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2008年3月22日 (土)

情報統制批判に中国当局が強烈な反撃を開始

 「チベット騒乱に関連して、中国は情報統制をしている」との西側メディアの批判に対して、中国当局は大反撃を開始したようです。今日(3月22日)付けの英字紙「チャイナ・ディリー」の1面トップでは、「西側の暴動報道ではメディアが偏向していることを示している」という実例入りの記事を大きく掲げています。

(参考1)"China Daily" 2008年3月22日付け1面トップ記事
"Riot reports show media bias in West"
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-03/22/content_6557325.htm

 この記事では、下記のように、ホームページ上で見られる西側の記事を具体的に挙げて、意図的な情報の選択や誤った印象を与える解説がなされていると指摘しています。

○CNNのホームページに掲げられている "Reports: 100 dead in Tibet violence" と題する記事に掲載されている写真では、群衆が街の中を走ってくる取り締まり当局のものと思われるトラックに対して投石している場面の写真のうち、群衆が投石している部分をカットし、街の中を取り締まり当局のトラックが走っている場面だけを切り取って掲載している。

○ワシントン・ポストのホームページに掲載されている3月18日付けA06面の記事によると、ネパールのカトマンズでデモ参加者をネパール警察官が警棒で殴打している写真を掲載し、その写真のすぐ下に「中国政府は、中国によるチベットの支配に抗議するチベット族の抗議者を打ち倒している。警察は、チベット自治区の首都ラサにおいて、暴力行為に参加した数百人の容疑者を検挙している。」との解説が付いている(写真の内容と解説が一致していない)。

○ベルリン・モーニングポスト(ドイツ語)のホームページにおいて、警察に保護される漢族の男性の写真を掲載し、その解説に「警察に拘束される暴徒」と書いてある。

 同様の「西側の報道は偏向している」との報道は、中国語メディアでも、例えば、人民日報のホームページに掲載されている「環球時報」の記事で見ることができます。

(参考2)「人民日報」のホームページに転載されている「環球時報」2008年3月22日付け記事
「西側メディアは事実に反するチベット報道により世界の民衆をだましている」
http://world.people.com.cn/GB/14549/7032010.html

 こういった西側メディアに対する反撃は、3月20日に行われた外交部報道官の定例記者会見でも示されています。

(参考3)日本語版「人民日報」2008年3月21日付け記事
「ダライはあらゆる祖国分裂活動を完全に停止せよ」
http://www.people.ne.jp/a/331777a923f4422dbd50059019cdd064

 この中で外交部の秦剛報道官は、「(外国メディアの報道について)比較的客観的な報道もあれば、事実と著しく異なる報道もある。私たちはメディアに、責任ある態度で、客観的事実を尊重し、報道のルールに従い、客観的で公正的な報道を行うことを望む。」と述べています。この記者会見においては、外国メディアの記者が「ラサが既に安定を取り戻している、というのなら、なぜ我々外国人記者の質問に対して、秦剛報道官は「社会安定のために特別な措置を講じているので外国メディアの方々には御理解をいただきたい」と応えています。

(参考4)中国外交部ホームページ
「2008年3月20日の外交部スポークスマン定例記者会見記録」
http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/1032/t416737.htm

※この記者会見の応答を読むと、チベット問題に対する矢継ぎ早の質問に対して「どこの国でも暴力行為が発生したら、警察を出動させるでしょ?」と報道陣に逆質問するなど、いつもは冷静な秦剛報道官のいらついた気持ちを感じることができます。

 一方、中国国内では、チベット自治区やその周辺地区における騒乱では、凶暴な暴徒が商店などを襲い、一般市民を殺害している、という趣旨の報道が盛んに行われています。3月20日に中国中央電視台が放送した「ドキュメンタリー『ラサ3・14打ち壊し・焼き討ち暴力事件の記録』」という15分間のドキュメンタリー番組はインターネットでも見ることができます。

(参考5)「中国中央電視台」のホームページ
「ドキュメンタリー『ラサ3・14暴力事件の記録』」
http://space.tv.cctv.com/podcast/lasa314jishi

※このページの「視頻播放」という部分をクリックすると(通信状態が良ければ)番組を動画で見ることができます。

 また、今日(3月22日)付けの北京の大衆紙「新京報」の1面トップには、3月14日、ラサで中国国旗を焼く暴徒の写真が大きく掲載されています。

(参考6)「新京報」2008年3月22日付け記事
「チベットの不法分子、国旗を焼く」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/03-22/021@073410.htm

 ラサでの騒乱では、実際、漢民族が経営する商店などが焼き討ちを受けたものと思われます。これらの中国国内でのテレビ報道では、「このような暴力行為は良くない」と発言するチベット族の人に対するインタビューも放映されていますが、全国の中国の人々(特に大多数を占める漢民族の人々)に対して、騒動を起こしたチベット族の人々に対する憎悪の念をかき立てるのに十分だと思います。こういった中国国内での報道を見れば、中国の人々の中には、西側の報道の方が偏向している、中国をおとしめようとしている、と思う人が多いとしても、不思議ではないと思います。

 昨日(3月21日)夜の時点では、外国の衛星テレビに対する検閲ブラックアウトはだいぶ減りました。私が見た限りではCNNの日本時間22日01:00~のニュースでは一部検閲ブラックアウトがありましたが、21日夜のBBCニュースやNHKのニュースではブラックアウトはありませんでした。CNNのニュースでも米国のペロシ下院議長がダライ・ラマ14世のところを訪問したニュースについてはブラックアウトになっていませんでした。

 CNNについては、テレビ放送ではブラックアウトになった映像もインターネット経由では見ることができるケースが多いのです。3月20日を過ぎた時点で、外国テレビの検閲やアクセス制限は、一部が緩和されてきている可能性があります。3月22日現在、今までは各記事を閲覧することができなかったBBCのニュースのページ

(参考7)BBCのニュース・ページのトップ
http://news.bbc.co.uk/

に掲げられた一般の記事は北京からもアクセス可能になっています。

 しかし一部の記事、例えば

(参考8)BBCのニュース・ページの記事
"Tibet's unsettled borders"
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/asia-pacific/7304825.stm

には3月22日の時点では北京からはアクセスできません。また、BBCニュース・ページにある中国語版のページ

(参考9)BBCのニュース・中国語版のページ
http://www.bbc.co.uk/chinese

には3月22日の時点では従来通り北京からは全くアクセスできません。

(注)こういった一部のサイトへのアクセス制限や、一部のキーワードを使った検索の結果出てきたページを見ることができない、ということについては、CNNがリポートして放送しています。そのCNNのレポート自体は、インターネットで北京でも見ることができます。

 数多くある外国メディアのサイトを全てチェックしてアクセス制限を掛けることは事実上不可能です。今、中国のネット人口は2.1億人と言われています。中国人民がインターネットで外国メディアのページから情報を得ることを中国当局が阻止することはもはやできない時代になっているのです。そのため、中国当局としては、衛星テレビの検閲ブラックアウトやインターネットのアクセス制限を強化するよりは、中国国内向けに対して「暴徒はひどいことをしている」「外国のメディアは偏向しているので信用できない」というメッセージを大量に発出することによって、中国政府の措置に対する中国人民の支持を取り付けよう、という作戦に転換してきているものと思われます。

 これを補助する情報として、中国中央電視台のニュースでは「国際的には多くの国々から中国政府に対する支持の表明がなされている」として、支持を表明した国々の名前を多数並べて伝えていました。中国中央電視台が3月21日夜に放送したニュース番組「新聞聯播」によれば、中国の措置に支持を表明した国々とは以下の国々です。

「ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、グルジア、パキスタン、朝鮮(北朝鮮)、モンゴル、ネパール、ベトナム、フィジー、シリア、セルビア、ザンビア、ブルネイ、バングラディシュ、セラルレオーネ、レソト、モーリタニア、コートジボワール、コンゴ及びいくつかのアラブ国家」

(参考10)中国中央電視台のホームページ
「新聞聯播」2008年3月21日放送分
「チベット自治区ラサでの打ち壊し・焼き討ち暴力犯罪事件に対する我が国の法に則った措置は国際社会から広範な支持を集めている」
http://news.cctv.com/xwlb/20080321/104636.shtml

 欧米各国や日本、韓国といった主要国が全く入っていない国々の名前を並べて「国際社会の広範な支持を集めている」と主張するニュースに対して、中国人民がどのように判断するのかはわかりません。ただ、私が見る限り、中国当局によるこういった世論誘導は、中国国内においては、少なくとも当面は、騒乱を治め、騒乱の拡大を防ぐためには一定の効果を上げていると思います。

 「少なくとも当面は」と書いたのは、今回の中国国内向け報道は、多くの中国の人々(特に漢民族の人々)に対して、チベット人に対する憎悪や恐怖感を植え付けたと思われ、長期的な観点から見れば、中国にとって極めて重要な各民族の融和という課題に対しては、むじろマイナスに作用しているのではないか、と思われるからです。

 これから、中国政府は、国内の騒ぎや不安定さの拡大を何としても抑え、国際的にはオリンピックに対するボイコットの声が広がらないようにし、とにもかくにも北京オリンピックを無事に乗り切ることにがむしゃらに邁進していくことになるのだろうと思います。

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