのです。それが証拠に7月19日付けの「新京報」では「今日は奇数番号の車は夜中の24時までにお家に帰ろう」と呼び掛ける記事を掲載していました。

(参考2)「新京報」2008年7月19日付け記事
「奇数番号車は今日は24時の前に必ず家に帰らなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-19/018@073151.htm

 この記事によると、北京市交通管理局の担当者が「19日は土曜日なので外出する人が多いと思うが、24時を過ぎると奇数番号車に対しては規制が掛かるので、奇数番号車を運転している人は必ず早めに家に帰らなければならない」と発言したことを引用して、読者に対して注意を喚起しています。

 よく考えてみると「規制期間中であっても、午前0時から3時の間は偶数・奇数両方の車両の通行を認める」というのは、至極当たり前の措置です。夜中の0時時点で北京市内を走行中の車に対して「今、午前0時を過ぎたから罰金」などと言うのは現実的ではないからです。かと言って、偶数番号車、奇数番号車は、それぞれ偶数日、奇数日の24時までに家に帰り着くようにせよ、というのだったら、毎日午前0時直後は、北京市内には車が全くない状態になることになります。1,700万人都市・北京でそんなことが現実にできるわけがありません。午前0時~3時までの3時間はどちらの車の通行も認めるので、規制が掛かる車は午前3時までに家に帰り着くように、ということならば現実的に対処は可能です。午前0時~3時の時間帯なら車の渋滞は関係ないし、この時間に走っている車の数はそれほど多くはないと思うので、この規制緩和をやっても大気汚染防止の効果にはそれほど影響は出ないと思います。

 こういった「当たり前の措置」がなぜ規制の前日まで発表されなかったのか、を考えると、以下の二つが考えられます。

(1) 北京市当局は、規則上は午前0時で規制を切り替える、ということにしているが、取り締まりの現場では午前3時頃までは、偶数奇数規制に違反している車でも「大目に見る」ことで対応しようと思っていた。

(2) 取り締まりを担当する現場の担当官や多くの市民は「0時きっかりに規制を切り替えるのは現実には無理だ」と考えていたが、誰もそれを口に出さず、規制を作った北京市の上層部は「この規則を厳格に適用すると現場で無理が生じる」という認識を持っていなかった(「新京報」の記事を見て、北京市上層部がこの規制に無理があることを始めて認識した。だから19日、北京市上層部の「鶴の一声」で急遽午前0時からの3時間については規制を緩和することを決定した)。

 もし(1)だとすると、北京市当局は規則を作っておきながら、そもそもその規則を規則通りには運用するつもりがなかった、ということになります。これは、法律や規則がありながら、現実にはその通りに規制されていない、という中国の実情を反映していますが、中国が「法治国家」ではなく、まだ、現場の取り締まり担当官の判断でいかようにもできる「人治国家」であることを世界中に示すことになってしまいます。まじめに規則を守ろうと考えていた北京市民はバカを見たことになります(こういうことはしょっちゅうで中国の人々は慣れているので、そもそも多くの北京市民は「規則を規則通りにまじめに守ろう」とは考えていなかった、と言った方が正しいのかもしれませんけど)。

 もし(2)だとすると、北京市当局の内部で現場の声が上層部に届くシステムができていない、新聞等も規制の問題点について何も指摘せず、中国では「社会を監視する」というマスコミが果たすべき役割を全く果たしてない、ということになります。

 中国では、憲法に「中国共産党による指導により政治を行う」という大原則が規定されており、これに反する報道をすることは「法律違反」となります。従って、新聞の記事等が「法律違反」にならないように、当局の「指導」がなされています。ただ、北京のローカル新聞ですと、例えば夜中の2時前に起きた火事がその日の朝刊に載ったりしていますので、たぶん全ての記事の「事前検閲」はやっていないと思います。問題のある記事が掲載された場合には、事後的に直ちに「指導」が入るというふうな「事後検閲システム」になっているのだと思います。重大な「法律違反」の記事が新聞に掲載された場合には、新聞は発刊停止に追い込まれ、重大な場合は記事を書いた記者や編集者が「国家転覆罪」に問われる場合もありますし、そうでなくても免職にされ、言論人としての生命を絶たれてしまう可能性もあります。そのため、言論人は、常に「どこまでは発言が許される範囲なのか」を意識しながら「自主規制」をしているのです。

 こういった「自主規制」が習い性となっているので、今回のような交通規制のあり方、といった政治には全く関係のない案件についても「当局が決めたことに対してコメントしたりしてはいけない」「ましては当局が決めたことに対して文句を言うなどとんでもない」という感覚が言論人の中に定着してしまっているのだと思います。

 ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制は、昨年(2007年)8月に4日間だけ試験的に実施されました。夜中の0時に偶数・奇数の規制を切り替える際に発生する問題点は、その時には認識されていたはずなのですが、どの新聞もそこに問題がある、というコメントをしませんでした。そして、今年(2008年)6月20日に発表された規制の規則では、午前0時の切り替え時の移行措置については何らの考慮もなされなかったのでした。

 何らかの措置を講じた時、それに対する「コメントを受ける」「文句を聞く」ということは将来の改善のために非常に重要です。一般ビジネスにおいては「お客からのクレームはビジネス改善のための大切な宝の山」と認識されており、「クレーム処理を大事にしない会社は伸びない」ことは常識とされています。中国において、政治問題の大原則に対して批判を許さない、という政策を取っていることに対しては、中国の内政問題ですので私はコメントしませんが、それをやることによって、政治とは全く関係ない「社会の便利さ・暮らし良さ」といった点に対しても「コメントする自由」「文句を言う自由」が実質上ない、というのは、社会全体の改善の観点から言ったら大きなマイナスだと思います。中国の関係者は「法律に違反しなければ、当局の施策に対して、コメントする自由も文句を言う自由もある」と反論すると思いますが、新聞等の報道機関が「自主規制」して「当局が決めたことに対してコメントや文句は言わない方がよい」と考えているのだったら、実質的に「コメントする自由」「文句を言う自由」はない、といっても差し支えないと思います。

 問題は、こういった感覚が、政府機関や会社などの中国の組織の中に深く浸透しているのではないか、ということです。即ち、トップが決めたことは、部下は唯々諾々とそれに従うのが賢い処世術であり、上司のやり方に対してコメントしたり文句を言ったりしないようにしている、という人が多いのだったら、それは中国の組織の発展を阻害することになると思います。はしなくも今回の車の偶数・奇数制限の問題で明らかになりましたが、(政治的な意味での言論の自由の問題は別に置いておくとしても)ごく一般的な意味で「自由にコメントし、自由に文句を言える雰囲気を作ること」が中国の今後の発展にとって非常に大事だと思いました。 

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2008年7月19日 (土)

北京地下鉄10号線・空港線開通

 報道によると、北京地下鉄10号線(第一期)、オリンピック公園支線、北京首都空港鉄道線が7月19日開通したとのことです。まだ私自身は乗っていないので「したとのことです」と書いておきます。

 これらの路線については、昨日(7月18日)の段階では、「週末に開通」とだけ発表されており、19日(土)に開通するのか、20日(日)に開通するのか、わかりませんでした。ところが19日(土)朝になってから、「新京報」などで「今日(19日(土))開通する」というニュースが報じられました。

(参考)「新京報」2008年7月19日付け記事
「地下鉄3路線、今日14時に開通」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-19/018@074440.htm

 この「新京報」の記事でも、開通式は19日の「だいたい午前10時頃」にやる、と書いてありました。空港線の運賃が25元(約375円)になった、と発表になったのは昨日(18日)です(それまでは「25元にするか、30元にするか、どちらかの案で検討中」ということでした。7月2日にこの運賃に関する公聴会があったのですが、その後、昨日(18日)まで、料金は決まっていませんでした)。

 どうして、ここまでギリギリまで何も決まらないのか、その背景がさっぱりわかりません。中国の新聞は、「なぜギリギリまで決まらないのか」といった関係者が困るような案件を突っ込んで取材して報道するようなことはしないので、「なぜギリギリまで決まらなかったのか」は最後まで「ナゾ」として残ると思います。それにしても、開通式をやる時刻が「だいたい午前10時頃」という発表も何となく変です。関係者や報道陣は、いったい何時に開通式場に行けばよいのでしょうか。

 今日、お昼過ぎに、たまたま北京空港から飛行機に乗ったのですが、北京空港へ行く途中で、空港線が走っているのを見ました(地下鉄の路線のひとつということになっていますが、空港線はほとんどの区間、地上を走っています)。赤い色のモダンな車両でした。ただ、ちょっと気になるのは、4両編成なので、これでお客をさばききれるのかなぁ、という点です。第2ターミナル発の便、第3ターミナル発の便が、それぞれ別個に運転間隔15分で運航するのだそうです。それで4両編成だと相当に混雑するのじゃないかなぁ、と思います。混むのがイヤな人は、高いけれどもタクシーを使う、ということになるのかもしれません。また市内と空港を結ぶリムジンバス(地下鉄空港線の市内側のターミナルの「東直門」と空港の間は16元(約240円))の値段と比較すると、この地下鉄空港線の値段は意外に高い感じがするので、そんなにお客は多く乗らないのかもしれません。

 オリンピック公園支線は、8月7日までは一般客は乗せずに、選手やオリンピック関係者だけを運ぶ、とのことです。8月8日以降も、オリンピック、パラリンピックの当日のチケットを持っている人だけが乗れる、ということで、誰でも自由に乗れるようになるのはパラリンピック終了後の9月20日以降だそうです。8月7日までは一般客を乗せずに営業して、8月8日の開会式当日にいきなり何万人もの開会式に出る観客を運ぶようにする、という計画になっているのですが、係員の慣熟などの点で大丈夫なのかなぁ、とちょっと心配です。地下鉄10号線とオリンピック支線の乗り換え駅の「北土城駅」では、地下鉄10号線から乗り換える人は、いったん改札を出て、オリンピックのチケットを持っていることを係員に確認してもらって、飛行機に乗るときと同じような保安検査を受けてから、オリンピック支線に乗り換えるのだそうです。乗り換え客がどのくらいの数いると想定しているのかわかりませんが、この乗り換え駅で観客の乗り換えがスムーズにできるのか、というのもちょっと心配です。

 北京空港では明日(7月20日)から、出迎え見送りの人も含めて、空港に入る人は全て入り口で保安検査(ボディチェック)を受けることになります。従って、飛行機で出発する人は2回保安検査を受けることになります。そのため、空港では、時間に十分に余裕を見て空港に来るように呼び掛けています。

 今日(7月19日)はまだ空港入口での保安検査はやっていませんでしたが、飛行機に乗るときの保安検査はいつもより相当に念入りにやられました。ノート・パソコンは「バックから出して開いて見せろ」と言われ、ポケットにハンカチやちり紙を入れている場合も「出して見せろ」と言われました。いつもより1.5倍くらいは時間が掛かったような気がします。

 ただ、今、空港の利用客はかなり減っています。原油価格の高騰により、燃油サーチャージが高くなったせいか、外国から来る観光客も中国国内の観光客もかなり減っているようです。さらに、中国国内では、四川大地震の影響で、ちょっと気分的に観光旅行をする雰囲気ではない、と感じている人が多いせいか、中国国内の観光客はいつもの年よりかなり少ないようです。また、中国の政府関係機関では、四川大地震の復興を最優先にするため、予算を一律5%カットして復興支援に回すように指示されているそうで、そのために業務上の海外出張案件は相当の数がキャンセルになっているそうです。そのため、オリンピック期間中も含めて、開会式・閉会式の前後のごく短期間を除いては、例えば日中間の航空便は(特にエコノミークラスは)まだ相当空席がある、とのことです。あまり観客が多いと保安検査場が混雑したりするので、原油高や四川地震の影響で飛行場の利用者が少なくなったというのは、むしろ幸いなのかもしれません。

 いよいよ明日(7月20日)から北京市内でのナンバープレート偶数・奇数による交通規制が始まります。7月21日から始まる平日、朝夕のラッシュ時に道路の状況がどうなるか、地下鉄の混雑がどの程度になるのか、空港線がどのくらい混雑することになるのか、しばらくは様子を見る必要があると思います。

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2008年7月18日 (金)

活動の場を与える場所としての日本

 7月15日に日本に滞在している中国人女流作家の楊逸氏が芥川賞を獲ったことについて、日本での報道の中に「日本は多くの中国人に対して表現の場を提供している」という趣旨のものがありました。楊逸氏について、そういった指摘が当たっているのかどうかは私にはわかりません。楊逸氏の芥川賞受賞作「時が滲(にじ)む朝」についても「1989年の事件」が時代背景として出てきているとは言え、楊逸氏はこの事件について書きたかったわけではなく、単にいろいろな運命の中を生きる若者の生き方を描きたかっただけかもしれないからです。

 これとは別の話ですが、昨年4月、NHKのハイビジョンで中国人ディレクターに中国を描くドキュメンタリー作品を作らせる「新的中国人」というシリーズがありました。

(参考)NHKホームページ平成19年(2007年)3月22日付け「報道資料」
シリーズ「新的中国人」~若き4監督が撮るディープな今~
2007年4月23日(月)~4夜連続 BS-hi午後10:00~
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/shiryou/soukyoku/2007/03/004.pdf

 先日再放送されたので、その一部を見ました。私が見たのは「上海シティボーイの憂鬱」(監督:郭静、柯丁丁)でした。旅行社でツアーのアレンジをしながら都会に生きる若者と、小さな料理店を営む年老いた両親の話で、激変する中国社会の中で不安を抱えながら何とか生きていく人たちの現実を描いていました。秀作です。体制批判でもなんでもないので、こういったドキュメンタリー番組は中国国内でも作れるとは思うのですが、たぶん、実際にはかなり難しいのでしょう。

 7月15日(日)の最終回の放送で終了したNHKスペシャルのシリーズ「激流中国」でも、番組の終わりのタイトルバックを見ると、中国人らしいスタッフの名前が大勢出てきていました。中国に住む中国人がNHKに協力しているのか、もともと日本に住んでいるNHKの中国人スタッフなのかはわかりませんが、いずれにせよ、番組を作っているのはNHKという日本のテレビ局で、放送されるエリアも日本国内ですが、取材している場所は中国であり、番組を作っているスタッフの一部に中国の人がいる、という意味では、この「激流中国」も上記の「新的中国人」と同じようなところがあると思います。

 「激流中国」は、現代中国の課題を鋭く突いた歴史に残るドキュメンタリーの名シリーズでしたが、中国人スタッフの参画なしでは、これだけすごい番組は作れなかったでしょう。ある意味では、この「激流中国」は、番組の制作に参加した中国人スタッフに活動の場、表現の場を与えた、と言ってよいかもしれません。中国には優秀な人がたくさんいるので、活躍の場を与えるとものすごい力を発揮します。アメリカの大学の優れた研究論文に Liu さんとか、Wang さんとか、明らかに中国系と思われる人の名前が多いことでもそれはわかります。

 「激流中国」は、もちろん日本向けの番組で、ナレーションなどは全て日本語ですが、中国国内でも相当に話題になったようです。中国国内では、新聞などのオモテのメディアで「激流中国」について議論することはできませんが、ネットの掲示板などでは、かなり話題になったようです。詳しくは、日本語ウィキペディアの「激流中国」の項目を御覧下さい(ウィキペディアですので、私が今見ている内容は、今後変更される可能性がありますけど)。

 「激流中国」は、NHKの国際テレビ放送のNHKワールド・プレミアムでも放送されていましたので、私は北京で見ていました。「激流中国」の放送中は、チベット騒乱や海外でのオリンピック聖火リレーの時にあったような検閲によるブラック・アウトはなかったので、この番組の内容は中国当局にとっても「許せる範囲内」(かなりギリギリの線だとは思いますが)に収まっていたようです。でも、「激流中国」の制作に携わったスタッフが、中国国内のテレビ局で同じような番組を作ることは、現状ではとても無理でしょう。香港や台湾のテレビ局には、西側的な「報道の自由」がありますから、香港や台湾のテレビ局がこういった番組を企画することも可能だと思いますが、いろいろ政治的なしがらみを考えると、取材と放送が実現するのはやはり難しいと思います。日本のNHKという、ちょっと第三者的に離れた存在のテレビ局だからこそ、こういった番組が作れたのだと思います。

 NHKの放送は、もちろん日本の国内向け放送ですが、実はBS放送(ハイビジョンも含む)は、中国沿岸部では大きなパラボラを設置すれば受信できます。NHK-BSを受信できる衛星テレビ受信設備を付けるには当局の許可が必要ですので、そんなに多くの人は見ていないと思いますが、少なくともネットで話題になる程度には見ている人がいた、ということだと思います。

 そもそも、中国革命の初期の段階において、中国革命の父・孫文は、日本に留学し、日本で革命組織を立ち上げました。日本は、孫文以外の多くの中国革命の推進者にも、活躍の場を提供していたのです。中国共産党の創始者である陳独秀と李大釗に中国共産党の設立を決定した第1回全国代表大会(1921年7月)に出席した12名の合わせて14名のうち、日本留学帰国者は6名いました。国民党側では、孫文の跡を継いだ蒋介石も日本の陸軍士官学校の出身です。その後、日本の軍国主義は、中国革命に大きく干渉して行きますが、日本が中国の歴史を進める多くの人々に活躍の場を与えたのは事実であり、そのことは中国の人々もよく知っています(中国近代化に大きな足跡のあった文豪・魯迅が東北大学に留学していた話は、中国の中学校の教科書に出てくるそうです)。

 作家や映像作品の監督など「表現する者」は、今の中国は活動しにくい場所です。例え政治的なことや体制批判などをするつもりが全くなくても、やはり活動しにくいと思いいます。外国人の私ですら、こうして自分のブログを書くときでも「1989年の事件」と書いたり、「その年の6月第一週の出来事」などとぼかした表現を使っているのは、そのことズバリの言葉を書くと、キーワード検閲に引っかかる恐れがあると思って自己規制しているからです。ネット上でデモの呼び掛けをする、などということをしなければ、公安当局に引っ張って行かれることはないはずなのですが、インターネットの接続を切られたりするのではないか、といった恐怖感はやはりぬぐい去れないのです(実際、日本語ウィキペディアで上記の「事件」のそのものズバリを検索すると一時的にウィキペディアへのアクセスを遮断されます(ほかの項目も検索できなくなる))。そのような状況に置かれているので、知らず知らずのうちに表現上の自己規制をしてしまうのです。プロの「表現者」にとっては、これはかなりつらいことだろうと思います。

 そういった「表現者」の人たちにとって、もし、日本が活動しやすい場所なのだったら、活動の場を提供することは日本としても悪いことではないと思います。中国の内政に干渉するようなことは厳に慎まなければなりませんが、中国の人々が中国のために活動する場として、日本が活動しやすいのならば、孫文の場合がそうであったように、活動の場を提供することも日本としてのひとつの役割でしょう。NHKの「激流中国」や「新的中国人」のシリーズは、その意味でもひとつの記念碑的なシリーズだったのかもしれません。

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2008年7月17日 (木)

北京オリンピック観戦客の「足」の問題

 今日(7月17日)現在、北京の地下鉄10号線とオリンピック公園支線、空港と市内を結ぶアクセス鉄道(北京首都空港鉄道)は、まだ開通していません。開通日は「今週末」とだけ発表されており、19日(土)なのか20日(日)なのかわかりません。これらの路線については、最初は「6月末開通」という「ウワサ」があり、そのうち「7月上旬に開通」との発表があり、それが「7月中旬に開通」になり、今は「今週末に開通」ということになっているのです。なぜ開通が遅れているのかに関する情報は全くありません。

 北京にある既存の地下鉄でも、車両を新しいものに変えたり、切符売り場に自動販売機を導入したり、とオリンピックへ備えての準備が進められているのですが、先日、切符の自動販売機が登場した時は、お客が使い方がわからない、とか、機械が故障した、とかいうことが重なって、自動販売機にお客が殺到して混乱するトラブルがありました。地下鉄2号線の「北京駅」では、お客が数少ない自動販売機に殺到して危険なため、入り口を閉鎖する措置を講じました。地下鉄2号線の「北京駅」は、その名のとおり長距離鉄道の北京駅との乗り換え駅ですので、地方から出てきた大きな荷物を持った人が地下鉄に乗り換えることができず、地下鉄の隣の駅まで歩いたり、長蛇の列の後ろについてタクシーを待ったり、という事態になりました。

 北京の地下鉄は、東京でいう「スイカ」や「パスモ」、大阪の「イコカ」と同じICカードで乗れます。ICカードを持っていればスイスイ改札を通れるのですが、切符の自動販売機ではこのICカードにチャージすることができません。チャージは窓口でやる必要があるのですが、窓口が駅に一つしかないので、チャージする人は長蛇の列、というケースが多々あります。これだけ市場経済が進んでいる中国ですが、地下鉄は「公営」なので、自動販売機の設置を担当している人は「切符が買えればいいんでしょ」とばかりにICカードのチャージについては何も考えていない、など、「地下鉄」では、古い計画経済の体質がちょこちょこ顔を出します。それでちょっと心配なのが、北京オリンピック観戦客の「足」の問題なのです。

 北京市内の移動の手段は、地下鉄のほか、バス、タクシーがあります。バスは慣れていると安くて便利ですが、交通渋滞に巻き込まれると、「いつ来るかわからない状態」になり、停留所に人があふれます。北京はタクシーの台数は多く、普段は、気軽に拾えますが、夕方のラッシュ時や雨が降り始めの時は、みんなが一斉にタクシーを拾うので、途端に拾いにくくなります。その意味では、地下鉄は渋滞もないし快適なのですが、オリンピックを控えて7月1日から地下鉄に乗る時にも保安検査(ボディチェックなど)を行うようになったので、試合終了時などに大量のお客が一時的に集中する際には相当の混雑が予想されます。

 7月20日からは、自家用車などはナンバープレートの偶数・奇数で交通制限が掛かるので、多くのマーカー通勤族が地下鉄やバスを利用するようになると予想されます。従って、本来は、地下鉄10号線は、7月20日以前の「通常の状態」の段階で開業して、お客の流れなどに一応慣熟してから、マイカー規制によりお客が殺到する7月21日(月)からの週を迎えたかったはずです。しかし、結局、それができずに、新しい路線の開通とマイカー規制による地下鉄へのお客の殺到が同時に起こる事態になってしまいました。7月21日の週、朝夕の通勤ラッシュ時に地下鉄10号線がどういう状態になるのかちょっと心配です。

 日々の通勤の足も心配ですが、オリンピック観戦客の各試合会場への行き帰りの「足」の確保も心配です。北京は、まだ、東京のように「地下鉄が網の目のように張り巡らされている」というほど地下鉄が整備されていないので、多くのオリンピック会場は、地下鉄では行けない場所にあります。オリンピックの各試合会場へは、行きバスやタクシーを使えばたどり着けると思います(ただし、バスは路線が複雑だし、タクシーも英語はほとんど通じないので、初めて中国に来た人がバスやタクシーで目的地に行くのは、それなりに大変です)。

 最も心配なのが、帰りの足を確保することです。特にサッカーなど試合が終わると何万人もの人が一斉に帰る種目の場合は、バスはすぐに満員になるだろうし、タクシーがすぐつかまるとはとても思えません。テロ防止のため、試合会場周辺はほとんどが駐車禁止になると思うので、マイカーで相乗りで試合会場に行く、というのはたぶんムリです。特に心配なのは、オリンピック・スタジアム(通称「鳥巣」)に通じる地下鉄が(これから開通する)オリンピック公園支線1本しかないことです。近くの複数の地下鉄の駅との間でシャトル・バスを運行するという話もありますが、オリンピック・スタジアムは9万人以上入れるそうですので、満員のお客が一斉に帰途についたら、地下鉄1本でさばけるのだろうか、と不安になります。

 ちなみに東京近郊の場合、東京ドームだと、JR総武線のほか、東京メトロの地下鉄丸ノ内線と南北線、都営地下鉄三田線の合計4本の鉄道の駅があるから、試合後の人の波をさばけているのです。西武ドームは西武鉄道の西武球場線と山口線の2本しかありませんが、試合終了の頃になると、西武球場駅では列車を5~6本待機させる特別ダイヤを仕立ててお客を輸送しています。北京のオリンピック・スタジアムでこういった東京のスタジアムと同じような観客輸送ができるのだろうか、という点は、全くの未知数です。

 日本の旅行会社の「北京オリンピック観戦ツアーパック」のネット上にある広告を見ていたら、日本と北京との航空券とホテルは確保するが「試合会場とホテルとの間は公共交通機関を使って各自で行き来してください」というのがありました。普通は、パック旅行の場合、北京市内の観光は、バスを仕立てて移動するのが普通なのですが、ナンバープレートの偶数・奇数規制などの各種交通規制があるために旅行会社も確実にバスを手配することができないのでしょう。北京市内の幹線道路では、オリンピック期間中は「オリンピック車両専用レーン」が設定されていますので、主要道路では一般車両が通れるレーンは普段より1つ少なくなります。ナンバープレート規制と政府機関の公用車に対する規制により、自家用車や政府機関の車は普段の4割程度に減らすそうだし、オリンピック期間中は休暇を取る人も多いと思うので、道路のレーン数がいつもより1つ減っても、普段の北京のような交通渋滞は起きないと思いますが、試合会場近くでは、かなりの渋滞になることが予想されます。

 日本の旅行会社の「パック」の中には、サッカーの観戦ツアーで「行きは皆様を会場へお連れします。」「試合終了後は、各自でホテルにお戻りください」というのがありました。試合会場周辺は駐車禁止措置が採られるので、迎えのバスを待機させておくことができないから「各自でホテルにお戻りください」ということになるのでしょう。こういったパックに参加される方は、相当の覚悟が必要です。こういう状況だと違法タクシー(日本語だと「白タク」、中国語だと「黒車」)が出没する可能性がありますが、これは違法ですし、悪質なのにつかまるといくら取られるかわかりませんので、違法タクシーに乗るのはやめましょう。

 私は、今度の北京オリンピックでは、選手や競技関係者の移動などはきちんとやると思うので、競技自体は何の問題もなくスムーズに行われると思います。新聞記者に対する情報提供などもきちんとやると思います(プレス(報道関係者)に対するサービスが悪いと、何を書かれるかわからないので、北京オリンピック委員会もプレスに対するサービスはきちんとやると思います)。

 問題は、一般観客がオリンピック観戦に満足して帰るか、です。心配なのは、上に書いたように試合会場までの行き帰りの「足」の確保がきちんとできているのか、ということと、もうひとつは「チケット問題」です。日本ではオリンピックのチケットがなかなか手に入らないそうですが、それは中国国内でかなり大量のチケットが留保されていることを意味しており、かなりの数の「ダフ屋」が出ることが予想されます。「ダフ屋行為」は違法ですし、ニセモノのチケットをつかまされる可能性もありますから、「ダフ屋」からチケットを買うことは避けるべきです。一般観客の「足」の問題と「ダフ屋」の問題で、小さなトラブルが頻発するのではないか、というのが今の時点での私の心配です。また、試合会場入り口での保安検査が厳重で観客が列を作ってしまったさばききれず「試合開始に間に合わなかった」といった観客の不満が出る場面も出そうです。

 「足」や「チケット」や「警備の問題」などで一般観客が不満に思ったり、一部で観客が若干のトラブルを起こしたとしても、競技自体が無事終われば「オリンピックは成功」ということになるのでしょう。そもそも中国で暮らすためには、オリンピックがあってもなくても、「だまされないように細心の注意を払う」「情報がない中でいかに自分で判断するか」「予定が急に変更になった時にあわてずに対処できるか」といった「サバイバル精神力」が必要です。北京オリンピックを現地で実際に観戦される皆様には「サバイバル精神力」「我慢する精神力」「『何の情報ない』といった状態に耐え抜く胆力」「予定と違った事態が発生した時に柔軟に対処できるしたたかさ」をお持ちになり、「オリンピック観戦」という「戦い」を勝ち抜かれることを希望したいと思います。

 なお、私自身は、オリンピック期間中はずっと北京にいる予定ですが、残念ながらその種の「強靱な精神力」や「胆力」「したたかさ」については、まだまだ修行が足りていないので、競技場で見ることはやめて、テレビで観戦することにしています。

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2008年7月16日 (水)

ロシアに比べて中国の改革は成功したのか

 昨日(7月15日)、中国人女流作家・楊逸氏が書いた「時が滲(にじ)む朝」が第139回芥川賞を受賞しました。日本語を母国語としない作家が芥川賞を受賞したのは初めて、とのことで、これはすばらしいことだと思います。

 こういった外国にいる中国人の活躍は、中国本国にとっても誇らしい話だと思うのですが、この楊逸氏の芥川賞受賞については、中国での報道のされ方は非常に小さいものになっています。今のところ、新華社や人民日報では報じられていません。私はこの小説自体はまだ読んでいないので内容は知らないのですが、日本での報道を見ると、この「時が滲(にじ)む朝」の内容は、1980年代後半、立身出世を夢みる青年が、大学に入った後、民主化運動に参加するものの「1989年の事件」の後、小さな事件を起こして放校になり、苦い思いをしつつ日本に移住して生きていく、というようなストーリーのようなです。「1989年の事件」が出てくるためか、中国のメディアはこのニュースの取り扱い方を相当迷っているようです。

 「中国新聞網」では、この楊逸氏の芥川賞受賞のニュースは報じていますが、その作品について紹介する文章の中で「民主化運動に参加するものの1989年の事件の後、小さな事件を起こして方向になり・・・」といった紹介はされずに「人生の苦悩をきめ細やかに描写した喜びと悲しみの入り交じった青春小説」と紹介されています。

(参考1)「中国新聞網」2008年7月16日9:20アップ記事
「日本在住の中国人女性作家、日本の第139回芥川賞を受賞」
http://www.chinanews.com.cn/cul/news/2008/07-16/1313891.shtml

 この小説は、本当に「青年の苦悩」を描いたもので「1989年の事件」は単なる時代背景に過ぎず、この小説ではこの事件に対する政治的な意向の表明はなされていないようですが、現在の中国当局は、「とにかく『1989の事件』には触れたくない」のだと思います。この作品は、日本で最高の権威ある新人賞である芥川賞を獲ったということで、たぶん中国国内でもネット上などでは話題になると思います。楊逸氏ご自身で中国語に翻訳すれば、中国国内でも売れると思いますが、それを中国当局が許可するかどうかは、今の時点ではよくわかりません。

 このように表向き「1989年の事件」は、中国では「触れてはいけないこと」なのですが、知識人の中では1978年から始まった改革開放政策の中で「1989年の事態」とその後の中国の歩みをどう評価すべきか、といった議論は、まじめに議論が行われています。それを端的に表したのが、7月10日号の週刊紙「南方週末」(日本語表記は「南方週末」)の経済欄に掲載された二人の学者に対するインタビュー記事「ロシアの改革に比べて中国はより成功したと言えるのか」です。

(参考2)「南方周末」2008年7月10日号記事
「改革開放30年放談シリーズ第1回:ロシアの改革に比べて中国はより成功したと言えるのか」
http://www.infzm.com/content/14407

 この対談は「南方週末」の編集部が中国経済改革研究基金国民経済研究所副所長の王小魯氏と北京大学中国経済研究センター副主任の姚洋氏に対して行ったインタビューをまとめたものです。

 1980年代半ばからソ連共産党のゴルバチョフ書記長は、ペレストロイカ(政治改革)とグラスノスチ(情報公開)を進めて、改革を進めることによってソ連共産党とソビエト連邦を維持しようとしましたが、1989年には膝元の東ヨーロッパ諸国で次々に民主化革命が起き、ついには1991年、ウクライナ、ベラルーシなどが独立して、ソビエト連邦自体が崩壊してしまうとともに、ソ連共産党自身が解散したのでした。ゴルバチョフ氏も政治の世界ではエリツィン氏に破れ、ソ連の大部分の地域を占めたロシア共和国の初代大統領にはエリツィン氏が就任したのでした。その後、ロシアは、経済的には資本主義化を進め、政治的には選挙を通じた民主政治が確立されました。ただ、1990年代のエリツィン時代は、経済的・社会的混乱が相当に大きく、経済は危機的な状況にあり、多くの国民は苦しい生活を強いられた、と言われています。

 ゴルバチョフ書記長が「ペレストロイカ」「グラスノスチ」の改革を進めたのは、明らかにトウ小平氏が1978年から進めた中国の改革開放政策の成果を見て、ゴルバチョフがそれをソ連でも適用したいと考えたからだ、と私は思っています。実際、私が前回北京に駐在していた1988年頃は、経済的には中国の方が発展が速く、ソ連の人が中国に来ると、中国製の冷蔵庫やテレビを買って帰っていく、と言われていました。

 ところが1989年以降、中国はソ連・ロシアとは全く別の道を歩み始めます。中国国内でもソ連におけるゴルバチョフ改革を見ながら、民主化への動きが見られましたが、「1989年の事件」で、政治改革は完全にストップしました。以後、1992年まで中国では政治路線の紆余曲折がありましたが、結局1992年のトウ小平氏の「南巡講話」により、経済的には改革開放を今後とも進める路線が固まりました。この中国の路線は、経済的には改革開放を進める一方、政治的な民主化は進めないものでした。トウ小平氏は、文化大革命の政治的混乱の中で経済政策が停滞して人民が苦しんだことを自らイヤというほど経験していましたし、1989年~1991年に掛けて政治的変革を遂げたソ連において、ソビエト連邦自体が崩壊し、政治的にも経済的にも混乱が続いているのを目の前で見ていたので、トウ小平氏は「貧しい中国では、今、政治的論争をやっている時ではない。中国を分裂の混乱に陥れたら苦しむのは人民だ。とにかく経済的な成長をして、人民の生活を向上させることが先決だ。」と考えたのです。

 この結果、現在に至るまで、中国は驚異的な経済成長を遂げました。トウ小平氏の「先に豊かになれる地域や人は先に豊かになってよい」という「先富論」に引っ張られて、富裕層と社会の最低層の格差は広がりましたが、社会全体として急激に経済成長しましたので、社会の最低層でも一定の経済成長の恩恵を受けることができました。しかし、政治改革は1989年以降は完全に先送りされたため、政治的状況は1980年代と現在では全く変わっていません(1990年頃、末端レベルの村民委員会の選挙は始まりましたが、それもその後は全く進展していません)。そのため、中国では、社会の中の格差の問題や地方政府幹部の腐敗、環境汚染の問題などの様々な問題をいかにして政治に反映させるか、という政治的フィードバック・システムができておらず、一部の地方では人民の不満がうっ積しているところがあり、毎年群衆による暴動事件が頻発しています。

 こういったロシアと中国の状況について、西側には以下のような見方があります。

「ロシアは先に政治改革をやったので、今までは経済的には苦しかったが、一応、選挙による政治家の選出という政治的なフィードバック・システムはできたので、これからは経済的にはロシアは徐々に力を付けていくだろう。つまりロシアは政治改革という『苦しいこと』を先に済ませてしまったので、これからはむしろ中国より楽に経済の成長を図ることができる。」

「中国は経済成長優先で政治改革は全くやってこなかった。政治改革という『苦しいこと』を先送りしてしまったが、国内の格差がこれだけ広がった以上、なおさら政治改革は避けて通れない仕事になったが、これから政治改革という『苦しい仕事』をやりながら経済運営を行わねばならない中国は、ロシアよりも苦しい道を歩むことになる。」

「今の時点では、『苦しい政治改革』を経験したロシアの方が経済的には遅れている面もあるが、今後は中国がこの『苦しい政治改革』をやらねばならない。中国のように経済活動が活発になった後に行う『政治改革』の方が、既得権益グループによる抵抗が強く、大きな『改革の痛み』が伴う可能性がある。従って、長期的視野に立てば、中国の選択よりロシアの選択の方が結果的によかったと見るべきである。」

 「南方周末」に掲載されたインタビュー記事は、こういった西側の問題意識に対して真正面から議論するものです(今「西側の問題意識」と書きましたが、「南方周末」が「改革開放30年放談シリーズ」の第1回としてこの問題を取り上げた、ということは、この問題意識が中国国内にもあることを示しています)。

 このインタビュー記事のポイントは以下のとおりです。

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南方週末編集部:西側には、ロシアは先に「コスト」を支払ってしまったが、中国はこれから「コスト」を支払わなければならない、という見方がある。これについてどう考えるか。

王小魯氏:この問題は、ロシアがこれから得られるであろう「過去に払ったコストに見合う収益」と、中国がこれから支払うであろう「コスト」をトータルに見てどうかんがえるか、という問題に行き着く。ロシアは「ショック療法」により、急激な改革を行ったわけだが、結局は、少数の寡占者が利益を独占する社会を作っただけである。形式的に一般市民の投票による選挙制度はできたが、社会利益の公平化が図られたとは言えない。長期間のトータルで見れば、ロシアの改革の方が中国のやり方よりよかった、という見方は、これからロシアがうまくやり、中国が今後うまく改革を進められない、という仮定に基づいたものであるが、そういった仮定は公平な仮定ではない。

姚洋氏:中国は一般庶民の犠牲を強いることなく一定の経済的基盤を作ることができた。ロシアは1世代の間、一般庶民に非常に苦しい生活を強いていた。ロシアの平均寿命は56歳であり、中国の72歳に比べてずっと低いことを見てもそれはわかる。従って、ロシアが成功し、中国は成功しなかった、という見方は誤りである。

南方週末編集部:多くの西側の学者は、ロシアの現状を見て、結局はロシアの改革のやり方の方が中国の改革のやり方より優れたやり方だった、と見ていることについてどう考えるか。

王小魯氏:西側の人は「市場経済化」と「政治の民主化」という二つの座標軸で判断している。これらは一つの理論的な目標である。確かに現在のロシアにおいては既に両方が実現している。一方、中国では市場経済化は進みつつあるが未だ不徹底であり、政府による干渉も多い。また、政治体制においては、中国ではひとつの完成した体系は未だできあがっていない。その意味ではロシアの改革の方が中国の改革よりよかった、ということになる。しかし、「市場経済化」と「政治の民主化」の最終目標は何なのか? 結局は、一般大衆の生活が改善され、社会全体が発展することではないのか? 形式的に一般大衆による選挙で大統領が選ばれる制度ができていたのだとしても、大統領が社会の監督を受けて問題を解決したり、一般大衆の利益を代表したりしているのでなければ、真に政治体制の改革が行われたことにはならない。

姚洋氏:西側的見方をする人の多くは「中国には憲政がない」とか「中国には自由な選挙がない」とか概念的な面だけ見て「中国はよくない」と批判している。しかし、現在の中国の政府は「中性政府」とも言えるもので、大多数の人々の利益に一致する政策を選択できるし、一方で特定の利益集団の利益に引っ張られないようにすることもできる政府である。

王小魯氏:西側の人が言う一般大衆により選出される選挙によってできた政府は一般大衆の利益に反することがない、というのはそのとおりだが、一般に、一般大衆は「政府は小さければ小さいほどよい」と考える傾向がある。しかし、政府には一定の役割があり、政府を小さくし過ぎると結局は一般大衆の利益に反することになる。市場経済のあり方にもいろいろなあり方があるのと同様に、政治の面においても様々なやり方がある。私も政治改革はしなければならないと考えているが、最終目標は一般大衆の利益を図ることであり、今後改革を行うに当たっては、その改革が一般大衆の利益に合致するのかを常に認識しなければならない。
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 このインタビュー記事の中では、王小魯氏も姚洋氏も、現在の中国共産党と中国政府のやり方を肯定し、ロシアの「民主化」は一定の利益グループを形成しただけで、一般大衆の利益になっていない、と指摘して、一般大衆による直接選挙が全てを解決するわけではない、として、現体制を擁護する立場を取っています。その意味では、それほど真新しい内容を含んでいるわけではないのですが、1989年~1991年におけるソ連からロシアへの変革(当然その中にはソ連共産党の解体も含まれている)を横目で見ながらの議論をまじめにしている、という点で、私は注目すべきものがあると考えています。

 週刊紙「南方周末」は、その名の通り週末に発行される週刊の新聞ですが、かなり突っ込んだ記事や評論を掲載することで有名です。NHKスペシャル「激流中国」の「ある雑誌編集部~60日の攻防」(2007年4月2日(月)午後10時~10時49分:総合テレビで放送)で紹介された「南風窓」は、この「南方周末」系の雑誌です。「南方周末」は、広東省広州市で発売されている新聞ですが、なぜか北京の新聞スタンドでも買うことができます。1部2元(約30円)と中国の新聞にしてはやや高めですが、内容がなかなか鋭く、「お金を出しても読みたい」と思える新聞なので、運賃を掛けて北京に運んできても、結構ペイするくらい売れるのだと思います。上記のインタビュー記事にあるように、そもそも登場するのが北京の知識人が多いのも、北京で売れる理由の一つだと思います。

 これは中国の新聞の特徴で、広州で発行される新聞は北京市当局のチェックを受けない(広州市の監督下にある)ので、比較的自由にものが書きやすいのです。「自由に」とは言っても、上記の記事にあるように、現在の政府の政策に反対するようなことは書けないのですが、「視点」が現在の政府にとっては「痛いところ」「触れて欲しくないところ」も突くのが魅力です(だからこそ北京でも売れるのでしょう)。

 冒頭に書いたように、中国では、まだまだ「1989年の事件」については「触れてはいけない」のですが、確かな政策運営を進めるには、タブーを置かずに自由に議論し、その中から最も適切な政策を選択することが重要だと思います。従って、広州で売られている「南方周末」が北京で買える、といった方法(タテマエは守った上で、そのタテマエの中で実質的な議論を進めていく)でよいので、中国の人々の間で、国全体の将来を考えて、中国の多くの人々の知恵を結集して、これから起こるであろう、いろいろな難局に当たってもらいたいと思います。

(2008年7月17日追記)

 2008年7月17日付けの「新京報」の文化欄では、楊逸氏が芥川賞を獲ったことが報じられています。

(参考3)「新京報」2008年7月17日付け記事
「中国人女流作家の楊逸氏、芥川賞を獲得」
http://www.thebeijingnews.com/culture/2008/07-17/011@092204.htm

 この「新京報」の記事では、受賞作「時が滲(にじ)む朝」について、次のように紹介しています。

「この小説は20年前の中国の社会的変動を背景としている。この小説では一人の中国人青年の足跡を追い、その風波の前後に遭遇した運命と失意について描写している。ストーリーの最後では、この男性主人公は、日本に移住したけれども『心の中では最初に持っていた理想を以前として持っていた』ことが述べられている。」

 この記事では「20年前の中国の社会的変動」とか「風波」とか表現していますけど、一定の年齢以上の人ならば、これを読めば何を指しているかはわかると思います。このあたりの表現が「1989年の事件」に関して、現在の中国の新聞で書ける限界なのだろうと思います。

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2008年7月14日 (月)

時事ネタ・ジョークはどこまで許されるのか

 6月28日に起きた貴州省甕安県での暴動事件は、ある少女が川で死亡しているのが見つかり、警察は自殺だと断定したが、少女が死んだ現場にいた男友達の中に県や公安の幹部の息子がいて、本当は少女を乱暴して死に至らしめたものを警察が自殺だと決めつけたからではないか、と多くの民衆が疑ったことから発生したのでした。

(参考1)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 上記のブログの記事にも書きましたが、この事件について、貴州省の公安当局は、少女が死亡した時の状況について次のように説明しています。

○男女4人が夜に川の上の橋のところへ来て話をしていたところ、少女が「川に飛び込んで死ぬのはやめた」と言った。

○この少女の男友達が離れていった後、もう一人の男性が橋の上で腕立て伏せを始めたところ、少女が川へ飛び込んだ。

○急いで助けようとしたが助けられず、警察を呼んで少女を引き上げた時には既に少女は死亡していた。検死の結果、死亡の原因は溺死だった。乱暴された形跡は見つからなかった。

 この公安当局の発表を聞いて、多くのネットワーカーたちは、若い男女4人が夜に橋の上に行って話をしているうちにそれぞれがバラバラになった、という状況の下で、その中の男が突然「腕立て伏せを始めた」という状況がどう考えても不自然だと感じたのでした。「この説明では納得できない」「ウラに何かあるはずだ」として、インターネットの掲示板でこの件に関する議論が燃え上がったのでした。そして、「寝苦しい夜には腕立て伏せをしよう」といったような、皮肉を込めた言い方が流行し、「腕立て伏せ」という言葉は、あっという間に中国のネット上での「流行語」になったのでした。

 こうした状況を背景にして、南京市内のあるマンションの建設現場で、マンション販売会社が「マンション価格は水に飛び込むようなことになるはずはない。ただ、腕立て伏せをしているだけだ!」という大きな広告板を出しました。これは最近、不動産バブルがはじけ気味で、マンション価格が低落している地域があることを踏まえて、「マンション価格が急落することはありませんよ。今、少し価格が下がっていますが、またしばらくすると上がってきますよ(だから、心配しないでマンションを購入しましょう!)」とお客に訴える広告なのです。貴州省甕安県での事件を念頭において、「水に飛び込む」「腕立て伏せ」という今ネット上で流行っている言葉を使った一種のジョークです。

 客観的に言って、少女が死亡し多くの住民が暴動を起こした事件をジョークで茶化すことは極めて不謹慎で、ひんしゅくモノだと私も思いますが、今の中国で、こういった政治的背景がある時事ネタを使ったジョークがどこまで許されるのか、を計る上では、ユニークな例だと思います。この広告は、今のところ、当局から「ケシカラン」というおしかりは受けていないようです。この広告主は、不動産価格が不安定になっている現状に対して有効な手を打っていない政府の政策にひとこと物言いをしたかったのかもしれません。その意味では、この広告は、社会的には相当に不謹慎でひんしゅくモノだとは思いますが、政治的には、結構、辛辣な風刺も含んでいると思います。

(参考2)「現代快報」2008年7月9日付け記事
「『腕立て伏せ』がマンションの広告になる」
http://www.kuaibao.net/html/2008-07/09/content_64068671.htm

 今、私の住んでいるアパートメントでは、香港で制作され衛星を使って配信されている普通話(中国の標準語)の音楽専門チャンネル「チャンネルV」を見ることができます。去年の夏頃、このチャンネルで流れていたある音楽配信サイト運営会社のコマーシャルを見ていたら、アニメーションで若い労働者風の男女が集団でピンク色の旗を高く掲げたり拳を高く振りかざしながら行進している場面が出てきました。1950年代の社会主義の宣伝映画の場面のような雰囲気でした。そして、「為音楽服務」という文字が大きく出て、この音楽配信サイトの会社名がバーンと画面に出たのでした。「為人民服務」(人民のために奉仕する)というのは中国共産党の最も重要なキャッチ・フレーズなので、このコマーシャルを見て、私は大いに受けてしまいました。掲げているのが紅い旗ではなくて、ピンク色の旗なので、まぁ、これくらいのジョークは許されるのだろうなぁ、と思いながら見ていました。しかし、このコマーシャルは、この時1回だけ見ただけで、その後は一度も見ることはありませんでした。

 私個人としては、大いに「受けた」このコマーシャルですが、誰が見ても中国共産党のキャッチ・フレーズのパロディであることは明らかなので、「その筋」からおしかりを受けたのかもしれません。このチャンネルは制作されているのが香港なので、そういったCMを制作する表現の自由は保証されているはずなのですが、この衛星放送局は大陸に配信することが大きな収入源ですから、「その筋」からおこられたら従わざるを得ないのでしょう。このCMが二度と見られなくなってしまったことから、私は、やはり、中国共産党のパロディというのは、中国においては「許される範囲を超えたジョーク」なのかなぁ、と思ったのでした。

 「これを言ってはいけない」「こういう表現をしてはいけない」という規制を掛けると、人々はそれに触れない範囲で微妙な言い回しで婉曲な表現を使って、自分の言いたいことを表現するようになります。上記の貴州省での暴動についてのこのブログの記事にも書きましたが、「水は船を浮かべることができるが、水は船をひっくり返すこともできる」といった掲示板の発言は、これだけ見れば、表現禁止の内容には当たりませんが、周囲の状況を踏まえると、相当きわどいことを表現していることがわかります。従って、上で紹介したマンション販売会社の広告板は、社会的にはいささか不謹慎だとは思いますが、今の中国では、政策に対する風刺、という意味では、なかなかひねった傑作のひとつと言えるのかもしれません。

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「中国の今」を伝える「バックナンバーの目次」

 「中国の今」を伝えるこのブログの各記事の目次の最新バージョンは、下記に移転しました。

※このブログの2008年9月30日付け記事
「中国の今」を伝える「バックナンバーの目次」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/09/post-c973.html

 このブログの各記事の検索には、上記を御利用ください。

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2008年7月13日 (日)

「オリンピックを機会に」と思う人々の願い

 昨日(7月12日)早朝、北京近郊で農薬を散布していたヘリコプターが墜落し、乗員1名が死亡したほか、墜落したヘリコプターが高圧電線を切断して約5,000戸が停電しました。また、昨日午前9時頃、北京市内の地下鉄2号線の朝陽門駅で一人の男が線路に転落し、地下鉄2号線が約10分間運行を停止しました。転落した男は軽傷で済んだそうですが、転落した原因は不明なのだそうです。これらのニュースは昨日の夕刊にも載ったし、今朝(7月13日朝)の「新京報」などの朝刊紙にも載っていました。

 午前中に起きた事件や事故のニュースがその日の夕刊に載り、翌日の朝刊に載るのは、日本(というか「普通の国」)ならば別に珍しくもない当たり前のことですが、今日の「新京報」の社説では「こういった『突発的に起きたマイナスのニュース』が1時間程度で新華社で報道され、多くの人々に知らされたことは、注目に値し、嬉しくてホットする」と評価しています。この手の「突発的なマイナスの事件」が迅速に新華社のページで報道されるのは、これが初めてではないし、「新京報」の社説が「注目に値し、嬉しくてホットする」とまで言って持ち上げるのは、やや大げさな感じはするのですが、今までの中国において「マイナスのニュース」が迅速に報道されにくかったのは事実です(社説を書いた人は「皮肉」のつもりで大げさに「伝え方が迅速だったのは良かった」と新華社を持ち上げたのかもしれません)。

(参考)「新京報」2008年7月13日付け社説
「オリンピックは情報公開された中国を試す一つの試験である」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/07-13/011@082021.htm

 この「新京報」の社説では、オリンピックが開かれることにより、中国の一挙一動に対して世界が注目し、何万人もの外国の報道陣が中国を訪れて「非常に複雑な状況」になるので、情報公開をさらに進め、情報を秘匿することによるリスクを減らすようにすることが必然的に求められる、と指摘しています。ある外交官は、最近の中国の情報公開は、オリンピックを開催するという圧力によるものではなく、中国の改革開放30年の結果として得られたものなのだ、と主張しているとのことです。この社説では「その意味では、北京オリンピックは、中国が改革開放の過去30年で得てきた中国社会の開放性と情報公開が徐々に進んできたことを試す一種のテスト期間であると信じる」と指摘しています。例によって、この社説では今ひとつ「ズバリ」と本音をストレートに書いてはいない感じがしますが、要するに、この社説を書いた「新京報」の論説委員もオリンピックを機会に中国の情報公開が一歩前進することを願っているのだと思います。

 よく多くの外国人が「北京オリンピックを機会に中国がより新しい段階へ進むことを期待する」といったことを言いますが、実はそう思っているのは中国の人々自身なのです。ただ「新しい段階へ進むこと」に対する期待を強く述べることは、「今まではダメだった」と表明することの裏返しですから、余りストレートにはそれを言えないだけなのです。

 今まで何回も書いてきたように、オリンピックが近づくにつれ、日常生活に影響する様々な規制が強化されてきています。日々の暮らしを少し我慢するから、それならその分、オリンピックを機会にもうちょっと「マシ」になって欲しいなぁ、と思うのは、中国に住んでいる外国人も中国の人々自身も全く同じ気持ちだと思います。

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2008年7月12日 (土)

軍隊が警備するオリンピック

 日本でも報道されているので皆様御存じだと思いますが、北京オリンピックのテロ警戒等に対しては、人民解放軍の陸海空軍が前面に出て、万全の体制で警備するとのことです。オリンピック・スタジアムの周辺には地対空ミサイルが配置され、海での競技が行われれる場所の周辺では海軍の艦艇が警戒に当たるほか海中にもフロッグ・マンを配置して警戒に当たるとのことです。

 下記の「新京報」の記事では配備されている地対空ミサイルの写真も載っています。オリンピックの安全を確保するために軍隊が警戒に当たるのは国際慣例だ、という説明が付いています。

(参考1)「新京報」2008年7月11日付け記事
「オリンピック競技場にはNBCテロ監視設備も配置」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-11/018@072718.htm

 上記記事では、NBCテロ(核・生物・化学テロ)に対策もちゃんと整っている、といったことが書かれています。

 一方、オリンピックを安全にスムーズに実施するために、以下のような対策が講じられるとのことです。

○車のナンバープレート偶数・奇数による交通制限を実施(下記(参考2)参照)。

(参考2)このブログの2008年6月20日付け記事
「オリンピック期間前後の北京の交通規制」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_22aa.html

○北京に入ってくる長距離バスの乗客は北京に入るときに身分証明書で身分を確認される(7月20日以降)。

○北京空港においては出迎え・見送りのために空港建屋に入る人に対しても保安検査が行われる。従って、乗客は飛行機に乗るまでに2回保安検査を受けなければならない(7月20日以降)。

○オリンピックの開会式が行われる8月8日は夜19時~24時の間、北京首都空港の全ての発着陸が停止される。

○地下鉄に乗る乗客に対して、持ち物等をX線検査装置に通すなどの保安検査を実施する(7月1日から既に実施開始)。

○全国17の主要な空港とチベット自治区、新疆ウィグル自治区の全ての飛行場において特別な安全検査を実施する(7月20日以降)(安全検査のために乗り遅れないように乗客には早めに空港へ来るように呼び掛けが行われている)。

○オリンピックのための交通の妨害とならないようにするため、軽微な交通事故の場合は、そこに車を止めないで、直ちに現場を離れるよう呼びかけられている。

○北京市内の病院に対して、オリンピック期間中は、テロ等の不測の事態が生じて緊急に輸血用血液が必要になることを想定して、不要不急の手術は行わないよう要請がなされている。

○オリンピック期間中、テロ事件、国内外の不法組織による破壊活動、オリンピック関係者及び外国人に対する傷害事件、多数の死傷者が出るような重大事故や重大な刑事事件について公安当局に通報した市民については、最高50万元(約450万円)の賞金を出すことにしている(下記(参考3)の「新京報」の記事参照)。

(参考3)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック妨害活動を通報した人には最高50万元の賞金」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025528.htm

 とにかく「オリンピックを安全にスムーズにやるために考えられる全てのことをやる」という感じです。一生懸命に「オリンピックを成功させたい」と思っている気持ちはわかるし、「人民解放軍の陸海空軍がしっかり守っている」ことをことさらにアピールしているのは一種の「抑止効果」を狙っているからだと思いますが、何となく「戒厳令下のオリンピック」みたいに思えて、「オリンピックを楽しもう」という雰囲気になかなかなれません。

 本当は、オリンピックを機会に多くの外国人に中国に来てもらって、普段着の中国を見てもらって、中国を理解してもらおう、というのも北京オリンピックの目的の一つだったはずなのですが、これではオリンピック期間中は「普段とは全く違う中国」になってしまうので、オリンピック観戦のために中国に来た外国人は間違った印象を持って帰ってしまうのではないかと心配になります。

 先日報道されたところによると、JTBが行った今年の7月15日~8月31日の夏休み期間中に行く1泊以上の旅行についての調査によると、日本から中国本土への旅行者数は昨年同時期比36.6%減の24万人と見込まれる、とのことです。景気の後退や航空燃料チャージの高騰が大きく影響しているものと思われますが、オリンピックがある年に日本からの旅行者数が対前年比36.6%の減少、というのは、どう見るべきなのでしょうか。オリンピック期間中は、北京市内のホテルが異常に高くなると見込まれているので、それが影響しているのでしょうか。この減少分のうちのいくらかは「警備が厳しすぎて、オリンピックを楽しもうという気分にならない」という気分的な部分も入っているのではないか、と私は思っています。「安全に」「スムーズに」も大事ですけれども、北京オリンピックはやはり「楽しく、感動的に」終わって欲しいと切に願っています。

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2008年7月11日 (金)

2008年上半期の北京の大気汚染指数

 今までにもこのブログで何回か国家環境保護部(今年3月の全人代の決定により「部」に昇格する前は国家環境保護総局)が発表する北京の大気汚染指数について書いてきました。

 大気汚染指数の定義等については、下記の記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 2006年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考2)このブログの2007年8月22日付け記事
「北京の自動車交通制限と大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_284f.html

 2007年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考3)このブログの2008年1月3日付け記事
「2007年の北京の大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/2007_7776.html

 今年(2008年)も上半期が終わりましたので、2008年1月~6月の北京の大気汚染指数を度数分布にしてみたら下記のようになりました。

【2008年1月~6月の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=1日)

000-020:■1
021-030:■1
031-040:■■■■■■■7
041-050:■■■■■■■■■9
051-060:■■■■■■■■■■■■■■■■■17
061-070:■■■■■■■■■■■■■■■■■■18
071-080:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■25
081-090:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■24
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■21
101-110:■■■■4
111-120:■■■■■■■■■9
121-130:■■■■■■■■■■10
131-140:■■■■■■■■8
141-150:■■■■■■6
151-160:■■■■■■6
161-170:■■■3
171-180:■■■■4
181-190:■■2
191-200:0
201-210:0
211-220:0
221-230:0
231-240:■1
241-250:0
251-260:■1
261-270:0
271-280:0
281-290:■1
291-300:0
301以上:■■■■4
合計=182日

 今までの傾向と同じように100以下と101以上のところで、明らかに不自然な「くびれ」が出ています。100以下は「良」、101以上は「軽微汚染」で、100以下を「青空」として、「青空」になる日を多くする、というのがオリンピックを控えての目標でした。確かに以前のデータに比べると、総体的には改善傾向は見られていると思います。ただ、以前にも書きましたが、上記の度数分布の形は、「青空」の日を多くする、という目標を達成するために数字の操作が行われている可能性を示している、と私には見えていました。

 今日、日本からの報道を見ていたら、北京市環境保護局の担当副局長は、7月10日に行われた記者会見で、記者から100以上のところの件数がへこんでいる現象について質問されてた際、「汚染指数が基準をわずかに上回りそうな時は、観測点周辺で応急措置を取る」と答えた、とのことです。

(参考4)アサヒ・コム(朝日新聞社)2008年7月11日1:56アップ記事
「『青空』増は人為的? 北京市『汚染ひどいと改善措置』」
http://www.asahi.com/international/update/0711/TKY200807100396.html

(参考5)「MSN産経ニュース」に載っている「共同通信」の記事(2008年7月10日21:44アップ)
「北京の青空に疑惑浮上 観測点で『応急措置』」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/160199

(注)これらのネット上の記事は時間が経過すると削除されます。おそらくこれらの記事は7月11日付けの紙面で記事になっていると思いますので、時間が経過してからこのブログを御覧になっている方は、新聞の紙面の記事の方を参照してください。

 北京市環境保護局の担当副局長が記者の質問に答えて「数字合わせ」のための操作をしていることをあっさり認める、というのも、素直と言えば素直、「あっけらかん」としていると言えば「あっけらかん」としているのですが、この北京市環境保護局副局長の発言を問題視するような中国の新聞の記事は私が見る限り見つかりませんでした。中国の新聞記者は「そういった『数字合わせ』はよくあることでニュース性がない」と判断したのでしょうか。それとも「当局の御指導」で記事にできなかったのでしょうか。

 いずれにしても北京市内の環境保護について「取り締まる側」の立場にいる北京市環境保護局がこのような「数字合わせの操作」をしている、という状態では、誰もまじめに環境基準を守ろうとしないのではないか、と私には思えてしまいます。それとも、こういった観測データが簡単にネット上で入手でき、記者会見で記者の質問に答えて北京市当局の担当者が正直に答えるようになった、ということに「中国の進歩」を見るべきなのだ、今の中国ではそれが限界なのだ、とあきらめるしかないのでしょうか。

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2008年7月10日 (木)

困難に直面する「メイド・イン・チャイナ」

 今日(2008年7月10日)付けの「人民日報」に掲載された評論「人民時報」では、最近の中国の沿岸部での輸出産業の不振に触れ、この不振を打開するには、自主的なイノベーションを進めなければならない、と力説しています。

(参考)「人民日報」2008年7月10日付け10面記事
「『メイド・イン・チャイナ』はいかにして難局を脱出するのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/10/content_56366.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

○広東省統計局が6月30日に発表した数字によると、今年(2008年)1月~5月の5か月間で、広東省の一定規模以上の工業分野の企業で赤字になったのが11,006社で、増加率は12.7%であり、この数は広東省全体の工業分野の企業の26.0%に当たる。赤字額ベースで言うと、増加率は49.3%に上る。

○広東省と同じように市場経済が発達している浙江省台州市では、5,371社ある一定規模以上の企業のうち赤字なのは1,111社で、赤字額総計は対前年比55.7%増である。

○こういった企業の業績不振は、国際経済の変化によるものだ。人民元為替レートの上昇、原油をはじめとする原材料価格の上昇と世界的な経済成長の減速が「メイド・イン・チャイナ」が生き残る「空間」を狭くしている。

○浙江省の紡績アパレル業界は、輸出依存度が60%であり、これらの要因の影響を大きく受けている。

○これまでの中国の輸出産業は、安い労働力と安い資源価格、増値税の還付措置などで守られてきたが、今は難しい局面に直面している。

○市場経済が進展した現状にあっては、政府が先祖返りするような財政的な補助金政策を行うことはあり得ない。政府は自主的なイノベーションを進めるための環境を整備する政策を採らなければならない。

○金融政策もまた重要である。政府は、金融制度を刷新して、金融企業が主体的に産業に金融サービスを提供するようにできるであろうか?

○「メイド・イン・チャイナ」の更なる「創新」は、社会的価値観を作り上げることと無関係ではない。不動産投機で儲けた人たちが莫大な利益を上げてそれを産業資本化できるようになった時、その財力で技術の研究開発が行われただろうか? 何千万人もの「サラリーマン」が株式市場で一攫千金を夢見てばかりいたのでは、コツコツと勤勉に働くことによって富を得るという職業精神をどうやって向上させようというのか? 創新(イノベーション)の成果を尊重することによってはじめて、自主的な創新を推し進めようとする力を永続させることができるのである。

○「メイド・イン・チャイナ」の苦境は中国の経済・社会の縮図である。長期的な高度経済成長の後には、経済と社会の深層に様々な矛盾が生じることを避けることはできない。「メイド・イン・チャイナ」が遭遇しているプレッシャーを、これからの成長のための動力源にし、困難に立ち向かっていくこと以外に新しい道へ脱出する方法はないのである。

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 日本の多くの人は「メイド・イン・チャイナ」が直面している問題の原因は、そんなことじゃないでしょ(食品安全やニセモノの問題でしょ)と感じている人が多いと思います。しかし、安全性が問題となっている食品やニセモノは、「メイド・イン・チャイナ」として輸出されている製品の一部に過ぎず、全体的な問題は、上記の人民日報が指摘している問題だ、と私も思います。

 ここでは、人民日報が、最近の国際経済情勢の下で、中国の輸出産業が苦況に立ちつつあることを率直に認め、それに対応するためには技術革新を行う以外にない、と指摘していることに注目したいと思います。この人民日報の記事では、株や不動産で儲けることにばかり熱中して、技術革新に投資しようとしない現在の多く資産家の傾向に対しても批判をしています。ただ、そういう傾向を招来したのは、党と中国政府による経済政策であったはずなので、それに対する自己批判がないところが、中国共産党の機関誌たる人民日報としては物足りない、と私は思います。

 具体的に、どうやったら、お金を持った人が株や不動産で儲けることに走らずに、「創新」にお金を使うようにできるのか、といった具体的な方策にも触れられていないのも、この記事の「物足りなさ」です。ただ、言うのは簡単ですが、中国の企業が自主的に自分で技術革新をするような気持ちにさせることはなかなか難しいと言わざるを得ません。今のマーケットでは技術革新のスピードが要求されますから、基盤技術を持たない中国の企業にとっては、長い時間が掛かる自主的な技術開発に投資するより、外国から安い技術をお金で買ってきた方がビジネスとしては有利だからです。結局は、「じっくりと研究して新しいものを見付けられる人」「コツコツと勤勉に働く人」が長期的に見れば利益をしっかりと得ることができるのだ、という経済社会にするための基盤をじっくり固めていくことが、時間は掛かるけれども、最終的な解決策なのだと思います。

 今年のお正月にも書きましたが、後から振り返った時、やはり2008年は、中国にとって、「北京オリンピックがある年」以上の大きな節目の年になるのだろうという思いを年の半ばにして改めて強くしました。

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2008年7月 9日 (水)

やっぱり生放送じゃなかった「生放送」

 7月9日付けの北京の大衆紙「新京報」によると、中国中央電視台(中国中央テレビ局)では、オリンピックの生中継においては、これまで30秒遅れで放送していた「現場直播」を国際映像と同様に本当の「生放送」で放送することにした、とのことです。

(参考)「新京報」2008年7月9日付け記事
「中央電視台、オリンピックの生中継時に初めて時間遅れのない放送を実施」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-09/018@081345.htm

 この記事によると、中国中央電視台では、今まで生中継(中国語で「現場直播」)で何かのイベントを中継する場合は、「放送における安全を保証するため」、30秒間の技術的な遅れを入れていた、とのことです。つまり視聴者は、イベントをリアルタイムで見ているのではなく、30秒前のイベントを見ていた、というわけです。それをオリンピックの生中継からは、この30秒の「技術的な遅れ」を入れずに、国際映像信号と同時のタイミングで放送することにした、とのことです。

 前にも書いたことがありますが、衛星を使ったNHKの国際放送ワールドプレミアムは、ニュースなどは総合テレビやBS-2で放送しているものと同じものを流しているのですが、タイミングは総合テレビ等から20秒~30秒遅れて放送されています。このタイミングのズレを利用して、当局が「不適切な画像」のカットの操作をやっているのです。3月~4月頃にチベット騒乱が起きたり、各国で聖火リレーに対する妨害活動があった時には、この「30秒遅れ」を利用して、NHKでも何回も検閲カット(ブラックアウト)をやられました。中国の国内放送でも、3月の聖火点火式では30秒遅れで放送しており、人権活動家が妨害活動をした場面は、中国国内での放送では別のアングルのカメラに切り替えたために、人権活動家の映像は放送されなかったと聞いています。

 上記の「新京報」の記事を見ると、今回の聖火リレー関連の中継だけではなく、中国では基本的に全てのイベントの生中継は全て30秒遅れで放送され、本当の「生中継」はされていなかったのですね。そういったことを堂々と発表するようになった、というだけで大進歩だと思うべきなのでしょうか。

 私は前から中国のテレビのニュース番組は生放送ではないのではないか、と疑っています(アナウンサーが突然「不適切な発言」をした時に適切に対処するためです)。イベントの生中継が「生中継」ではなかった、というところから見ると、案外、私の「疑い」も間違いではないかもしれません。

 なお、前にも書いたことがありますが、「30秒遅れがなくなった」ということをいいことに、外国人がオリンピックの観戦にかこつけて、政治的なスローガンをテレビカメラに撮させようというような試みは、中国ではやらないで欲しいと思います。中国は政治的なスローガンを許可なく公の場で掲げることは、それだけで「違法」です。オリンピックというスポーツの場で、違法な行為はして欲しくないからです。また、そういう法律があることを承知で中国に入国した外国人は、中国の法律を尊重するのが国際法上の義務だからです(政治スローガンを掲げることを「違法」にする法律自体がおかしいのだ、というのは、また別の議論です)。

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2008年7月 8日 (火)

またまた中国国内線航空便でトラブル

 今日、広東省広州から北京に帰ってきたのですが、またまたトラブルに遭遇してしまいました。私は午後広州発の便で北京に帰ることにしていました。夕方には北京に着く予定でした。広州空港に着くと定刻で搭乗手続きが始まりました。最近、中国国内出張では飛行機便のトラブル続きだったので「今回はトラブルなく帰れそうだ」と思いました。しかし、機内に入って、着席してドアがしまったのですが、なかなか動き出しません。そのうち「出発の指示が出ませんので、しばらくお待ち下さい。詳しい情報がはいりましたらお知らせします。」というアナウンスがあり、待たされました。いや~な予感がしたのですが、そのうちに客室乗務員がコーラやジュースのサービスを始めました。40分くらいたつと「今しばらく待機しますので、お待ちください。情報が入りましたらお知らせします。」とまたアナウンスがありましたが、なぜ遅れているのかは自分たち(乗務員)も知らない、という雰囲気でした。そのうちに、客室乗務員が上空で出す予定だった食事を乗客に配り始めました。「こりゃ長期戦だ」と思って覚悟を決めました。

 結局、私が乗った飛行機は、定刻より約2時間遅れで広州空港を飛び立ちました。

 途中の飛行は順調で、3時間ほどのフライトで北京空港に到着しました。「2時間遅れくらいならしかたがないや」と思って、荷物受け取り場所へ行きました。私の乗った便が表示されている12番のターンテーブルのところで待っていましたが、いくら待っても荷物が出てきません。「おかしいなぁ」と思っていたら、隣の11番のターンテーブルで荷物が流れ始めました。「どうも隣に荷物が出てくるらしい」とみんなが言っているらしいので、そちらへ行くと、表示されている便名が違うのですが、荷物が流れています。私と同じ便に乗った同行者の荷物は出てきましたが、私の荷物が出てきません。

 「託送荷物案内」のカウンターに行って「私の荷物が出てこない」と言うと、荷物のタグを見て、係員が12番で出てくるから12番で待っいてくれ、とのことでした。

 で、12番で待っていましたが、待てど暮らせど出てきません。もう一度カウンターに行って聞くと、同じように「もうしばらく12番のところで待っていてくれ」とのことでした。約1時間が経過し、12番のターンテーブルでは、私が乗った次の広州発北京行きの便の荷物が出始めました(広州・北京間はメイン路線のひとつなので1時間に1本くらいの間隔で飛んでいます)。もしかすると、この次の便の荷物の中に私の荷物が紛れ込んでいるのかなぁ、と思って辛抱強く待っていたら、案の定、私の荷物が出てきました。私の荷物に付いたタグを見ると、タグの上に手書きで次の便の便番号が書いてありました。私は体だけは2時間遅れで予定通りの便で北京に到着しましたが、荷物はさらに次の便で北京に到着していた、ということのようです。結局は空港を出た時刻は当初予定していた時刻より3時間以上遅れていました。

 「託送荷物案内」のところでは、「荷物は次の便で来るからもう少し待て」という説明は全くなく、とにかく「そのうち出てくるからもう少し待て」という説明でした。この係員が、一部の荷物は乗客が乗っていた便ではなく、その次の便で運んでいる、という事情を知っていたのかどうかは不明です。

 中国については、いいかげんなところが多いようなイメージを持たれている方も多いと思いますが、今までは、航空便の託送荷物で、荷物がなくなったり、別のところへ間違って運ばれたりしたことは、私は一度も経験したことがありませんでした。私は、ヨーロッパへ行った回数は少ないのですが、その少ない回数の中で、自分はウィーンからパリに行ったのに、荷物はデュッセルドルフへ行っていた、ということを経験しました。この時は、航空会社が翌日、ホテルまで荷物を届けてくれました。中国では、国内移動を何十回も経験していますが、今まで、こういう荷物のトラブルにあったことはありませんでした。

 以前、中国国内の別のところへ行った時にも、定刻に飛行機に乗り込んだのに、飛行機に乗り込んでドアを閉めたあと、そのまま4時間待たされてから、飛び立ったことがありました。その時は、中国語では「目的地の天候が悪いから」と言い、英語では「航空管制システムの理由により」といったようことを言っていたようですが、結局理由はわかりませんでした。その時、目的地にいる人に電話を掛けたら、「別に天気は悪くないですよ」とのことでした。

 何か都合があるのだったら、お客を飛行機に乗せないで待合室で待たせていた方がよいように思うのですが、待合室で待たせると、お客が買い物に行ったりして収拾がつかなくなるので、航空会社としては、とにかく登場させて、ドアを閉めて、お客が逃げないようにしてから待たせる、という方針のようです(中国の人は交渉ごとに強いので、遅れるなら、別の便で行く、と交渉する(ごねる)客が出るのが航空会社としてはイヤなのでしょう)。飛行機にお客を乗せてから何時間も待たせると、クーラーはオンにしておかなければならないので、エネルギーの無駄だと思うのですが、それよりも「お客をコントロール下に置いておく」ことの方が航空会社にとっては大事なのでしょう。

 この6月には、北京空港第三ターミナルで大規模な荷物搬送に関するトラブルが起きました。乗客の体だけが予定通りの便で飛んだのに、荷物が次の便で目的地に到着する、というケースが続出し、目的地で行った会議でプレゼンができなかった、といった苦情が殺到した、といったことが新聞に出ていました。

 このニュースを聞いた時は、北京空港第三ターミナルは、今年3月に運用を開始したばかりなので、職員が不慣れだとか、機器の故障があったからかなぁ、と思いましたが、今日の広州発北京行きの私の場合は、トラブルは明らかに広州空港で起きています。乗客(私)と荷物を同じ便に乗せなかったのは広州空港の問題であり、北京空港の問題ではないからです。

 以上を総合して考えると、最近の中国国内航空便のトラブルが多発している原因のひとつとして最も可能性が大きいのは、託送荷物に対する安全検査(レントゲンによるチェックなど)に時間が掛かり過ぎ、機体への積み込みが遅れたり、今日の私のケースのように荷物だけが次の便に回されたりしているから、ということのようです。北京オリンピックを控えて、テロを警戒して、公安当局が安全検査を相当入念にやっているからなのかもしれません。これは、空港の公安当局の問題であり、航空会社の責任ではないわけですが、航空会社としても公安当局からにらまれたら恐いのですから、機内アナウンスで「公安当局の安全チェックが遅いので」と言うわけにはいかないので、天気のせいにしたり、航空管理システムのせいにしたりするのだと思います。今日の私の経験では、機内のアナウンスは最後まで遅れた理由についての説明はありませんでした。今日は、中国の航空会社にしては珍しく「遅れて申し訳ありませんでした」と「お詫びの言葉」を言っていたので、「それなりの」誠意は感じましたが。

 最近、北京では、オリンピックの円滑な成功のためには、市民には少々の不便は我慢してもらう、という方針で、様々な規制強化が行われています。地下鉄に乗るのにも安全検査を受けなければならないし、7月20日からはナンバープレートの偶数・奇数による車の交通規制が始まります。大気汚染の原因となる工場については、北京市だけでなく、周辺の河北省に対しても操業休止の要請(「要請」とっても中国の場合は「指示」に等しい)が出されているそうです。

 結局は、オリンピックだけに着目すれば「順調にうまくいった」ということで終わると思いますが、そのために、周囲でいろいろ不便なことが起きそうです。オリンピックを機会に中国国内を観光しようと計画している皆様には、十分な時間的余裕を持ったスケジュールを立てるとともに、それなりの心の準備をしていただいた方がよいと思います。また、飛行機に乗るときには「託送荷物は次の便で遅れてくるかもしれない」ということをあらかじめ想定して、手元にないとどうしようもなく困るようなものは託送荷物の中に入れずに、機内持ち込み荷物として持ち込むようにした方がよいと思います(ただし、液体やハサミ、ナイフの類など機内持ち込み禁止の物品がありますので、何が機内に持ち込めないかは、航空会社や空港でよく確認してください)。

 ということで、最近の中国国内出張は、ストレスが溜まって疲れます。早く無事にオリンピックが終わって欲しいと思います。

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2008年7月 6日 (日)

「中国の不動産市場:急を告げる」との記事

 経済専門週刊紙「経済観察報」の2008年7月7日号(7月5日発売)の1面トップに「中国の不動産市場:急を告げる~開発業者が2つの大きな意見を提出、発展改革委員会は衰退のリスクに警戒~」と題する記事が載っていました。最近の中国の不動産市場の冷え込みに対して、開発業者が政府の関係機関が不動産市場に存在するリスクに対して関心を持ち、これを解決するよう希望する、との意見を出した、とのことです。意見の中身は具体的には「資金金融関係に対して下支えを提供できるかどうか」ということと「市場の需要に対して下支えを提供できるかどうか」ということ、とのことです。

 関連記事によると、今年1月~5月の全国の部屋の販売価格は対前年同月比の平均で11.2%上昇しているが、上昇幅は縮小傾向にある、広州、深セン等珠江デルタ地帯の都市においては価格は下降傾向にある、5月の新築住宅価格について見れば四川省の成都は0.4%、重慶は0.1%のマイナスだった、とのことです。また、今年1月~4月に販売された部屋の面積は対前年比4.9%の減少、そのうち住居用部屋の販売面積は対前年比0.4%減少だった、とのことです。その一方で、同じ時期に竣工した販売用の部屋の面積は19.5%の増加、うち住居用部屋の竣工面積は20.2%の増加で、供給量は依然として増えている、とのことです。

 こういった状況に対して、「中国の不動産市場が衰退するリスクがあるのか」「リスクがあるとして、それに対して政府が何らかの措置を取るのか、措置を取るとしてどのような措置をどのようなタイミングで行うのか」といった問題があります。「政府による市場を救済する措置」については、どういった措置が可能なのかは難しい問題です。

 北京地区においては、以前から、オリンピックを境にして建築ブームは一段落するのではないかと言われていました。それに加えて、5月12日に起きた四川大地震で、投機目的でマンションを買おうとしていた層が、資産としてマンションを購入することに対するリスクを強く意識するようになり、マンション購入を控える心理が働いているのではないか、とも言われています。

 ネット上で見られる「経済観察報」のページには、「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」と題する宋清華という人の書いた記事が載っています。

(参考)「経済観察報」ホームページ2008年7月4日付け記事
「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」
http://www.eeo.com.cn/Politics/beijing_news/2008/07/04/105347.html

 この記事では、住宅・都市農村建設部が発表した最新のデータとして、今年1月~5月に40の主要都市において売り出された新築の部屋と中古の部屋の累計の契約成立面積は、それぞれ24.9%、20.9%の比率で減少している、という数字を紹介しています。2007年の暮れから土地売買市場が冷え込み、多くの開発業者が大量の物件を抱えることに対するリスクを感じているとも指摘しています。

 原油価格の急騰に伴う影響など、今後の中国経済には、様々な要素が絡んで来ており、先行きを予測することが難しい状況になってきています。今後どのような変化が起こるにせよ、政府による適切な対処と市場関係者の冷静な対応により、その変化がマイルドでソフトなものになることを願いたいと思います。

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2008年7月 4日 (金)

大陸・台湾間で直行チャーター便が運航開始

 5月末に北京を訪問した中国国民党の呉伯雄主席と中国共産党の胡錦濤総書記との会談でなされた合意に基づき、今日(2008年7月4日)から、週末に中国大陸と台湾との間を直接結ぶ直行チャーター便の運航が始まりました。今日は、北京、上海、廈門(アモイ)、広州、南京の5つの都市から台湾へ向けての直行便が飛び立ちました。北京での「出発式」では、台湾弁公室主任の王毅氏(前駐日大使)が挨拶しました。その様子は、今朝の中国中央電視台のニュースの時間で生中継で放送されました。

(参考)「新華社」ホームページ2008年7月4日17:26アップ記事
「ニュース特写:海峡の対岸へ向かっての飛行」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/04/content_8491039.htm

 上記の新華社の記事に載っている写真を見ればわかるように、北京から台湾へ向かった飛行機には中国の国旗(五星紅旗)が描かれていないように見えます。台湾の飛行機も大陸へ飛んできますが、お互いに対立している点は避けて、実利を取ろう、ということで合意して、「旗」は表示しないことにしたのではないかと思います。

 大陸から台湾への訪問客は、基本的に「ツアー旅行団」を組んで観光します。6月30日のこのブログの記事で「自由時間もあるようです」と書きましたが、自由時間はあるけれども、ツアーガイドの許可の下で、ツアーガイドの指示に従って行動すること、という「注意事項」があるのだそうです。政治的な活動はもちろん禁止ですが、人と人とが顔を合わせて話をすれば、同じ中国人同士なんですから、わかりあえる部分がどんどん増えてくると思います。

 「観光ツアーは政治的には無色透明」とは言いながら、例えば、中国の観光客が台北の故宮博物館にある宝物を見てどう思うでしょうか。「政治的なものは見せない」という観光コースだとしても、街の片隅に書いてあることがらや、テレビ番組、インターネットなど「外の世界」が見られるわけですから、大陸からの観光客は「何か」を感じるかもしれません(当然のことですが、台湾は、中国当局によるインターネット規制の範囲の外です)。もっとも、「台湾ツアー」に参加できるような人たちはお金持ちで、今までに香港や日本へはさんざん行ったことのある人たちであって、「外の空気」を吸ってビックリするようなことのない人たちなのかもしれません。ただ、日本は外国だし、香港も長年イギリスの植民地だったから「外の空気」があるのは当然だとしても、同じ中国なのに台湾になぜ「外の空気」があるのか不思議だ、という気分にはなるかもしれません。

 いずれにせよ、大陸側と台湾側の政治的意図がどういうものだったかに関わりなく、人と人とが行き来して、顔を付き合わせて話をする機会が増える方向に世の中が進んだことは、素直に「歴史が前に進んだ」と喜ぶべきだと思います。これもオリンピックと同じように、中国が外へ向かって開かれていく道程のひとつになるのだと思います。

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2008年7月 3日 (木)

貴州省甕安県の暴動事件の真相

 本件は、日本のマスコミでも報道されており、また、現在まだ「なぞ」の部分も多く、これからも「真相」がわかってくるところがあると思いますが、記録の意味もあり、今日(7月3日)時点で書いておくことにします。

 海外のマスコミで報道されていることと、中国で報道されていることには微妙な違いがあります。しかし、これまでの多くの中国国内の地方での暴動事件とは異なり、本件については、中国国内でも報道されており、掲示板の発言も認められています(ただし、一定の主張の発言は削除されているようです)。今まで私が知り得たことをまとめておきます。

○海外マスコミの報道(いろいろな報道があるものを、筆者がポイントをまとめたもの)

「6月28日、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州甕安(日本語読みでは「おうあん」)県で、数千人(報道によっては数万人)による抗議行動があり、政府関係機関の建物や警察の車両が放火されたりする事件が起こった。数日前、ある少女が川で遺体で見つかり、少女の親族はそばにいた男の友人ら3名に暴行されて殺されたのではないか、と疑っていたが、警察は少女の死を自殺と判断し、3名を釈放した。取り調べを受けて釈放された3名の中に県の幹部の息子がいたために、暴行殺人がもみ消されたのではないか、とのウワサが流れた。抗議に訪れた少女の叔父が警察に抗議に行ったところ、その叔父は暴行を受けて死亡した。この暴動は、これらの警察の動きに怒った民衆が起こしたもので、この抗議行動により多数が逮捕された(報道の中には、取り締まりの過程で警察側が発砲し、複数の死者が出た、というものもあった)。」

○中国での報道

(参考1)「新華社」ホームページ2008年6月29日5:48アップ記事
「貴州省甕安(おうあん)県で焼き討ち事件が発生」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-06/29/content_8456598.htm

[(参考1)の記事のポイント]
 28日午後、甕安県において、女子学生の死因鑑定に対する不満を持つ一部の人が原因となって、群衆が県政府及び公安局に集まった。政府の責任者が応対している時、真相を知らない群衆が一部の人に煽動されて県の公安局、県政府と共産党県委員会のビルに押し掛けた。その後、少数の不法分子が、事務室を打ち壊し、多くの事務室と一両の車に放火した。事件発生後、貴州省の共産党常務委員、公安庁のトップらが現場に駆けつけて、29日午前2時の時点では人々は解散した。事態は拡大せず、甕安県の街は現在のところ正常な状態を回復している。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年7月1日9:50アップ記事
「貴州省の石宗源書記『6・28突発事件』は善処しなければならない、と語る」
http://news.xinhuanet.com/politics/2008-07/01/content_8468856.htm

[(参考2)の記事のポイント]
 貴州省の共産党委員会書記で貴州省の人民代表大会委員長の石宗源氏は、「6・28事件」の現場に行き事情を聞いた。石宗源書記は、「この事件は、もともとの原因となった事情は単純なものだったが、少数の下心を持った人たちによって煽動され利用され、「黒勢力」(暴力団)の参与によって、党委員会と政府に対して挑発された集団事件である。」と述べた。党中央・国務院も事態を重視し、胡錦濤総書記は、政治局常務委員の周永康(公安担当)に対応を指示した。公安部の孟建柱部長も何回も現地に電話して直接指示を行った。

(参考3)「新華社」ホームページ2008年7月1日13:30アップ記事
「甕安県の民衆は6・28焼き討ち事件を起こした不法分子に対する怒りの声を上げている」
http://news.xinhuanet.com/local/2008-07/01/content_8469834.htm

[(参考3)の記事のポイント]
 甕安県で6月28日に打ち、壊し、撞き、焼く事件が発生した後、甕安県の幅広い大衆の間に、法律を踏みにじって国家機関を焼き討ちし、公共財物を損壊した一部の不法分子に対する強烈な反発が引き起こされた。
(筆者注:「打ち、壊し、撞き、焼く事件」という表現は、今年3月14日にチベット自治区・ラサで起きた事件を報じる新華社の報道と同じ表現である)。

(参考4)「人民日報」2008年7月2付け2面記事
「貴州省公安庁、甕安県の『6・28』事件について報告」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/02/content_51574.htm

[(参考4)の記事のポイント]

・貴州省公安局は7月1日夜、記者会見を開いて6月28日に甕安県で起きた焼き討ち事件について記者団に説明した。この事件では警察官等100名以上が負傷したほか、県の党委員会、県の政府、県の公安局のビルが焼き討ちに合い、公共財産が損害を受けた。現在のところ、事件は終息しており、現在、基本的な調査が行われている。

・6月22日0時27分、甕安県公安局に110番通報があった。県の西門河大堰橋において人が川に飛び込んだとのことだった。近くの派出所の警官が現場に駆けつけ、3時頃、溺れた少女を発見したが既に死亡していた。警察は現場にいた劉某(別の報道によれば男)、陳某(男)、王某(女)の3人を取り調べた。死亡したのは1991年7月生まれのAさんだった(注:人民日報では実名が報じられている。人民日報は「強姦殺人ではなく自殺だ」という立場にあるので、死んだ少女の実名を報道しているが、このブログでは実名は伏せておくことにする)。

・調べによれば、21日20時頃、AさんとAさんの女友だちの王某、Aさんの男友達の陳某、陳某の友だちの劉某は西門河大堰橋のところに行った。彼らが話をしている時、Aさんが突然、「川に飛び込んで死んじゃうのはやめた。死んでも何にもならないのだったら、うまく生きていかなくちゃいけない」(中国語原文では「跳河死了算了,如果死不成好好活下去。」)と言った。約10分後、陳某が先に現場を離れた。陳某が離れた後、劉某はAさんの気持ちが平静になったと思ったので、橋の上で腕立て伏せを始めた。劉某が3回目の腕立て伏せをやった時、Aさんは「私は行くわ」という大きな声を出して、下の川に飛び込んだ。劉はすぐに川に飛び込んで助けようとした。王は急いで陳に電話して助けを求めた。陳はすぐに引き返してきて、川に入って救助しようとした。劉と陳は体力が続かず、岸の上に引き返した。王と劉はすぐに警察に通報した。

・甕安県公安局は調査の結果、Aさんの死亡は自分で川に飛び込んだ自殺と判断して家族に伝えたが、家族は強姦殺人の疑いがあるとしてDNA鑑定を要求した。6月25日午後、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州の公安局が派遣した医師により検死が再び行われ、溺死と判定された。しかし、家族は遺体を埋葬せず、王某、劉某、陳某の責任を追及し、公安部門に対して50万元の賠償を請求した。

・県当局の何回にもわたる説得の結果、Aさんの家族は6月28日に協議書にサインすることになった。しかし、6月28日16時、Aさんの親族は300人以上の人たちと一緒に横断幕を掲げて県政府庁舎にデモを行った。土曜日の午後だったので、街に多くの人がおり、一部の群衆がデモに加わって、16時30分頃には多くの人々が公安局ビルの前に集まった。警察は解散するよう説得したが、少数の人による煽動によって、一部の不法分子がミネラル・ウォーターのビンや泥の塊やレンガで警察官を攻撃し、警察官が作った人垣を突破して、ビルを打ち壊し、車両に放火した。20時頃、不法分子は共産党県委員会や県政府のビルに対しても打ち壊しを行った。打ち壊し行為は7時間に及んだ。ケガをした人は150名以上に及んだが大部分は軽傷で、死者はいなかった。

・打ち壊し行為に直接参加した人に多くの地元の暴力団員が含まれていた。現在までに50余人が拘束され、取り調べが行われている。

・7月1日、Aさんの家族に対する説得が行われ、家族は遺体を埋葬することに同意したが、その前にもう一度遺体を検査することを要求した。貴州省公安局は、もう一度貴州省と県の法医学関係者が共同して遺体を検査することを決定した。

(参考5)「新京報」2008年7月2日付け記事
「甕安県の共産党県委員会や県政府が焼かれ50余人が拘束された」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/07-02/021@073020.htm

[(参考5)の記事のうち(参考4)の記事にない情報のポイント]

・自治州政府の要請により二度目の検死を行った都匀市の法医師の王代興氏が7月1日に語ったところによると、「死因は溺れたことによる窒息死で、死ぬ前に性行為が行われた形跡はない。陰道の分泌物を検査したが、精液成分は検出されなかった。」とのことである。

(筆者注)上記説明の中に「陰道の分泌物を検査したが、精液成分は検出されなかった。」とあるが、筆者の理解では、日本の判例では、そういう状態に至らない状況であったとしても婦女暴行罪は成立する、とされている。従って、日本の裁判では、上記の証拠だけでは「婦女暴行はなかった」ことの証明にはならないと思われる)。

・貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州政法委員会の羅毅介書記によると、現場にいた陳某、劉某、王某は、三人とも両親は農村に住んでいて農業に従事しており、ウワサになっているような「現場にいた3人の中に県の書記や副県長の息子がいた」という事実はない。

・甕安県公安局の周国祥副局長によると「死んだAさんの叔父が警察で乱暴されて死亡した」というウワサがあるが、死んだAさんの叔父が警察で乱暴された、という事実はない。Aさんの叔父は、派出所を出た後、教育局の事務局で報告をしていた。その後、保険会社の入り口のところで殴打された、とのことである。この事件については、現在、警察において調査中である。

(参考6)「人民日報」のホームページに2008年7月2日13:29にアップされた記事
(もともとは「金黔オンライン」に載っていた記事を人民日報ホームページが転載したもの)
「甕安事件の死者の叔父が真相を語る:私は死んでいない、デマを言ってはいけない」
http://society.people.com.cn/GB/8217/126097/126098/7458367.html

[(参考6)の記事のポイント]

 Aさんの叔父は中学校の教師である。現在、暴行事件でケガをして入院中であるが、「私は死んではいない。変なデマは流さないで欲しい。」と言っている。Aさんの叔父の話は次の通り。

・6月22日の深夜、姪が死んだと聞いたので、現場へ行って遺体を確認した。その後、状況を聞こうと思って警察の事務室に行った。警官がこの事件の処理で忙しそうにしており、私が入っていくと大声で「何しに来た!」と怒鳴った。私も姪が死んで気が立っていたので「遊びに来たんだ!」と言い返した。すると警官は「出て行け!」と言って私を突いて来たので、ケンカになった。

・その後、教育局から呼び出しがあり、警官との衝突の状況を説明に行った。教育局を出て保険会社の入り口のところへ行ったら、正体不明の6人の男に出会って暴力を振るわれた。すぐに110番した。警官が来て、私は病院に送られた。それ以来病院から出ていないので、焼き討ち事件のことは知らなかった。

・焼き討ち事件の当日、家族が病院に来て、「街の人はみんなあなたが公安局で殴られて死んだと言っている。1万人にも上る人があなたと姪の怨みを晴らすのだ、と言っている」と言っていた。私は死んだ姪の親族として、このような事態に発展するとは思いも寄らなかった。私と私の親族は、絶対に焼き討ちに加わっていないし、焼き討ち事件が起こることを全く希望していなかった。

(参考7)「人民日報」のホームページ2008年7月3日8:30アップの記事
「貴州省の事件処理担当グループ、6・28事件の深層原因について初歩的に分析」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/7462193.html

[(参考7)の記事のポイント]

 7月2日、貴州省の副書記で、共産党省委員会が設置した甕安6・28事件担当グループ・グループ長の王富玉氏と副省長で担当グループの副グループ長の黄康生氏は、甕安県幹部の検討会において次のように発言した。

・多くの人は、甕安6・28事件の原因にはいくつかの側面があると考えている。

(1) 一つ目はもともと治安が良くないことである。暴力事件が年間600~800件発生しているが、検挙率は50%に過ぎない。

(2) 二つ目は社会的矛盾が蓄積していることである。住宅の取り壊しに係わる紛争や国有企業の改革において多くの矛盾が出現している。一部の人々の合法的な権益が守れていないケースがあり、一部の民衆の間に怒りが溜まっている。

(3) 三つ目は、道徳教育が十分に重視されていないことである。少数の幹部は党の幹部としての品性に欠けており、危機意識が欠けている。一部の学校では知識教育偏重になっており、思想、品格、徳育教育を重視していない。一部の民衆は法律意識に乏しく利益追求の気持ちが強すぎる。

(4) 四つ目は、一部の幹部の誠実さの欠如である。一部の部門の幹部は、民衆と相対し、民衆の中に深く入って、民衆を指導する能力が不足しており、民衆の気持ちを理解せず、行政が硬直的になっている。罪人を恐れて法による処罰を厳正に行わなかったり、法執行において情実を掛け、情を以て法に代えるという現象が起きている。

(5) 党の基層において基礎的な工作が不足している。基層においては党員が模範となるべきなのにそれがうまくできていない。

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 インターネットにおける本件に対する扱い(インターネットにおける本件関連事項へのアクセス規制など)や報道の仕方は時期によって扱いが揺れているようです。「新華社」は事件発生の翌日6月29日の早朝の時点で報道を始めています。中国の地方における暴動事件の報道としては異例の早さだと思います。しかし、人民日報が本件に初めて触れたのは事件が発生してから3日目の7月2日です。また、私が見ている範囲では、テレビでは本件は報道されていません。「新華社」の記事に付随している掲示板に対する書き込みは、基本的には認められており、先日(6月20日)に胡錦濤総書記が突然登場した「人民日報」のホームページの掲示板「強国論壇」にも、本件に関するたくさんの書き込みがなされています。ただ、党批判、政府批判に走るような発言は削除されているようです。

 本件に関しては、当初から、焼き討ち事件を目撃した人が撮影した写真が大量にネット上にアップされました。6月30日夜の時点で中国の最大の検索エンジンである百度で「甕安」というキーワーで画像検索すると、多くの焼き討ち事件を撮した写真がヒットしました。ただ、私が見た時点(6月29日夜)では、多くの焼き討ち事件の写真のサムネイル(見出しとして使う縮小した写真)は見ることができても、そこをクリックして拡大して見ようとすると「削除されていて存在しません」としか表示されませんでした。7月1日の夜時点になると、百度で「甕安」というキーワーで画像検索しても、焼き討ち事件関連の写真は、サムネールも含めて全く表示されませんでした。余りに多くの数の写真がアップされたために当初は削除し切れなかったようですが、結局は現場の写真は削除する、というのが当局の方針だったようです。

 本件については、新華社や人民日報が「デモは、真相を知らない一部の人が煽動したもので、焼き討ち事件を起こしたのは一部の不法分子で、その中には地元の暴力団員が含まれている」というトーンで報道していますが、掲示板の発言には、こういった報道の仕方に対して、かなりの批判が出ています。新華社の報道では、事件翌日早朝の記事で「一部の人が真相を知らない群衆を扇動し・・・」といった表現が使われていますが、この時点では誰も「真相」は知らなかったはずで、それなのに新華社が「真相を知らない群衆を扇動し・・・」と群衆は真相を知らないはずだと決めつけているのはおかしい、という批判です。また、今回は多くの焼き討ち場面の写真がネットに掲載され、実際に数千人に上る人が公安局の前に集まっていることは事実だ、とみんな知っていたので、新華社が言っている「少数の不法分子」という表現はおかしい、とみんなが思ったのです。また、ウラに何かなければ「一部の人の煽動」だけで、あれだけの数の群衆が騒ぐはずがない、ということはみんなよくわかっているので、新華社の報道はおかしい、と感じたのだと思います。

 中国で公式報道を批判するような掲示板の発言が削除されずに残っている、ということは、かなり珍しいことです。当局側も、先に胡錦濤総書記が「人民日報」ホームページの掲示板「強国論壇」に登場したように、ネットの発言を削除しまくっているだけではもはやネット世論をコントロールできない、と考えるようになったからのようです。

 新華社の記事についている掲示板には、「事態は発展していない。既に正常に戻っている。」という新華社の表現について「記者の良心はあるのか。事件の原因は? 現場に行って調べないのか? 我々は真相を知りたいのだ!」といった報道に対する辛辣なコメントもありました。また、「水は船を浮かべることができるが、水は船をひっくり返すこともできる。共産党は反省しなければいけないのではないか。」といったかなり大胆な発言も削除されないで残っていました(今も残っているかどうかは知りません)。

 また、事件の詳細の報道のうち、友だちが「橋の上で腕立て伏せをしているうちに少女が飛び込んだ」といった経緯に対しては、多くの人が「考えにくいシチュエーションだ」として疑問を持っているようです。また、死んだ少女の叔父は死んではいなかったものの「正体不明の6人組に襲われてケガをした」というのは事実のようですので、それが何を意味するのか、については、全くナゾが解かれていません。

 もうひとつ着目すべきなのは、(参考7)の人民日報の記事が「地方政府の側にもいろいろ問題があった」と指摘していることです。これは、チベット自治区のラサで起きた暴動については「一部の不法分子が外国勢力の煽動によって引き起こしたもの」という「公式見解」で押し通すことができたの対し、今回の貴州省の暴動では「一部の者が真相を知らない群衆を扇動し、少数の不法分子が焼き討ちを行った」という「公式見解」だけでは中国国内が収まらない、地方政府にも一定の責任を負わせなければならない、と当局が考えている現れ、と見ることもできます。事態がこれ以上拡大することはないと思いますが、「事態の処理の仕方が不適切だった」などという理由で地方政府の一部の幹部が処分されるような事態になるのかもしれません。

 なお、この事件は貴酬省の黔南プイ族ミャオ族自治州で起きた事件ですが、別の報道によれば、死んだ少女も、現場にいた3人の友だちも全て漢族であり、少数民族問題は、この事件の場合は関係ありません。

 まだまだ、これからも新しい事実が出てくるかもしれません。少なくとも、中国では、今までこの種の群衆事件については、全く報道されず「ヤミに葬られる」ことの多かったのですが、今回は、中国の公式メディアも、それが真相なのかどうかはともかく、情報を提供していますし、掲示板での発言も認められている、という点が今までと違うところだと思います。たぶん、オリンピックを控えて、世界に対して「情報開示が不十分だ」と思われたくないからだと思います。これも中国が変わっていく、ひとつの転換点なのかもしれません。

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2008年7月 1日 (火)

北京オリンピック観戦時の注意事項

 北京オリンピックの観戦を楽しみにしておられる方、行きたいのだけどチケットが手に入らなくてイライラしている方、などいろいろおられると思います。今回のオリンピックは中国で行われるということで、観戦するにもいろいろ「ルール」がありますので、現地で観戦される方は「ルール」を守って観戦するようにいたしましょう。

 在北京日本大使館のホームページに北京オリンピック委員会のホームページに出ている注意事項の日本語訳が掲載されていますので、現地で観戦される方は、御一読されてはいかがかと思います。

(参考)在北京日本大使館のホームページ
「北京2008年オリンピック入場チケット取り扱い注意事項」
~北京オリンピック組織委員会ホームページより~
http://www.cn.emb-japan.go.jp/olympic_j/ticket_j080529.htm

 中でも注意しなければいけないのは、持ち込み制限品目が結構多いということです。缶やボトル入り飲料などは、日本でも多くのスポーツ観戦で持ち込み禁止のケースが多いので慣れている方も多いと思いますが、特に下記のようなものは持ち込み禁止だと思っていない人も多い可能性があるので要注意です。

<競技会場に持ち込み禁止の物品の例>

○ドラ、太鼓、ラッパ等の各種楽器
○広げた時の面積が2m×1mを超える旗

【筆者のコメント】
 日本のプロ野球の応援と同じことを考えているとまずいですね。

○オリンピック非参加国である国または地域の旗

【筆者のコメント】
 これは昨今の事情を考えればすぐにわかると思います。

○全ての横断幕、スローガン、ビラ

【筆者のコメント】
 「がんばれ!ニッポン!」と日本語で書いた横断幕や、応援する選手の名前を書いた横断幕もダメ、というのは、多くの人にとっては、ちょっと欲求不満が溜まるかもしれません。

○長柄傘、カメラやビデオカメラの三脚等の先のとがった物品

【筆者のコメント】
 刃物やバットが持ち込み禁止なのはすぐにわかると思いますが、長柄傘などはちょっと盲点で持っていってしまいそうなので要注意ですね。要するに、これらの品々はケンカなどが起こった時に凶器になりかねないからです。

 あとは、「フラッシュを焚いて撮影しない」など常識の範囲でわかるものがほとんどですが、いろんなスポーツ応援に慣れている人でも「あれ?」と思うところがあると思うので、現地で観戦される方は上記の日本大使館のページは事前にお読みになっておいた方がよいと思います。

 規定に違反している物品は競技場に持ち込めませんが、入り口のところで持ち込み制限品を預かるサービスはやらないそうなので、持ち込み禁止品持っていってしまった場合には、その持ち込み禁止品を手放すか、そうでなければ観戦をあきらめるしかないようです。

 オリンピック競技場では、テロ防止のため、入るときにセキュリティ・チェックがありますので、協議の開始時間間際に行くと、観客がセキュリティ・チェックのところで列を作っていて待たされて、試合開始までに会場に入れない、というおそれがあるので、できるだけ時間に余裕を持って会場に来るように呼びかけが行われています。

 また、オリンピックのチケットを持っている人は、その試合当日の地下鉄とバス(長距離バスや北京空港鉄道は除く)は無料で乗れるのだそうです。これは便利で、よいサービスだと思うのですが、オリンピック・スタジアム(通称「鳥巣」)へ行く地下鉄は1本しかないし、この無料サービスのために、試合を見る前に買い物をしよう、などという観客も出ると思うので、北京市内の地下鉄やバスにお客が殺到して、一般市民はオリンピック開催期間中はほとんど地下鉄やバスを使えないのじゃないかなぁ、と心配性の私は今からちょっと心配しています。

 北京のタクシーは初乗り(2km)10元(約150円)で、その後500mごとに1元(約15円)づつ上がる、という料金体系で、全てメーター制です。日本人的感覚だと比較的安いと思うので、移動にはタクシーを使うのが便利かもしれません。ただし、北京のタクシーの運転手さんの収入は歩合制なので、運転は相当に荒いです。オリンピックを前にして、かなり厳しく指導がなされていることもあり、北京では、そんなにあくどい感じのタクシーの運転手さんに出会ったことはありませんが、地理を知らない外国人だと気付くとわざと遠回りするような運転手さんも中にはいるかもしれません。でも、基本的に、私は北京のタクシーは諸外国の中ではかなり安全だと思っています(世界的標準からすると、日本のタクシーは安全過ぎるので、日本のタクシーに慣れている方にとっては要注意かもしれませんが)。なお、北京のタクシーでは英語は通じないと思った方が無難です。日本人の場合は最後の最後は「筆談」という手がありますが。

 なお、タクシーを使う場合、競技場へ行くときは便利ですが、帰りは一度にどっとお客が帰ることになりますので、タクシーをつかまえることはまず無理でしょう。白タク(中国語では「黒車」と言います)が出る可能性大ですが、当然、白タクは違法行為ですから、気を付けましょう。試合を見た帰りは、北京の街を眺めながらのんびり歩いて帰る、といった心のゆとりが必要だと思います。

 そんなこんなを考え、しかも北京の8月の気候を考えると、屋外競技の場合は結構暑さが厳しいと思うので、やはりテレビ観戦が一番楽だろうなぁ、などと思っております。

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