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2008年1月 7日 (月)

地方の事件を報じた雑誌記者が北京で勾引

 今日(1月7日)付けの北京の大衆紙「新京報」に、遼寧省西豊県で起きた事件の記事を書いた雑誌の記者が北京で西豊県の公安当局に勾引されようとしている、という記事が載っています。

(参考1)「新京報」2007年1月7日付け記事
「西豊県の携帯メールで誹謗罪となった事件を報道した記者が勾引されようとしている」
http://www.thebeijingnews.com/news/deep/2008/01-07/021@073617.htm

 この記事によると事情は以下のとおりです。

○1月1日に発売された雑誌「法人」に「遼寧省西豊県:政商の力比べ」と題する記事が載った。この記事のポイントは以下のとおりである。

・西豊県政府は、特産品販売センターを作るためにある女性が経営するガソリンスタンドを立ち退かせようとしていたが、賠償額に関して双方で争いが起きていた。

・ガソリンスタンドの女性経営者に打撃を与えるため、政府の関係部署はこの女性経営者を脱税と県の指導者に対する誹謗の罪で告発した。

・この販売センターの土地の譲渡や入札等には重大な問題が存在している。

○1月2日、西豊県の公安当局がガソリンスタンド女性経営者の家に来て、「雑誌記者に対して賄賂を送った」との疑いで捜査を始めた。公安当局の担当者は「金品を渡さなければ、わざわざ北京から記者が来てあのような記事を書くはずがない」と言っていた。

○1月4日、朝、西豊県の公安当局が北京にある雑誌「法人」の編集部を訪れ、記事を書いた女性記者と編集長に対する事情聴取を行った。午後、再び西豊県の公安当局担当者が雑誌「法人」の編集部を訪れた。彼らは「県の書記を誹謗した『誹謗罪』」により女性記者を勾引する、と書かれた書類を持参し、編集部に対して捜査への協力を要請したが、編集長はこれを拒否した。

○1月5日、西豊県のガソリンスタンド女性経営者の家族が雑誌「法人」の記事が事実であることを示す証拠を持って北京に出てきて、記事が真実であるとを訴えた。その訴えによると、去年の3月、ガソリンスタンド女性経営者の家族が県の書記を非難する携帯メールを発信したところ、「誹謗罪」で逮捕され、昨年12月29日、西豊県裁判所で有罪判決が出された、とのことである。

○新京報の記者が西豊県の書記に取材して「雑誌『法人』を発行している会社の所在地は北京なのだから、『誹謗罪』で裁判を起こすには法律によれば北京の裁判所で起こさなければならないのではないか。」と質問したところ、県の書記は「雑誌『法人』の記者のことについては何も知らない」と答えた。

○女性記者の弁護士は、「誹謗罪」は「親告罪」(被害を受けた人が告訴してはじめて当局が捜査を行い起訴する)であるので、誹謗された本人が「何も知らない」というのであれば、西豊県の公安当局は、本件を捜査し、女性記者を勾引することはできないはずだ、と言っている。

○雑誌「法人」の記事を書いた女性記者によれば、1月7日(つまり記事が掲載されている今日)の午前中、西豊県の公安当局は雑誌「法人」の編集部で彼女を待っているはずだ、とのことである。

 この「新京報」の記事では、昨晩(1月6日の夜)この女性記者の家で撮影した、という自分が書いた雑誌「法人」の記事を見ている女性記者の後ろ姿の写真を掲載しています。

 この「新京報」の記事は「現在進行中」の事件を記事にした、という点で極めて異例です。また、遼寧省西豊県の公安当局が雑誌「法人」の編集部を訪問した際に北京市公安局文書保安課の職員も同行していることを記載しているなど、当局の「御指導」を受ける立場にある「新京報」自身にとっても、かなり「きわどい」記事であると思います。しかしながら、「新京報」としては、この事件は「他人事」ではなく、報道の自由に対する重大な問題であって、自分自身の問題なのだ、という強い意志の下で書かれていると見られます。この「新京報」が署名入り記事として掲載されていること、記事の内容をインターネット上でもきちんと公開していること、などからもその「意志」は窺えると思います。

 「新京報」は、以前にも「誹謗罪」の恣意的な拡大解釈は報道の自由に対して重大な問題である、という認識を示した社説を掲載しています。

(参考2)このブログの2007年11月22日付け記事
「『誹謗罪』の拡大解釈を警告する、との社説」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/11/post_a695.html

 こういった報道の自由を重要視する考え方は、胡錦濤総書記を中心とする現在の中国共産党中央の意向にも沿ったものです。地方政府の乱脈ぶりをチェックし、是正するためには、報道機関による監視の目は、社会の役割として重要である、と党中央も認識しているからです。だからこそ、「新京報」は、堂々と上記のような社説を掲げ、毅然として今回のような記事を掲載しているのだと思います。

 中国では、まだまだ地方の末端レベルでは、党や政府の幹部と公安当局、そして裁判所までもが「ぐる」になっているケースが多々見受けられるようです。党中央としても、これを見過ごしていては、一般国民からの支持を失いますから、そういったことは毅然とした態度で是正すべき、と考えているのだと思います。問題は、そういった党中央の意志が、既得権益集団と化してしまった一部地方政府の壁をどれだけ突き崩せるかだと思います。中央がこれら既得集団化してしまった一部の地方をどうコントロールしていけるのか、が、現在の胡錦濤体制の最も重要な課題だと私は思います。

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(以下、2008年1月8日に追記)

 本件については、2008年1月8日付けの「人民日報」が、上記の「新京報」の報道を受けて、「世論による行政の監視は重要であり、県当局は雑誌記者を拘束するのではなく、誹謗されたと思うのならば、その旨を裁判に訴えて司法の場で法の下での判断を受けるべき」との立場からの評論を掲載しています。

(参考3)「人民日報」2008年1月8日付け
「『西豊事件』:司法はどのように介入すべきなのか(人民評論)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/08/content_37590151.htm

 中国共産党の機関紙である人民日報にこのような評論が掲載されたところを見ると、党中央も今回の遼寧省西豊県の公安当局の行動は「問題あり」と認識していることを示していると思います。

 なお、1月8日付けの「新京報」の報道によると、この件の1月7日の動きは以下のとおりです。

○西豊県の公安当局が女性雑誌記者を拘束しに来るのを取材しようと、多くのメディアが雑誌社に集まっていた。

○西豊県の公安当局は、女性雑誌記者に対して「1月7日午前中に雑誌社に来る」と言い残していったのだが、実際は雑誌社には現れずに西豊県に帰っていった。

○「新京報」が西豊県の公安当局に「なぜ雑誌社に現れずに西豊県に帰ったのか」と質問したのに対し、西豊県の公安当局はその理由について答えなかった。

(参考4)「新京報」2008年1月8日付け記事
「遼寧省西豊県公安当局、北京に人員を派遣して記者を勾引することを撤回」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-08/021@073647.htm

 最近、中国では、行政機関の理不尽な行動を新聞社等に訴えて、新聞社等がそれを記事にすることが多くなりました。最も象徴的な事件が昨年6月に明るみに出た山西省の悪徳レンガ工場事件でした。

(参考5)このブログの2007年6月15日付け記事
「山西省の悪徳レンガ工場での強制労働事件」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_54d1.html

 その後、昨年7月の北京テレビ局によって起こされた「『段ボール肉まん』やらせ事件」により、テレビ局によるこの手の「告発報道」は減ったような気がします。

(参考6)このブログの2007年7月19日付け記事
「『段ボール肉まん』報道は『やらせ』だった」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_10f1.html

 しかし、新聞では、地方政府の理不尽さを告発するような記事は最近も数多く掲載されています。今回の遼寧省西豊県の事件で、人民日報が取材する新聞社側を擁護する評論を書いたことによって、党中央もこういった動きを支持することを明確になったことから、今後、ますます新聞が地方政府の問題点を指摘する活動は活発になると思います。

 もっとも、今回の事件がもともとの事件の起きた遼寧省ではなく、北京の地元紙である「新京報」の報道により取り上げられたように、地方政府が地元のマスコミもコントロールしている現状においては、地元の新聞が直接こういった問題を取り上げることにはまだまだ難しいようです。ただ、今回の事件のような事例が数多く出てくることにより、新聞による地方政府の監視は、一歩ずつ前進していくことになると思います。

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