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2008年2月

2008年2月27日 (水)

今でもまだやっている大衆の前での野外裁判

 2月24日、山西省で、昨年末に起きた炭鉱事故の責任者に対する裁判がありました。雪が降りしきる中、多くの大衆を集めて、その面前で行われた野外裁判で、16人の被告に対して有罪判決が出された、とのことです。

(参考)「新京報」2008年2月25日付け記事
「洪洞炭坑災害で16人が有罪」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-25/018@073906.htm

 上記の記事の写真を見ていただければわかるように、被告は後ろ手に縛られて壇上に並ばされて、傍聴者の大衆の面前にさらされています。

 この裁判は、2007年12月5日に山西省臨●市(●は「さんずい」に「分」)洪洞県の炭坑で起きた105人が死亡、8人が負傷した事故の責任を問う裁判です。炭坑の安全を無視したずさんな管理が問題とされた事件でした。

 社会的に重大な事件の裁判の判決なので、人々の注目を集めていることは間違いないのですが、文化大革命の時期の裁判じゃあるまいし、多くの群衆の前に被告を並べて、有罪を宣告する、というやり方は、「法治国家」を目指している現在の中国においてふさわしいものであったのか、私は非常に疑問に思いました。日本を含めて多くの国では、裁判は公開で、一般大衆が傍聴できますけれども、こうやって被告を後ろ手に縛って屋外で大衆の前に並べるような裁判をやっている「先進国」はないと思います。今回のニュースは、外国の人々に「オリンピックが開かれるというのに中国ではまだこんな裁判のやり方をやっているのか。」というマイナスのイメージを与えたと思います。

 この裁判は、「12・5炭坑事故公判大会」という名前で開かれたのだそうですが、この「大会」で行われた講話で、市の党委員会副書記と市長代理がこういった裁判のやり方を採用したことについて「全市の担当者と人民大衆に対する教育のためだ」と述べた、とのことです。

 そもそも裁判で、市の行政担当者や党の幹部が「講話」を述べる、ということ自体、「裁判の判決とは、行政や党の業務とは独立して客観的立場に立って判断されるべきものだ」という原則からはずれるものです。また、被告を後ろ手に縛って大衆の前に並べることは「被告は、判決が出されるまでは有罪か無罪か確定していない」という原則に反するものです。そもそも、裁判を「市の担当者や一般大衆を教育するためのもの」だと考えていること自体、中国の裁判が「法律に基づき客観的かつ公正に判断するためのもの」だと考えられているのではないことを示すものです。「通常の国々での常識」が今の中国ではまだ通用していないことを示すエピソードだと思います。

 私は、炭鉱事故の責任者を弁護するつもりはさらさらありませんが、法律とは何か、裁判とは何か、について、改革開放から既に30年も経っているのですから、地方の責任者も「世界の常識」というものをもう少し頭に入れて欲しいと思います。これも「中国特色の裁判のやり方だ」と主張するのだろうと思いますが、中国が国際化していくためには、自分のやり方をそのまま進めるのではなく、もう少し「世界標準」を考えるべきだと思います。

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2008年2月23日 (土)

農薬汚染食品事件:日系企業が原因との報道

 10人の中毒患者を出した殺虫剤の成分が混入した中国製冷凍ギョーザの事件に関連して、日本では、今、中国で加工されたいろいろな食品に対する検査が行われているため、最初に中毒患者を出した冷凍ギョーザとは別の中国製の加工食品から、微量の農薬が検出されるケースが相次いで報道されています。これら10人の中毒患者を出したケースとは別のケースのいくつかについて、今日(2月23日)付けの人民日報は、中国国家品質検査検疫総局の発表として以下のような報道しています。

○中国国家品質検査検疫総局は、日本側関係機関から、中国から日本に輸出されたニラ肉まんとニラエビ揚げ肉まんから、それぞれ0.45ppm~0.66ppmと0.04ppm~0.08ppmのメタミドホスが検出され、アスパラガスの肉巻き揚げから1.2ppmのホレートが検出されたとの通報を受けた。中国側はこの件を非常に重視し、直ちに調査を行った。

○国家品質検査検疫総局が現在までに得た調査結果によると、上記のニラ肉まんとニラエビ揚げ肉まんを作った会社及びアスパラガスの肉巻き揚げを作った会社は、両方とも中国国内に設立された日本資本100%の日系企業(日系独資企業)で、生産工程は日本の基準で管理され、日本側の会社の職員が工場に駐在して監督を行っていた。

○この事件は、上記の日系独資企業による原材料の野菜を購入する際のチェックが不十分だったことが原因であった。

○従来、日本側は、肉まんやギョーザなどの製品に関しては、残留農薬量の量に対する制限や検査実施を要求していなかったが、今回、初めて検査を行ったものである。国家品質検査検疫総局は、検討を行い、日本側関係機関と技術基準について情報交換を行い、検査作業を行っていく方針である。

○冷凍ギョウザ中毒事件に関しては、中国公安部が20日、担当官を日本に派遣して、日本の警察当局と、情報交換等を行った。中国政府としては、冷凍ギョウザ中毒事件に関しては、徹底的に捜査する決意である。

(参考)「人民日報」2008年2月23日付け記事
「日本に輸出した肉まんについては、日系独資本企業の検査が不十分だったことが原因」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/23/content_44973086.htm

 この記事に書かれていることは間違いではないし、中国側もこの記事で言及しているケースについては、中国における残留農薬が原因であることを認めているわけですが、見出しや書きぶりからすると、「日系企業とそれを監督していた日本の企業が悪い」という印象を強く受ける記事です。こういうふうな書きぶりをされると、ウラの意味として「中国側当局は全く責任はない」ことをこの記事は主張したかったのだ、と感じてしまいます。有毒な農薬に汚染されている野菜などが流通していることに対する中国当局としての反省が全く感じられない記事だと私は思います。

 また、最後の項目は、今回の騒ぎの発端となった10人の中毒患者を出したケースについて述べたものであるのだけれど、一読した読者からすると、異なるケースについて述べたのかどうかわかりにくい書きぶりになっています。こうやって並べて記述されると、意地悪く解釈すれば、最後の部分は、「中国公安部が日本へ行って日本の警察と情報交換を行った」のは日本の企業が悪いから中国の公安部がわざわざ日本へ行ったのだ、との印象を読者に与える意図があるのではないか、とも思えてしまいます。

 もともと中国共産党の機関誌であり、「党の舌と喉」の本家本元である「人民日報」に客観的で公平な報道を期待すること自体無理なのはわかっているのですが、どうも「みんな日本が悪い、中国は悪くない」という方向に中国人民の世論を誘導しようとしているように見えて、私は釈然としません。

 それは置いておくとしても、上記の記事は、やはり残留農薬に汚染された野菜が中国国内に出回っていることを中国国家品質検査検疫局が認めたことを意味しますので、毎日、中国産の野菜しか食べることができない北京に住む私にとっては、気の重い記事であることは確かです。この間、春節で日本に帰ったときに人間ドックを受けてきましたが、変な結果が出ていないことを祈るばかりです。

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2008年2月21日 (木)

旧暦1月15日の夜の爆竹

 旧暦の1月15日の夜は、中国では「元宵」といって、ひとつの節目の夜です。日本でも、地域によっては、1月15日は「小正月」と呼んで、いろいろ行事をやるところもあると思います。

 そもそも中国では旧暦のお正月(春節)には、爆竹を鳴らして新年の到来を祝う習慣があります。しかし、1990年代初頭、都市部の家屋の密集地域で無造作に爆竹を鳴らして、ケガをしたり、火事になったり、ひどいときには死者が出たりすることが相次いだので、それ以降、北京市内の住宅密集地で爆竹を鳴らすのが禁止されていた時期がありました。でも、市民からは、古くからの習慣を禁止することに対する反発が強く、最近は、地区や期間を限定して花火を上げたり爆竹を鳴らしたりすることが認められるようになりました。今年は、北京では、第五環状路の内側では、オリンピック関連施設周辺などの禁止区域を除いては、旧暦大晦日の2月6日から旧暦1月15の今日(2月21日)までが許可期間です。今日(2月21日)の24時以降は、北京市の第五環状路の内側では花火・爆竹は禁止となります。

 そのため今晩は「元宵」ということと、「今日が最後」ということで、窓の外からはひっきりなしに爆竹の音が聞こえています。「あちこちから爆竹の音が聞こえています」というレベルではなく、多数の爆竹がいろんな地区で鳴らされるので、爆竹の音がずうっと連続して鳴っているように聞こえます。数時間もの間、音が鳴り続けていますので、破裂する花火や爆竹の全体の量は、ハンパなものではないと思います。「新京報」の報道によると、2月7日(旧暦の元旦)の際には、集められた爆竹の燃えかすは54トンに上ったとのことです。

(参考1)「新京報」2008年2月8日付け記事
「爆竹の燃えカスを掃き集めたら一夜にして54トン」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/02-08/018@075225.htm

 「燃えかす」で54トンですから、爆竹本体にしたら何トンだったのでしょうか。今日(2月21日)も相当な量の爆竹や花火に火が付けられることになると思います。「新京報」の記事によれば、旧暦大晦日から1月6日(2月6日~12日)の間に北京市内で爆竹によって1人が死亡、434人がケガをした、とのことです。うち第五環状路内の負傷者が304人だとのことです。

(参考2)「新京報」2008年2月13日付け記事
「第五環状路内での爆竹での負傷者は309人」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/02-13/011@080503.htm

 私は20年前の1988年の春節の時にも北京にいました。確かに爆竹の音は聞こえましたが、これほどべらぼうに音が聞こえていた、という記憶はありません。今日のように何時間も途切れない爆竹の音は「昔からの慣習」「庶民のささやかな楽しみ」といった領域を超えています。人民の溜まりに溜まった不満が「許される範囲内」で爆発している音のように私には聞こえます。私独自のひねくれた感じ方なのだと思いますが、率直に言って、20年前(つまりは1989年より以前)は、さすがにこういうふうに「ちょっと異常なんじゃない?」と思わせる程ではなかったよなぁ、と感じています。

 もっとも、百トンのオーダーの火薬で作られた爆竹や花火が市内で売られていて、それで爆弾テロ事件のような騒ぎがない、というのは、中国が平和な証拠だ、と考えるのが正しい考え方なのでしょう。本当に人民の間に「耐えられない不満」が溜まっていたのだとしたら、花火や爆竹の程度ではすまないよ、中国人民の不満のうっ積が深刻な状態だ、と思うのは思い過ごしだ、というのが、実のところ本当のところなのかもしれません。

 でも、やっぱり、20年前とは何かが違うよなぁ、と今でも鳴り続いている爆竹の音を聞きながら思っています。

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2008年2月20日 (水)

寒波時の鉄道部の情報提供は適切だったか

 1月末から2月初に掛けて、中国の中南部を襲った大寒波により、中国の鉄道も大きな影響を受けました。大雪そのものにより列車の運行が困難になった上に、高圧電線への着氷による断線や鉄塔の倒壊による電力網の寸断のため、広範囲で停電が起き、鉄道用の電力の供給も困難になった地域が多く、電車や電気機関車の運行ができなくなった区間が多かったからです。この時期は、ちょうど春節(旧正月;今年は2月7日が旧暦の元旦)の帰省ラッシュの時期と重なっていたので、各地で列車に乗ろうとして乗れない乗客が10万人のオーダーで集まり、一部では混乱も見られました。広州駅では、一時50万人を超える人が集まり、集まった群衆に押されて、1人の方が亡くなっています。

(参考1)このブログの2008年2月3日付け記事
「中国大雪被害:広州駅の群衆内で1人が圧死」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/02/post_9f0c.html

 この当時、私も毎日、中国の新聞やテレビを見ていましたが、大寒波による大雪・着氷被害が相当出ていることは伝えられているのですが、具体的に、例えば「鉄道の○○と××の間が不通になっている」とか「□□発▽▽行き列車番号△△△号の列車が○○で立ち往生している」とかいう情報は伝えられませんでした。鉄道については、復旧作業が進んで、運行が正常に戻ると「○○線の運行は正常に戻りました」というニュースを流すので、その時初めて「○○線は不通だったんだ」ということを知る、というケースが多かったのです。

 今回の寒波の際、鉄道の運行状況が正確に伝えられていなかったことが多くの群衆を駅に集中させてしまったのではないか、という疑問を私は持っていたのですが、中国国内にも同じような意見を持っていた人がいたようです。下記の今日(2月20日)付けの「新京報」の記事によると、広州市政治協商会議副主席の郭錫齢という方が広州市の政治協商会議の分科討論会の席上、寒波・大雪被害の際に鉄道部が重要な情報を発表しなかったことが、多くの人を広州駅に集める結果になったのではないか、と鉄道部を批判したとのことです(「批判」の部分は、「 」付きで日本語の「砲撃」に当たる言葉の中国語を使っています)。

(注)政治協商会議とは、「中国共産党による指導」という原則を承認することによって存在が認められている民主党派の人々や学者、知識人などが作っている会議で、人民代表大会(日本の議会に当たる)と並立している会議。法律や政策の決定権はないが人民代表大会に対して意見を提言することはできる。こういった政治協商会議は、市、省、国の各段階に応じて存在している。日本や欧米の感覚とは異なるが、政治協商会議委員は、議会の議員に相当するそれぞれの政治レベルでの「有力者」である。副主席と言えば、政治協商会議のナンバー2であることから、広州市政治協商会議副主席と言えば、広州市の政界の中では、かなりの有力者と言うことができる。

(参考2)「新京報」2008年2月20日付け記事
「鉄道部、広州政治協商会議副主席の『砲撃』に対して反論」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-20/021@083923.htm

 この郭錫齢副主席の批判に対して、昨日(2月19日)、鉄道部スポークスマンの王勇平氏は、人民網(ネット版「人民日報」)において、郭錫齢副主席の発言は、事実に反しているし、常識にも反している、と反論した、とのことです。

 上記の「新京報」の記事によれば、郭錫齢副主席の批判と鉄道部スポークスマンの王勇平氏による反論のポイントは以下のとおりです。

○ディーゼル機関車の回送

郭錫齢副主席の主張:停電のため電気機関車が使えなくなってディーゼル機関車が必要になった。鉄道部は新キョウウィグル自治区で空いているディーゼル機関車を見付けたが担当者が既に(春節のために)休暇に入っており回送できなかった。また5号ディーゼル油を手当することができなかった。これらの事実を鉄道部は公表しなかった。

鉄道部の王勇平氏の反論:揚子江の北からディーゼル機関車を広州地区に派遣しようとしていたという話は聞いていない(そもそも移動するだけで7~10日も掛かる新キョウウィグル自治区から広州までディーゼル機関車を持ってこよう、という話自体、常識的にはあり得ない話である)。また、鉄道用ディーゼル機関車に使うディーゼル油は0号油であり、5号油ではない。

○切符の販売

郭錫齢副主席の主張:湖南省南部が完全に停電している状態で、いつ列車の運行ができるかわからない状況の下で、まだ列車の切符の販売を続けていた。

鉄道部の王勇平氏の反論:1月25日の時点で既に2月3日までの列車の前売り切符は発売になっていた。雪害被害が明らかになった後の1月26、27日には駅の窓口、代理店、電話予約システムによる切符の販売を全て全面的に停止している。

○輸送回復の情報

郭錫齢副主席の主張:鉄道部が輸送力の回復は可能だ、と発表していたために、多くの農民工が帰省のためにぞくぞくと広州駅に集まることになってしまった。

鉄道部の王勇平氏の反論:鉄道関係者は全力を挙げて輸送能力の回復を図っていたし、広州市政府は各種の情報をいろいろなルートで情報を提供し、人々が無闇に駅に集中しないように努めた。

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 私の感覚で言えば、鉄道部スポークスマンが反論している最初のディーゼル機関車の回送の話はあまり重要な話ではないと思います。二番目の切符の販売の話は、鉄道部が切符販売を停止したのは事実であり、郭錫齢副主席の勘違いだと思います。(ただし、鉄道部が切符の販売を停止しても、前売り券を買って持っていた人が欲しい人に転売したので、切符の販売停止期間中に転売人から切符を買った人はかなり多かったのではないかと思われます。中国では、もともと鉄道の切符については、前売り券を大量に買い込んで転売する人(いわゆるダフ屋)が横行するので、前売り券は乗車日の10日前以降、販売枚数も例えばひとり5枚まで、といった制限付きで切符の販売が行われます)。

 私が一番重要だと思うのは最後の輸送状況に関する情報です。今、もう一度、ネット上で、1月26日~28日頃の「新京報」の記事を見てみましたが、例えば下記の1月28日付けの記事では、鉄道部からの情報としては、「京九線(北京と香港の九龍を結ぶ幹線)等では運行が回復した」「北京、武漢、南昌等の鉄道局から集められた客車は35列車全て到着している」「58台のディーゼル機関車が既に確保されている上、鉄道部はさらに20台確保予定」といった「プラスの情報」しかなく、「どこどこが不通」「今後○○本程度運休する見込み」といった「マイナスの情報」がないことがわかります。

(参考3)「新京報」2008年1月28日付け記事
「北京西駅、最高級の予防警戒態勢を発動」
http://www.thebeijingnews.com/news/intime/2008/01-28/014@081526.htm

 こういった鉄道部の情報提供の仕方には、客観的に言ってやはり問題があった、と私は思います。上記の広州市政治協商会議副主席の批判に対する鉄道部スポークスマンの反論は、ディーゼル機関車に使うディーゼル油の番号が違う、といった些細な点を捉えて「事実と違う」と反論しており、反論としてはフェアではないと思います。

 なお、この寒波災害以来、下記の鉄道部のホームページにはアクセスできない状況が続いています。

(参考4)中国鉄道部のホームページ
http://www.china-mor.gov.cn/

 いずれにせよ、中央政府機関のひとつである鉄道部の情報の発表の仕方が問題である、と指摘する地方政治協商会議の幹部が存在し、それが新聞に堂々と掲載される、ということは、現在の中国の言論状況のひとつとして評価すべきなのでしょう。ただ、こういった「当たり前のこと」が新聞に載ることを「評価」しなければならないのが、中国の現状である、とも言えるわけですが。

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2008年2月18日 (月)

内モンゴル自治区フフホト市副書記殺害事件

 2月14日の北京の大衆紙「新京報」によると、内モンゴル自治区フフホト(呼和浩特)市の党委員会副書記王志平氏が春節(2月7日)前に執務室で射殺された、とフフホト市の党委員会宣伝部の関係者が明らかにした、とのことです。その際、一名の女性の税務関係の幹部も執務室内で同時に殺害されたとのことで、犯人と見られるフフホト市公安局経済開発区分局長の関六如という男は銃で自殺した、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年2月14日付け記事
「フフホト市副書記、執務室で被害に遭う」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-14/011@074610.htm

 この事件は、現在調査中とのことで、動機その他詳細は何もわかっていません。

 また、今日(2月18日)の「新京報」によると、殺害されたこの副書記は執務中に被害に遭ったということで「革命烈士」の称号が与えられた、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年2月18日記事
「被害に遭った副書記、烈士の称号が与えられた」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-18/021@073017.htm

 この(参考2)の記事では、消息筋による情報として副書記を殺害して自殺した公安局経済開発区分局長の関六如は、事件当時、党書記の韓志然氏とオフィスビル6階ですれ違って、韓書記と挨拶をしていたところだった、という話を伝えています。

 これ以上のことは「調査中」とのことで明らかになっていません。死亡した副書記が「革命烈士」の称号が与えられた、ということは、業務上のトラブルが原因なのかもしれません。

 いずれにしても、フフホト市と言えば内蒙古自治区人民政府がある自治区の首都であり、党の副書記と言えば市の中国共産党委員会のナンバー2です(副書記は複数置かれていることが多いですが)。中国では、市長よりも党書記の方が序列が上なので、党副書記と言えば副市長より序列が上のフフホト市の党・政府の中ではトップに近い幹部です。

 日本や欧米各国だったら、新聞や週刊誌などが大きく書き立てるような事件ですが、春節前((参考1)の記事によれば2月5日)に起こった事件が10日近く経ってから新聞で伝えられるなど、この手のニュースは中国では非常に慎重に扱われます。今後も本件についての追加的な情報は伝えられないかもしれません。

 たぶん、極めて個別的・単発的で、何か事情のある事件だと思いますが、中国ではこういう事件も起きている、しかしあまり報道されていない、とういことを日本の皆様にも知っていただきたいと思って書かせていただきました(本件については、一部、日本のマスコミでも報道されています)。

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2008年2月16日 (土)

ギョーザ事件:選択的報道は世論操作か?

 私は、このブログでは、これまで「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、「日本のマスコミが騒ぎすぎでは?」「ギョーザ事件を報道するのも重要だが、中国中南部の寒波被害について深刻さを持って報道しない日本のマスコミはおかしい」と繰り返し述べてきました。しかし、昨日と今日のギョーザ事件に関する中国の報道振りを見て「中国での報道のされ方もおかしい」と思ったので、ひとこと言わせていただきたいと思います。

 今回の「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、誰かが故意に農薬の成分である毒物を冷凍ギョーザに混入した可能性もあるので、この事件については、原因が特定できない段階で「だから中国製の食品は危ないのだ」といった議論に結びつけるのは正しくありません。従って、中国の政府関係者が、記者会見で「日本の報道機関は事実に基づき冷静に報道してほしい」と繰り返し述べている理由も理解ができるところです。

 一方、中国では春節(旧正月:2月7日)頃までは、この事件については、あまり報道されていませんでした。中南部での寒波被害が甚大なので、そういった自然災害による混乱の中、旧暦の大晦日(2月6日)の夜に親族が揃ってギョウザを食べる習慣がある中国において、あまり不安を抱かせるような報道をしたくない、という中国当局の考え方もわかるなぁ、と私はある程度の同情の念を持っていました。

 春節以降は、この冷凍ギョウザ事件に関しては、中国の新聞やテレビでも中国側の記者会見の様子などで示された事実関係を淡々とではありますが、かなり詳しく報ずるようになりました。これらの報道は、基本的には、中国国内で行われた記者会見で発表された情報をを報ずるものでしたので、袋の外側や内側でメタミドホスが検出された、とか、検出されたメタミドホスには不純物が多く含まれており研究用として日本にあるメタミドホスとは異なり中国で農薬として使われているものである可能性が高い、とか、メタミドホス以外にも農薬成分ジクロルボスが検出されたケースもあった、とか、いう日本で伝えられているもろもろの事実関係は、中国ではほとんど報道されていません。

 そうした中、徳島県で冷凍ギョウザの袋からジクロルボスが検出された件について調べた結果、この徳島県のケースでは、ギョーザが売られていた店の店内の別の場所でもジクロルボスが検出されたことから、店内で殺虫剤を噴霧したことにより付着したと判断される、と徳島県が発表しました。

(参考1)徳島県庁ホームページ2008年2月14日報道発表
「危機管理会議の開催結果について」
http://www1.pref.tokushima.jp/001/01/shoku/cs/H20021419.pdf

 これを受けて、新華社通信は「徳島県庁が『問題のギョウザ』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」という見出しの記事を流しました。

(参考2)「新華社」2008年2月15日18:26アップ
「日本の徳島県庁が『問題の餃子』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/15/content_7610764.htm

 この新華社の報道は、2月15日22:00からの中国中央電視台第1チャンネルの「夜間新聞」(夜のニュース)、2月16日付けの「新京報」でも伝えられました。また、このニュースについては、2月16日付けの人民日報でも報じられました。

(参考3)「人民日報」2008年2月16日付け記事
「日本の公的機関は徳島県の『問題の餃子』は店内での殺虫剤使用により汚染されたことが原因であることを認めた」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/16/content_43856285.htm

 いずれも記事も文章をよく読むと「徳島県で問題となったギョーザについては、店内での殺虫剤使用が原因であることを徳島県当局が発表した」と書いてあるのであり、千葉県や兵庫県で中毒者を出したギョーザについては、この記事では何も言っていないので、記事の内容自体は間違いではありません。人民日報の見出しでも「徳島県の『問題のギョウザ』は・・」と、きちんと「徳島県の」という修飾語が付いています。しかし『問題のギョーザ』と『 』付きで書かれていることと、新華社の記事では見出しに「徳島県の」とうい修飾語が付いていないので、見出しだけ見ると、問題となった一連のギョーザの全てが日本の店内での殺虫剤使用により汚染されたものであるかのような誤解を読者に与えかねない見出しの付け方になっています。

 中国国内では中国国内での記者会見で発表される情報以外の情報がほとんど報道されない中、この徳島県のケースだけが選択的に報道されると、「今回のギョーザ事件は、日本国内で殺虫剤を使用したことが原因だ。それなのに日本のマスコミは中国製品が悪いといって騒いでいる。これはおかしい。」という印象を多くの中国人民に与えることになると思います。そもそも中国のマスコミが当局の指導の下で報道していることと、今回の徳島のケースを中央電視台と人民日報という「本家本元の公式メディア」が率先してこれを伝えていることを考えると、中国当局が中国は悪くない(悪いのは日本だ)という方向に世論を誘導しているのではないか、との意図を感じます。

 しかし、そういう世論誘導を中国当局がしようとしているのは、中国当局にとって何のプラスにもならない、と私は思います。中国当局が仮に中国国内の世論コントロールに成功したとしても、中国当局は国際世論をコントロールすることはできないからです。むしろそういった世論操作は、国際世論に対しては中国当局に対するよくない印象を与えます。オリンピックを控えている今年、これは中国当局に得となるはずはありません。

 私は、今回、日本で見つかった毒物入り冷凍ギョーザ事件に対しては、中国当局の内部でも対応方針が一枚岩になっていないのではないか、という気がしています。というのは、徳島県のケースを特出しにして報じることは、中国の一般市民の間でようやく好転しつつあった反日感情をまた悪化させてしまうことになりかねず、4月頃に予定されている胡錦濤主席の訪日にマイナスになってしまうからです。これは党中央の意図するところとは異なると思います。

 中国当局が、寒波被害という国家レベルの自然災害の中で、日本のマスコミによるギョーザ事件に関する「メディア・スクラム」に大いに辟易しているのは理解できますが、今回の徳島県のケースを特出しで選択的に報道したことは、中国当局にとって「失策」だったと私は思います。その背景には、そもそも新華社、中央電視台、人民日報といった「本家本元の公式メディア」を使えば世論操作が可能である、という中国当局の意識があると思います。もし中国当局が意図するのと違う方向に反日感情が盛り上がった場合は、また別の方法で世論操作すればよい、と考えている可能性があるからです。しかし、こういった世論操作は、結局は、国内世論と国際世論とのギャップを産むことになります。国内世論と国際世論とのギャップは、オリンピックの場において表面化する可能性があります。それは中国当局にとって好ましくないはずで、その意味でも、中国当局は、世論は操作しようと思えばできるもの、といった思い上がった考えからそろそろ脱却する必要があると思います。

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2008年2月14日 (木)

寒波による農地の被害面積は1,180万haに

 2月14日に民政部が2月12日現在の被害状況として発表したところによると、中国中南部の寒波・大雪・着氷によって被害を被った農地の面積は1,180万ヘクタール、そのうち農作物が壊滅する被害を受けたのは169万ヘクタール、被害を受けた森林の面積は1,733万ヘクタールに上る、ということです。

(参考)「新華社」2008年2月14日10:15アップ
「2月12日現在で寒波被害は死者107人、被害総額1,111億元に」
http://news.xinhuanet.com/video/2008-02/14/content_7601537.htm

 ちなみに、農作物が壊滅したとされる169万ヘクタールとは、日本で言えば、岩手県より広い面積です。また、被害を受けた農地と森林の面積を合わせた2,913ヘクタールという広さは、日本で言えば、日本の全国土面積の約8割に相当する広さです。

 なお、昨日(13日)夜の鉄道部の発表によると、鉄道については、昨日時点で正常運行が確保されている、とのことです。

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2008年2月13日 (水)

中国の寒波の経済損失は1兆6,000億円超

 中国では、今日(2月13日)から春節(旧正月休み)開けで政府機関などが動き始めています。今日(2月13日)、民生部は、昨日(2月12日)時点での中国中南部の寒波被害について発表しています。それによると、この中国中南部を襲った寒波・大雪・着氷による被害は、死者107人、行方不明8人、直接的な経済損失は1,111億元(約1兆6,665億円)に上るとのことです。

(参考1)「新華社」2008年2月13日15:23アップ記事
「速報:寒波災害の被害は、死者107人、直接的な経済損失は1,111億元」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7597629.htm

 一方、今日(2月13日)、温家宝総理は国務院常務会議を開き、関係部署による災害復旧について検討を行いました。この会議では「大部分の電力送電線と変電所は復旧した」と報告されていますが、一方で「高圧電線網の復旧に重点を置く必要があり、3月末までには復旧を終わらせる必要がある」とも指摘しており、災害の復旧に数か月のオーダーで時間が掛かることを示しています。この会議では、電力網の復旧のほか、春から始まる農作業に必要な種の確保など農業に対する支援、石炭・石油の輸送、被災した農民への食糧等の供給、倒壊・破損した家屋の復旧、今後の土砂災害や衛生上の問題などの二次的災害の防止を求めています。

 また、この会議では、2月11日までに、国家電力網公司の系統で累計停電戸数の93%に当たる2,212万戸が復旧した、と報告されたと報道されています。ということは、累計で2,378万戸が停電していた、今でも166万戸が停電している、ということになります。

(参考2)「新華社」2008年2月13日17:28アップ記事
「温家宝総理が国務院の会議を開催して、各部署の災害後の復旧作業について検討」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7598147.htm

 このあたりの中国の災害報道の仕方は、20年前と全然変わっていません。問題が発生した時にはニュースとして流れず、復旧した時に初めて報道さるので、復旧時に伝えられる報道を見て「あ、それだけ多くの停電戸数があったんだ。初めて知った」というようなことになるのです。今日の国務院の会議での報告を伝える記事では「全国の高速道路と主要国道に不通の個所はない」とされており、鉄道については何も触れられていないので、おそらく鉄道はまだ不通になっている個所があるのではないかと思われます。たぶん、鉄道がどの程度不通だったのかは、復旧した時に発表されるのでしょう。不通ならば不通だ、とちゃんと情報を提供しないと、鉄道は問題ないと思って乗客が駅に集まって来てしまって困ると思うのですが、このあたりの災害報道のあり方についての中国政府のものの考え方は、いまだによくわかりません。

 いずれにしても、今年の寒気団は相当に強力なので、まだ被害を出すような寒波が襲ってくる可能性もあります。今後さらに被害が出たり、二次的な災害が発生しないように祈りたいと思います。

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2008年2月12日 (火)

中国は既に「新しき国」になっているのか

 私が、2007年11月3日に

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月以上遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所:
http://folomy.jp/heart/
「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「北京の白い空の下で」

記載日時:2007年11月3日

【中国は既に「新しき国」になっているのか】

 今日、日本にいたときに録画しておいた2005年のNHK大河ドラマ「義経」の最終回を見終わりました。ドラマの義経は、最後に「新しき国」への夢を抱きながら自害しました。歴史的には、義経の死によって、朝廷から独立し、土着した武士集団から成り立つ「鎌倉幕府」という日本の歴史上全く新しいタイプの政治体制が磐石なものになったのであって、義経の死によって、日本が「新しき国」に生まれ変わったと見るべきだ、と私は思っています。私は、日本の歴史においてはこの「鎌倉幕府成立」と「明治維新」「第二次世界大戦の終了」が「新しき国」へ生まれ変わる転換点であり、現在の戦後の日本の体制は、基本的に長期間に渡って続くことになる「持続可能な体制」だと思っています。

 アメリカは19世紀半ばの南北戦争終了により持続可能な体制が形作られて今に至っていると私は思っています。SFテレビ・ドラマの名作「タイム・トンネル」では、現代の科学者ダグ・フィリップスが南北戦争の時代にタイム・スリップして大統領就任直前のリンカーンに会い「将来のアメリカはどうなっているのか」と問われたとき、ダグは「アメリカは、50年後、いや100年後も偉大な前進を続けています」と答えました。アメリカは様々な問題を内に抱えながら、それを何とか解決しつつ歴史を前に進めていく体制を南北戦争終了後に既に完成させていたことを、このドラマは示していました。

 日本の明治維新後の「富国強兵」の体制は残念ながら「持続可能なもの」ではなく、戦争への道を進んで崩壊してしまいました。戦後の体制は、いろいろ問題はあるものの、自らそれらの問題を解決する能力を持った「持続可能な体制」だと私は思っています。

 一方、中国の今の体制が「持続可能なもの」なのかどうか、は私にはわかりません。少なくとも、現在の中国の指導部自身、現在を「社会主義の初級段階」と定義しており、現在の体制が最終的なものではない、と認識しています。胡錦濤氏が提唱し、今回の第17回党大会での議論で中国共産党の規約に盛り込まれた「科学的発展観」も、その時々の中国の実情を科学的に分析して、それに対応した政策を採るべきだ、としている点で、現在の体制が「最終形」ではない、との認識に立脚していると思います。その意味では、1911年に始まった中国の革命は、1949年の中華人民共和国の成立でひとつの節目は迎えたものの、現在でもまだ終わっていない、という認識が正しいのだと思います。

 私は常々「時代を読む」ことが重要だと思っています。今、中国は世界の中で経済的にも政治的にも大きな力を持っています。従って、日本にとっても、中国の動きはとてつもなく大きな影響を持っています。だから、私は、今後とも「中国は既に『新しき国』になっているのか」という視点に立って、中国の動きを注視していこうと思っています。

(2007年11月3日、北京にて記す)

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2008年2月 9日 (土)

テレビ関係者の「貴族化」を警告する投書

 中国では、お正月は旧正月(春節)を祝います。今年は2月7日が旧正月の元旦でした。私は、今、春節のお休みをいただいて、日本に来ています。中国中央電視台では、前日(つまり旧暦の大晦日)の2月6日夜、毎年恒例の「春節晩会」を放送しました。この番組は、日本の紅白歌合戦と同じようなもので、歌あり、漫才あり、コントあり、曲芸あり、といったバラエティー番組です。

 今年の「春節晩会」について、新華社のホームページに「貴族化傾向が春節晩会を一般庶民からますます遠くしている」と題する痛烈な投書が載りました。これは「紅網」というところのネット上に掲載されたある人の投書を新華社が転載したものです。「紅網」がどういう場所なのか私はよく知りませんが、名前からしてかなり保守的な(共産主義の原則を重視する傾向の強い)掲示板なのではないかと思います。

(参考1)新華社のページに2008年2月8日15:08に転載された「紅網」に載っていた投書
「貴族化傾向が春節晩会を一般庶民からますます遠くしている」
http://news.xinhuanet.com/politics/2008-02/08/content_7582267.htm

 この投書の主張のポイントは以下のとおりです。

○今年の「春節晩会」は、新しい見るべき価値のあるものはなかった。

○「春節晩会」は最近はだんだん飽きられてきていると言われているのに中央電視台は巨額のお金を使って何億もの視聴者をがっかりさせている。

○特に今年は中国の中南部は大寒波に襲われ、胡錦濤主席や温家宝総理も被災地で旧正月を迎えた、というような事態であるのに、テレビ出演者は、一般大衆が何を見たいのかには全く無関心で、自分の書きたい脚本を書き、自分の演じたいことを演じているだけである。このような精神構造で、「春節晩会」の番組制作者は、視聴者から拍手がもらえると思っているのだろうか。

○テレビの番組制作者たちは自分たちの「貴族風の作風」を捨てて一般大衆の中に踏み入ることができないのだろうか。

○趙本山は、農民出身のタレント・俳優・演出家で、彼の作品には東北地方の農村の特徴がよく出ており、一般大衆から深く愛されていた。しかし、近年、彼は「中央電視台スタイル」に組み込まれてしまい、庶民の生活の要素はだんだん少なくなり、形式的なものや言葉遊び的なものが多くなってしまった。

○テレビの番組の中には、流行っている歌に頼ったり、ドラマや映画で顔が売れた『スター』に頼りきって、面白いゲームをやったり、幼稚なクイズをしたりするだけで、何の芸術性も感じられないものがある。

○納税者のお金を使って(注:中央電視台は国営のテレビ局)貴族風のテレビ芸術とやらばかり作って、一般庶民の生活から離れていくのだったら、そんなテレビは早晩一般庶民から唾棄すべきものと見なされることになるだろう。

 最後の「唾棄すべきものと見なされることになるだろう」とは、相当激烈な表現です。相手は「党の喉と舌」(中国共産党の宣伝機関)を自他共に任ずる中国中央電視台です。それに対する批判の言葉としては最高級の厳しい言葉だと思います。今、ネット人口が2.1億人いる中国ですから、こういった意見を言う人がネット上にいてもおかしくはないのですが、国営通信社の新華社がそれをわざわざ転載して自分のホームページに掲載した、という意味をどう見るべきなのでしょうか。また、趙本山という特定のタレント・俳優・演出家を名指しして批判していることも気になります。

 一部の人を名指しして「貴族化している人たちがいる」と指弾するやり方は、私には、「文化大革命」(文革)開始の時の「走資派」(資本主義に走る一派)批判を思い起こさせます(文化大革命の最初の始まりはある戯曲評論に対する批判でした)。この投書子は、その文章を見れば、「胡錦濤主席や温家宝総理が被災地でがんばっているのに」と言っていますので、党中央の側に立って批判しているように見えます。しかし、深読みすると、この投書は、党中央の立場に立ってテレビ番組・テレビ局に対する批判という格好をしながら、実は党中央の内部にいる一定のグループを批判しているのではないかと思わせます。

 1978年に始まった改革開放路線は、文化大革命を批判することがその出発点でした。従って、1989年より前は、党中央は、文革的なものを排除することにやっきになっていました。1987年1月、上海での学生デモに対する対処が適切でなかった、として、当時の胡耀国中国共産党総書記が解任されましたが、そのニュースを伝える中央電視台のアナウンサーは、いつもは背広姿なのにこの日だけは中山服(日本のマスコミ用語でいうところの「人民服」)を着てニュースを伝えました。このことが外国に対して「中国は、また、文革時代に戻るのだろうか。」といった不安をもたらしたことから、中国政府は、あわてて「中国は改革開放路線を強力に推進していく。文革時代に戻ることはあり得ない。」との釈明に追われることになりました。アナウンサーが中山服を着てニュースを伝えたのは、どうやら中央電視台の担当者の「勇み足」だったようです。当時の党中央と政府は、また文革時代に戻るのかもしれない、という不安を外国に与えて、ようやく始まったばかりの外国からの外資の進出にブレーキが掛かるのを恐れたのでした。

 しかし、1989年以降は、「都市と農村との格差など、現在の中国で現れている様々な矛盾の原因は、改革開放路線そのものだ。」という考え方の、文革時代を懐かしむかのような論陣を張るグループが現れました。これが「新左派」と呼ばれる人たちです。この「新左派」の人たちは、市場経済原理の導入が格差を拡大したことから、市場による経済支配を弱め中国共産党によるコントロールを強める、つまり極端に言えば文革時代のような体制の方向へ舵を切るべきだ、と主張しているのです。

(参考2)このブログの2007年8月11日付け記事
「『新左派』と『新自由主義派』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_102b.html

 昨年10月の第17回中国共産党大会で、胡錦濤総書記は「改革開放路線に変化はない」として、文革時代に戻るようなことはないことを明確に打ち出しました。従って、「新左派」は、現在の中国共産党中央の主流派でないことは明らかです。しかし、文革時代を懐かしむような「新左派」の勢力が数は少ないとは言え確実に存在しており、しかも一定の勢力を保っていることは間違いないと思います。昨年秋に完成した国家大劇院の「こけら落とし」の演目が「紅色娘子軍」というまさに文化大革命の象徴ともいうべき革命的現代バレーの演目だったのも、それを表していると思います。1989年以前の党中央だったら、こんな文革を思い起こさせるような演目の上演は絶対に許さなかったと思います。

(参考3)このブログの2007年9月26日付け記事
「中国北京の国家大劇院でこけら落とし」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/09/post_ee1f.html

 今回の中南部の寒波被害で、人民解放軍は、凍結した高速道路の復旧作業などにおいて他ではまねのできない強力な力を発揮し、相当に株を上げました。人民解放軍は中国共産党の軍隊ですから、軍関係者は基本的に中国共産党の指導力を強くすべきだ、という考え方を持っていると思います。従って、軍にはどちらかというと「新左派」に近い考えを持っている人が多いと思われます。今回の寒波被害における災害出動を契機に、軍を中心として、経済発展に伴って金儲けしている一部のグループを「貴族化している」として批判する意見が強くなってきているのかもしれません。

 1989年以前の党中央だったら、文化大革命を想起させるような「貴族化批判」は許さなかったはずです(当時の最高実力者トウ小平氏自身が文化大革命の被害者で、文革という政治闘争が中国の経済発展を阻害したことを身をもって知っていたからです)。「貴族化批判」の延長線上には、改革開放路線批判があります。改革開放路線の継続は胡錦濤総書記を中心とする現在の党中央の根本路線ですから、そういった党の根本路線の批判につながる可能性のある「貴族化批判」の投書を新華社がわざわざ転載した、ということの意味はどこにあるのでしょうか。「新左派」の力が強くなってきたことの現れなのでしょうか。胡錦濤総書記は、そういった「新左派」の台頭を押さえ込むことはしないのでしょうか、あるいはしたいけれどもできないのでしょうか。もしかしたら、今回の寒波被害に対する復旧作業での人民解放軍の活躍を通じて「新左派」が力を盛り返し、「新自由主義派」との間で、党内論争が繰り広げられることになるのかもしれません。

 今回の「貴族化批判」の投書は、単にテレビ番組、テレビ局に対する批判ではありますが、それを新華社が転載した、ということから、そのウラに何かがあるのではないか、と私は想像してしまったのでした。もしかすると、それは、私の単なる「深読みのしすぎ」なのかもしれませんが。

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2008年2月 8日 (金)

胡錦濤主席と温家宝総理が被災地で旧正月

 2月7日は春節(旧正月)で、中国では、親族が揃ってギョーザを食べたりして迎えるのが習慣になっています。そうした中、今年の春節は、胡錦濤国家主席は広西チュワン族自治区で、温家宝総理は貴州省で、それぞれ寒波・大雪・着氷被害の被災者や災害復旧に当たる人々と一緒に「越年」したとのことです。詳しくは調べていませんが、国家主席と国務院総理が両方とも地方で(しかも災害の被災地へ赴くという「仕事」で)春節を迎えた、というのは、中華人民共和国始まって以来ではないかと思います。

 それだけ党中央としては、今回の寒波災害を重大視していることの表れだと思います。近年、不正・腐敗や農民からの無理な土地の収用などで、人心が離れてしまっているところの多い地方政府ですが、民生の維持と災害復旧対策という地方政府のおおもとの本来業務をもし遂行できないところがあるのならば、それは地方政府はもはや「政府」と呼ぶに値しない組織、ということになります。それだけに、党中央としても、この寒波災害における被災者の保護と災害復旧に対して、地方政府が全力を尽くすよう、全力で支援する必要がある、と感じているのだと思います。

 また、この週末から寒波がやってくるという予報が出ているところもあります。中国中南部の寒波被害がこれ以上大きくならないことを祈りたいと思います。

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2008年2月 5日 (火)

雑誌「タイム」も中国の寒波を特集

 アメリカのニュース週刊誌「タイム」の最新号(2008年2月11日号)では、表紙に "China's Big Chill" というタイトルを掲げた中国中南部を襲った寒波を特集しています。記事の内容はあまり多くはありませんが、ポイントとして以下の点を掲げています。

○ある経済専門家は、今回の寒波は2008年の中国のGDPの成長(2007年は11.4%の伸び)の何割かの程度に影響を与える可能性があると述べている。

○ただでさえ急激な消費者物価の上昇を示している中国で、今回の寒波被害がインフレをもたらすおそれがあり、それを政府がどのようにコントロールできるかがポイントである。

○ある専門家は今の中国の政権は、過去の政権よりも危機に対する対応の仕方は優れているように思われる、と言っているが(アメリカのG.W.ブッシュ政権は2005年のハリケーン・カトリーナの襲来に対する対応で批判を受けたように)今、中国政府の危機管理能力が問われている。

 まさにこの中国を襲った寒波の重大性に関するポイントを衝いた記事だと思います。私も、この寒波は、中国経済及び中国の政権に取って、極めて重大な「危機」だと認識しています。この号の「タイム」は、雪に覆われた線路を見て回る鉄道労働者の写真を表紙に掲げて、世界中で売られているはずですから購入されてお読みになってはいかがでしょうか(中国で買うと1冊40元(約600円)とちょっと高いのですが、私はこの問題に着目して素早く特集記事にしたタイム誌に敬意を表して購入しました)。

 被災人口が約1億人を超えた(2月4日時点での中国新聞網(ネット)の報道)、国家電力網公司が管轄する電力ネットワークのうち9,527基の鉄塔が倒壊、1,633万戸が停電、うち2月3日までに1,006万戸が復旧(以上2月4日付け「新京報」記事)、1月31日時点での被害を被った耕地面積が727万ヘクタール(2月1日の中国政府民生部の発表)といった数字を見れば、今回の寒波・大雪・着氷被害の大きさがハンパじゃないことがわかると思います。

(参考)被害を被った面積の727万ヘクタールという数字は、中国の全耕地面積の約6%に当たり、日本で言えば、関東7都県に新潟、山梨、長野、静岡の各県を合わせたよりも広い面積に相当します)。

 私は、今、北京にいますがNHK-BS放送やNHKのテレビの国際放送が見られるので、毎日NHKのテレビを見ていますが、毒物入り冷凍ギョーザ事件発生以降、日本のNHKのニュースでは、今回の中国中南部の寒波について伝えるのを見たことがありません。現在の日本経済は中国と極めて密接に関係しており、中国の危機は日本経済の危機でもあるはずです。それなのにも係わらず日本のマスコミと世論がこの中国の寒波に対する危機感を全く持っていない、ということに対して、私は非常に危機感を持っています。「外国のメディアが取り上げているのだから重要なのだ」と主張するような「ガイアツ」的な考え方は私は本来は好きではありませんが、日本の皆様に警告を発する意味で、世界的なニュース雑誌「タイム」も、この中国の寒波を特集としてしたんだぞ、ということをこのブログで強調させていただきたいと思い、取り上げさせていただきました。

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2008年2月 4日 (月)

農民の土地返還要求に関する米紙の報道

 日本でもMSN産経ニュースで流れていた(私は見ていないのですが、たぶん産経新聞でも伝えられた)ので御存じの方も多いかもしれませんが、1月14日付けのアメリカの新聞ワシントン・ポストに、中国黒竜江省の農民たちが自分たちの耕作していた土地を取り上げた村政府に対して土地の返還を要求し、自分たちに土地所有権があることを認めるよう主張していることについての記事が載っていました。

(参考1)ワシントンポスト2008年1月14日付け記事
"Farmers Rise In Challenge To Chinese Land Policy"
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/01/13/AR2008011302383.html

 中国の耕地は、農民の所有地ではなく、村という単位の集団が所有している土地であり、農民たちには一定の期限付きで貸し与えられ(別の言葉でいうと、期限付きで土地使用権が与えられ)、耕作が行われている、というのが現状です。土地所有権は村という集団が持っていることから、村当局が農民から土地使用権に見合う分だけの一定額の補償金を支払って土地を収用し、その土地を開発業者に売る、という行為が中国各地で行われています。下記(参考2)で紹介しているインタビュー記事によると、「土地使用権に見合う分の一定額の補償金の支払い」が社会主義的な原則に基づいて行われるためその金額は小さく、「開発業者への土地の売却」が市場経済下のルールで行われるためにその金額が大きくなるケースが多く、その結果として、農民に支払われる補償金が少なく、一方で村当局や土地開発業者には巨額の金額が転がり込む、というケースが多いとされています。そのために村当局による不必要な農地の収用と土地の乱開発が跡を絶たず、不正の温床にもなりやすいのだ、というわけです。

 上記(参考1)のワシントン・ポストの記事によると、こういったケースに対して、農民たちは村当局が収容した農地の返還を要求し、農民たち自身が自分の判断で土地開発業者と売却金額の交渉ができるよう、土地所有権を自分たちに与えるように主張している、とのことです。

 もちろんワシントン・ポストで紹介されている農民たちの行動は中国国内では報道されていませんが、この農民たちの考え方と同じような考え方については、このブログの1月14日付け記事で私が紹介したように、1月14日付け(1月12日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」に載っていたインタビュー記事の中で清華大学教授の蔡継明氏が述べていました。

(参考2)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 ワシントン・ポストが伝える農民たちの動きが、中国において違法なものなのか、合法的な範囲内のものなのか、については、私は上記のワシントン・ポストの記事以外の情報を何も持っていませんので、判断はできません。ただ、一般的に言えば、中国の共産主義革命の過程の初期の段階では、例えば、1956年頃まであった「初級合作社」の制度では、自作農に対しては土地の私有を認めつつ、共同で農作業を行うことが行われていたので、土地私有制の主張が中国共産党指導下の中国において直ちに違法なものになると言うことはできません。上記の蔡継明清華大学教授の意見が掲載された新聞が堂々と街で売られていることから見ても、「土地私有制」を主張すること自体は、現在の中国では違法なもの、とはみなされないようです。一方、ワシントン・ポストの記事の伝える農民たちの運動がもし仮に「中国共産党の指導による政治」を覆そうと試みるものであるならば、それは、現在の中国の法律の下では違法とみなされる可能性があります。

 一方、上記のワシントン・ポストの記事が北京から何の問題もなくアクセスでき、読むことができる、ということは、党中央がこの記事が伝える農民たちの動きを完璧に抑え込もうと考えているわけではないことを示しているのかもしれません。というのは、現在の中国では、党中央の考え方に真っ向から反対するような主張を伝えるサイトについては、アクセス制限が掛かり、中国国内からは閲覧することができないからです。

 党中央の真意は測り知ることはできませんが、もしかすると、党中央の中にも、村当局が農民の意向に反して土地を収用し、その土地を開発業者に売ることによって莫大な利益を得ることを問題視する考え方の人がいるのかもしれません。もしそうした考え方が党中央の一致した考え方なのだとすると、党中央の考え方は末端の農民の意向と一致し、一方、末端行政機関である地方政府・地方党組織の意向がそれらと対立する、という構図ができあがります。今後の中国の行方を考えるに当たっては、土地を巡るそういった構図があるのか、ないのか、といった「見極め」を念頭に置いておく必要があると思います。

 なお、上記ワシントン・ポストの記事と私が紹介した「経済観察報」の記事がいずれも同じ1月14日付けであったのは、単なる偶然の一致なのでしょうか。それとも党中央の一定の意図が背景にあった必然の結果なのでしょうか。それについては、私には何も知る術はなく、想像の域を何ら超えることはできません。

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2008年2月 3日 (日)

中国大雪被害:広州駅の群衆内で1人が圧死

 中国中南部の大雪は各地にいろいろな被害をもたらしています。広東省広州市の広州駅では、ただでさえ春節(旧正月)を故郷で過ごそうという帰省客が多く集まる時期に、大雪の影響で鉄道のダイヤが大幅に乱れたため、数十万人単位の人々が集まっています。

(参考1)「チャイナ・ディリー」2008年2月2日付け1面トップ記事
「胡錦濤主席、全ての力を(雪害対策に)投入せよ、と指示」
http://www.chinadaily.com.cn/china/2008-02/02/content_6437189.htm

 公安当局も集まる群衆を整理するのに必死になっていますが、昨日(2月1日)、遂に一部の群衆が将棋倒しになり、広州市の時計工場で働く湖北省出身の女性1名が死亡(そのほかに数名がケガ)という事故が起きてしまいました。この時、広州駅には40万人の人々が集まっていたそうです。

(参考2)ネット版「人民日報」(人民網)2008年2月3日00:54アップ記事
「広州駅で旅客1名が圧死」
http://society.people.com.cn/GB/41158/6859662.html

※上記二つの記事は写真付きですので、英語や中国語が読めなくても現場の状況がよくわかると思います。

※※2月1日15時に将棋倒し事故が起き、2月2日0時にこの事故に遭った女性が病院で死亡した事件について、2月2日夜11時になってようやく発表する、という広州市公安当局の対応には、いささか問題があると私は思います。今の中国においては「発表しただけマシ」と言えるのかもしれませんが。

 今日(2月3日)も中央電視台第一チャンネルでは、午前中、大雪被害に関する特別報道番組を放送していました。その中で8日間以上に渡って断水と停電が続いている湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)付近の高速道路インターチェンジからの生中継のレポートもやっていましたが、片方の車線は大型トラックが数珠繋ぎで全く動いていない様子でした。温家宝総理は、このチャンチョウ市のある湖南省南部が中国の南北と東西を結ぶ交通の要衝であることから、人民解放軍を動員することはもちろん、大雪被害のない北方の電力関係者をこの地方に派遣して、まず湖南省南部の復旧を図るよう指示した、とのことです。このほかにも寒波・大雪の被害は貴州省、江西省など被害は広範囲に渡っているのですが、まず交通のネックのポイントとなっている地区を優先的に復旧させよう、という方針のようです。

 昨日(2月2日)夜の中央電視台「焦点訪談」では、湖南省長沙(チャンシャー)空港で、降った雨(みぞれ)が滑走路上で完全に氷と化し、スケートリンクのようになった滑走路を復旧させようとしている空港職員の作業の様子が伝えられていました。

 中国の地理にあまり慣れていなくて地名を言われてもピンと来ないかたはぜひ地図を御覧になっていただきたいのですが、湖南省、貴州省、江西省などは、緯度的には沖縄から台湾北部に当たる地方で、これらの地方で大雪や着氷による被害が出ている、ということは、極めて異常なことです。2月2日の香港の最高気温(最低気温ではない)は摂氏プラス10度だったそうで、今回の寒波がいかに強烈であったかがわかると思います。

 今は、鉄道や高速道路が通っている地方の中核都市について多く報道されていますが、おそらく、高速道路や幹線道路からかなり内陸に入った農村部では「陸の孤島」となっている地区が多数あるのではないかと想像されます。それら内陸部では、まだ情報が収集しきれていないので、今回の寒波の被害は、集計してみると今後もっと大きくなる可能性があります。今回の寒波・大雪・着氷被害は、経済発展により高速道路網や電力網が発達した後の中国にとって最大の大規模自然災害と言えるもしれません。例えば、大雪で高速道路が渋滞すると、渋滞途中のトラックがガス欠を起こして立ち往生して、さらに渋滞に拍車をかける、ということがよく起きますが、中国では(特に南部地方では)そういったことを経験したことがたぶんないので、対応に苦慮しているのではないかと思われます。

 北京オリンピックまではまだ半年ありますので、今回の寒波・大雪がオリンピックに影響するとは思いませんが、今の中国は、全国的に「オリンピックどころではない」といった雰囲気になっています。

 この寒気団は、今日(2月3日)になって日本上空に移動し、東京などでも雪が降って雪が積もっているようですが、日本列島は黒潮や対馬暖流に抱かれているので、寒気団が襲ってきても、これら海の影響によりかなりマイルドになっていると思います。その意味で、日本は、中国に比べれば、自然環境の面で非常に恵まれた国です。中国を襲った寒気団は、通常1~2日後に日本へ到達するので、日本のマスコミは中国のこういった寒波襲来のニュースに対して、もうちっと関心を持ってよいと思います。

 なお、中国では、毒物入り冷凍ギョーザ事件については、ほとんど報じられていませんが、こういった寒波・大雪被害の中で人心を不安にするような情報はできるだけ広めたくない、という当局の意図が働いているのかもしれません(春節(小正月)を家族みんなでギョーザを食べながら迎える、というのが、中国の伝統的な慣習ですので)。今回の寒波・大雪被害は相当な規模のものであるので、私は、個人的には、今回に限って言えば、パニックを防止する、という観点で、冷凍ギョーザ事件に関する情報管理もある程度やむを得ないかなぁ、と思っています。 

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2008年2月 2日 (土)

豪雪は杭州31センチ・上海22センチ

 中国中南部の寒波・大雪は今日(2月2日)も続いています。新華社の報道によると、2月2日14時時点で浙江省杭州市で積雪が31センチ、上海では2月2日19時までに雪はやんだものの、ところによっては積雪が22センチ以上に上るところもあるとのことです。緯度で言えば、上海は鹿児島市、杭州は種子島くらいに当たりますから、この積雪量は尋常ではありません。杭州市では1978年に改革開放が始まってから最大の大雪なのだそうです。

 2月1日時点で中国政府が発表したところによると、1月10日以来の寒波と着雪・着氷(注)による被害は、死者60名、行方不明2名、緊急非難を必要とした人175.9万人(うち鉄道や道路の不通により滞留を余儀なくされた人々66.7万人を含む)、被害を被った農地1.41億ムー(940万ヘクタール:日本で言えば北海道と青森県を合わせた面積より広い)、倒壊した家屋22万3,000軒、損壊した家屋86万2,000軒、経済的損失は537.9億元(約8,000億円)に上る、とのことです。電力網の寸断と燃料となる石炭の輸送ができないため、各地で停電が相次いでいます。2月2日付けの「新京報」によると、湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)では、停電と断水が8日間続いているとのことです。中国政府は、経済への影響は短期的なもので、全体的な中国経済の状況には影響は与えない、との認識を示していますが、相当な被害であることは間違いありません。

 中国中央電視台第1チャンネルでは、2月2日、午前、通常の番組を中止して、寒波・雪害報道の特別報道番組を放送しました。これはかなり異例のことです。胡錦濤国家主席は人民解放軍と武装警察に対して全力で災害地区を支援するよう命令を発し、これまでに25万人以上が災害救援活動に動員された、とのことです。また、商務部は春節(2月7日)までに国家備蓄している冷凍肉を1.8万トン放出する方針、とのことです。

 日本では、毒物入り冷凍ギョーザ事件の方ばかりクローズアップされて報道されているので(もちろんこちらも重大な事件ですが)、中国中南部の寒波・大雪の方にももっと注意を向けるべきだと思ったので、最新情報を書かせていただきました。

(注)着氷現象について:

 日本は海洋性気候で、陸地と海との温度差により対流が起きやすいので、上層の大気と地表面近くの大気が混じりやすいので発生しにくいのですが、大陸性気候の地域では、時として大規模な着氷現象が起きます。地表面が零度または氷点下、上層大気が零度以上で、風が弱いときに降水現象が起きると、上層大気の部分で雨になったものが零度または氷点下の地表近くに落ちてきて、樹木や電線にぶつかってそこで氷になる現象が起きます。電線や細い木の枝の場合、電線の上に一定以上の量の氷が付くと、重さで氷がくるりと下側に回転し、また電線や木の枝の上に氷が付着していきます。こうして電線や木の枝の周りに「ちくわ」のように氷が蓄積します。電線の場合は、着氷対策をしていないと、こういった着氷現象が起きやすいので、場合によっては直径10センチ程度の「ちくわ」状の氷が付着します。電線の場合は、その氷の重みで電線自体が切れたり、電線を支える鉄塔を引き倒したりします。樹木の場合は、その重みで折れ、道路上にかぶさって交通を妨害したりします。

(参考1)「新華社」2008年2月1日17:32アップ
「レンズを通して見た氷りに覆われた鉄塔に取り組む電力労働者」(組写真)
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-02/01/content_7545643_2.htm

(参考2)「新華社」2008年1月29日11:02アップ
「氷に覆われた鉄塔、重さで倒壊 電力労働者3名が殉職」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516115.htm
※この鉄塔倒壊事故では、作業中の作業員3名が亡くなっています。

(参考3)「新華社」2008年1月29日11:06アップ
「南京で雪の重みで倒れた松の木」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516146.htm

 こういった大規模な着氷現象は、日本ではごくたまにしか起きませんが、大陸性気候のアメリカなどでも時々発生しています。今回の中国中南部の場合は、普段は雪が降ったり着氷現象が起きたりしない地域であるだけに、ほとんど着氷対策がなされていない状態だったのが被害を大きくしているようです。

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