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2008年1月28日 (月)

中国における最近の住民運動の例

 先日、このブログで、上海の磁気浮上式リニアモーターカー路線の延長に反対する住民運動の話を書きました。

(参考1)このブログの2008年1月16日付け記事
「上海のリニア延長反対の住民が『集団散歩』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_cd3c.html

 このほかにも、最近、中国における住民運動について報道されるケースが多いので、いくつかを御紹介しておきます。

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○アモイPXプロジェクト事件

 福建省アモイ(廈門)市内で台湾系企業がPX(パラキシレン:各種化学材料の原料となる有毒物質)を製造する工場の建設の計画(総工費108億人民元(約1,620億円))を立てた。2004年2月に国家発展改革委員会の許可を得てプロジェクトがスタートし、2005年7日に国家環境保護総局から環境影響評価の許可も得て、2006年8月から建設予定地の既存の建物の取り壊し作業などの工事が開始された。一方、取り扱う化学物質に対する周辺住民の不安は強く、2007年5月、周辺住民による反対が強まり、大規模なデモも行われた。ネット上でも建設に反対する議論がわき起こった。このため2007年6月7日、アモイ市当局は、建設を一時的に停止し、善後策を検討することとなった。

 アモイ市当局は、2007年12月、対応案を作成しパブリック・コメントに掛けるとともに、数日間にわたる公聴会を開催した。しかし、公聴会で出された意見の大部分は建設に反対する意見だった。

 一部報道によると、福建省政府とアモイ市政府は、これらの住民の意向を受け、化学工場の建設予定地を別の場所(ショウ州市(ショウはさんずいに「章」))に移す意向であるとのことである。

(注)PX(パラキシレン)はポリエステル繊維・樹脂の原料等となる基礎的な化学物質で、日本国内でも多くの工場で生産されている。

(参考2)財経ネット2007年6月24日付けアップ記事
「アモイPX環境評価が示すもの」
http://www.caijing.com.cn/newcn/econout/other/2007-06-24/23042.shtml

○乳山紅石頂原子力発電所計画に対する反対運動

 現在、乳山紅石頂核能有限公司という会社が山東省乳山市で原子力発電所(電気出力100万キロワットの加圧水型原子炉6基)の建設計画を進めている。このプロジェクトは、国家発展改革委員会が2007年10月にとりまとめた「原子力発電中長期発展計画(2005~2020年)」にはリストアップされているが国家環境保護総局に提出する安全審査については準備中の段階である。

 この計画について、原子炉と住民が住んでいる場所との離隔距離が近すぎる等としてインターネットの掲示板上で反対する動きが起こった。こういった動きに対して、2007年12月6日、国家環境保護総局は、「乳山原子力発電所については、まだ安全許可申請が出されていない段階である。申請が出されたら法令に基づき安全審査を行う」旨の異例の「説明」を発表した。

(参考3)「新京報」2007年12月7日付け記事
「環境保護総局:乳山原子力発電プロジェクトはまだ許可されていない」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2007/12-07/014@085224.htm

 なお、「原子力発電中長期発展計画(2005~2020年)」では、掲載されている13か所の原子力発電所の新・増設計画のうち、この乳山紅石頂原子力発電所についてだけは備考欄に「サイトについてさらに検討を行う必要がある」と記されている。

○北京市望京地区における変電所建設反対運動

 北京市当局は、北京市北東部にある望京地区(新しくマンション等が建ち始めている地区)で変電所の建設を計画している。一部の周辺住民は、高圧電線による電磁気の健康影響を心配して変電所の建設に反対している。市当局は説明会を開くなど、説得に当たっているが、住民らは納得せず、2007年12月30日には一部住民が集団で横断幕を掲げて反対の意思を表示し、公安当局に解散させられた。2008年1月22日夜には、一部住民が第四環状路に車を止めて交通を妨害する行為に出たことから、公安当局はこれに参画した住民20数名から事情聴取を行った。

(参考4)「新京報」2008年1月24日付け記事
「変電所に抗議する家主、第四環状路を封鎖する」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-24/011@095745.htm

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 これらの住民運動で特徴的に見られるのは、上記(参考4)に見られるように、運動の中心になっているのは古くからその地域に住んでいる住民ではなく、「家主」、即ちマンション等を購入してそこに新たに住み始めた住民であることです(北京市望京地区は、北京市内でもかなりの郊外の地区で、近年新しくマンション等が建ち並ぶようになった新興住宅街です)。大金を支払ってマンションを買ったところ、その周辺に「迷惑施設」が建設する話が後で持ち上がったため、「家主」が反対を始めた、という図式です。乳山原子力発電所の場合も、反対の中心になっているのは、昔からその地域に住んでいる農民・漁民というよりは、最近、付近の海岸地帯に別荘を買った大学教授や弁護士等の「富裕階層」のようです。そもそもマンションや別荘を購入するほどのお金を支払える人たちは、中国の中でも豊かな人たちなので、これらの住民運動を「大衆運動」と捉えることが正しいのかどうかは議論の余地があるところだと思われます。

 従来の中国における大衆運動と異なる点として、これらの住民運動を特徴づける点は以下の点です。

○住民運動の主体が大学教授や弁護士等、むしろ現在の体制に基づく経済発展の「受益者」と言える人々であって、「社会的に虐げられた人々」「現在の体制に反対する人々」ではないこと。

○明確な権利意識に基づき、ハッキリと自分の意図を表明しようとしていること。

○住民運動の主体が知識階層であり、法律知識などもあることから、中国で法的に許される範囲内で何ができるかを考えつつ、かつ、社会的注目を集められるような手法を用いて自らの意志を表明しようとしていること。

○携帯メールやインターネット等を用いて情報交換を行い運動を進めていること。

○これらの住民運動が中国国内の新聞メディアで客観的に報道されていること。

○当局もこれらの住民運動を強圧的に抑え込もうとせず、住民たちとの「話し合い路線」を取っていること。

 これらの諸点において、これらの住民運動は、最近の中国の社会の変革を象徴する動きだと私は思います。今後、これらと同様の住民運動はいろいろな場面で起こされると思います。これらの個々の人々の権利と公共の利益との調整は、極めて難しい政治的課題で、議会制民主主義制度があればうまく解決できる、などという単純な性質のものでもありません。また、これらの住民運動が、幅広い一般大衆の賛同を得ていくのか、「金持ち階層の地域エゴ」として一般大衆からはソッポを向かれることになるのか、はよくわかりません。ただ、少なくとも、このような住民運動に対して行政当局がいかに対応していくのか、という経験を通じて、中国の社会が少しづつ前進をしていくきっかけになるのは間違いないと思います。

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