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2008年5月 3日 (土)

胡錦濤国家主席が5月3日に北京大学を訪問

 中国では、5月4日は、1919年の5月4日に始まった「五四運動」にちなんで「青年節」と呼ばれ、青年(14歳~28歳)には半日の休日が与えられる、という法定休日になっています。

---【「五四運動」に関する説明】(始まり)---

 1919年1月から第一次世界大戦の戦後処理について話し合うヴェルサイユ会議が開かれましたが、この会議において、中国は当時日本が占領していた山東半島を中国に返還するように要求していました。山東半島は、もともとドイツが租借地として支配していましたが、英仏に味方して第一次世界大戦に参戦した日本は、山東半島に出兵し、ここを占領しました。そして、日本は、1915年、「対華21か条」において、日本による山東半島占領を認めるよう中国に要求しました。英仏米もこの日本の要求を黙認したため、当時の中国の袁世凱政権はこの要求を飲まざるを得ませんでした。戦争が終わってドイツが負けたことから、中国政府は、アメリカ大統領ウィルソンが提唱していた「民族自決主義」の原則に基づき、山東半島を中国に返還するよう要求していたのです。

 しかし、第一次世界大戦の戦勝国側(英仏米日)がリードするヴェルサイユ会議は、この中国の要求を拒否しました。中国の要求が拒否されたことが伝えられると、中国の人々の列強各国、特に日本に対する怒りが爆発し、1919年5月4日、北京大学の学生らが天安門前へ向けてデモを行ったことをきっかけに、中国における反帝国主義の大衆運動が広がっていったのでした。これが「五四運動」です。5月4日は、中国革命において、学生ら青年たちの民族主義的な情熱から出発して、幅広い人々による大衆運動が広まった「真の革命」の出発点の日として、今でも歴史上の重要な日として位置付けられています。

---【「五四運動」に関する説明】(終わり)---

 世界を巡った北京オリンピックの聖火リレーに対して様々な妨害活動があったことから、今、これに反発して、中国のナショナリズムがいつになく高まっています。特にフランスでの聖火リレーに対する抗議活動が激しく、フランスのサルコジ大統領が「場合によってはオリンピックの開会式に出ないこともあり得る」といった発言をしていることから、中国の若い人たちの間にフランスに対する反発が高まり、フランスの会社が経営するスーパーマーケット「カルフール」での不買運動が起こるまでになっています(この不買運動は、「『カルフール』の大手株主がチベット独立運動グループを支援している、とのウワサがネット上で広まったことがきっかけになっています。「カルフール」側はこのウワサを否定しています)。

 中国国内のメディアも、「チベットでの動きに対する西側メディアの報道は偏向している」など、中国の人々の愛国主義的感情を煽るような報道をしてきたのですが、学生らの動きが「カルフール」の不買運動にまで発展したことを受けて、「愛国主義は重要だが、それは理性的に国家建設へ向ける必要がある」といった趣旨の論説を掲載するなど、ナショナリズムの過激化を警戒するようになってきています。特に、オリンピック成功へ向けて国際世論に対する配慮を示すため、チベット問題に関してダライ・ラマ側と非公式な接触を図ろうとしている中国政府にとって、あまりに過激なナショナリズムは好ましくありません。非公式とは言え、ダライ・ラマ側と接触しようとする政府に対して、学生らが「妥協しすぎだ」と反発すると困るからです。5月4日は、ナショナリズムの国民運動の出発点である「五四運動」の記念日なので、この日をきっかけに学生らの動きが、中国政府の思惑を超えるほどに盛り上げることは、中国政府としても困るのです。

 そんな中、5月1日に日本の時事通信は「胡錦濤国家主席が5月4日に北京大学を視察することを予定している」というニュースを配信しました。私は「まさか」と思いました。北京大学は「五四運動」の発生の地です。また、北京大学の学生は今でも「自分たちが中国をリードしている」というプライドを持っています。そんな中、「五四運動」の記念日に国家主席が北京大学へ行ったら、国家主席に「直訴」しようとする学生らに格好のきっかけを与えてしまうことになるからです。国家主席自らが「愛国主義の熱情は素晴らしいもので理解できる。しかし、その情熱は理性的に社会の建設のために向けて欲しい。」と訴えることは非常に重要なことだと思うのですが、それを5月4日に胡錦濤主席自らが北京大学に出向いて行うのはあまりにも刺激的だ、と私には思えました。また、警備上の都合から言っても、国家主席の視察日程が事前に報道されることはあり得ないはずだ、と私は思いました。

 ところが、今日(5月3日)夜7時から放送された中国中央電視台の「新聞聯播」によると、胡錦濤国家主席は、5月4日ではなく、今日(5月3日)に北京大学を視察した、とのことです。このテレビのニュースでは、胡錦濤主席が大学生らと和やかに交流したり、白人の外国人留学生と交流して国際的な相互理解の重要性を強調したりしている姿が放映されました。胡錦濤主席が5月4日に北京大学へ行く、という時事通信の報道は、一種の「おとり情報」だったようです。5月4日の前日に電撃的に行くことで、胡錦濤主席は、過激な学生らに「直訴」されるようなことなく、「愛国主義の熱情は理性的な方向へ向けよう」「国家の団結も重要だが、それを基にした国際的相互理解もまた重要だ」という強いメッセージを学生たちに発することに成功したと思います。

 一方、5月2日時点での日本での報道やBBC、CNNでは、ダライ・ラマ側の特使は、5月3日に中国に入って中国側と接触する予定、と報道していました(一部の報道では、ダライ・ラマ側の特使が行く場所は北京だ、と報道していました)。「五四」の前日にダライ・ラマ側と接触したりしたら、ナショナリズムで高揚している学生たちを刺激するだけで、タイミングとしては悪すぎる、と私は思いました。

 ところが、北京時間5月3日夜の報道によると、ダライ・ラマ側の特使は5月3日に中国に入ったが、中国政府の関係者と会談するのは5月4日だ、とのことです。また、NHKのニュースなどの報道によると、会談の場所は北京ではなく広東省深セン(香港の北隣)だ、とのことです。中国政府とダライ・ラマ側との非公式な接触については、中国国内のメディアでは伝えられていません。日本や欧米のメディアは、中国側やダライ・ラマ側から非公式に流される情報に「踊らされて」いるようです。こういった「水面下の交渉」が行われる時間や場所は、交渉がそれこそ「水面下」で行われるので、正確な情報はオモテには出ないのが普通なので、流される情報に振り回されないようにする必要があると思います。

 また、昨日(5月2日)、今日(5月3日)の時点で「カルフール」を意味する中国語の「家楽福」を中国の検索エンジン(百度(バイドゥ)、Yahoo!、Google)で検索すると「法律の規定に基づき検索結果が表示されません」と表示され、検索することができません。インターネットによる不買運動の動きが広がることを防ぐため、当局によるインターネットアクセス制限が掛かっているからのようです。

 こういったインターネット・アクセス制限については、当局側が公表しないのはもちろんのこと、中国の新聞でも報道されないのが普通なのですが、今日(5月3日)発売の経済専門週刊紙「経済観察報」(2008年5月5日号)では、1面に載せた「カルフールの5月1日」(中国語で「家楽福5月1日」)と題する記事の中で、「カルフール」の語が百度で検索できないことを伝えています。

 一方、中国「カルフール」のホームページに非常に似た(スペリングで1字違いの)アドレスを持つ愛国主義を訴える過激なイメージのサイトには、アクセス制限が掛かっておらず、閲覧できる状態になっています(このサイトでは「オリンピックを妨害するいかなる言論や行動に対しても断固として反対しよう」というスローガンが掲げられていますが、「不買運動をしよう」などとはひとことも言っていないので、削除やアクセス制限の対象になっていないものと思われます。しかし、そのアドレスを見れば「カルフール」を対象にしていることは明らかです)。

 また、新華社のホームページには、伝えられる記事に対する意見を書き込める掲示板が付いているのですが、「カルフール」の不買運動に対して「理性的に対応しよう」という専門家の論評に対する掲示板には、「専門家は何もわかっていない」など、不買運動を支持する書き込みが削除されずにそのまま掲載されています。

 胡錦濤主席の北京大学訪問を伝える5月3日の「新聞聯播」では、チベットのラサ地区がこのメーデー連休から国内の観光客に開放されたこと、北京で「チベットの今昔展」が開かれておりこれを見た多くの人が最近のチベットの発展に満足の意を示していることが伝えられていました。新華社等の公式メディアでは、今の時点でも「チベット独立派」「ダライ集団」の不当性を訴える記事を「これでもか」という程に連日報道しています。

 このようにナショナリズムの高まりや「カルフール」の不買運動、中国政府とダライ・ラマ側との非公式な接触に関する情報は、「何が本当で、なにが『おとり情報』なのか」「当局は、どの情報を制限し、どの情報の流布を許可し、世論をどの方向に持っていこうとしているのか」が現在よくわからない状況になっています(それゆえに、外国メディアの中には、中国当局の内部で対応の仕方に対する路線対立があり、軸足が定まっていないのではないか、と論評するところもあります)。

 ただ、インターネットの掲示板などでは、激しくナショナリズムを高揚させるような書き込みがありますが、「不買運動をやろう」と呼びかけられていた一昨日(5月1日)、北京市内にいくつかある「カルフール」の店舗のうち、店の前に人が集まって店に入る客に不買を呼びかける、といった目立った活動が行われたのは、北京大学などに近い中関村店だけで、そのほかの店では、大きな動きはなかったようです(ただ、「経済観察報」の記事によると、ほかの店でも、いつものメーデー連休に比べてお客はかなり少なかった模様です)。

 そういった状況も踏まえると、大多数の中国の人々は基本的に冷静なのだと思います。聖火リレーは、5月1日の香港を皮切りにして、中国国内に入りました。中国国内では、さすがに「抗議行動」などはないと思うので、これ以上「騒ぎ」が大きくなることはないと思います。ただ、オリンピック本番で、ナショナリズムの熱情に燃えた一部の若い人たちが、外国人との間でトラブルを起こすことだけは避けて欲しいと思っています。

 いずれにせよ「五四青年節」の前日に胡錦濤国家主席が自ら北京大学へ行った、ということは、党・政府も事態を重要視していることの表れだと思います(表向きは、開校110周年の記念式典に出席した、ということになっていますが、「五四」のタイミングを狙って行ったことは明らかです)。「不買運動」などをやっている若い人たちの気持ちが本当に「愛国主義」に基づくものなのであれば、彼らはこの胡錦濤国家主席の気持ちを汲み取って理性的に行動するはずである、と私は信じています。

(2008年5月5日深夜追記)

 上記の文章で「中国『カルフール』のホームページに非常に似た(スペリングで1字違いの)アドレスを持つ愛国主義を訴える過激なイメージのサイト」について書きましたが、5月5日夜現在、このサイトは、削除されたのか、あるいはアクセス制限が掛けられたからなのかわかりませんが、見ることができなくなっています。違法と指摘されないように注意して作られたサイトのように見えましたが、やはり見たイメージがちょっと過激な感じがしたので削除されてしまったのか、あるいは自主規制して自分で削除してしまったのかもしれません。

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