« ついに出た「土地私有制」の提案 | トップページ | 物価対策として小売価格に直接政府が介入 »

2008年1月16日 (水)

上海のリニア延長反対の住民が「集団散歩」

 日本でも報道されているので御存じの方も多いと思いますが、1月12日(土)と13日(日)、上海で、現在営業運転中の磁気浮上式リニアモーターカーの路線延長について、沿線への電磁気的影響を心配する延長路線周辺の住民が上海市内で集団で歩いた、とのことです。外国の通信社はこれを「デモ」と言っていますが、中国国内で報道されたところによると、参加した人たちは自分たちの行為を「散歩」だ、と言っているとのことです(日本語で言う散歩は中国語でも「散歩」)。

(参考1)「新京報」2008年1月14日付け記事
「上海の磁気浮上リニアモーターカー延長計画、論議を引き起こす」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-14/018@082613.htm

※上の記事を見ていただければ「散歩」の文字があることがわかると思います。

 上海の磁気浮上式リニアモーターカーは、ドイツの技術を基にして建設されました。レールを抱え込むように設置された車体に取り付けられた普通の電磁石(常電導電磁石)の吸引力で浮上し、路面に設置された金属版と車体下部に付けられた電磁石との間に働く電磁気力で動く仕組みです。形式的には2005年の愛知万博に合わせて開業した現在愛知高速交通鉄道東部丘陵線(路線延長約9km。愛称「リニモ」)と同じタイプのものです。上海の磁気浮上式リニアモーターカーは、上海浦東国際空港と市街地に近い地下鉄のターミナルを結ぶ約30kmの路線で、2003年に一般乗客を乗せた運転が開始されました。まだ比較的短い路線ですが、最高時速430kmまで出す営業路線として話題になっています。2010年に開かれる上海万博をきっかけにして、西に延長され、隣の浙江省の杭州市まで延ばされる予定になっています。

 この延長計画に対し、上海市内の延長される路線計画周辺の一部の住民は、電磁気による健康影響が心配だ、などとして、延長計画に反対しています。ドイツなどでは沿線の周囲に幅広くグリーンベルトなどを設けているのに対し、延長計画では住宅のすぐ近く(最も近いところで22.5m)を路線が通過する計画になっているのが問題だ、と住民たちは主張しているようです。私は、磁気浮上式リニアモーターカーの沿線への電磁波による影響がどの程度あるのか必ずしも詳しくありませんが、乗っている人やホームで待っている人に対して安全上問題ないように設計できるのであれば、沿線に対して安全上問題が出ないように設計することはそれほど難しくないのではないか、と想像しています。

 今回の住民の人たちの行動で注目されるのは、彼ら自身は自分たちの行動を「デモ」だとは言っていない、ということです。中国では、デモを行うには、事前に場所や人数、スローガンなどを当局に届けて許可を受ける必要があります。許可を受けないで行うデモは「違法デモ」となります。また、許可を受けないままインターネット等で集会の呼びかけを行うことは、その呼びかけ自体が違法となります。

(参考2)このブログの2007年8月24日付け記事
「ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2a32.html

 今回の上海リニア反対については、共同電やロイター電が配信した写真を見る限り、参加者はプラカードや横断幕、ゼッケンなどデモに「つきもの」の意見を表明する小道具を持っていません。見た目には単に「人が集まっただけ」というふうに見えます。プラカードや横断幕、ゼッケンなどを用意しているわけではなく、何かの意見を集団で訴えるために集まったのではないから、集会でもデモでもないのだ、と主張したいのだと思います。

 それでも、外国の通信社の報道によれば、何人かが公安当局に拘束された、とされていますので、こういった行為もやはり「違法」なのかもしれません。NHKの番組「激流中国」の中でも紹介されていましたが、最近の中国では土地収容に反対する住民の側に立って活動する弁護士も多くなっており、今回も住民たちがそういった弁護士から法律に触れないようにしながら意思表示する方法について何らかのアドバイスを受けている可能性があります。

 集会の呼びかけにしても一人の人が呼びかければ、上記(参考2)に掲げる例のように「違法」とされますが、携帯やパソコンのチェーンメールのようなものを使えば特定の人が「呼びかけた」ことにならないので、当局が誰かを「違法だ」という形で拘束することは難しいのではないかと思います。つい先日、このブログにも書いたように、携帯メールやインターネット上での「世論」を当局が完全にコントロールすることは不可能です。

(参考3)このブログの2008年1月13日付け記事
「ネット世論にいかに対応するか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_7b9f.html

 ひとむかし前なら、こういった「デモ」まがいの住民の行動については、当局のコントロールによって新聞に載ることはなかったと思います。しかし、今はこの手の情報は新聞に載らなくてもネットでどんどん広がってしまうので、当局としても新聞に載せるのを止めさせることができないのです。強権的に新聞が記事にするのを禁止するようなことをしたら、その当局による報道の禁止という行為自体に対して当局を強く批判するネット世論が盛り上がってしまうからです。

 こういったネットでの人々の情報交換、法律に触れないようにしながら行う様々な形での意思表示が今後中国全体にどのような影響を与えていくのか注目していく必要があると思います。特に最近の中国の「住民運動」について過去の大衆運動とちょっと違うと感じるのは、例えば、ネットで情報交換し、住んでいるところからの立ち退きに反対している人たちは、貧しい何の資産を持たない人々ではなく、住む家や商売するための店を持ち、日常的にネットワークにアクセスするお金があり、法律に対してある程度の知識を持つなど一定の教育レベルにある人たちだ、ということです。特に都市部では、過去の分類の仕方で言えばこれら「無産階級(プロレタリアート)とは呼べない人たち」がどんどん増えており、その数が既に「大衆」と呼んでもおかしくない程の大きな数になっていることが現在の中国の特徴的な現象だと思います。

 その意味でも、私は、これからの中国では、中国自身にとってはもちろん、世界のほかの国のどこも過去に経験したことのないことが起こるような気がしています。
 

|

« ついに出た「土地私有制」の提案 | トップページ | 物価対策として小売価格に直接政府が介入 »

中国の報道機関」カテゴリの記事

中国の民主化」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ついに出た「土地私有制」の提案 | トップページ | 物価対策として小売価格に直接政府が介入 »