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2008年1月21日 (月)

物価対策として小売価格に直接政府が介入

 2007年後半以降、中国の食料品等の消費者物価は急激な上昇を示しています。CPI(Consumer Price Index :消費者物価指数)という言葉が中国での2007年の「流行語」として認定されたほどです。1月17日付けの「京華時報」の記事によれば、2007年8月以降、中国の消費者物価指数は5か月連続で対前年比6%以上の上昇を示している、とのことです。また、この記事によれば、2008年1月上旬の時点での全国36の大中都市における物価の上昇率は、対前年比、豆油で58%、豚肉で43%、牛肉で46%、羊肉で51%になっている、とのことです。

 近年、中国の経済成長により、人々の所得も上昇していますが、これら生活に直結する食料品のこれだけ急激な上昇に対しては焼け石に水です。このままでは、人々の間に不満がうっ積することを懸念したからだと思いますが、国家発展改革委員会は、1月15日「一部の重要な商品・サービスに関する臨時的価格干渉措置の実施方法」という通知を発しました。

(参考1)「京華時報」2008年1月17日付け記事
「国家発展改革委員会、食糧油と肉類の値上げに対して臨時的価格干渉措置を発動」
http://china.jinghua.cn/c/200801/17/n651332.shtml

(参考2)「新京報」2008年1月17日付け記事
「食糧油等の価格に対する臨時的干渉措置を発動」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-17/018@074321.htm

 この措置の概要は次の通りです。

○カップ麺業界4社、食用植物油業界4社、乳製品業界4社の合計12社(具体的会社名を列記している)が製品価格を値上げする場合には、事前に国家発展改革委員会に申請し許可を得ること。

○主要商品(食糧、食糧製品、食用植物油、豚肉・牛肉・羊肉及びその調整品、鶏卵、謬乳及び粉ミルク、液化天然ガス)について小売店が値上げをする場合、1回の値上げが4%以上となる場合、10日間の累積値上げ率が6%以上になる場合、30日間の累積値上げ率が10%以上になる場合については、その事実が発生した時点から24時間以内に政府関係部門に届け出ること。

○上記を守らない企業、小売店は、法律により処罰される。

 この措置に対して、「計画経済時代じゃあるまいし、これだけ市場経済が導入された現在の中国において、このような形で政府が小売価格に直接介入するのは、時代錯誤で非現実的だ」という批判が起きています。例えば、2008年1月21日付け(1月19日発売)の「経済観察報」では、1面の社説で「政府は物価に対してはマクロ経済的手法で対処すべきであり、もし低所得者の生活が危機に瀕するのを心配するのであれば必要な生活保護費を付与すべきであって、企業や小売店の価格に政府が直接介入することはすべきでない」と主張しています。

 実際、昨年の夏、甘粛省蘭州市政府が、蘭州市民の常食である「蘭州牛肉麺」について、「小売り価格は1杯2.5元(約38円)以下にせよ」と小売店に命じた時には、国家発展改革委員会自身が「地方政府は小売価格を指示するようなことをしてはならない」という指示を出しています。

(参考3)このブログの2007年8月1日付け記事
「小売価格を政府がコントロールしないようにとの通知」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_08c4.html

 政府が「小売価格を抑えろ。従わなければ罰則だ。」と言った場合、コスト価格が上昇している中では企業は赤字を出すわけにはいきませんから、値上げできないのであれば、品質を落とす方向に動きます。従って、政府による強制的な価格抑制が消費者の利益にならないのは火をみるより明らかです。

 これらの反対論に対して、国家発展改革委員会は、ポイントとして次のように反論しています(下記の反論は、2008年1月20日(日)夜に中国中央電視台第1チャンネルで放送された「焦点訪談」の中で国家発展改革委員会の担当者が語っていたもの)。

○今回の措置は「価格凍結」をしようというものではなく、各企業の価格決定権を侵害する考えはない。今回の措置はあくまで(便乗値上げなど)不合理で不当な価格上昇を抑えようとするものである。

○「市場経済においては、政府が価格に介入すべきでない」と主張する人が多いが、そもそも市場経済とは、市場における「見えざる手」(中国語で「看不見的手」)と政府による「見えざる手」が共同して安定した市場を形作っているものである。今回の措置もその一環である。

 ただ、上記に述べた「経済観察報」の社説では、実際の価格の上昇は、コストの上昇に起因して各企業がやむを得ずに行っているものであって、便乗値上げなどが仮にあったのだとしてもその割合はごく微々たるものに過ぎず、もし国家発展改革委員会が説明しているように「不当な値上げを排除するだけ」なのであれば、物価の値上がりに対して効果を上げることはできないだろう、と主張しています。

 「価格を抑えると、企業は品質を落とすだけ」という議論に関連して、人民代表(国会議員)の中には「糧票制」(食糧配給制)を復活させよ、と主張している人も出てきているそうです。「糧票制」は、食糧生産が少なかった時代にあった制度で、食料品を買う時に政府が配給する「糧票」を持っていかないと買えない制度です。第二次世界大戦後の日本にも同様の制度がありましたし、私が前回に北京に駐在していた1980年代後半の中国でも制度としては一部残っていました。しかし、既に「世界の工場」と呼ばれるまでになって久しい現在の中国では、とっくの昔に「過去の遺物」となった制度です。

 国家発展改革委員会が今回の措置を発表したのは、「政府も消費者物価高騰に対してまじめに取り組んでいる」という姿勢を見せたかったからだと思います。国家発展改革委員会は、自分で言っているように、「価格凍結」をするような運用の仕方はしないと思います。しかしながら、これだけ華やかに経済発展を続ける現在の中国において、食料品の価格を政府が統制しようという発想が出てきたこと自体に驚かされました。また、それに加えて「糧票制を復活させよ」などとまじめに言い出す人が出てくるとは信じられませんでした。たぶん、中国国内には、まだまだ「今の経済発展は歪みが大き過ぎる。昔の計画経済時代に戻るべきだ。」という「超保守派」の勢力が私たちが思っている以上に強いので、それら「超保守派」に対して「あなた方のような考え方も含めて、政府はいろいろ検討して、対策を考えています。」というメッセージを出したかったのかもしれません。

 いずれにせよ、肉類や食糧油の物価上昇率が対前年比40~60%という現在の水準は、既に「危険水域」に入りつつあるような気がします。

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