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2008年5月 9日 (金)

日中関係で一歩踏み込んだ社説

 訪日中の胡錦濤主席と福田総理との間で首脳会談が行われ、日中共同声明が発表された翌日の5月8日、北京の大衆紙「新京報」は、「中日の戦略的互恵関係:改革の中に発展を探る」と題する社説を掲載しました。日中首脳会談の翌日の新聞が日中関係に関する社説を掲載するのは当然と言えば当然ですが、私は、この「新京報」の社説の内容は、少なくとも私が見た中国の新聞に掲載された日中関係に関する論評の中では飛び抜けて踏み込んだ内容になっていると感じました。

(参考)「新京報」2008年5月8日付け社説
「中日の戦略的互恵関係:改革の中に発展を探る」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/05-08/018@075847.htm

 この社説の中で私が新しい視点だと感じたポイントは以下の点です。

----(社説のポイント:始まり)----

○我々は今回の共同声明の中で、歴史問題について日本の戦略戦争に対する「反省」や「謝罪」が盛り込まれず、その代わりに「歴史を正視し、未来へ向かう」という中立的な表現になっていることに特に注目したい。中日両国がアジアにおける二大大国として、共に「戦略互恵関係」に則って21世紀を切り開いていくことを中国側が決心したことを明確に表しているからである。またこのことは同時に、日本が戦後60年以上にわたり平和的発展の道を歩んできたことを正面から評価し、肯定していることを意味しているからである。

○具体的な係争問題を棚上げにしてでも、地球規模の課題に取り組むことが歴史と世界が中日両大国に与えた使命である。中日両国は、国際社会における「責任を負った大国」として共に手を取り大きな目標を目指さなければならないのである。

○今回の共同声明では、原則として隔年ごとに首脳が相互訪問することを確認している。これまで両国は、共通に持つ東洋的性格から、両国首脳の個人的考え方が両国関係に色濃く反映されてきた。両国首脳の相互訪問を決めたことは、こういった問題を回避する「安全ネット」の役割を果たすだろう。

○もちろん、我々には「毒ギョーザ事件」によって起きた相互の信頼関係の問題や食品貿易への影響を回復させる必要があるし、東シナ海ガス田問題に関してはまだ話し合う必要がある、といった問題が残されている。しかし、双方は戦略的観点から前向きに問題解決へ向けて努力することができるし、協力と戦略的信頼関係を強化することもできるのである。

○日本は、中国の改革開放政策を進めるに当たって有効な支援をしてくれた隣国として、また、中国の人々の心の中にとっての現代化の「手本」として、中国が「遅れた改革者」としての変革の道を歩み終わることに対し、寛容と理解を持った視線を投げ掛ける必要がある。

○21世紀の中日関係が新しい未来を切り開けるかどうかは、両国が真の協和した大国同士として「君子の交わり」を結び、中国の改革(中国語では「転型」)の成功が大きく、深く行われることに対して妨害がなされることがないようにできるかどうか、に掛かっている。この意味で言えば、中国の改革は、日本にとっても「他人事」ではないのである。

----(社説のポイント:終わり)----

 「新京報」は、中央政府の基本的な方針に大きく反対することはしないものの、「人民日報」や「新華社」とはひと味違った、党・政府の公式な方針から一歩離れた独自の立ち位置から論説を展開するのが普通です。上記の社説は、基本的には5月7日に出された日中共同声明を肯定的に受け止めるとともに、歴史問題などに関しては5月8日に胡錦濤が早稲田大学で行った講演と同じ路線の論調ですが、私は以下の点で特筆すべき点があると思います。

・共同声明の中で日本による侵略戦争について「反省」や「謝罪」について触れられていないことをプラスに評価していること。

・「日本が戦後60年以上にわたり平和的発展の道を歩んできたことを正面から評価し、肯定している」として、中国の新聞としては今までになく日本の戦後の歩みを真正面からプラスに評価していること。

・日中両国を「アジアにおける二つの大国」と位置付け、「中国がアジアの中心になるべき」という発想に立っていないこと。

・「毒ギョーザ事件」「東シナ海ガス田問題」等、胡錦濤主席の訪日で「友好ムード」を盛り上げる努力をしている党・中央の方針の中にあって、日中間の問題となるべき点はきちんと指摘していること。

・日本を「改革開放を支援してくれた隣国」「現代化の『手本』」と表現したこと(日本について中国の新聞がここまで前向きな表現を使ったことを少なくとも私は見たことはなかったように思います)。

・この社説の筆者が「改革を進めていく過程で、中国はこれからいろいろ困難な局面に立ち向かうことになると思うが、そういう中国を『寛容と理解をもって』見ていて欲しい」と考えているとともに、中国の改革が失敗することは日本にも大きな影響を与えることを指摘して、中国の「正しい改革」に対する日本の支持と支援を期待していることが窺えること。

 最後に挙げた「正しい改革」とは、「新京報」はあからさまには表現しませんが、これまでの論調を踏まえれば、「政治の民主化」であり「政府の情報の公開」であり「表現や報道の自由」であり「社会的安定の中での格差の是正」であり「社会の底辺を支える人々に対する民生の向上」であると思われます。

 「新京報」の論説を書く人々は、政治の民主化の問題、人権の問題、政治に関する情報の公開性の問題、表現や報道の自由の問題、農村と都市との格差の問題など中国が抱える様々な問題があることはよく理解しています。一方で、社会の安定を維持し、経済的な混乱が起こるようなことのないようにしながらそれらの問題を解決することは非常に難しいこともよくわかっています。

 世界各地を回った聖火リレーへの対応において、欧米各国では、人権の問題などに対して批判が相次ぎましたが、批判した人たちが言うとおりに変えれば問題が解決するほど中国が抱える問題は単純ではありません。社会や経済を安定させた状態を維持しつつ、これらの問題を解決していくためには、まさに「寛容と理解をもって」中国の改革を辛抱強く支持することが必要なのです。この社説の筆者は、その役割を、中国との間で不可分の利害関係を持つ日本に果たして欲しい、と思っているのだと思います。

 胡錦濤主席と福田総理は、大陸においても台湾においても、現在でも「中国革命の父」と慕われる孫文ゆかりのレストランで会食をしました。胡錦濤主席は早稲田大学の講演の中で中国共産党の創始者である陳独秀、李大釗の名前を挙げ、彼らが早稲田大学に留学していたことを指摘していました。日本は、20世紀初頭、中国革命の指導者たちが育つ場を提供していたのです。胡錦濤主席は、そのことを改めて思い起こさせようとしたのだと思います。従って、日本が「寛容と理解をもって」中国の改革を支持する、というこの「新京報」の社説は、胡錦濤主席が言わんとしたことと相通じるものだと思います。

 今回の「新京報」の社説は、21世紀の日中関係を考える上で、非常に重要なポイントを突いており、私も大いに共感するところがありましたので、このブログで取り上げさせていただきました。

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