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2008年4月26日 (土)

「ダライ・ラマと対話の用意がある」の意味

 昨日(4月25日)、中国の新華社通信は「中国政府の関係者は、分裂活動やオリンピックへの妨害活動をやめるのならば近日中にダライ・ラマの私的代表と話し合う用意がある」と発言した旨伝えました。この報道が日本の長野での聖火リレーの前日で、長野での抗議活動をやるかもしれないと伝えられていた活動家グループ「国境なき記者団」が日本に入国する直前になされたことに、私は中国側の「意図」を感じました。

 私が想像する中国側の「意図」とは以下のようなものです。

○5月初旬にも予定されている胡錦濤国家主席の日本訪問を直前に控えて、聖火リレーへの妨害活動等に関連して欧米各国とはぎくしゃくした関係にある中国側としては、今までこの件に関して積極的に中国批判を行って来なかった日本との関係を良好なままに保ちたいと思っており、そのためには長野の聖火リレーにおいて中国に対する大きな抗議活動が起こっては困る。

○「中国政府がダライ・ラマ側と接触する用意がある」との意図を示せば、聖火リレーに対して抗議活動を行ってきた人々の抗議の根拠がなくなる。もしそれでも抗議活動を行えば、それは「政治的な主張に基づく正当な抗議」ではなく、単なる「嫌がらせの妨害行為」ということになり、もし混乱が起きても日本国民の世論が抗議者側に賛意を表することはなくなる。

 つまり、この「ダライ・ラマ側と接触する用意がある」という新華社の報道は、もちろん国際世論に配慮した、という意味はあるものの、そのタイミングを考えると、特に日本に対して出された「中国は日本とだけは友好的な関係を維持したい」というメッセージであると捉えていいと思います。

 4月26日に長野で行われた聖火リレーは、ロンドンやパリのような騒ぎにはなりませんでしたが、物が投げつけられたり妨害行為があり、逮捕者も出ました。また、集まった中国人留学生らと抗議行動を行おうというグループとの間で小競り合いがあり、中国人留学生ら数人がケガをしたとのことです。この長野の聖火リレーについては、中国のメディアは「聖火は日本の人々に歓迎されてリレーは成功裏に終了した」と報道したのみで、妨害行為や中国人留学生がケガをしたことは伝えていません。こういった報道の仕方も「日本との間ではギクシャクしたくない」という中国政府の「意図」を表していると思います。

 今後注目すべきなのは、今回の「ダライ・ラマ側と接触する用意がある」との中国政府関係者の発言が、単なる国際世論(特に日本に対する)メッセージだけで終わるのか、実際に中国政府がダライ・ラマ側と接触し、問題解決の話し合いのテーブルに着くかのかどうか、です。EUの代表は「もともとダライ・ラマ14世は『中国からの独立は主張していない』『自治の確立とチベットの文化や宗教の保護を求めているだけ』『北京オリンピックの開催は支持する』と主張しているので、中国政府とダライ・ラマ側との話し合いが持たれれば問題解決の余地はあるのではないか。」との期待を表明しています。この期待が現実のものになるとよいのですが。

 問題は、これまでさんざん「ダライ集団は国家を分裂させようとしている」とダライ・ラマ側を批判して国内の民族主義的な感情を煽ってきた中国政府が急に「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との考え方を示したことに対して、中国の人々(特に若い人々)がどのように反応するかです。「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との政府関係者の発言を伝える新華社電は、中国国内でも人民日報や中央電視台のテレビ・ニュースでも伝えられ、一般の中国国民にも既に伝わっています。今日(4月26日)は土曜日で、この後、5月1日からの3連休、5月4日の「五四青年節」(1919年5月4日以降、列強各国(特に日本)に対して当時の若者たちが民族主義的主張を掲げて起こしたことを記念した日)になりますから、今は若い人たちが何か動きを見せる時間的に余裕が持てるタイミングです。「五四青年節」に向けて、若い人たちがどう動くのかが気になります。

 民族主義的熱気に包まれた若者たちが「ダライ・ラマ側と話し合うなどとんでもない」と考えて、中央政府の考え方に反発するような動きを見せたりすると、話が複雑になります。もしそうなったら中国政府は、これまでダライ・ラマ側や西側報道機関を強烈に批判するキャンペーンを行って来たことの反動を自分で受け止めなければならないことになります。(新華社のホームページにある「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」という記事に付けられている掲示板には「政府の意向を支持する」という発言が並んでいますが、これが本当にネットワーカーの意見を代表するものであるとは、私にはとても思えません)。

 別の観点から捉えれば、この時点で「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との発言が公表されたことは、中国の党・政府の中で問題解決に対してどういう手法を取るかについての「迷い」(別の言葉でいうと内部での路線対立)があることを表しているのかもしれません。

 いずれにせよ、私は、中国の若者たちが過激な行動に走ることなく、国際的な感覚をもって(=外国の人々が自分たちの行動をどう受け止めているのか、を自覚して)、冷静に行動することを期待しています。問題は、今の若者たちは1989年の事態を知らない世代であり、1989年の事態に関する情報からいっさい遮断されているということです(1989年の事態に対する情報に関しては、インターネットで閲覧しようとしてもアクセス制限が掛かっています)。私としては「オリンピックを契機とした穏やかな歴史の前進」を改めて願いたいと思います。

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