« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »

2008年1月

2008年1月31日 (木)

毒物入り冷凍ギョーザ事件

 昨日(1月30日)以来報道されている中国製冷凍餃子から農薬や殺虫剤に使われるメタミドホスという有毒物質が検出され、これを食べた10人が中毒症状を訴えた事件については、日本のメディアでは、詳しく報道されているので、皆様よく御存じのことと思います。

 各種の報道によると、この事件の時系列は以下のとおりです。

1月30日(水)
日本時間16時頃(北京時間15時頃):千葉県警が被害について発表
北京時間夕方:(新華社電によれば)在北京大使館から中国国家品質検査総局に対して事件について通報。日本からの通報を受けて、国家品質検査総局が河北省の天洋食品加工工場の調査を実施。

1月31日(木)
北京時間午前3時頃(日本時間午前4時頃):国家品質検査総局が、問題となった2007年10月1日と10月20日に製造された餃子についての検査記録を確認したところ、ショウガ、白菜に対して原料への残留農薬検査が行われていたが、メタミドホスは検出されておらず、検査には合格していたことが確認された。また、工場に残されていた餃子のサンプル及び現在使われている原材料を検査したところ、メタミドホスは検出されず、工場の加工記録にも問題となるような部分は見つからなかった。

(1月31日(木)お昼頃までの時点で、の中国のテレビや新聞では、ごく一部の新聞で日本における報道を引用する形で事実を伝える記事が載った以外、本件に関するニュースは流されませんでした)

午後:中国国家品質検査総局が記者会見し、天洋食品加工工場から出荷された製品の回収を行っていることと、上記のこれまでの検査の状況を説明

北京時間16:58(日本時間17:58)これに関して新華社通信が自国内発の情報としては、本件について(おそらく)初めて報道

(参考)「新華社」ホームページ2008年1月31日16:58アップ記事
「中国国家品質検査総局、日本の食物中毒事件に対して、既に調査を開始」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2008-01/31/content_7535106.htm

※新華社のニュースの見出しが「日本の食物中毒事件に対して・・・」となっているのは、中国国内に対するインパクトをできるだけやわらげたいという意図が見え隠れしています。

北京時間22:00(日本時間23:00):中国中央電視台第一チャンネルの「晩間新聞」(夜のニュース)で、上記の国家品質検査総局の記者会見の模様を報道(おそらく中国国内のテレビが本件について報道するのはこれが初めて)

 31日夕方までは中国におけるメディアでは本件についての報道はありませんでしたが、日本政府からの情報提供を受けて、国家品質検査総局が直ちに動き出し、30日深夜から31日未明に掛けて調査を行い、その日の午後に記者会見を行う、という中国政府のスピードは、中国の対応としては極めて異例のものです。中国は、現在、南半分で寒波と大雪・氷雨による電力網の寸断、交通網のマヒ、燃料の石炭が運べないことと送電線が切れていることによる大規模な停電の発生しているなど、国として緊急事態と言ってもいい状況にあります(胡錦濤主席、温家宝総理をはじめ幹部が現地へ行って陣頭指揮を取らなければならない状況)。そういった状況の中での今回の農薬入り冷凍ギョウザ事件への対応は極めて異例です。食品の安全に関する問題が、寒波・雪害による被害にも劣らないほど重大な問題であることを中国政府自身がよく認識している証拠だと思います。

 これら二つの全く関係のない案件が重なって発生してしまったのはアン・ラッキーでしたが、中国としては、この危機を何としても乗り切らなければならないと思います。食の安全の問題は重要な問題ですが、日本としても、中国製品は何でもかんでもストップさせる、というような極端な対応に走るのではなく、きちんと安全性を確認した上で冷静に対処することが重要だと思います。

| | コメント (0)

2008年1月29日 (火)

中国の中南部で寒波・大雪の被害

 中国の揚子江から南の地域が、ここ数日、歴史的な寒波に襲われ、これらの地方としては非常に珍しい大雪となりました。一部の地方では、湿った雪やみぞれ交じりの雨が降った後に気温が氷点下に下がり、路面が凍結したりして、高圧電線に着氷して、電線を支える鉄塔が崩壊したところもあります。高速道路は、雪のために通行止めになり、多くの鉄道も不通になりました。積雪は多いところでも数十センチのオーダーですので、雪に慣れている地域の人たちにとっては、大したことない雪の量なのでしょうが、滅多に雪の降らない地方での大雪のため、防雪対策がほとんどなされておらず、多くの混乱が起きているようです。地方によっては数十年来とか、中華人民共和国建国以来、とか、場所によっては百年来なかった大雪、と表現しているところもあるようです。

 今年は2月7日が春節(旧正月)なので、中国では、広州や上海など沿岸部に出稼ぎに出てきている労働者(農民工など)の帰省ラッシュが既に始まっています。ただでさえ春節の時期は列車の切符が買えないほどの混雑が続きます。そういった時期に、雪による鉄道の不通が重なったので、広州などでは何十万人のオーダーの人たちが立ち往生する事態になっています。また、送電網が寸断された上に、鉄道による石炭輸送がままならないので、発電容量が足りなくなり、停電になっている地区もあるようです。生鮮食料品の輸送にも支障が出てきているところもあるようです。

 最近は、中国は、鉄道も複線・電化され、高速道路網も相当に発達してきていますが、これらの交通網が高度に発達した中国経済を支えているだけに、今回の寒波・大雪がそういった経済活動の動脈に打撃を与えたため、従来にもない大きさの経済的・社会的影響が出ているようです。ただ、例によって、中国のテレビのニュースでは、あまり大雪被害の状況の映像を流さないので、相当にひどい被害らしい、と想像されるのですが、実際にどの程度の被害なのか、北京にいても、今ひとつイメージが湧きません。

 党中央もこの事態を重視し、昨日(1月28日)夜、温家宝総理自らが急きょ特別機で北京から湖南省に飛び、現地の状況を把握するとともに、災害対策の現場で陣頭指揮に当たっています。今日(1月29日)には、胡錦濤国家主席が緊急の会議を開いて、関係機関に全力で大雪・寒波からの復旧作業に当たるように指示を出しました。

 私のいる北京は、寒いけれども雪は降らない、といういつもと同じ冬の日々が続いており、中南部の自然災害の影響は全く感じられませんが、揚子江より南の地域では、まだ数日は寒波や雪が続くようです。だんだん春節も近づいてきますので、寒波が収まり、交通や電力網が復旧し、多くの人がふるさとで旧正月を迎えられるように祈りたいと思います。

| | コメント (0)

2008年1月28日 (月)

中国における最近の住民運動の例

 先日、このブログで、上海の磁気浮上式リニアモーターカー路線の延長に反対する住民運動の話を書きました。

(参考1)このブログの2008年1月16日付け記事
「上海のリニア延長反対の住民が『集団散歩』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_cd3c.html

 このほかにも、最近、中国における住民運動について報道されるケースが多いので、いくつかを御紹介しておきます。

--------------------

○アモイPXプロジェクト事件

 福建省アモイ(廈門)市内で台湾系企業がPX(パラキシレン:各種化学材料の原料となる有毒物質)を製造する工場の建設の計画(総工費108億人民元(約1,620億円))を立てた。2004年2月に国家発展改革委員会の許可を得てプロジェクトがスタートし、2005年7日に国家環境保護総局から環境影響評価の許可も得て、2006年8月から建設予定地の既存の建物の取り壊し作業などの工事が開始された。一方、取り扱う化学物質に対する周辺住民の不安は強く、2007年5月、周辺住民による反対が強まり、大規模なデモも行われた。ネット上でも建設に反対する議論がわき起こった。このため2007年6月7日、アモイ市当局は、建設を一時的に停止し、善後策を検討することとなった。

 アモイ市当局は、2007年12月、対応案を作成しパブリック・コメントに掛けるとともに、数日間にわたる公聴会を開催した。しかし、公聴会で出された意見の大部分は建設に反対する意見だった。

 一部報道によると、福建省政府とアモイ市政府は、これらの住民の意向を受け、化学工場の建設予定地を別の場所(ショウ州市(ショウはさんずいに「章」))に移す意向であるとのことである。

(注)PX(パラキシレン)はポリエステル繊維・樹脂の原料等となる基礎的な化学物質で、日本国内でも多くの工場で生産されている。

(参考2)財経ネット2007年6月24日付けアップ記事
「アモイPX環境評価が示すもの」
http://www.caijing.com.cn/newcn/econout/other/2007-06-24/23042.shtml

○乳山紅石頂原子力発電所計画に対する反対運動

 現在、乳山紅石頂核能有限公司という会社が山東省乳山市で原子力発電所(電気出力100万キロワットの加圧水型原子炉6基)の建設計画を進めている。このプロジェクトは、国家発展改革委員会が2007年10月にとりまとめた「原子力発電中長期発展計画(2005~2020年)」にはリストアップされているが国家環境保護総局に提出する安全審査については準備中の段階である。

 この計画について、原子炉と住民が住んでいる場所との離隔距離が近すぎる等としてインターネットの掲示板上で反対する動きが起こった。こういった動きに対して、2007年12月6日、国家環境保護総局は、「乳山原子力発電所については、まだ安全許可申請が出されていない段階である。申請が出されたら法令に基づき安全審査を行う」旨の異例の「説明」を発表した。

(参考3)「新京報」2007年12月7日付け記事
「環境保護総局:乳山原子力発電プロジェクトはまだ許可されていない」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2007/12-07/014@085224.htm

 なお、「原子力発電中長期発展計画(2005~2020年)」では、掲載されている13か所の原子力発電所の新・増設計画のうち、この乳山紅石頂原子力発電所についてだけは備考欄に「サイトについてさらに検討を行う必要がある」と記されている。

○北京市望京地区における変電所建設反対運動

 北京市当局は、北京市北東部にある望京地区(新しくマンション等が建ち始めている地区)で変電所の建設を計画している。一部の周辺住民は、高圧電線による電磁気の健康影響を心配して変電所の建設に反対している。市当局は説明会を開くなど、説得に当たっているが、住民らは納得せず、2007年12月30日には一部住民が集団で横断幕を掲げて反対の意思を表示し、公安当局に解散させられた。2008年1月22日夜には、一部住民が第四環状路に車を止めて交通を妨害する行為に出たことから、公安当局はこれに参画した住民20数名から事情聴取を行った。

(参考4)「新京報」2008年1月24日付け記事
「変電所に抗議する家主、第四環状路を封鎖する」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-24/011@095745.htm

-------------------

 これらの住民運動で特徴的に見られるのは、上記(参考4)に見られるように、運動の中心になっているのは古くからその地域に住んでいる住民ではなく、「家主」、即ちマンション等を購入してそこに新たに住み始めた住民であることです(北京市望京地区は、北京市内でもかなりの郊外の地区で、近年新しくマンション等が建ち並ぶようになった新興住宅街です)。大金を支払ってマンションを買ったところ、その周辺に「迷惑施設」が建設する話が後で持ち上がったため、「家主」が反対を始めた、という図式です。乳山原子力発電所の場合も、反対の中心になっているのは、昔からその地域に住んでいる農民・漁民というよりは、最近、付近の海岸地帯に別荘を買った大学教授や弁護士等の「富裕階層」のようです。そもそもマンションや別荘を購入するほどのお金を支払える人たちは、中国の中でも豊かな人たちなので、これらの住民運動を「大衆運動」と捉えることが正しいのかどうかは議論の余地があるところだと思われます。

 従来の中国における大衆運動と異なる点として、これらの住民運動を特徴づける点は以下の点です。

○住民運動の主体が大学教授や弁護士等、むしろ現在の体制に基づく経済発展の「受益者」と言える人々であって、「社会的に虐げられた人々」「現在の体制に反対する人々」ではないこと。

○明確な権利意識に基づき、ハッキリと自分の意図を表明しようとしていること。

○住民運動の主体が知識階層であり、法律知識などもあることから、中国で法的に許される範囲内で何ができるかを考えつつ、かつ、社会的注目を集められるような手法を用いて自らの意志を表明しようとしていること。

○携帯メールやインターネット等を用いて情報交換を行い運動を進めていること。

○これらの住民運動が中国国内の新聞メディアで客観的に報道されていること。

○当局もこれらの住民運動を強圧的に抑え込もうとせず、住民たちとの「話し合い路線」を取っていること。

 これらの諸点において、これらの住民運動は、最近の中国の社会の変革を象徴する動きだと私は思います。今後、これらと同様の住民運動はいろいろな場面で起こされると思います。これらの個々の人々の権利と公共の利益との調整は、極めて難しい政治的課題で、議会制民主主義制度があればうまく解決できる、などという単純な性質のものでもありません。また、これらの住民運動が、幅広い一般大衆の賛同を得ていくのか、「金持ち階層の地域エゴ」として一般大衆からはソッポを向かれることになるのか、はよくわかりません。ただ、少なくとも、このような住民運動に対して行政当局がいかに対応していくのか、という経験を通じて、中国の社会が少しづつ前進をしていくきっかけになるのは間違いないと思います。

| | コメント (0)

2008年1月27日 (日)

「中国の今」を伝える「バックナンバーの目次」

 「中国の今」を伝えるこのブログの各記事の目次の最新バージョンは、下記に移転しました。

※このブログの2008年9月30日付け記事
「中国の今」を伝える「バックナンバーの目次」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/09/post-c973.html

 このブログの各記事の検索には、上記を御利用ください。

| | コメント (0)

「嫦娥1号」一色のテレビ

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に2007年10月28日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月以上遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

---------------------
アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「北京の白い空の下で」

記載日時:2007年10月28日

【「嫦娥1号」一色のテレビ】

 中国のテレビでは、先週まで「中国共産党第17回全国代表大会勝利開催!」一色でしたが、今週は中国初の月探査機「嫦娥(日本語読みでは「ジョウガ」)1号」の話一色、という感じでした。共産党大会が終わって、新しい指導者(中国共産党政治局常務委員など)が決まったのが10月22日(月)、「嫦娥1号」の打ち上げが10月24日(水)だったので、コロッとニュースの主人公が交代したイメージがありました。

 月探査機は、月と太陽と地球の位置関係によって打ち上げに最適なタイミングが決まります(例えば、撮影したい月の区域の上空に探査機が差し掛かった時、一番いい写真を撮るためには太陽がどの位置にあればいいか、などが重要な要素になるからです)。従って、共産党大会終了直後に打ち上げたのは偶然の一致、ということなのですが、中国の場合、「ほんとに『偶然の一致なのかなぁ』という疑問は常に付いて回ります。

 今回の「嫦娥1号」の打ち上げは、中央電視台が全国放送で生中継しました。生中継を見て「二十秒、十秒、・・三、二、一、点火!」というアナウンスを聞いていると、中国語では「秒」は「miao」、「点火!」は「dianhuo!」と発音することがイヤでも頭にこびりつきます。点火がコンピューター制御による自動シーケンスではなく、「点火!」の号令とともに担当者が赤い点火ボタンを押す、というところがいかにも中国的でした。

 今回の打ち上げに際しては、日本をはじめ外国の関係者も打ち上げサイトに招待されたり、一般市民に打ち上げを公開するなど、「公開性」を前面に打ち出したものになりました。中国のロケット打ち上げ場は内陸部にあるので、ロケット打ち上げ後の第1弾ロケットの残骸は、国内の内陸部に落下するのですが、通常はあまり報道されないロケット残骸が落下した地区の様子も新聞で報道されたりしました。ロケットの部品の一部が農家1件を壊したそうですが、住民は事前に避難していたので、けが人は出なかったそうです。ただし、ロケットの残骸落下の話は、あまり「楽しい話」でないので、非政府系の新聞には載っていますが、テレビでは報道されていないようです(テレビは全て「政府系」なので)。

 ともあれ、中国が宇宙の科学探査に関して、公開性を進め、外国と協力していくことはよいことだと思います。今回の「嫦娥1号」の打ち上げに関する中国のネットワーク上の掲示板を見ていると、「中国の宇宙開発は世界からちょっと孤立している感じがする。もっと国際的に協力して進めたらどうか。」といった意見をアップしている人もいました。今、中国では、いろいろな意見を言う人々の声をだんだん無視できなくなりつつあります。こういう人々の「自然な声」を受け入れて、中国も徐々に世界の国々と同じ土俵、同じルールで話をするようになって欲しいなぁ、と思います。

(参考1)このブログの2007年9月30日付け記事
「月探査ロケット打ち上げ見学費用が1000元?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/09/1000_359e.html

(参考2)このブログの2007年10月25日付け記事
「中国の月探査機『嫦娥1号』の打ち上げ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_0b23.html

(参考3)このブログの2007年10月27日付け記事
「『嫦娥1号』打ち上げロケットの残骸の行方」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_b91e_1.html

(2007年10月28日、北京にて記す)

| | コメント (0)

2008年1月26日 (土)

中国経済の成長を支えるものは何か

 1月24日、中国の国家統計局は2007年の経済状況について発表しました。それによると、2007年の中国の国内総生産(GDP)は、24兆3,619億元(約370兆円)で、対前年比(名目)11.4%の増でした。一方、消費者物価指数は、近年になく大きく上がって+4.8%でした。

 中国は2007年も引き続き相変わらず急速な成長が続いたわけですが、中国の経済成長を支えているものを大きく分けると次の3つになると思います。

○輸出の伸び

 食品や玩具の問題でいろいろ騒がれましたが、中国製品の輸出が伸びているのは間違いない事実です。つまりは世界各国で中国の製品が売れているということです。危険なものや品質の悪いものばかりだったら、世界の消費者は買わないわけですから、一部に問題のあるものはあるとはいうものの、総体的に見れば、やはり中国製品は、安さと品質をてんびんに掛けると「売れる」製品なのだと思います。問題は、いつまでも「安さ」にばかり頼ってはいられない、ということです。これからは、中国は、人件費が少々高くなっても国際競争力を維持できるしっかりとした品質をもった製品を多く作れるように脱皮できるかがカギだと思います。

○投資

 「不動産バブルはピークを越えたのではないか」と言われますが、少なくとも2007年いっぱいは中国全国での建設ラッシュはまだまだ続いていた、ということなのでしょう。この部分が2008年以降、どの程度継続的に中国経済を支えていけるのか、が今後の中国経済を占う上での大きなカギになると思います。

○内需

 中国は2006年に自動車の販売台数で日本を抜き、アメリカに次ぐ第2位となりました。インターネット人口も2007年末で2.1億人に達し、既に世界第2位になっていますが、一位のアメリカとの差はわずかなので、2008年の早い時期にアメリカを抜いて中国は世界最大のネット人口を抱える国になるだろう、と言われています。日本をはじめ、各国企業は、中国市場での販売競争に負けると生き残れない、と言われるほど、中国の消費市場としての比重は大きくなっています。問題は、上記の輸出や投資の部門に「かげり」が見え始めた場合、内需が引き続き底固く推移するのか、それとも尻つぼみになってしまうのか、だと思います。

 あと、私が中国独自の「経済発展を支えるもの」として着目しているのが「土地マジック」です。1月14日付けで紹介した「経済観察報」に載っていた蔡継明清華大学教授のインタービュー記事でも指摘されていたように、中国では、社会主義的な発想による安い評価価格で農民から土地を収用し、それを住宅地や工業開発区として市場経済に売り出す、ということが大々的に行われています。いわば「公有」の農地を市場的価値のある土地として市場に出すわけですので、地下から石油がわき出るように「土地」という形の「天然資源」を中国は毎年大量に市場に送り出し、それが中国の経済成長の大きな推進力になっているのではないか、と私は思っているのです。

(参考1)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 国土資源部の「中国国土資源公報」によると、2004~2006年の3年間で、5,428平方キロの耕地が都市用地や工場建設用地に変えられていまるとのことです。

(参考2)中国国土資源部ホームページの「統計情報」のページ
http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/index_883.htm

 5,428平方キロとは、日本で言えば愛知県よりちょっと広く、三重県よりちょっと狭い面積です。これだけの面積の土地が3年間に工業用地などの形で経済市場に売りに出されたことによる経済全体への影響はかなり大きいのではないかと思います。もともと土地に価格が付いている資本主義国とは異なり、値段のついていない土地が突如として値段付きの形で経済のマーケットに登場することのインパクトは大きいと私は思います。

 土地が石油と違うところは、買い手が付かなければ土地は途端に何の価値も無くなってしまう、ということです。耕地をつぶしている分、もしその土地が売れなかったら、むしろ経済的にはマイナスになるでしょう。社会主義体制というポケットから土地を取りだして市場経済に売りに出すことは、いわば中国が自分の体を切り売りしてるのと同じことになりますから、もしこれらの土地に買い手が付かなかったら大変なことになると思います。

 中国製品がなんだかんだと言われつつ世界のマーケットでしっかり売れていること、日本をはじめとする各国の企業が中国の消費市場に殺到して実際にいろんな製品が中国国内で売れていることは、中国経済の「底固い」部分を示していると思います。この「底固い」部分の比重がどれくらいで、上に述べた「自分の体を切り売りしているような部分」の比重がどれくらいなのか、は、私にはよくわかりません。今年2008年は、この「中国経済の成長をささえるもの」のどの部分の比重がより大きいのか、がある程度はっきりしてくる年になるのではないかと私は思っています。

| | コメント (0)

2008年1月24日 (木)

「中国共産党大会勝利開催」とハロウィーン

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に2007年10月20日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月以上遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

---------------------
アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「北京の白い空の下で」

記載日時:2007年10月20日

【「中国共産党大会勝利開催」とハロウィーン】

 今、北京の街には星巴克(スターバックス)、麦労当(マクドナルド)、肯徳基(ケンタッキー)、必勝客(ピザハット)のお店があちこちにあります。昨日「必勝客」に行ったら、三角帽にマントを着たウェイターがお客の注文を聞いていました。今、確かにハロウィーンの季節ですが、北京でハロウィーンはないだろう、と思いました。

 ハロウィーンは、元々はヨーロッパが起源のようですが、今は、アメリカの超ローカル行事です。他の国がまねをするのはおかしいと私は思います。私がアメリカにいた時、例えば、10月下旬にボウリング場に行くと、フロントの女性が黒い三角帽とマントを身に付けた「魔女姿」をしていて「Hello!」なんて声を掛けてくれたのですが、それは場所がアメリカだから「サマ」になっていたのであって、場所が北京では、雰囲気が合いません。

 今、北京の街は、10月15日~21日の予定で中国共産党第17回全国代表大会が開かれており、街中に「熱烈慶祝党的十七大勝利召開!」という紅地に白抜きの横断幕があふれかえっています。テレビのニュースでも、連日、党大会のニュースのオンパレードです。地下鉄の駅と駅との間にある地下鉄壁面広告でも、通常の商品の宣伝に代わって、この「熱烈慶祝党的十七大勝利召開!」という文字が躍っています。そういう街の雰囲気からすると、ピザハットのウェイターのハロウィーン姿は絶対に似合わないと思いました。

 今年、豚肉をはじめとする食料品の値上げがものすごかったので、低所得者(日本でいう生活保護対象者)に対して月20元(約300円)の食費援助をしようか、といった議論も行われていますが、必勝客では、スパゲティが38元(約570円)、500ml入りのエビアン(ミネラルウォーター)が20元(約300円)します。必勝客のお客は、ほとんどは中国人です。急速な経済発展の中で、「お金持ち」の中国人がどんどん増えているのです。今、中国の社会が相当にアンバランスな感じになっているのは否めません。

 2002年の第16回党大会で江沢民総書記(当時)が提唱した「三つの代表」論は、中国共産党は農民・労働者階層だけでなく企業家・弁護士・会計士等の無産階級でない階層をも含んだ広範な人々を代表する、と規定した点で画期的でした。今開催中の第17回党大会では、「三つの代表」論を基礎としつつ、農民・労働者階層と「お金持ち階層」との協調(和諧)が課題となっています。今、中国の社会では「農民・労働者のための社会主義」の理念と「持っているお金の額に応じて優遇されるのは当然」という現実主義とが共存しているので、何となく社会全体が落ち着かない感じがします。私としては、「共産党大会勝利開催!」の横断幕とハロウィーン姿のウェイターが同時に共存する社会よりも、多くの人民が納得できるひとつの社会の雰囲気に早く落ち着くように願いたいと思っています。

(2007年10月20日、北京にて記す)

| | コメント (0)

2008年1月22日 (火)

中国の不動産を巡る報道に「崩壊」の文字

 中国の不動産ブームについては、かなり前から「あまりにもスピードが速すぎる。バブル気味なのではないか。」との声が聞こえていました。そうした中、2007年の末頃から、政府による引き締め政策の影響もあり、さすがの中国の不動産ブームにも「かげり」のようなものが見え始めて来たように感じていました。

(参考1)このブログの2007年12月22日付け記事
「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_7322.html

 2008年に入り、深セン、上海、北京などではいくつかの不動産仲介業者が店を閉める、という報道がなされるようになりました。

(参考2)「新京報」2008年1月10日付け記事
「中大恒基、近く50店を閉店へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-10/021@073510.htm

 これらの動きに関する新華社などの報道の中には「崩壊」の文字を使うものも出てきました。

(参考3)中国経済ネットの記事を転載している新華社のページに2008年1月16日にアップされた記事
「中国最大規模の不動産仲介業者『創輝』が『崩壊』に瀕している」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/16/content_7428402.htm

 これらの動きについては、人民日報もこの二日間、連続の特集記事として報じています。

(参考4)「人民日報」2008年1月21日付け記事
「創輝の暗然たる収縮(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(上))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

(参考5)「人民日報」2008年1月22日付け記事
「不動産仲介業界はなぜ揺れ動くのか(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(下))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

 この「人民日報」の記事の中では、マンション等を買おうとしている消費者が、現在のマンション価格の動向を見て「模様眺め」の状況に入ったために、ここに来て成約量が急減し、そのために不動産仲介業が店を閉めざるを得なくなった、という専門家の見方を伝えています。また、不動産仲介業は、パソコンと机さえあれば簡単に店を開けることから、これまで安易に店舗数を増やしてきた業者も多かったが、今回の事態はそういった「バブル気味の」仲介業者に市場から退場してもらうという「洗牌」(シーパイ:麻雀やトランプでゲームを始める前にパイやカードをかき混ぜること)の局面に入ったということだ、という冷めた見方も示しています。こういった「人民日報」の報道の仕方を見ていると、北京オリンピックまで異常な不動産ブームが続き、オリンピックが終わった後に一気にバブルが崩壊するよりも、オリンピックまで後200日ほどある今の時点で、つぶれるべき小さな「バブル」はむしろつぶれてもらった方がよい、という党中央の考え方が透けて見えるような気がします。

 ただ、上記の「急に店を閉め始める業者も出始めた」というのは、あくまで「仲介業者」の話であって、現時点ではマンションやオフィスビルを建設している不動産開発会社自身がバタバタ倒れているわけではありません。マンション等の販売には、新しくできた建物の販売と中古物件の販売とがありますが、成約数が極端に減少しているのは中古物件の方です。新規物件の方は、成約数は減少傾向にありますが、「激減」というところまでは行っていないようです。実際に住む家が欲しくてマンションを買おうと思っている消費者が買い控えをしているからなのか、投機対象でマンションを買おうとしている人たちが買い控えをしているからなのか、詳細は不明ですが、いずれにせよ全体として販売量が低下していることが、契約の成立を「日々のメシの種」にしている不動産仲介業者を直撃し、いくつかの業者で閉店に追い込まざるを得なくなったというのが実情だと思います。この傾向が長期的に続くようだと、やがては開発業者の中にも、投下した資金を回収できなくなるところも出てくる可能性があります。

 いずれにせよ、北京において、夜になると立ち並ぶマンションの多くの部屋に電灯が点らないことについて、私は前から気になっていました。実際に住んでいない投機目的のマンション所有者の数は、かなりの数いるのではないかと思います。

(参考6)このブログの2007年10月17日付け記事
「夜8時半過ぎの北京のビルの稼働率」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_7335.html

 気になるのは、投資対象としてマンションを購入している富裕層が今の事態にどういうふうに対応するかです。今日(2008年1月22日)、世界的株安の流れを受けて、中国の株式市場もかなり値を下げました。現在の中国経済成長は、低賃金労働の基盤の上に立った製品の輸出、土地開発とマンション・オフィスビル等の建設等に対する投資、富裕層による商品・サービスの購入等の内需、の3つが大きな柱です。為替レートと労働契約法の施行により安い労働力に頼った製品の輸出の比重は、今後は下がるでしょう。そうした中で、不動産による資産の目減りがありそうだ、株がどんどん上がるという状況でもない、という事態になって、不動産に対する投資が減る一方、将来を不安視した富裕層が全体的な買い控え傾向に走ると、中国経済全体が不活性な方向へシフトするおそれもあります。

 こういったことを考えると、これから北京オリンピックのある8月へ向けて、いろいろ予測できない状況が出てくる可能性もある、と私は思っています。

| | コメント (0)

2008年1月21日 (月)

物価対策として小売価格に直接政府が介入

 2007年後半以降、中国の食料品等の消費者物価は急激な上昇を示しています。CPI(Consumer Price Index :消費者物価指数)という言葉が中国での2007年の「流行語」として認定されたほどです。1月17日付けの「京華時報」の記事によれば、2007年8月以降、中国の消費者物価指数は5か月連続で対前年比6%以上の上昇を示している、とのことです。また、この記事によれば、2008年1月上旬の時点での全国36の大中都市における物価の上昇率は、対前年比、豆油で58%、豚肉で43%、牛肉で46%、羊肉で51%になっている、とのことです。

 近年、中国の経済成長により、人々の所得も上昇していますが、これら生活に直結する食料品のこれだけ急激な上昇に対しては焼け石に水です。このままでは、人々の間に不満がうっ積することを懸念したからだと思いますが、国家発展改革委員会は、1月15日「一部の重要な商品・サービスに関する臨時的価格干渉措置の実施方法」という通知を発しました。

(参考1)「京華時報」2008年1月17日付け記事
「国家発展改革委員会、食糧油と肉類の値上げに対して臨時的価格干渉措置を発動」
http://china.jinghua.cn/c/200801/17/n651332.shtml

(参考2)「新京報」2008年1月17日付け記事
「食糧油等の価格に対する臨時的干渉措置を発動」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-17/018@074321.htm

 この措置の概要は次の通りです。

○カップ麺業界4社、食用植物油業界4社、乳製品業界4社の合計12社(具体的会社名を列記している)が製品価格を値上げする場合には、事前に国家発展改革委員会に申請し許可を得ること。

○主要商品(食糧、食糧製品、食用植物油、豚肉・牛肉・羊肉及びその調整品、鶏卵、謬乳及び粉ミルク、液化天然ガス)について小売店が値上げをする場合、1回の値上げが4%以上となる場合、10日間の累積値上げ率が6%以上になる場合、30日間の累積値上げ率が10%以上になる場合については、その事実が発生した時点から24時間以内に政府関係部門に届け出ること。

○上記を守らない企業、小売店は、法律により処罰される。

 この措置に対して、「計画経済時代じゃあるまいし、これだけ市場経済が導入された現在の中国において、このような形で政府が小売価格に直接介入するのは、時代錯誤で非現実的だ」という批判が起きています。例えば、2008年1月21日付け(1月19日発売)の「経済観察報」では、1面の社説で「政府は物価に対してはマクロ経済的手法で対処すべきであり、もし低所得者の生活が危機に瀕するのを心配するのであれば必要な生活保護費を付与すべきであって、企業や小売店の価格に政府が直接介入することはすべきでない」と主張しています。

 実際、昨年の夏、甘粛省蘭州市政府が、蘭州市民の常食である「蘭州牛肉麺」について、「小売り価格は1杯2.5元(約38円)以下にせよ」と小売店に命じた時には、国家発展改革委員会自身が「地方政府は小売価格を指示するようなことをしてはならない」という指示を出しています。

(参考3)このブログの2007年8月1日付け記事
「小売価格を政府がコントロールしないようにとの通知」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_08c4.html

 政府が「小売価格を抑えろ。従わなければ罰則だ。」と言った場合、コスト価格が上昇している中では企業は赤字を出すわけにはいきませんから、値上げできないのであれば、品質を落とす方向に動きます。従って、政府による強制的な価格抑制が消費者の利益にならないのは火をみるより明らかです。

 これらの反対論に対して、国家発展改革委員会は、ポイントとして次のように反論しています(下記の反論は、2008年1月20日(日)夜に中国中央電視台第1チャンネルで放送された「焦点訪談」の中で国家発展改革委員会の担当者が語っていたもの)。

○今回の措置は「価格凍結」をしようというものではなく、各企業の価格決定権を侵害する考えはない。今回の措置はあくまで(便乗値上げなど)不合理で不当な価格上昇を抑えようとするものである。

○「市場経済においては、政府が価格に介入すべきでない」と主張する人が多いが、そもそも市場経済とは、市場における「見えざる手」(中国語で「看不見的手」)と政府による「見えざる手」が共同して安定した市場を形作っているものである。今回の措置もその一環である。

 ただ、上記に述べた「経済観察報」の社説では、実際の価格の上昇は、コストの上昇に起因して各企業がやむを得ずに行っているものであって、便乗値上げなどが仮にあったのだとしてもその割合はごく微々たるものに過ぎず、もし国家発展改革委員会が説明しているように「不当な値上げを排除するだけ」なのであれば、物価の値上がりに対して効果を上げることはできないだろう、と主張しています。

 「価格を抑えると、企業は品質を落とすだけ」という議論に関連して、人民代表(国会議員)の中には「糧票制」(食糧配給制)を復活させよ、と主張している人も出てきているそうです。「糧票制」は、食糧生産が少なかった時代にあった制度で、食料品を買う時に政府が配給する「糧票」を持っていかないと買えない制度です。第二次世界大戦後の日本にも同様の制度がありましたし、私が前回に北京に駐在していた1980年代後半の中国でも制度としては一部残っていました。しかし、既に「世界の工場」と呼ばれるまでになって久しい現在の中国では、とっくの昔に「過去の遺物」となった制度です。

 国家発展改革委員会が今回の措置を発表したのは、「政府も消費者物価高騰に対してまじめに取り組んでいる」という姿勢を見せたかったからだと思います。国家発展改革委員会は、自分で言っているように、「価格凍結」をするような運用の仕方はしないと思います。しかしながら、これだけ華やかに経済発展を続ける現在の中国において、食料品の価格を政府が統制しようという発想が出てきたこと自体に驚かされました。また、それに加えて「糧票制を復活させよ」などとまじめに言い出す人が出てくるとは信じられませんでした。たぶん、中国国内には、まだまだ「今の経済発展は歪みが大き過ぎる。昔の計画経済時代に戻るべきだ。」という「超保守派」の勢力が私たちが思っている以上に強いので、それら「超保守派」に対して「あなた方のような考え方も含めて、政府はいろいろ検討して、対策を考えています。」というメッセージを出したかったのかもしれません。

 いずれにせよ、肉類や食糧油の物価上昇率が対前年比40~60%という現在の水準は、既に「危険水域」に入りつつあるような気がします。

| | コメント (0)

2008年1月16日 (水)

上海のリニア延長反対の住民が「集団散歩」

 日本でも報道されているので御存じの方も多いと思いますが、1月12日(土)と13日(日)、上海で、現在営業運転中の磁気浮上式リニアモーターカーの路線延長について、沿線への電磁気的影響を心配する延長路線周辺の住民が上海市内で集団で歩いた、とのことです。外国の通信社はこれを「デモ」と言っていますが、中国国内で報道されたところによると、参加した人たちは自分たちの行為を「散歩」だ、と言っているとのことです(日本語で言う散歩は中国語でも「散歩」)。

(参考1)「新京報」2008年1月14日付け記事
「上海の磁気浮上リニアモーターカー延長計画、論議を引き起こす」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-14/018@082613.htm

※上の記事を見ていただければ「散歩」の文字があることがわかると思います。

 上海の磁気浮上式リニアモーターカーは、ドイツの技術を基にして建設されました。レールを抱え込むように設置された車体に取り付けられた普通の電磁石(常電導電磁石)の吸引力で浮上し、路面に設置された金属版と車体下部に付けられた電磁石との間に働く電磁気力で動く仕組みです。形式的には2005年の愛知万博に合わせて開業した現在愛知高速交通鉄道東部丘陵線(路線延長約9km。愛称「リニモ」)と同じタイプのものです。上海の磁気浮上式リニアモーターカーは、上海浦東国際空港と市街地に近い地下鉄のターミナルを結ぶ約30kmの路線で、2003年に一般乗客を乗せた運転が開始されました。まだ比較的短い路線ですが、最高時速430kmまで出す営業路線として話題になっています。2010年に開かれる上海万博をきっかけにして、西に延長され、隣の浙江省の杭州市まで延ばされる予定になっています。

 この延長計画に対し、上海市内の延長される路線計画周辺の一部の住民は、電磁気による健康影響が心配だ、などとして、延長計画に反対しています。ドイツなどでは沿線の周囲に幅広くグリーンベルトなどを設けているのに対し、延長計画では住宅のすぐ近く(最も近いところで22.5m)を路線が通過する計画になっているのが問題だ、と住民たちは主張しているようです。私は、磁気浮上式リニアモーターカーの沿線への電磁波による影響がどの程度あるのか必ずしも詳しくありませんが、乗っている人やホームで待っている人に対して安全上問題ないように設計できるのであれば、沿線に対して安全上問題が出ないように設計することはそれほど難しくないのではないか、と想像しています。

 今回の住民の人たちの行動で注目されるのは、彼ら自身は自分たちの行動を「デモ」だとは言っていない、ということです。中国では、デモを行うには、事前に場所や人数、スローガンなどを当局に届けて許可を受ける必要があります。許可を受けないで行うデモは「違法デモ」となります。また、許可を受けないままインターネット等で集会の呼びかけを行うことは、その呼びかけ自体が違法となります。

(参考2)このブログの2007年8月24日付け記事
「ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2a32.html

 今回の上海リニア反対については、共同電やロイター電が配信した写真を見る限り、参加者はプラカードや横断幕、ゼッケンなどデモに「つきもの」の意見を表明する小道具を持っていません。見た目には単に「人が集まっただけ」というふうに見えます。プラカードや横断幕、ゼッケンなどを用意しているわけではなく、何かの意見を集団で訴えるために集まったのではないから、集会でもデモでもないのだ、と主張したいのだと思います。

 それでも、外国の通信社の報道によれば、何人かが公安当局に拘束された、とされていますので、こういった行為もやはり「違法」なのかもしれません。NHKの番組「激流中国」の中でも紹介されていましたが、最近の中国では土地収容に反対する住民の側に立って活動する弁護士も多くなっており、今回も住民たちがそういった弁護士から法律に触れないようにしながら意思表示する方法について何らかのアドバイスを受けている可能性があります。

 集会の呼びかけにしても一人の人が呼びかければ、上記(参考2)に掲げる例のように「違法」とされますが、携帯やパソコンのチェーンメールのようなものを使えば特定の人が「呼びかけた」ことにならないので、当局が誰かを「違法だ」という形で拘束することは難しいのではないかと思います。つい先日、このブログにも書いたように、携帯メールやインターネット上での「世論」を当局が完全にコントロールすることは不可能です。

(参考3)このブログの2008年1月13日付け記事
「ネット世論にいかに対応するか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_7b9f.html

 ひとむかし前なら、こういった「デモ」まがいの住民の行動については、当局のコントロールによって新聞に載ることはなかったと思います。しかし、今はこの手の情報は新聞に載らなくてもネットでどんどん広がってしまうので、当局としても新聞に載せるのを止めさせることができないのです。強権的に新聞が記事にするのを禁止するようなことをしたら、その当局による報道の禁止という行為自体に対して当局を強く批判するネット世論が盛り上がってしまうからです。

 こういったネットでの人々の情報交換、法律に触れないようにしながら行う様々な形での意思表示が今後中国全体にどのような影響を与えていくのか注目していく必要があると思います。特に最近の中国の「住民運動」について過去の大衆運動とちょっと違うと感じるのは、例えば、ネットで情報交換し、住んでいるところからの立ち退きに反対している人たちは、貧しい何の資産を持たない人々ではなく、住む家や商売するための店を持ち、日常的にネットワークにアクセスするお金があり、法律に対してある程度の知識を持つなど一定の教育レベルにある人たちだ、ということです。特に都市部では、過去の分類の仕方で言えばこれら「無産階級(プロレタリアート)とは呼べない人たち」がどんどん増えており、その数が既に「大衆」と呼んでもおかしくない程の大きな数になっていることが現在の中国の特徴的な現象だと思います。

 その意味でも、私は、これからの中国では、中国自身にとってはもちろん、世界のほかの国のどこも過去に経験したことのないことが起こるような気がしています。
 

| | コメント (0)

2008年1月14日 (月)

ついに出た「土地私有制」の提案

 今日(2008年1月14日)付けの経済専門週刊紙「経済観察報」(1月12日発売)の「中国」(Nation)という特集欄に農村の土地制度改革の必要性を訴える学者のインタビュー記事が載っていました。

※「経済観察報」のこの記事はインターネット上で無料で読むことはできません。

 この学者とは、清華大学教授の蔡継明氏です。蔡継明教授は、中国の民主政党(中国共産党に協力的立場に立っている合法的な政党)のひとつ「中国民主促進会」(略して「民進」)の中央経済委員会主任で、中国人民全国政治協商会議(注)の委員です。

(注)中国人民全国政治協商会議は、各界・各層の有力者が集まっている会議で、その全体会議は、いつも全国人民代表大会(全人代:日本の国会に当たる)と同時期(通常毎月3月)に並行して開催されます。法律を議決する権限はありませんが、全人代と同じ議題で議論を行い、様々な建議や提案を行います(元々は、革命初期に中国共産党以外の国内有力者の意見を集約するために設立された会議)。

 このインタビュー記事の中で指摘している蔡継明教授の主張のポイントは以下のとおりです(上のタイトルで「ついに」と書きましたが、蔡継明教授の主張は真新しいものではなく、2003年頃からこのような方向性の主張はしていたそうです)。

-----「インタビュー記事のポイント」始まり------

○現在、政府は土地の乱開発による食糧生産用耕地の減少を防ぐため「小産権」(村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅)を都市住民が購入することを禁止する政策を徹底させようとしているが、「小産権」の面積は全国の土地の違法開発の面積に比べたら極めて小さい。違法な土地占拠の8割は地方政府によるものであり、「小産権」の都市住民への売却を禁止したとしても、耕地減少問題の解決にはならない。

(参考1)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

○最も重要なポイントは、地方政府が農民から土地を収用する際の土地の評価が30年来続いている「過去3年間のその土地で生産された農産物の価格」に基づいていることである。大まかにいって、この評価方法では、実際の経済活動に基づいて評価される土地の価格の10分の1にしか評価されない。つまり、農民に補償金を払ってこの土地を収用し、開発して商業ベースで販売すると、土地価格の10分の1しか農民に渡らず、残りの9割は地方政府や土地開発業者の懐に入ることになる。これが地方政府が土地の乱開発を止めない主要な原因であり、またこれが政治的腐敗の最も大きな原因になっている。

○ここ10年来の中国の経済成長は、このようにして非常に安く開発された土地が多くの投資を呼び込むことによってもたらされてきたものである。

○農民が実際に耕作している農地、実際に住んでいる住宅の宅地については、その農民の「私有地」として認め、土地の売買を市場原理に任せることが、最もよい解決策である。土地の私有制を認めることにより、農民が土地を手放す時には、市場価格に見合った支払いを受けられることになるし、土地に市場価格に見合ったそれなりに高価な価格が付けば、開発業者もおいそれと購入して開発を進めるわけにはいかないので、自ずと土地の開発競争にもブレーキが掛かる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」)・・・・・・

 現在の中国において、農村による土地の所有形態が国有または「集団所有」であり、土地の私有が認められていないのは、中国の共産主義革命の経緯によるものである。解放前の中国では、大地主が土地を所有し、小作農に土地を貸し付けて耕作させて高額な小作料を徴収することによって、多くの小作農は貧困に喘(あえ)いでいた。中国共産党の指導に基づく革命により大地主の土地は取り上げられた。取り上げられた土地の所有権は結果的には農民に分配されたわけではなく、革命の各段階において「農業生産合作社」から「人民公社」へ変わっていった社会主義的な「集団」が保持することになった。最終的な「人民公社」の段階では、土地と農具などの生産手段、農民の住む住宅までもが「人民公社」の所有とされ、農民はその「人民公社」の「社員」として生産に従事することになった。「人民公社」では、「社員」が耕すのは自分の土地ではなく「公の土地」であり、個々の農民の創意工夫や努力が自分の収入の向上に結びつかないので、この「人民公社」の制度は、農民の生産意欲の減退による農業生産の停滞をもたらした。

 1978年暮れにトウ小平氏によって始められた「改革開放政策」の過程で、1982年頃、「人民公社」は解体された。農地は所有権は村という「集団」が引き続き所有していたが、実際には農民に「耕作を請け負わせる」という形で任されるようになった。農民は自分の創意工夫に応じて自分の「請け負った」耕地で農作ができるようになったので、農民の生産意欲は向上し、中国の農業生産力は向上した。農民の住宅用土地も、村という「集団」の所有ながら、その管理は各農民に任され、住宅の改築なども農民が自分の判断で行えるようになった。

 これが現在の農村の形態である。現在は各農民は、自分の担当する土地では自分の判断で自由に農作をやっているが、土地の「所有権」に関しては、上記の歴史的経緯から今でも「集団所有」のままなのである。現在の中国の法律の解釈では、農民は村から「土地の使用権」を与えられて耕作している、ということになるので、もし村が農民から土地を収用する場合には、その「土地使用権」に対する補償金を支払う必要がある、ということになる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」終わり)・・・・

○現在、農民一人当たりの耕地面積は7.5ムー(約0.5ヘクタール)だが、これでは面積が小さすぎて効率的な農業生産ができない。効率的な農業生産をするには農民一人当たり15ムー(約1ヘクタール)程度あった方がよい。市場原理に基づいて農業生産効率の悪い農民が生産効率のよい農民に土地を売ることにより農民一人当たりの耕地面積が15ムーになれば、農業生産は全体的に効率化する。一方これにより7億人の農民の約半分(3.5億人)の農民が土地を手放すことになるが、彼らは、都市へ出て行って都市で就職し、都市に住むことになる。現在、土地が集団所有制であり、農民は戸籍によって土地と結びつけられているため、経済的にはそれに近い現象が起きているにもかかわらず、制度的に農民は都市に定住できないことになっている。これが現在の農民の都市への出稼ぎ問題、いわゆる「農民工」問題である。土地の私有制は、現在の実際の経済状況に従って農民を土地から切り離し、都市への人口の移動をスムーズに進める助けになる。

○土地の私有制は「土地の集団所有制」という大原則を崩壊させる、と主張する人がいるが、現在の中国が進めている「中国の特色のある社会主義」は、既にその方向に歩み出しており、実質的には「土地の集団所有制」は変質しつつあるのだから、「崩壊する」という言い方はおかしい。

○いわゆる「小産権」のうち、農村の宅地の上に建てられた宅地については、「合理的であるが『不合法』な物件」であり、合法とみなすべきである(このブログの筆者注:「不合法」とは、現在の法律には適合していない、という意味。合理的であるので、蔡教授は敢えて「違法」とか「非合法」とかいう言葉を使っていない)。

○こういった農村の土地制度改革については、今年3月の全国人民代表大会及び政治協商会議の全体会議に議題として提案したいと私は考えている。

○なお、将来的な課題としては、さらに一歩進めて、現在、全て国有となっている都市部の土地の所有権についても、公共目的に使用されている土地については国有のまま残し、そうでない土地については私有とするようにできるのではないかと考えている。

-----「インタビュー記事のポイント」終わり------

 この蔡継明教授の提案は、現在中国が抱える問題の非常に重要なポイントを的確についたもので、非常に合理的なものであると私は思います。ただ、蔡教授自身も言っていますが、「土地の私有制」を認める、ということは、いわば社会主義の大原則を崩す、とも受け取れる部分ですので、もしこれが全人大及び政治協商会議で提案されても、かなりの議論を呼ぶことは間違いないと思います。まず現在の政治状況の中では、実際に「提案する」というところまで持っていけるのかどうか、かなり難しいものがあると私は思います。また、仮に提案できたとしても、相当激しい議論が起こることは必至で、結論が出るとしても相当に長い時間が必要になると思います。

 この提案は、政治的な意味も大きなことはもちろん、経済的にも大きなインパクトを与える可能性があります。これも蔡教授が指摘しているように、ここ10年間の中国の急激な経済成長は、地方政府が安く土地を開発し、それに吸引されて外国から多くの投資が流れ込んで来たことによってもたらされてきたものですので、「土地の私有制の導入」により、ここ10年間の中国経済の急激な成長をもたらた根本的な構造が変わる可能性があるからです。

 もうひとつの大きなポイントは、12月30日に国務院が「『小産権』の都市住民による購入は厳禁する」という通知を改めて出したことに対し、その国務院の政策に真っ向から反対する提案が新聞紙上に掲載され、それが次期の全人大に提案されるかもしれない、という点です。中国では、国務院も全人代も中国共産党の指導の下にありますので、国務院と全人大の方針が異なる、ということは、これまでは基本的にあり得なかったのです。もしこのような国務院の政策に反対するような提案が本当に全人代に出されるのだとすれば、それは中華人民共和国の政治史の中では画期的なことだと思います。

 一方、この主張が「経済観察報」といういわば都市部の「富裕層」(別の言葉で言えば「新社会階層」)が購入する新聞に掲載されている、というところも重要なポイントです。「富裕層」の中には「小産権」に多額の投資をしている人も多いと思われますので、「小産権」の合法化は、「富裕層」にとっての政治的要求のひとつなのだと思われます。つまり、経済的に大きな力を持つようになった「富裕層」が自分たちの権益を守るため政治的な主張をし始めている、というのが、今回のインタビュー記事に現れていると私は思うのです。「富裕層」(「新社会階層」)の政治的要求をいかにして具体的な政策に盛り込んでいくのか、が、現在の中国の政権にとって重要な課題です。「富裕層」にソッポを向かれたら、現在の中国の経済運営はうまくいかず、従って、政治的な運営も困難になるからです。

(参考2)このブログの2007年6月22日付け記事
「新しい社会階層の台頭」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_6737.html

 2008年に入り、経済的にも政治的にも、少しずつ「何か」が動き始めているのを感じます。
 

| | コメント (0)

2008年1月13日 (日)

ネット世論にいかに対応するか

 中国では最近、地方政府が理不尽な対応をすると、そのことがすぐにインターネットの掲示板にアップされて、ネット上での世論が沸騰する、という事件が毎日のように起きています。「綏徳事件」と呼ばれる事件もその典型例です。

 この事件は、昨年12月25日、陝西省の楡林市綏徳県の綏徳職業中学校(「職業中学校」は日本の商業高校や工業高校に相当する)で起きたものです(中国では「県」は「市」の下にある小さな行政単位)。

 綏徳職業中学校の校長先生が、経済的援助が必要な生徒のために補助金の交付許可を求めて申請書を持って綏徳県の教育局長のところへ行ってサインしてくれるよう頼んだところ、たまたま教育局長は会議のために出かけるところで、その場でのサインをしてくれませんでした。事務処理が間に合わなくなることをおそれた校長先生は、会議のために車に乗り込もうとする教育局長を追いかけてサインするよう迫りました。怒った教育局長は、この校長先生を停職処分にした上に行政拘留処分を科しました。この事件が新聞で報道されると、「就学困難な生徒のためにサインを求めた校長先生に処分を科すとは何事か」「教育局長はけしからん!」という声がネットの掲示板等で沸騰しました。

 この事情を知った綏徳県長は、1月3日になって、校長先生に会って不適切な対応だったと謝罪しました。また、1月4日になって事情を知った楡林市党委員会書記は、すぐに関係者から事情を聞いた上で会議を開き、1月5日早朝、教育局長が下した校長に対する処分を撤回する決定をしました。綏徳県の教育局長と公安局長も校長に対し謝罪し、校長もこの謝罪を受け入れた、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年1月6日付け記事
「県長が校長の家に行き謝罪、校長の処分は撤回」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-06/018@074920.htm

 この事件については、「人民日報」も敏感に反応し、1月7日付けの記事で、最近相次ぐネットでの世論の盛り上がりが現実的に政府を動かす事態に着目して、ネット世論にいかに対処すべきか、という観点からの記事を掲載しています。

(参考2)「人民日報」2008年1月9日付け記事
「『綏徳事件』が示すものは何か(文化観察・いかにしてネット世論に相対するか(1))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/09/content_37759261.htm

 この「人民日報」の記事では「最近ネット世論が沸き上がった事件」として以下の事件を列記しています。

○重慶の「釘子戸」事件:
 重慶市で立ち退きを拒否して周りの土地をパワーショベルで掘り下げられながら1戸だけ最後まで住民が家に居残った事件。「釘子戸」とは、土地の立ち退きに際して、1本だけ突き刺さったクギのようにガンとして動かない家のことを指す。「釘子戸」は2007年の中国での「流行語」となった。この事件は、日本でもかなり報道された。

○アモイPX事件:
 福建省廈門(アモイ)市が化学工場の建設計画を立てたところ、携帯メールのやりとりやネットの掲示板上で反対論が噴出した事件。廈門市当局は、その後、公聴会を開催したが、この公聴会でも反対論が続出し、結局は化学工場の計画は別の場所に変更になった。世論が市政府の作った計画を変えさせた例として中国全土で注目された。

○山西省悪徳レンガ工場事件:
 山西省で他の土地から誘拐してきた人々を奴隷のように働かせていたレンガ工場の存在が明るみに出た事件。最初、地方テレビ局が取材し、ネット世論がこれを支援した。こどもも含む1000人以上の人が奴隷労働させられていた、として中国全土に衝撃を与えた。

(参考3)このブログの2007年6月15日付け記事
「山西省の悪徳レンガ工場での強制労働事件」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_54d1.html

○陝西省「華南虎」事件:
 「華南トラ」は既に野生の状態では絶滅したと考えられている虎。陝西省安康市鎮坪県文採村の村民が撮影した「華南トラ」の写真を陝西省林業庁が「本物である」と発表した事件。ネット上で「この写真はニセモノだ」「いや本物だ」と論争が起きた。

 中国のインターネット掲示板には、必ず「管理人」がおり、「違法な」発言は削除するなどの管理をしています。「違法な発言」とは、ポルノ関連のものや犯罪を煽るような発言などのほか、中国では国の分裂を煽るような発言や中国共産党の指導を否定するような発言は「違法なもの」として削除対象となります。しかし、上記に列記された事件や今回の「綏徳事件」のような事件に関する発言は「違法な発言」とは言えませんので、ネットでの発言は削除されません。従って、こういった「違法でない発言」で議論ができる案件については、ネット上の掲示板が異様な盛り上がりを見せることがあります。最近は「地方政府の横暴」という観点で、この手の「異様な盛り上がり」がしょっちゅう起こるようになっていますが、党中央は、一種の「世論による地方政府に対する監視」として、これを肯定する態度をとっていますので、こういった事件が起こるとあっという間にネット上での議論が「沸騰」するのです。

(注)中国のインターネット掲示板では、ネット発言者は、常に「何が『違法な発言』とみなされるのか」を注意深く観察しながら発言しており、誰かの発言が削除されないで掲載されているのを見て、「この問題に関する発言は『違法な発言』とはみなされないのだ」とわかると、日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようにその問題に発言が集中する、という現象が起きるようです。

 今までは、地元の新聞に載らなければ(別の言い方をすると、地方政府が地元新聞をコントロールすることができていれば)地方で事件が起きても、それは他の人に伝わることはありませんでした。しかし、今はネットワークが発達しており、カメラ付き携帯電話が億の単位で普及していますので、地方で起きた事件については、被害にあった人が北京や広州などの新聞社に写真を持って駆け込めば、大都市で新聞に掲載される可能性があります。一度都市部で新聞に載れば、その情報がネット上を駆け巡りますので、事件が起きた地元でも多くの人が知るところとなるので、地方政府も隠し通すことができにくくなっているのです。

 地方政府の担当者は、党中央がネット世論による「地方政府を監視する役割」を肯定している以上、ネット上での「議論沸騰」に対する対処を誤ると自分のクビが危なくなるので、今回の楡林市綏徳県の例のように、地方政府幹部は迅速に対応するのです。

 上記の「人民日報」の記事によれば、中国のインターネット利用者数は、2007年6月時点で1億6200万人に達しているとのことです。ネット上の掲示板は無数にありますので、それぞれ管理人がいるとは言え、その全てを完璧に管理するのは、ほとんど不可能です(携帯メールは、基本的に私的な通信ですので、当局は実質的にはほとんど管理できていないようです)。インターネットや携帯メールで多くの人々が連絡を取り合って行動を起こすことは当局が最も警戒していることです。地方政府の幹部は「自分のクビが飛ばないように」とネット世論を気にしているのですが、実は党中央もネット世論の動向に対しては、かなりの神経を使って注視しているのではないかと思います。その現れが上記の「人民日報」の記事だと思います。

 中国のインターネット上の掲示板を見ていると、時々アニメーションのかわいらしい男女の「ネット警察官」がヒョコヒョコ出てきて、「ネット警察です。皆さん法律を守りましょう。」などと言いながら敬礼の挨拶をして消えていったりします。実際に掲示板の発言をこの「ネット警察」がチェックしているのかどうかは知りませんが、発言する側に対して「あなたの発言はちゃんとチェックされていますよ」と思わせる心理的な抑制効果はあると思います。

 一方、中国では、発言者の方も「中国共産党」と書く代わりに「執政党」という表現を使ったりして、自分の発言が「違法」にならないようにかなり工夫して書いています。

 こういったネット市民と当局とのやりとりが今後中国の行方にどの程度影響を与えるのかはわかりません。少なくとも、政治的な発言や意思表示のできる範囲が法律上かなり限られている状況下で、携帯メールやインターネットが急速に普及し、しかもそれを使う「ネット市民」の教育程度がかなり高い、という今までの世界のどの国も歴史上経験したことのない事態が、今、中国で進みつつあるのは確かだと思います。

| | コメント (0)

2008年1月11日 (金)

都市管理局員が暴力で市民を死亡させた

 ここのところ、地方政府の行政当局の理不尽な行為に関する国内報道が相次いでいる中国ですが、「極めつけ」とも言える事件が起きました。今週の月曜日(1月7日)、湖北省天門市の都市管理局(中国語で「城市管理行政執法局」;略して「城管」)とゴミ埋め立て場の建設に関して反対する住民グループとが衝突する事件が起きました。その際、都市管理局員が住民側に対して暴力行為を働いているところを携帯電話のカメラで撮影していた魏文華という名前の市民が都市管理局員から集団暴行を受け、殴打されて死亡した、ということです。この事件については、天門市当局も調査を開始し、都市管理局長を拘束したほか、都市管理局員24名が取り調べを受け、うち4名が刑事拘留された、とのことです。本件については、天門市が事件の翌々日の1月9日に記者会見を行って、状況を公表しました。

(参考1)「新京報」2008年1月10日付け記事
「天門市政府、暴力を振るった都市管理局員を厳しく処罰する態度を発表」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-10/021@073635.htm

※この記事に載っている写真には、住民によってはがされゴミ捨て場所に捨てられていたと思われる天門市都市管理局の看板が写っています。

 死亡した魏文華氏は、市民といっても一般住民ではなく、天門市水利建築公司の総経理(社長)なのですが、この人の職業と暴力を受けたことが関係あるのかどうかはわかりません。記事では「一人の一般的市民としての正義感から出た行為だ」と書かれているので、この人が社長だったというのは「たまたま」であり、暴力を受けたこととの因果関係はないのかもしれません。

 都市管理局というのは、都市において行政上の規則違反がないかどうかを管理する役所で、露天営業人や輪タク業者などを取り締まっています。刑法犯罪を捜査したり取り締まったりする警察とは別組織です。許可を受けないで営業を行うヤミ露天業者やヤミ輪タクなどは後を絶たないので、どこの街の都市管理局(城管)でも、ある程度、強圧的な態度で取り締まらざるを得ないケースが多いようです。ただ、この天門市の都市管理局は、以前からかなりひどい暴力的な取り締まりを行っていて、市民からの反感を買っていたようです。「新京報」の報道では、「自分はきちんと営業許可をもらっているのに、強圧的な態度で『違反だ』と迫られて1000元(約1万5000円)の罰金を支払わされた。代わりにくれたのは公印の押していない領収証だった」と、暗に不法な取り締まりをやっている、と示唆するような市民の声を載せています。

 この事件は、死者が出たことにより、さすがに天門市当局自体も重視せざるをえなくなったと見えて、調査を行った上で、自ら記者会見を行って公表することになったようです。今日(1月11日)付けの「新京報」の記事によると、天門市中国共産党委員会書記(中国では党の書記は市長より偉い実質的な市の最高責任者です)は、「最近は違法営業などの案件が多く都市管理局の取り締まりは非常に難しくなっている。しかしだからと言って取り締まり側が違法行為をしてよい理由にはならない」「都市管理局員が人を殴打して死なせてしまうことなど天の理が許さない」と述べています。この事件で、天門市の都市管理局長は免職になったとのことです。

(参考2)「新京報」2008年1月11日付け記事
「都市管理局長の斉正軍氏が罷免される」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-11/021@082912.htm

 2003年に広州市で孫志剛という心臓病を患っている青年が居留証を持たないために収容所に収監され、収容所職員に暴行されて死亡する、という事件がありました。この事件は、発覚してからインターネット上で反発が沸き起こり、当局もそれを無視できなくなって、結局は孫志剛氏を収容する根拠となった「収容法」が改正されることになりました。当局がインターネットで湧き起こる議論を無視できずに、結局は法律改正にまで至った、という点で大きな事件だった、と言われています。今回の湖北省天門市の都市管理局が起こした事件は、多くの人にこの「孫志剛事件」を思い起こさせたようで、「新京報」に載った下記の2つの論説では、いずれも「孫志剛事件」に言及しています。

(参考3)「新京報」2008年1月10日付け「視点」
「『人間性』を用いて制度の『オオカミ性』を終わらせよう」(熊培雲(北京の学者))
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/01-10/021@075146.htm

(参考4)「新京報」2008年1月11日付け「社説」
「都市管理局に様々な部門の取り締まり権限が集中している問題について改めて新しい視点で考え直さなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/01-10/021@075146.htm

 この社説では、現在の都市管理局の問題点として下記を上げています。

○都市管理局の地位が低く、多くの都市では、都市管理局が「自給自足」の機関になっている。また、大量の素質のよくない人員が都市管理局の入っていて、都市管理局の名声に大きな影響を与えている。

○多くの部門の取り締まり権限が都市管理局に集中し過ぎている。無許可営業については工商管理局が、無許可運送業であれば交通警察が、騒音の取り締まりについては環境保護局が行うなど、それぞれ専門の部署が取り締まるようにした方がよい。

 この社説では、最後に「孫志剛事件」を引用して、「2003年の孫志剛氏の死が数十年続いた収容制度を終わらせたように、今回の天門市の魏文華氏の死は、都市管理(城管)制度を大きく変える原動力になるのであろうか? 我々は刮目(かつもく)して待つこととしたい。」と結んでいます。最後の部分、このひとつの事件が「城管制度」自体を変える力になるかもしれない、というのは、私は言いすぎだと思いますが、たぶん、この社説の執筆者は、「孫志剛事件」のように、インターネットでの世論の盛り上がりが世の中を変えることになるかもしれない、といったひとつの予感を感じているのかもしれません。

| | コメント (0)

2008年1月 9日 (水)

国務院が「小産権」に関し明確な通知を発出

 国務院は昨年末に会議を開き、2007年12月30日付けで、「小産権」(村などの集団所有地の上に建てられた住宅地)に関する法的位置付けを明確にする通知を出しました。

(参考1)「新華社」2008年1月8日15:58アップ
「国務院弁公庁:都市住民は農村で宅地用土地を購入することはできないことを重ねて通知」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/08/content_7385599.htm

 この国務院の通知のポイントは以下のとおりです。

○農村の住宅用の土地はその村の村民が住むために分配されているのであって、都市住民が農村で住宅用土地や農民の住宅、あるいはいわゆる「小産権房」(農村の土地の上に建てられたマンションや別荘等)を購入することはできない。

○農村などの集団所有の土地の土地使用権を譲渡あるいは賃貸により非農業目的の建設に使ってはならない。全体的な土地利用計画に基づいて建設用地を取得した企業が破産した場合などにのみその当該土地の使用権を法律に基づき譲渡することができる。そのほか集団所有の建設用地の土地使用権が譲渡できるのは、計画の必要性に合致し、法律に則って取得された建設用地の場合だけであり、それらを商品住宅の開発用に使うことはできない。

○農村などの集団所有の土地を土地利用計画などに違反して「貸与」「請負」などの方式により「売らない代わりに貸す」という形で非農業目的の建設用地に使うことが一部の地方で見られているが、これらは厳格に禁止する必要があり、もしこういう事態あれが厳格に検査して処置する。国土資源管理部門は「売らない代わりに貸す」方式で行われている違法行為について全面的な調査を行い法に則って厳格に処置する。

 この通知の背景にある問題点は、以下の点です。

●農村にある村民住宅用の土地については、村当局などが農民からこれを接収して都市住民に売っている例があり、その際、一部に農民の権利を侵害しているおそれがあるところも出ている。

(参考2)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

●本来農地をつぶして工業用地にすることができるのは、土地利用計画に基づいて、上部機関の許可を得た場合に限られているのに、「土地使用権を売ることはしていないが貸している」「土地を利用した事業を請け負わせているだけだ」などの説明を付けて村当局が上部機関の許可を得ないで土地開発業者などからお金をもらって土地開発をさせている例があり、現実の農地面積が減少してきている。13億人の人口を維持するために必要な食糧の生産量を確保するため、中国政府は農地面積は18億ムー(120万平方km)より絶対に小さくしない、としている。現在の農地面積はまだこれを上回っているが、無秩序な農地開発が進むと、中国全体の農地面積がこの「レッド・ライン」を割り込んでしまうおそれがあるため、中国政府としては、土地利用計画に則らない農地開発はストップさせる必要があると考えている。

(参考3)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 農村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅(「小産権」とか「小産権房」とか言われる物件)に対する法的位置付けは、これまで「あいまい」と言われてきていましたが、先の北京の裁判での確定判決(下記の「参考4」参照)や今回の国務院の通知で法的位置付けは明確になったと思います。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 しかし、法律的位置付けが明確になったのはいいとして、不動産取引の1割~2割をこの「小産権」が占めていると言われる現状において、現実的な商取引として行われている不動産取引にこの「小産権」の法的位置付けの明確化がどのように影響するのか、はまだ不透明なところです。法的位置付けに基づく厳格な取り締まりを行えば、現実の商取引に混乱を与える可能性もありますし、取り締まりを甘くし現実を追認するようなことがあれば、裁判所の確定判決や国務院の通知があっても法律が実行されないことになり、法治国家としての根本が崩れてしまうことになります。

 中国のことですから「様子を見ながら徐々に取り締まりを強化していく」ということなのでしょうが、厳しく取り締まられた人は損をし、取り締まりが厳しくなる前に素早く物件を売り抜けることができた人は儲かる、という不平等が広まるおそれがあります。不動産取引は巨額の取引であり、特に個人にとっては、一生を掛けた人生最大の買い物です。あまりこれによる不公平感が広がると、社会の中に不満が溜まっていくのではないか、というのが心配になるところです。

| | コメント (0)

2008年1月 7日 (月)

地方の事件を報じた雑誌記者が北京で勾引

 今日(1月7日)付けの北京の大衆紙「新京報」に、遼寧省西豊県で起きた事件の記事を書いた雑誌の記者が北京で西豊県の公安当局に勾引されようとしている、という記事が載っています。

(参考1)「新京報」2007年1月7日付け記事
「西豊県の携帯メールで誹謗罪となった事件を報道した記者が勾引されようとしている」
http://www.thebeijingnews.com/news/deep/2008/01-07/021@073617.htm

 この記事によると事情は以下のとおりです。

○1月1日に発売された雑誌「法人」に「遼寧省西豊県:政商の力比べ」と題する記事が載った。この記事のポイントは以下のとおりである。

・西豊県政府は、特産品販売センターを作るためにある女性が経営するガソリンスタンドを立ち退かせようとしていたが、賠償額に関して双方で争いが起きていた。

・ガソリンスタンドの女性経営者に打撃を与えるため、政府の関係部署はこの女性経営者を脱税と県の指導者に対する誹謗の罪で告発した。

・この販売センターの土地の譲渡や入札等には重大な問題が存在している。

○1月2日、西豊県の公安当局がガソリンスタンド女性経営者の家に来て、「雑誌記者に対して賄賂を送った」との疑いで捜査を始めた。公安当局の担当者は「金品を渡さなければ、わざわざ北京から記者が来てあのような記事を書くはずがない」と言っていた。

○1月4日、朝、西豊県の公安当局が北京にある雑誌「法人」の編集部を訪れ、記事を書いた女性記者と編集長に対する事情聴取を行った。午後、再び西豊県の公安当局担当者が雑誌「法人」の編集部を訪れた。彼らは「県の書記を誹謗した『誹謗罪』」により女性記者を勾引する、と書かれた書類を持参し、編集部に対して捜査への協力を要請したが、編集長はこれを拒否した。

○1月5日、西豊県のガソリンスタンド女性経営者の家族が雑誌「法人」の記事が事実であることを示す証拠を持って北京に出てきて、記事が真実であるとを訴えた。その訴えによると、去年の3月、ガソリンスタンド女性経営者の家族が県の書記を非難する携帯メールを発信したところ、「誹謗罪」で逮捕され、昨年12月29日、西豊県裁判所で有罪判決が出された、とのことである。

○新京報の記者が西豊県の書記に取材して「雑誌『法人』を発行している会社の所在地は北京なのだから、『誹謗罪』で裁判を起こすには法律によれば北京の裁判所で起こさなければならないのではないか。」と質問したところ、県の書記は「雑誌『法人』の記者のことについては何も知らない」と答えた。

○女性記者の弁護士は、「誹謗罪」は「親告罪」(被害を受けた人が告訴してはじめて当局が捜査を行い起訴する)であるので、誹謗された本人が「何も知らない」というのであれば、西豊県の公安当局は、本件を捜査し、女性記者を勾引することはできないはずだ、と言っている。

○雑誌「法人」の記事を書いた女性記者によれば、1月7日(つまり記事が掲載されている今日)の午前中、西豊県の公安当局は雑誌「法人」の編集部で彼女を待っているはずだ、とのことである。

 この「新京報」の記事では、昨晩(1月6日の夜)この女性記者の家で撮影した、という自分が書いた雑誌「法人」の記事を見ている女性記者の後ろ姿の写真を掲載しています。

 この「新京報」の記事は「現在進行中」の事件を記事にした、という点で極めて異例です。また、遼寧省西豊県の公安当局が雑誌「法人」の編集部を訪問した際に北京市公安局文書保安課の職員も同行していることを記載しているなど、当局の「御指導」を受ける立場にある「新京報」自身にとっても、かなり「きわどい」記事であると思います。しかしながら、「新京報」としては、この事件は「他人事」ではなく、報道の自由に対する重大な問題であって、自分自身の問題なのだ、という強い意志の下で書かれていると見られます。この「新京報」が署名入り記事として掲載されていること、記事の内容をインターネット上でもきちんと公開していること、などからもその「意志」は窺えると思います。

 「新京報」は、以前にも「誹謗罪」の恣意的な拡大解釈は報道の自由に対して重大な問題である、という認識を示した社説を掲載しています。

(参考2)このブログの2007年11月22日付け記事
「『誹謗罪』の拡大解釈を警告する、との社説」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/11/post_a695.html

 こういった報道の自由を重要視する考え方は、胡錦濤総書記を中心とする現在の中国共産党中央の意向にも沿ったものです。地方政府の乱脈ぶりをチェックし、是正するためには、報道機関による監視の目は、社会の役割として重要である、と党中央も認識しているからです。だからこそ、「新京報」は、堂々と上記のような社説を掲げ、毅然として今回のような記事を掲載しているのだと思います。

 中国では、まだまだ地方の末端レベルでは、党や政府の幹部と公安当局、そして裁判所までもが「ぐる」になっているケースが多々見受けられるようです。党中央としても、これを見過ごしていては、一般国民からの支持を失いますから、そういったことは毅然とした態度で是正すべき、と考えているのだと思います。問題は、そういった党中央の意志が、既得権益集団と化してしまった一部地方政府の壁をどれだけ突き崩せるかだと思います。中央がこれら既得集団化してしまった一部の地方をどうコントロールしていけるのか、が、現在の胡錦濤体制の最も重要な課題だと私は思います。

------------------------

(以下、2008年1月8日に追記)

 本件については、2008年1月8日付けの「人民日報」が、上記の「新京報」の報道を受けて、「世論による行政の監視は重要であり、県当局は雑誌記者を拘束するのではなく、誹謗されたと思うのならば、その旨を裁判に訴えて司法の場で法の下での判断を受けるべき」との立場からの評論を掲載しています。

(参考3)「人民日報」2008年1月8日付け
「『西豊事件』:司法はどのように介入すべきなのか(人民評論)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/08/content_37590151.htm

 中国共産党の機関紙である人民日報にこのような評論が掲載されたところを見ると、党中央も今回の遼寧省西豊県の公安当局の行動は「問題あり」と認識していることを示していると思います。

 なお、1月8日付けの「新京報」の報道によると、この件の1月7日の動きは以下のとおりです。

○西豊県の公安当局が女性雑誌記者を拘束しに来るのを取材しようと、多くのメディアが雑誌社に集まっていた。

○西豊県の公安当局は、女性雑誌記者に対して「1月7日午前中に雑誌社に来る」と言い残していったのだが、実際は雑誌社には現れずに西豊県に帰っていった。

○「新京報」が西豊県の公安当局に「なぜ雑誌社に現れずに西豊県に帰ったのか」と質問したのに対し、西豊県の公安当局はその理由について答えなかった。

(参考4)「新京報」2008年1月8日付け記事
「遼寧省西豊県公安当局、北京に人員を派遣して記者を勾引することを撤回」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/01-08/021@073647.htm

 最近、中国では、行政機関の理不尽な行動を新聞社等に訴えて、新聞社等がそれを記事にすることが多くなりました。最も象徴的な事件が昨年6月に明るみに出た山西省の悪徳レンガ工場事件でした。

(参考5)このブログの2007年6月15日付け記事
「山西省の悪徳レンガ工場での強制労働事件」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_54d1.html

 その後、昨年7月の北京テレビ局によって起こされた「『段ボール肉まん』やらせ事件」により、テレビ局によるこの手の「告発報道」は減ったような気がします。

(参考6)このブログの2007年7月19日付け記事
「『段ボール肉まん』報道は『やらせ』だった」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_10f1.html

 しかし、新聞では、地方政府の理不尽さを告発するような記事は最近も数多く掲載されています。今回の遼寧省西豊県の事件で、人民日報が取材する新聞社側を擁護する評論を書いたことによって、党中央もこういった動きを支持することを明確になったことから、今後、ますます新聞が地方政府の問題点を指摘する活動は活発になると思います。

 もっとも、今回の事件がもともとの事件の起きた遼寧省ではなく、北京の地元紙である「新京報」の報道により取り上げられたように、地方政府が地元のマスコミもコントロールしている現状においては、地元の新聞が直接こういった問題を取り上げることにはまだまだ難しいようです。ただ、今回の事件のような事例が数多く出てくることにより、新聞による地方政府の監視は、一歩ずつ前進していくことになると思います。

| | コメント (0)

2008年1月 6日 (日)

首都鉄鋼4号炉停止・経済損失26億元

 今日(1月6日)付けの「新京報」によると、北京にある首都鉄鋼の4号高炉が昨日(1月5日)、35年2か月に及ぶ連続生産の役割を終え、停止した、とのことです。

(参考)「新京報」2007年1月6日付け記事
「4号高炉にお別れ、首都鉄鋼400万トン減産へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-06/018@075422.htm

 これは2005年から始まった北京にある首都鉄鋼製鉄所の停止計画の一環で、この後も段階的に溶鉱炉を停止して、2010年には完全に操業を停止する予定です。首都鉄鋼は、河北省などにある別の製鉄所での生産を続け、北京の製鉄所で働いていた労働者は、これらの別の製鉄所に移らせるか、早期希望退職を募って退職させる予定とのことです。

 この首都鉄鋼製鉄所の停止は、北京オリンピックへ向けた排出ガス対策の一環で、オリンピック期間中には首都製鉄の北京の製鉄所は、排出ガス量を通常より70%以上削減する予定である、とのことです。

 この北京の製鉄所の操業停止は、古いエネルギー効率の悪い製鉄所を効率のよい新しいものに代える、その機会に北京に集中した工場を別の場所に展開する、といった意味もありますので、オリンピックのためだけに行われているわけではありませんが、北京オリンピックの開催のための大気汚染改善を大きな目的にして行われていることは間違いありません。首都鉄鋼は、歴史のある国有企業ですから、オリンピックという国家的事業を前にしてその役割を果たすことも使命のひとつなのでしょう。ただ、生産停止による経済損失が26億元(約390億円)あることを考えると、こういうことができるのは首都鉄鋼が国有企業だからであって、私営企業や外資系企業では、いくら国家的行事のための政府の指令とは言っても、こういった大胆な政策的指示は受け入れないと思います。ある意味で、この件は、中国の基幹産業においては、まだまだ社会主義的要素が色濃く残っていることを現していると思います。

 この首都鉄鋼の件も含めて「北京オリンピック成功のため」という名目の下で、いささか無理強い的な政策が進められつつあるようなのが、ちょっと私は気になっています。オリンピックは国民みんなが喜んで迎える行事であるはずです。あまり「オリンピックのために」という名目で強引な政策を進めることにより、「オリンピックさえなければ」という反発心が人々の間に芽生えるようなことがなければよいが、と私は願っています。
 

| | コメント (0)

2008年1月 5日 (土)

映像ニュースの衝撃性

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に2007年10月13日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月以上遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

---------------------
アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「北京の白い空の下で」

記載日時:2007年10月13日

【映像ニュースの衝撃性】

 今週、短期間日本に出張したので、その機会に中国国内からだとアクセス制限が掛かっていて見られないネット上のテレビの映像ニュースのアーカイブを見たりしました。私としては、以前に見たことがあるものばかりで、新しいものは何もなかったのですが、久しぶりに見ると、やはり衝撃的です。映像ニュースは、文字のニュースと違って、感情に訴えるものがあります。それが映像ニュースの良いところでもあり、危険なところでもあるのだと改めて思いました。感情に訴えるようなものを含んだ映像ニュースをインターネット経由で若い人たちが見るのは「よくない」と中国当局は考えているのでしょう。

 最近、日本のテレビでも、2001年の9.11同時多発テロでニューヨークの双子の貿易センタービルが崩壊する映像を放送しなくなりました。あまりにショッキングな映像なので、視聴者の心を揺さぶるし、犠牲者の遺族も見るかもしれないと考えるととても放送できない、という配慮だと思います。その判断は間違いではないと思いますが、ショッキングな過去の映像ニュースを人の目に触れないようにすることをし続けると、9.11の「重大性」が時間とともに風化してしまうのではないか、という危惧も湧いてきます。たぶん、こういったショッキングな、しかし重要な映像ニュースは、テレビで無差別に流すのではなく、ネット上の動画資源として蓄積しておき、誰でも、見たいと思った時には、一定の心構えを持った上で見ることができるようにする「オン・デマンド」の映像記録としてネット上に保存しておく、というのが、正しい記録の仕方なのかもしれません。

 北京で18年前に起きた事件は、私が今この文章を書いている部屋から見えている街で起きました。18年前のニュース映像に登場する建物や道路の立体橋のところへは、私はいつでも歩いて行くことができます。それだけに私は18年前のテレビ・ニュースの映像を改めて見て、複雑な思いを新たにしました。今の中国の若い人は、この事件については、年長の人から話は聞いているとは思いますが、ニュース映像は見たことはないと思います。今、中国では、多くの人が外国旅行に行ったり、海外留学したりするようになりました。中国の外に出て、初めてその映像ニュースを見た中国の若い人はどう思うのでしょうか。

 私は、今回、改めて、テレビの持つ「映像ニュース」のパワーの大きさを痛感しました。そういった映像ニュースの力の大きさを知っているからこそ、ミャンマーで亡くなったジャーナリストの長井健司さんは、自らの危険も省みず、映像取材を敢行したのだと思いますし、ミャンマーの治安部隊もそれを阻止しようと考えたに違いありません。「テレビの映像ニュースは歴史を動かす力を持っている」。長井さんの事件をきっかけに、そのことをもう一度、私たちは心にきちんと刻み込む必要があると思います。

(2007年10月13日、北京にて記す)

| | コメント (0)

2008年1月 4日 (金)

スプートニク50周年テレビでやった?

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に2007年10月6日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月以上遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

---------------------
アップ場所: http://folomy.jp/heart/

フォロ「テレビフォーラム(ftv)」-会議室「喫茶室『エフ』」-トピック「北京の白い空の下で」

記載日時:2007年10月6日

【スプートニク50周年テレビでやった?】

 今年の10月4日は、旧ソ連が人類初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げてから50周年の記念日でした。今、私は日本のテレビを全て見られる環境にはないのですが、少なくとも私は気が付いた範囲では、日本のテレビのニュースでは「スプートニク50周年」に関する話は伝えていませんでした。私は中国のテレビを見て初めて、今年がスプートニク50周年に当たることを思い出したのでした。

 1957年当時、旧ソ連がアメリカより先に人工衛星の打ち上げに成功したという事実は、世界中に「スプートニク・ショック」を与えました。今はソ連という国もなくなってしまったし、人工衛星を打ち上げること自体「普通のこと」になったしまったので、「スプートニク」50周年の記念日は、日本ではあまり人々の関心事項にはならなかったのだと思います。それは放送衛星・通信衛星、気象衛星、カーナビなど人工衛星を使った測位システムなどが既に日常的なものになったことの証拠でしょう。

 くしくも同じ10月4日、日本の月探査機「かぐや」が月周回軌道に入りました。科学探査のひとつ、ということで、テレビを含め、報道振りは地味なものでした。1960年代の米ソ宇宙競争時代のように、宇宙における科学探査を「国家の威信を賭けて」といった形で仰々しく宣伝に使うのは時代錯誤だと思いますが、もう少し大きく取り扱ってもよいのではないか、というのが私の率直な感想でした。

 中国では、宇宙開発に関する報道機関の関心は高く、日本の「かぐや」に関する最新情報も逐次報道しています。中国の場合は、有人宇宙計画については、内外に対して「国家の威信を示す」目的も持っていることは明らかですので、報道機関が宇宙開発関連のニュースを取り上げる頻度も高くなるのは、ある意味では当然なのですが、別の見方として、急速に成長を続ける中国経済の中で、中国では宇宙開発が今でも「未来を開く象徴的存在」であることを示していると言えるでしょう。

 映画「アポロ13」の中で、月へ向かうアポロ宇宙船の中の宇宙飛行士の様子をアメリカの4大テレビ・ネットワークが生放送では中継しないことになった、という場面が出てきました。アポロ13号は3回目の月着陸を目指していたのですが、テレビにとっては月着陸も「3回目」では新味に欠けている、と判断されたからでしょう。テレビは常に「新鮮味やハデさ」を求めますが、既に普通になってしまったこと、地味なことでもきちんと伝えることも重要だと思います。日本のテレビにとっては、人類初の人工衛星「スプートニク」は、過去のものだったのかもしれませんが、少なくとも歴史の一コマとしてきちんと伝えてほしかったと思います。

(2007年10月6日、北京にて記す)

| | コメント (0)

2008年1月 3日 (木)

2007年の北京の大気汚染指数

 今年2008年は北京オリンピックがあるので、北京の大気汚染については、世界中の関心を集めると思います。中国国家環境保護総局は、毎日、主要な都市の大気汚染を指数として測定して発表しています。大気汚染指数(API:Air Pollution Index)は、100以下が「優」「良」、101を超えるとレベルによって「軽微汚染」「軽度汚染」「中度汚染」「中度重汚染」「重汚染」というふうに分類されます。大気汚染指数の定義及び大気汚染指数による汚染度合いの分類の仕方は、下記のこのブログの2007年6月19日付け記事を御覧下さい。

(参考1)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 2006年1年間の北京の大気汚染指数の度数分布は、このブログの2007年8月22日付けの記事に書きました。

(参考2)このブログの2007年8月22日付け記事
「北京の自動車交通制限と大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_284f.html

 年が明けましたので、これと同じ方法で2007年1年間の北京の大気汚染指数の度数分布をグラフにしてみました。

※データの出典:中国国家環境保護総局の重点都市大気汚染日報のページ
http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3
の下の方にある検索機能を使って「北京」の「2007年1月1日~2007年12月31日」の大気汚染指数を表示させて大気汚染指数を10ごとに分類してその指数を示した日数が何日あったかを数えたものが下記のグラフです。なお、車のナンバーの偶数・奇数による市内への乗り入れ制限を行った試験期間(4日間)の最終日の8月20日は「欠測」となっておりデータがありません。自動車の乗り入れ規制の最終日、という「最も大気汚染の状況が知りたい日」が「欠測」になっている理由は不明ですが、いずれにせよこの日だけデータがないので、2007年1年間のデータがある日は364日間となっています。

【2007年の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=3日)

000-020:■1
021-030:■■■7
031-040:■■■9
041-050:■■■■■15
051-060:■■■■■■■■■■■31
061-070:■■■■■■■21
071-080:■■■■■■■■■■■■■■■■48
081-090:■■■■■■■■■■■■36
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■77
101-110:■■■■■14
111-120:■■■■■■■■24
121-130:■■■■10
131-140:■■■■■14
141-150:■■■■12
151-160:■■■■12
161-170:■■■7
171-180:■■■7
181-190:■■4
191-200:■■4
201-210:■2
211-220:0
221-230:0
231-240:■1
241-250:■1
251-260:■1
261-270:■2
271-280:■1
281-290:0
291-300:0
301以上:■3
合計=364日(欠測1日)

 2008年1月1日付けの「新京報」では、北京市環境保護局の副局長は、2007年の北京の「青空」(大気汚染指数が100以下の日)は、目標の245日を1日オーバーした246日となり、目標を達成した、と述べた、と伝えています(上記のグラフでは「欠測」扱いにしている8月20日を大気汚染指数100以下として数えると100以下の日は246日になります)。

 確かに数字の上では大気汚染指数が100以下の日は246日間で目標を達成していますが、上記のグラフを見れば、90-100の日数が異様に多く、101-110の日数が異様に少ないことがわかります。この傾向は上記(参考2)に掲げた2006年のデータでも同じです。統計学的に言えば、大気汚染指数が100を超えるか超えないか境界線にある日の測定値に関して、何らかのデータの操作が行われた疑いが大きい、と言って差し支えないと思います(もちろん「何らかのデータの操作が行われた」と言い切ることはできませんが)。

 全体的に見れば、2007年は2006年より汚染指数が明らかに下がっているので、当局の大気汚染対策の努力はそれなりに効いているのだと思います。また、私の感覚的な感じから言っても、20年前に比べれば、冬の間、スモッグのない青空の日数は増えたような気がします(夏の間の汚染はひどくなったように感じましたが)。このように全体的には改善の傾向があるのですから、「目標を達成できた」ことを強調するために測定データをいじくるような姑息なことはせずに、正々堂々と正しいデータを発表すべきだと思います。

 中国国家環境保護総局は、測定されたデータをそのまま公表しているだけであり、「データの操作が行われた疑いが大きい」などと言うのはケシカラン、と言うかもしれません。しかし、上記のような度数分布グラフを見れば明らかです((参考2)に掲げた2006年のデータの方がさらに顕著です))。これらのグラフを見れば「このデータはそのまま信用することはできないな」と思う人の方が多いと思います。

 どうも中国では、「鉄鋼生産量○○トン、自動車生産台数△△台」という国家計画のノルマを達成したかどうか、で業績が評価される古い社会主義体制のトラウマが今でも消えていないようです。古い社会主義体制下では、粗悪な鉄鋼でも、すぐ故障するような車でも、とにかく目標のトン数や台数をクリアすれば、それでOKだったので、昔は無理をして鉄鋼の生産トン数や車の生産台数を上げる努力が行われました。今でも、無理をしてでも「目標達成!」と言いたい、という風潮はまだ残っているのだと思います。

 国民の目を意識すると数字をいじりたくなるのでしょうが、最も恐いのは、政策決定者が操作された統計数字を基にしてい政策判断をしているのではないか、と思われることです。

 中国の新聞は、地方政府の問題点はかなり厳しく指摘するようになっていますが、中央政府に対する厳しい指摘は全くと言ってよいほどありません。こういった環境測定データについては、公表データをグラフ化すれば誰でもわかることなのですから、中国の新聞はもっとしっかり書くべきだと私は思います。

| | コメント (0)

2008年1月 2日 (水)

2007年の中国の税収は大幅アップ

 不動産や株の高値続きが「バブルではないか」と多くの人が言っているにもかかわらず価格が下がらない背景には、「最後は中国政府が何とかするに違いない」という変な「安心感」みたいなものがあるからだ、と言う人がいます。中国人民銀行の幹部は、こういった安易な考え方を批判していますが、「中国政府は意外に『お金持ち』だ」と思っている人が多いのは確かなようです。

 今日(1月2日)付けの「新京報」が報じている国家税務総局が1月1日に発表した速報値によると、2007年の全国の税収入(関税及び耕地占有税を除く)は、4兆9443億元(約74兆円)で、前年よりも31.4%の増だったのだそうです。この税収入の額は、中央政府と地方政府の税収の合計ですが、つい先日閣議決定された日本の平成20年度(2008年度)予算の政府原案では国の税及び印紙収入は53兆5540億円と計上されていますから、この中国の税収の金額はかなり大きな金額であると言えます。

(参考1)「新京報」2008年1月2日付け記事
「2007年全国の税収が4兆9442.73億元に達した」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2008/01-02/014@111725.htm

(参考2)日本の財務省のホームページ
「平成20年度予算政府案」-「平成20年度一般会計歳入歳出概算」
http://www.mof.go.jp/seifuan20/yosan004.pdf

 なお、2006年決算ベースでみると、中国の全国税収入のうち56.2%が中央政府、43.8%が地方政府の収入となっていますので、中央政府の税収入ベースで言うと、おそらくまだ中国の方が日本よりは金額は少ないと思われます(ただし、日本の場合、4割近くが国債の償還に充てられるので、実際に使われる中央政府のお金としては日本と中国とはだいたい同じ程度、と言ってもいいかもしれません)。

(参考3)中国財政部のホームページ
「財政数据」-「2006年全国財政収入決算表」
http://www.mof.gov.cn/news/czsj2005/Book1.htm

 一方、中国の中央銀行である中国人民銀行が持っている黄金と外貨の準備高は、黄金が1929万トロイオンス、外貨準備が1兆4336億ドルです(2007年9月末現在)。日本の黄金準備2460万トロイオンス、外貨準備9461億ドル(2007年11月末現在)と比べても決して引けを取りません(というか、中国の外貨準備高は、人民元レートを低く抑えすぎた結果であり、過大すぎる、と各国から指摘されています)。

(参考4)中国人民銀行ホームページ
「調査統計」-「統計数データ」-「黄金及び外貨準備高表」)
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

(参考5)日本の財務省のホームページ
「外国為替・国際通貨制度、国際協力」-「統計」-「外貨準備等の状況」
http://www.mof.go.jp/1c006.htm

 こういう数字を見ていると、日本と比較しても、中国政府の財政的基盤はしっかりしており、中国では、何か起こりそうになったら、政府が支えてくれるだろうし、支える能力も十分にある、と思っている人が多いのでしょう。ただ中国人民銀行の幹部が懸念しているように、そういった「いざというときには政府が何とかしてくれるさ」という安易な考え方は、市場メカニズムによる調整機能を狂わせる可能性があります。また、政府による公共工事や政府調達に頼った産業構造は、結果的には各企業の自立能力が育つのを阻害します。中国は「社会主義の道」を歩む以上、政府によるコントロールが今後も掛かり続けることになりますが、そういった環境の中で、中国の経済活動に参加する各プレーヤーが政府による支援なしで国際的な自由競争の場で勝ち残れる力を育てていくことができるかどうかが、今後を占うカギになると思います。

| | コメント (0)

2008年1月 1日 (火)

2008年:今年のポイント

 皆様、明けましておめでとうございます。

 今までもいろいろ書いてきましたが、今年(2008年)の中国のポイントは、北京オリンピックの開催を除けば、次の3つだと思います。 

(1)労働契約法(2008年1月1日施行)

(2)不動産

(3)株

 時期的なポイントとしては4月と10月だと思います。

 私は不動産の動きに関しては、上記の「小産権」の問題が非常に大きいと思うのですが、さきほど「小産権」という言葉でYahooやGoogleで検索したら、私のブログが上位に出てきてびっくりしました(つまりほかの人はあまり着目して書いていない、ということですよね)。

 実生活面では、北京オリンピックの前後、車の使用制限など、市民生活に対してどのような制限がなされるかが気になるところです。あんまり無理なことをやって、市民の反発を買わなければよいけどなぁ、と思います。東京オリンピックやソウル・オリンピックのように、後から見て、「やはり北京オリンピックは中国の飛躍のひとつのきっかけだった」と言えるようになって欲しいと思います。

| | コメント (0)

« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »