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2008年2月20日 (水)

寒波時の鉄道部の情報提供は適切だったか

 1月末から2月初に掛けて、中国の中南部を襲った大寒波により、中国の鉄道も大きな影響を受けました。大雪そのものにより列車の運行が困難になった上に、高圧電線への着氷による断線や鉄塔の倒壊による電力網の寸断のため、広範囲で停電が起き、鉄道用の電力の供給も困難になった地域が多く、電車や電気機関車の運行ができなくなった区間が多かったからです。この時期は、ちょうど春節(旧正月;今年は2月7日が旧暦の元旦)の帰省ラッシュの時期と重なっていたので、各地で列車に乗ろうとして乗れない乗客が10万人のオーダーで集まり、一部では混乱も見られました。広州駅では、一時50万人を超える人が集まり、集まった群衆に押されて、1人の方が亡くなっています。

(参考1)このブログの2008年2月3日付け記事
「中国大雪被害:広州駅の群衆内で1人が圧死」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/02/post_9f0c.html

 この当時、私も毎日、中国の新聞やテレビを見ていましたが、大寒波による大雪・着氷被害が相当出ていることは伝えられているのですが、具体的に、例えば「鉄道の○○と××の間が不通になっている」とか「□□発▽▽行き列車番号△△△号の列車が○○で立ち往生している」とかいう情報は伝えられませんでした。鉄道については、復旧作業が進んで、運行が正常に戻ると「○○線の運行は正常に戻りました」というニュースを流すので、その時初めて「○○線は不通だったんだ」ということを知る、というケースが多かったのです。

 今回の寒波の際、鉄道の運行状況が正確に伝えられていなかったことが多くの群衆を駅に集中させてしまったのではないか、という疑問を私は持っていたのですが、中国国内にも同じような意見を持っていた人がいたようです。下記の今日(2月20日)付けの「新京報」の記事によると、広州市政治協商会議副主席の郭錫齢という方が広州市の政治協商会議の分科討論会の席上、寒波・大雪被害の際に鉄道部が重要な情報を発表しなかったことが、多くの人を広州駅に集める結果になったのではないか、と鉄道部を批判したとのことです(「批判」の部分は、「 」付きで日本語の「砲撃」に当たる言葉の中国語を使っています)。

(注)政治協商会議とは、「中国共産党による指導」という原則を承認することによって存在が認められている民主党派の人々や学者、知識人などが作っている会議で、人民代表大会(日本の議会に当たる)と並立している会議。法律や政策の決定権はないが人民代表大会に対して意見を提言することはできる。こういった政治協商会議は、市、省、国の各段階に応じて存在している。日本や欧米の感覚とは異なるが、政治協商会議委員は、議会の議員に相当するそれぞれの政治レベルでの「有力者」である。副主席と言えば、政治協商会議のナンバー2であることから、広州市政治協商会議副主席と言えば、広州市の政界の中では、かなりの有力者と言うことができる。

(参考2)「新京報」2008年2月20日付け記事
「鉄道部、広州政治協商会議副主席の『砲撃』に対して反論」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-20/021@083923.htm

 この郭錫齢副主席の批判に対して、昨日(2月19日)、鉄道部スポークスマンの王勇平氏は、人民網(ネット版「人民日報」)において、郭錫齢副主席の発言は、事実に反しているし、常識にも反している、と反論した、とのことです。

 上記の「新京報」の記事によれば、郭錫齢副主席の批判と鉄道部スポークスマンの王勇平氏による反論のポイントは以下のとおりです。

○ディーゼル機関車の回送

郭錫齢副主席の主張:停電のため電気機関車が使えなくなってディーゼル機関車が必要になった。鉄道部は新キョウウィグル自治区で空いているディーゼル機関車を見付けたが担当者が既に(春節のために)休暇に入っており回送できなかった。また5号ディーゼル油を手当することができなかった。これらの事実を鉄道部は公表しなかった。

鉄道部の王勇平氏の反論:揚子江の北からディーゼル機関車を広州地区に派遣しようとしていたという話は聞いていない(そもそも移動するだけで7~10日も掛かる新キョウウィグル自治区から広州までディーゼル機関車を持ってこよう、という話自体、常識的にはあり得ない話である)。また、鉄道用ディーゼル機関車に使うディーゼル油は0号油であり、5号油ではない。

○切符の販売

郭錫齢副主席の主張:湖南省南部が完全に停電している状態で、いつ列車の運行ができるかわからない状況の下で、まだ列車の切符の販売を続けていた。

鉄道部の王勇平氏の反論:1月25日の時点で既に2月3日までの列車の前売り切符は発売になっていた。雪害被害が明らかになった後の1月26、27日には駅の窓口、代理店、電話予約システムによる切符の販売を全て全面的に停止している。

○輸送回復の情報

郭錫齢副主席の主張:鉄道部が輸送力の回復は可能だ、と発表していたために、多くの農民工が帰省のためにぞくぞくと広州駅に集まることになってしまった。

鉄道部の王勇平氏の反論:鉄道関係者は全力を挙げて輸送能力の回復を図っていたし、広州市政府は各種の情報をいろいろなルートで情報を提供し、人々が無闇に駅に集中しないように努めた。

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 私の感覚で言えば、鉄道部スポークスマンが反論している最初のディーゼル機関車の回送の話はあまり重要な話ではないと思います。二番目の切符の販売の話は、鉄道部が切符販売を停止したのは事実であり、郭錫齢副主席の勘違いだと思います。(ただし、鉄道部が切符の販売を停止しても、前売り券を買って持っていた人が欲しい人に転売したので、切符の販売停止期間中に転売人から切符を買った人はかなり多かったのではないかと思われます。中国では、もともと鉄道の切符については、前売り券を大量に買い込んで転売する人(いわゆるダフ屋)が横行するので、前売り券は乗車日の10日前以降、販売枚数も例えばひとり5枚まで、といった制限付きで切符の販売が行われます)。

 私が一番重要だと思うのは最後の輸送状況に関する情報です。今、もう一度、ネット上で、1月26日~28日頃の「新京報」の記事を見てみましたが、例えば下記の1月28日付けの記事では、鉄道部からの情報としては、「京九線(北京と香港の九龍を結ぶ幹線)等では運行が回復した」「北京、武漢、南昌等の鉄道局から集められた客車は35列車全て到着している」「58台のディーゼル機関車が既に確保されている上、鉄道部はさらに20台確保予定」といった「プラスの情報」しかなく、「どこどこが不通」「今後○○本程度運休する見込み」といった「マイナスの情報」がないことがわかります。

(参考3)「新京報」2008年1月28日付け記事
「北京西駅、最高級の予防警戒態勢を発動」
http://www.thebeijingnews.com/news/intime/2008/01-28/014@081526.htm

 こういった鉄道部の情報提供の仕方には、客観的に言ってやはり問題があった、と私は思います。上記の広州市政治協商会議副主席の批判に対する鉄道部スポークスマンの反論は、ディーゼル機関車に使うディーゼル油の番号が違う、といった些細な点を捉えて「事実と違う」と反論しており、反論としてはフェアではないと思います。

 なお、この寒波災害以来、下記の鉄道部のホームページにはアクセスできない状況が続いています。

(参考4)中国鉄道部のホームページ
http://www.china-mor.gov.cn/

 いずれにせよ、中央政府機関のひとつである鉄道部の情報の発表の仕方が問題である、と指摘する地方政治協商会議の幹部が存在し、それが新聞に堂々と掲載される、ということは、現在の中国の言論状況のひとつとして評価すべきなのでしょう。ただ、こういった「当たり前のこと」が新聞に載ることを「評価」しなければならないのが、中国の現状である、とも言えるわけですが。

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