« 寒波による農地の被害面積は1,180万haに | トップページ | 内モンゴル自治区フフホト市副書記殺害事件 »

2008年2月16日 (土)

ギョーザ事件:選択的報道は世論操作か?

 私は、このブログでは、これまで「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、「日本のマスコミが騒ぎすぎでは?」「ギョーザ事件を報道するのも重要だが、中国中南部の寒波被害について深刻さを持って報道しない日本のマスコミはおかしい」と繰り返し述べてきました。しかし、昨日と今日のギョーザ事件に関する中国の報道振りを見て「中国での報道のされ方もおかしい」と思ったので、ひとこと言わせていただきたいと思います。

 今回の「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、誰かが故意に農薬の成分である毒物を冷凍ギョーザに混入した可能性もあるので、この事件については、原因が特定できない段階で「だから中国製の食品は危ないのだ」といった議論に結びつけるのは正しくありません。従って、中国の政府関係者が、記者会見で「日本の報道機関は事実に基づき冷静に報道してほしい」と繰り返し述べている理由も理解ができるところです。

 一方、中国では春節(旧正月:2月7日)頃までは、この事件については、あまり報道されていませんでした。中南部での寒波被害が甚大なので、そういった自然災害による混乱の中、旧暦の大晦日(2月6日)の夜に親族が揃ってギョウザを食べる習慣がある中国において、あまり不安を抱かせるような報道をしたくない、という中国当局の考え方もわかるなぁ、と私はある程度の同情の念を持っていました。

 春節以降は、この冷凍ギョウザ事件に関しては、中国の新聞やテレビでも中国側の記者会見の様子などで示された事実関係を淡々とではありますが、かなり詳しく報ずるようになりました。これらの報道は、基本的には、中国国内で行われた記者会見で発表された情報をを報ずるものでしたので、袋の外側や内側でメタミドホスが検出された、とか、検出されたメタミドホスには不純物が多く含まれており研究用として日本にあるメタミドホスとは異なり中国で農薬として使われているものである可能性が高い、とか、メタミドホス以外にも農薬成分ジクロルボスが検出されたケースもあった、とか、いう日本で伝えられているもろもろの事実関係は、中国ではほとんど報道されていません。

 そうした中、徳島県で冷凍ギョウザの袋からジクロルボスが検出された件について調べた結果、この徳島県のケースでは、ギョーザが売られていた店の店内の別の場所でもジクロルボスが検出されたことから、店内で殺虫剤を噴霧したことにより付着したと判断される、と徳島県が発表しました。

(参考1)徳島県庁ホームページ2008年2月14日報道発表
「危機管理会議の開催結果について」
http://www1.pref.tokushima.jp/001/01/shoku/cs/H20021419.pdf

 これを受けて、新華社通信は「徳島県庁が『問題のギョウザ』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」という見出しの記事を流しました。

(参考2)「新華社」2008年2月15日18:26アップ
「日本の徳島県庁が『問題の餃子』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/15/content_7610764.htm

 この新華社の報道は、2月15日22:00からの中国中央電視台第1チャンネルの「夜間新聞」(夜のニュース)、2月16日付けの「新京報」でも伝えられました。また、このニュースについては、2月16日付けの人民日報でも報じられました。

(参考3)「人民日報」2008年2月16日付け記事
「日本の公的機関は徳島県の『問題の餃子』は店内での殺虫剤使用により汚染されたことが原因であることを認めた」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/16/content_43856285.htm

 いずれも記事も文章をよく読むと「徳島県で問題となったギョーザについては、店内での殺虫剤使用が原因であることを徳島県当局が発表した」と書いてあるのであり、千葉県や兵庫県で中毒者を出したギョーザについては、この記事では何も言っていないので、記事の内容自体は間違いではありません。人民日報の見出しでも「徳島県の『問題のギョウザ』は・・」と、きちんと「徳島県の」という修飾語が付いています。しかし『問題のギョーザ』と『 』付きで書かれていることと、新華社の記事では見出しに「徳島県の」とうい修飾語が付いていないので、見出しだけ見ると、問題となった一連のギョーザの全てが日本の店内での殺虫剤使用により汚染されたものであるかのような誤解を読者に与えかねない見出しの付け方になっています。

 中国国内では中国国内での記者会見で発表される情報以外の情報がほとんど報道されない中、この徳島県のケースだけが選択的に報道されると、「今回のギョーザ事件は、日本国内で殺虫剤を使用したことが原因だ。それなのに日本のマスコミは中国製品が悪いといって騒いでいる。これはおかしい。」という印象を多くの中国人民に与えることになると思います。そもそも中国のマスコミが当局の指導の下で報道していることと、今回の徳島のケースを中央電視台と人民日報という「本家本元の公式メディア」が率先してこれを伝えていることを考えると、中国当局が中国は悪くない(悪いのは日本だ)という方向に世論を誘導しているのではないか、との意図を感じます。

 しかし、そういう世論誘導を中国当局がしようとしているのは、中国当局にとって何のプラスにもならない、と私は思います。中国当局が仮に中国国内の世論コントロールに成功したとしても、中国当局は国際世論をコントロールすることはできないからです。むしろそういった世論操作は、国際世論に対しては中国当局に対するよくない印象を与えます。オリンピックを控えている今年、これは中国当局に得となるはずはありません。

 私は、今回、日本で見つかった毒物入り冷凍ギョーザ事件に対しては、中国当局の内部でも対応方針が一枚岩になっていないのではないか、という気がしています。というのは、徳島県のケースを特出しにして報じることは、中国の一般市民の間でようやく好転しつつあった反日感情をまた悪化させてしまうことになりかねず、4月頃に予定されている胡錦濤主席の訪日にマイナスになってしまうからです。これは党中央の意図するところとは異なると思います。

 中国当局が、寒波被害という国家レベルの自然災害の中で、日本のマスコミによるギョーザ事件に関する「メディア・スクラム」に大いに辟易しているのは理解できますが、今回の徳島県のケースを特出しで選択的に報道したことは、中国当局にとって「失策」だったと私は思います。その背景には、そもそも新華社、中央電視台、人民日報といった「本家本元の公式メディア」を使えば世論操作が可能である、という中国当局の意識があると思います。もし中国当局が意図するのと違う方向に反日感情が盛り上がった場合は、また別の方法で世論操作すればよい、と考えている可能性があるからです。しかし、こういった世論操作は、結局は、国内世論と国際世論とのギャップを産むことになります。国内世論と国際世論とのギャップは、オリンピックの場において表面化する可能性があります。それは中国当局にとって好ましくないはずで、その意味でも、中国当局は、世論は操作しようと思えばできるもの、といった思い上がった考えからそろそろ脱却する必要があると思います。

|

« 寒波による農地の被害面積は1,180万haに | トップページ | 内モンゴル自治区フフホト市副書記殺害事件 »

中国の報道機関」カテゴリの記事

中国の民主化」カテゴリの記事

北京オリンピック」カテゴリの記事

日中関係」カテゴリの記事

著作権・ニセモノ・食品薬品の安全性」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 寒波による農地の被害面積は1,180万haに | トップページ | 内モンゴル自治区フフホト市副書記殺害事件 »