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2007年12月15日 (土)

都市住民による農村の「小産権」購入は禁止

 中国は社会主義国ですので、土地を私有することはできません。全ての土地は国有または村などの集団が所有している「集団所有」のどちらかです。しかし、実際にはマンションや別荘などの不動産の「売買」は行われています。これは、土地については、「所有権」ではなく、その土地の「使用権」を売買する、という考え方に基づいているのです。「土地の使用権」の売買については、従来、法律上の規定がありませんでしたが、実際に行われている不動産売買取引の実態を後追いする形で、今年(2007年)10月1日から施行された「物件法」において、「土地使用権」に対する法律上の位置付けが確立しました。「土地使用権」は、例えば住宅用地の場合70年間など有限ですが、「物件法」により、満期時に延長することも可能になったため、限りなく「土地所有権」に近いものになっています。

 ただ、農村部などで村などの集団が所有している土地の上に建設されたマンションや別荘などを集団の構成メンバーでない人が買うことは法律上問題ないのか、という点については、法律上の位置付けが不明確なままで残っています。都市部の土地は国有なので、中国国民は誰でもその「土地使用権」を保持することが可能、と考えられており、都市部の土地の場合は問題は生じません。農村部の場合は、公式な法律上の位置付けとしては、村の住民でない人は村所有の土地に対する何らの権利も持たないため、村の土地の上に建てられた別荘やマンションを購入することはできない、と考えられています。これは、そもそも中国共産党による革命がその土地に住んでいない大地主が小作農に土地を貸し付けて耕作させる小作農制度を解体することを根本的な出発点としていることに関係しています。村の土地の使用権をその村の住民ではない人に売ることは、実質的に「不在地主」を認めることになり、中国の社会主義革命の出発点の原理を壊すことになるからです。

※ただし、これには考え方が二つあって、農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めないが、住宅用の土地の場合は村のメンバーではない人がその土地の使用権を持ってもかまわない、という考え方もあります。「小産権」の売買を「可」とする人は後者の立場を取っているのです。なお、「農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めない」という考え方は、戦後の日本においてアメリカの指導により行われた農地改革の基本原則であり、中国の共産主義革命の「専売特許」ではありません。

 しかし、実態的には、都市部に近い農村では、村が所有している土地の上にマンションや別荘を建てることが数多く行われています。例えば、農民が以前から住んでいた家を取り壊して、その土地に高層マンションを建て、従来の農民がその一角に住み、他の部屋を都市住民に売れば、農民は資金的な負担なしに不便な古い家を新しいマンションに建て替えることができるからです。

 これら集団所有の土地の上に建てられた別荘やマンション物件を俗に「小産権」と呼んでいます。「小産権」には二つの種類があります。

(1)もともと農家の住宅が建っていた土地の上に建てられた別荘やマンション

(2)もともと農地だった土地の上に建てられた別荘やマンション

 上記のうち(1)は、従来からの住宅を建て替えただけですのでそれほど問題にはなりませんが、(2)は農地の減少を伴いますから、国家政策上の重大な問題をはらんでいます。

 これら農村の土地に別荘やマンションを建てて、都市住民に売ったり貸したりしている問題の経緯については、このブログの8月26日付け記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年8月26日付け記事
「農民の住宅の土地の権利に関する問題」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_b042.html

 この問題について、国務院は、12月11日、常務委員会を開き、「小産権」を都市住民が買ったり借りたりすることを厳禁する、との方針を打ち出しました。

(参考2)「新京報」2007年12月12日付け記事
「都市住民が農村の『小産権』物件を購入することは禁止」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/12-12/021@073605.htm

 しかし、従来から「小産権」の物件の売買は実際に行われてきており、過去に売買された「小産権」の権利関係をどう処理するかは、大きな問題です。また、上記のこのブログの8月26日の記事にあるように、例えば、北京で取引されているマンションの物件のうち、建物数でいうと20%、部屋数でいうと30%がこの「小産権」にあたるとされているので、本当に都市住民による「小産権」の購入が禁止になるのだとしたら、マンション売買市場に大きな混乱を与える可能性があります。

 上記の「新京報」の記事では、11年前に自分が住んでいた住宅を売った北京市房山区の農民が、法律上は「小産権」は都市住民が買うことはできないことを知って、物件売買契約の無効確認を訴えた裁判の例が掲載されています。この案件の事情は以下のとおりです。

○農民のAさんは1996年3月、自分が住んでいた6部屋の住宅を都市住民のBさんに1万5000元(現在のレートで約22万5000円)で売った。

○Aさんは今は年老いた妻とともに娘の家族と同居しているが、今年(2007年)になって「小産権」を都市住民に売ることは法律上認められていないことを知り、本来は自分の家と娘の家族の家と2つの家を持つ権利がある、と気が付いて、11年前の住宅売買契約の無効確認を求めて裁判を起こした。

○裁判において、Bさん側は、既に5000元の「村民管理費」を村に支払い済みであり、村の方もBさんを村民として扱っているほか、この住宅の売買契約は村民委員会の同意を得ており、必要な手続きは全て行っている、と主張した。またBさん側は、1996年当時、都市住民が農民の住宅を使用することを禁止した法令はなく、実際、売買に当たってBさんは北京市不動産売買センターで必要な手続きを行って、不動産売買税も北京市に支払ってある、と主張した。

○裁判にあたって、裁判所は、専門家に委託してこの住宅の評価を行ったところ、現時点でのこの住宅の評価額は9.8万元(約147万円)である、と評価された。

○Aさんは、売買契約は無効である上、Bさんに返却すべき金額は、現在の評価額である9.8万元ではなく、1996年の売買時に受け取った1万5000元である、と主張している。

○裁判所は12月11日、この住宅が建っている土地は村の「集団所有」の土地であり、村民ではないBさんにこの住宅を売った契約は農民の住宅の譲渡を禁止した国の規定に違反しており、この売買契約は無効である、と判断した。(新聞記事には、AさんがBさんにいくらの金額を返せばよいか、についての裁判所の判断については書かれていない)。

○Bさんは、この裁判所の判断を不服として、上告する方針。

 私は、民法については詳しくないのでよくはわかりませんが、自らも同意して結んだ11年前の住宅売買契約を無効だとする訴えは、よほどの理由がない限り、日本ではたぶん通らないと思います。また、日本の民法上の請求権の時効は5年なので、11年前の契約を今になって突然覆す、ということは、日本では基本的には認められないと思います(あまり古い契約関係の無効を認めると、その間にその契約関係に基づいてなされた第三者の権利が侵害され、社会的な混乱を起こすおそれがあるため)。日本の場合、11年間適法にその住宅に住んでいるBさんの「住む権利」も尊重されると思うので、なおさらです。

 上記の例と同様の判決例は、このブログの8月6日付け記事にも出てきました。

(参考3)このブログの2007年8月6日付け記事
「『小産権房』(集団所有地上の住宅)をどうする?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_e6d8_1.html

 「小産権」のマンションや別荘の開発を村当局自身が積極的に進める例もあります。

(参考4)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

 こういった現象は北京周辺だけでなく、中国各地で行われています。

(参考5)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 北京の例で見られるように「小産権」は、中国の不動産ブームのかなりの部分を担っていると思われます。もし、上記に紹介したいくつかの裁判所の判例に見られるように、「小産権」に対する法的保護がなくなるのだとしたら、中国の不動産ブームにかなりの影響を与える可能性があります。

 今回(12月11日)の国務院常務委員会で打ち出された方針は、「小産権」について「厳禁」という言葉を使って明確に禁止の方針を示しているし、「売ることはしない代わりに貸す」といった脱法的行為も明確に禁止しているので、今後かなりの影響が出そうです。「物件法」など、不動産売買が先行し、法律上の規定がそれを追認する、という方式が続いてきた中国の政策の進め方が今後変わるのでしょうか。この「小産権」を巡る動きは、「土地の私有は認めない」という社会主義の基本原則と、土地の使用権の売買も含めて経済の市場原理に任せる方針との境界線上に生じた問題です。ですから「小産権」の問題をどう対処するのかは、今後の中国の政策の進め方のひとつの「試金石」になるのではないか、と私は思っています。

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