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2008年3月 8日 (土)

なぜ農民工代表が全国人民代表になれるのか

 3月5日から第11期全国人民代表大会が開かれています。全国人民代表大会の議員(全国人民代表)は任期5年間で、第11期の任期は今年2008年から5年間ということになります。今年の全国人民代表の「目玉」として、農民工の代表が3人、代表になっている、ということが新聞などで取り上げられています。彼らは3月6日、記者会見に登場して、記者の質問を受けました。

(参考)「京華時報」2008年3月7日付け記事
「10人の社会を支える層(基層)から選ばれた全国人民代表がまとまって記者のインタビューを受けた」
http://beijing.jinghua.cn/c/200803/07/n771513.shtml

 このニュースを見て「へぇ~、苦労している農民工の中からも全国人民代表(国会議員)が選ばれるんだ。中国の民主化もかなり進んだんだなぁ。」と感心する人もいると思います。しかし、注意深い人はすぐに気が付くはずです。というのは、農民工は、農村戸籍を持つ人が都市部に働きに出てきているけれども都市部の戸籍を持っていない労働者のことを指すわけで、都市部の戸籍を持っていない人が、どうやってその地区の国会議員になれるのか、という疑問が湧くからです。農民工は、都市部の戸籍を持っていないために、都市部で医療保険などの福利政策の対象になっていないし、その子女は都市部の公立学校に入れない、などが大きな問題になっているのです。

 農民工が都市部の戸籍を持っていないのならば、彼らには都市部で「全国人民代表」に選出される法律的根拠があるのでしょうか。戸籍がないならば、被選挙権もないはずで、それならば「人民代表」に立候補できないはずだからです。

 もし仮に中国の選挙法では、その地区の戸籍がなくても立候補できるのだ、と仮定して、都市部で農民工が「全国人民代表の候補」に立候補できたとして、この農民工の候補者に投票する者(都市部の地方レベルの人民代表)は農民工の代表と言えるのでしょうか。

 中国の全国人民代表は、有権者による直接選挙ではなく、地方レベルの人民代表による間接選挙で選ばれます。一番下のレベルの地方の人民代表は人民の直接選挙で選ばれますが、立候補に当たっては中国共産党による推薦が必要、などの一定の制限があります。都市部で働く農民工には戸籍がないわけですから、最も下のレベルの都市部の人民代表を選ぶ選挙権もないはずです(農民工が持っているのは故郷の農村部の人民代表を選ぶための選挙権です)。であれば、都市部の地方レベルの人民代表は、都市部で働く農民工から選ばれた農民工の代表とは言えません。そういった都市部の地方レベル人民代表によって間接的に選ばれた候補者は、例えその人自身が農民工だったとしても「農民工の代表」と言えるでしょうか。

 以上の2重の意味で、今回「目玉」と言われている「農民工の代表としての全国人民代表」は、「農民工の代表とは言えない」と私は思っています。逆に「被選挙権があろうがなかろうが、全国人民代表になれる」という意味では、中国の全国人民代表を選ぶ制度のいい加減さ(=全国人民代表は、選出地域の人民を代表してない、ということ)を表していると思います。

 全国人民代表大会は、よくマスコミでは「日本で言えば国会に当たる」と紹介されます。しかし、上記の事情を見れば、全国人民代表大会が「普通の民主主義国」の国会に相当するものではないことは明らかです。今回の「農民工の代表が全国人民代表に選ばれた」というニュースは、中国当局の意図とは裏腹に、むしろ中国の全国人民代表大会というのはどういう性質の会議であるのか、を世界に示すニュースになったと私は思っています。

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