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2008年3月21日 (金)

情報統制とデマ

 3月14日に起きたチベット自治区ラサでの騒乱をきっかけにして、チベット自治区以外の四川省、甘粛省などチベット族の多い地区で騒ぎが起きていることについて、3月20日、新華社通信が中国側メディアとして初めて伝えている、とNHKのテレビで言っていました。でも、新華社のホームページを見てみましたが、私は、その手のニュースはまだ見付けることができていません。また「新華社は外国のメディアには情報を提供しているけれども、中国人民には情報を提供していない」という状況のようです。

 新華社が外国メディアに提供している情報は、1日程度経ってから国内でも伝えられることが多いのですが、いずれにせよ、国内向けの情報は完全にコントロールされています。国内向けの情報がコントロールされていること自体は、中国の人々自身、よく知っているので、多くの中国の人々は中国のテレビを見たり、新華社のホームページを見たりしても、「実はもっとウラがあるんじゃないか。」「実際はこういうことが起きるのではないか。」と相当に疑心暗鬼になっているようです。

 それを象徴するような出来事が20日朝の北京の大衆紙「京華時報」に載っていました。四川省の成都で18日、バスのドアが壊される、という事件がありました。これに対してインターネット上で「バスが爆破された」とか「何人かの死傷者が出ている」といったデマが流れたため、成都市の公安局は18日の夜10時半に緊急に記者会見し、「これは普通の刑事事件である」とデマを打ち消すための説明を行ったとのことです。

(参考)「京華時報」2008年3月20日付け記事
「成都公安局が、爆発事件が起きて銃撃戦が行われている、とのデマを打ち消し」
http://china.jinghua.cn/c/200803/19/n868738.shtml

 この記事によると、事情は以下のとおりです。

○3月18日午前10時半頃、成都市内で、通常に運行していたバスを成都市の外から来た一人の男が停めようとした。

○バスの運転手は、停留所ではない場所だったので、バスを止めなかった。このため、この男は持っていた刃物類でバスを叩き、ドアを壊した。その後、この男は怒って近くに停めてあった2台の車を持っていた刃物類で打ち壊した。

○その過程で、近くでタクシーを待っていた群衆の一人の腰の部分を傷つけた。被害者は、貴州省から成都に出張で来ていた人で、軽傷だった。

○公安機関のこれまでの調べによると、事件を起こしたのは四川省アバ・チベット族理県の男だった。詳細は現在調査中。

 記事に載っている事実はこれだけなので、勝手に想像してはいけないと思いますが、昨今の状況を踏まえれば、これは単に酒に酔った男がうっぷん晴らしのためにバスのドアを壊した、といった類の「普通の刑事事件」とは違うのだろう、ということは容易に想像できます。当局がこういった事件に対して、情報を発表しないので、事件を目撃した人がインターネットなどで他人に情報を伝えていくうちに、「尾ひれ」がどんどんついて「爆破事件が起きた」とか「死傷者が出ている」とかいう「デマ」に成長していくのでしょう。上記の記事の見出しを見ると「銃撃戦が起きた」といったデマまで飛び交っていたようです。成都は、四川省の省都で、外国企業も多く進出しており、外国人もたくさんいますから、本当に成都で銃撃戦が起きているのだとしたら、どこかの外国メディアが必ず伝えるはずです。

 多くの中国の人は「テレビや当局の発表は事実を全て伝えていない」と知っていますから、少ない情報の中で自分でいろいろと友だち同士で情報交換をしあうのです。今は、携帯メールやインターネットといった情報ツールをみんな持っているので、それを通じてデマが拡大・拡散してしまうのです。

 この手の事件に対して、当局の発表やテレビでの報道は、20年前に比べれば、情報量は多くなったし、スピードも速くなったとは思いますが、今でも、通常、当局に都合の悪い部分は除いて発表されますし、発表されるのはだいたい事態が沈静化した後(従って、発表されるのは事態が起きてから何日か経ってから、ということが多い)になります。特に今回のチベットでの騒乱のような極めて微妙な問題に関するものについては、マスコミに載るのは当局の「正式発表」だけであり、記者が自分で取材して得た情報、というのはまず掲載されません。中国の「マスコミ」と呼ばれるメディアは、多くの人民の「知りたい」という要求には応えることができていないのです。それが、携帯メールやインターネットでデマ情報が広がる原因になっています。

 外国の衛星テレビの各チャンネルは、時々検閲によるブラックアウトを受けますが、衛星テレビを配信しているどこかの段階にいる検閲担当者のその場での判断で遮断スイッチを操作しているものと思われますので、同じ映像でもブラックアウトになったり、そのまま放送されたりします。また、テレビでは検閲ブラックアウトを受けていたのに、インターネット経由では、同じ映像が見られる場合もあり、情報検閲の判断基準はあまり統一的ではありません。これだけ情報流通ルートが多様化している現代においては、数多くの人手が掛かる検閲を完全に統一的に実施することは実際は不可能だと思います。そうした中で、こういった検閲をやる意味がどこまであるのか、大いに疑問です。

 ギョーザ事件については、多くの中国の人は「あの事件は日本で毒物が混入された、ということで決着した事件だ」と思っていますが、それは巧みな中国側のメディア統制のおかげです。その意味で、メディア統制、情報統制は、統治する側からすると、一定の成果が上がることは事実ですが、国内では不要なデマを発生させたり、外国に対しては中国のイメージを著しく損なったり、という点で、総合的に見れば中国にとってよいことではないと思います。

 多くの中国の人民が知りたいことを、知りたいタイミングできちんと流すことが、変なデマが流れないようにするための最良の方法だと思います。

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