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2007年12月 2日 (日)

「中国式計画病」政策決定の大修理はいつ?

 11月19日、ネット版人民日報「人民網」のページに「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」と題するルポルタージュ記事が掲載されました。

(参考)ネット版人民日報「人民網」の「時政」(時事政治)のページ
「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」
http://politics.people.com.cn/GB/30178/6573279.html

※「人民網」のページの「時政」(時事政治)のページは、現在、外国からのアクセスはできないように制限が掛かっている模様ですので、日本からは上記のページは開けないかもしれません。今日(12月2日)現在、中国国内では見ることができます。

 この記事は、「人民網」と週刊の経済誌「中国経済週刊(中国語では「中国経済周刊」)が共同して書いた記事のようです。このルポルタージュ記事の冒頭に掲げられている「ポイント」は、次のような言葉で始まっています。

「『鶴の一声』で数十億元。前の指導者がいなくなったら、新しい指導者がまた新しい都市計画を出してきた。納税者のお金はどのように使われるのか。計画に伴って土地を失った農民の問題はどうなる?住民移転の問題と腐敗の問題はどうやって解決するのか?・・・解決策はただひとつ。公権力を制限し、公共の福祉のために責任を追及し、自由な市場のために権限を制限することだ。」

 この書き出しは、人民日報社が運営するページに掲げられた記事とは思えない内容で、現在の中国社会が抱える問題点を鋭く指摘したものとして注目に値すると思います。「中国式計画病」という記事のタイトルも「告発調」であり、記事を書いた記者の問題意識が窺えます。

 この記事では、下記の三つの事例に対して、記者が現地に行って取材したルポルタージュが記されています(下記のうち、例えば瀋陽に取材にいったのが今年8月とのことですので、この記事はかなり長期間にわたって綿密に取材された結果書かれたものと推察されます)。

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【遼寧省瀋陽市の例】

 瀋陽市の渾南市場というところは、建設用地の費用として23億元(約345億円)を掛けて開発が行われ、5つの大きなビルができているのに、そのままの形で放置されて既に8年になっている。前の指導者が農地を農民から買収して始めたプロジェクトだが、予想に反して価格が高騰し、テナントが入らず、投資資金が回収できなくなっているからである。投資資金が回収できないため、土地を提供した農民たちに対する補償金の支払いが滞っている。農民たちは「上訪活動」(北京に対して救済を求める陳情活動)を行っているが問題は解決していない。この渾南市場を計画した指導者は汚職で逮捕されたが、その後着任した指導者は北の方に別の新しい開発プロジェクトを始め、渾南市場は放置されたままになっている。

【北京市大興区の例】

 北京市の大興区には、様々な開発区があり、その数は100個に上っていた。あまりに多くの開発区が乱立したことから、開発区の整理が行われ、その数は3つに減らされた。しかし、例えばこれまで「大興区魏善庄鎮工業区」と呼ばれていた開発区は「大興工業開発区龍海園」と名称が変更され、大きな開発区の一部の「園」として扱われるようになっただけであるなど、実態は何も変わっていないことがわかった。また、新しい指導者が着任すると、「開発区」の数は増やすことができないことから、今度は例えば「大興生物医薬基地」といった「基地」が作られるようになった。「基地」は「開発区」では認められていない商業用地としての利用も可能である。また、許可を得る機関も「開発区」より上の機関であるので、大興区では上部機関の許可を取って「基地」の開発を進めている。

【広東省深セン市の例】(「セン」は「土」へんに「川」)

 広東省深セン市では、経済発展に伴って、次々に大きな道路が作られた。だが、その一部は、建設されてから8年~10年たったところで「使用期限が来た」として大幅な改修が行われるなど、何回も大幅な改良工事が行われている。ある場所では、コンクリート舗装では破損が激しいとして、歩道の部分に対して花崗岩による補修が行われた。しかし、花崗岩の歩道は雨が降ると滑りやすい、として不評だったため、今度は滑り防止措置を施した花崗岩敷石に交換された。市民からは「浪費だ」との声が上がっている。

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 この深セン市の例の記事の最後は次のような言葉で締めくくられています。 

「西側諸国では、公共的政策は、提案された後、議会で討論され、その政策を進めるかどうか、進めるとした場合どの程度の予算を使うのか、何回も公聴会が開かれてから、予算が決定される。我が国では、道路補修のような市民の利益に直結する公共的事業に対して、ただ政府のみがその権限を担うことになっており、市民が十分にそれに参与する仕組みになっていない。」

 このルポルタージュ記事は、「人民日報」のページに載っているのですから、「ありもしないことを吹聴している」ということではなく、中国の地方政府の行政のあり方を正直にレポートしたものだと考えてよいと思います。

 中国の地方政府における無秩序な土地開発や公共工事の乱発の背景には以下の留意点を挙げることができます。

○中国では土地は公有であり、私有は認められてないため、土地を売買する自由市場というのは存在しない。そのため、農地を農民から収容する際に支払う補償金の金額を決める土地の評価額は、ほとんど政府が勝手に決められると言ってよい(このため、補償金の額が安すぎる、として立ち退きを迫られる農民等と開発業者とのトラブルが絶えない)。

○(少なくとも今まで沿岸部などの条件のよい地域では)土地を開発すれば、そこに人件費の安い中国での生産を見込んだ外国企業等が進出して来るので、土地開発を行う地方政府は手っ取り早く収入増が図れる。工場誘致がうまく行けば、GDPも上がり、その地方の指導者は中央からの評価が上がる。

○公共事業を行えば失業対策になり余剰労働力の問題が解決できるほか、直接的にGDPアップに寄与することができる。

○人民元レートの値上がりを予想して、外資がどんどん流入している一方、中国人民銀行は人民元レートを急激に上昇させないように外貨を買い支えているため、市場に人民元資金があふれ出している(過剰流動性問題)。このため、地方政府や土地開発業者は、銀行から容易にお金を借りられるし、銀行側も土地開発のための貸し出しを増やしたがる。

※中国人民銀行が人民元レートを上昇させないようにしているのは、人民元レートの上昇により輸出が減少して輸出に依存している現在の中国の経済成長にブレーキが掛かることを避けるためと、外国の安い農産品の輸入の増加により農民が打撃を受けることを避けるためである。

○土地開発や公共事業を許可する権限を持っているのは政府であり、中国の銀行は全て国有であるので、地方政府、土地開発業者や建設業者、銀行の3社が「ぐる」になれば土地開発や公共事業はいくらでもできる(予算をチェックする「地方議会」が存在しないので)。しかも、上記のように地方政府と銀行の利害は一致しているし、土地開発業者・建設業者は土地開発や公共事業が進めば進むほど儲かるわけなので、この3者は自然と「ぐる」になる。この構図に中央政府が「待った」を掛ける制度的手段がない(地方政府と銀行幹部の人事権は中央が握っているが、人事権だけでは個々の活動をコントロールすることには限界がある)。

○今までは土地を取られた農民等が裁判所へ訴える際に根拠となる法律がなかった(この点については「物権法」が2007年10月1日から施行になったので、土地収容を巡る裁判は、これから頻発するのではないかと思われる。ただし、中国の場合、特に地方の裁判所は地方の政府と独立していないので、裁判所が地方政府の乱脈ぶりをチェックする機能を果たせるかどうかは疑問である)。

 上記のような背景に基づく地方政府による無秩序な土地開発や公共事業の乱発は、市場原理に基づかない状態で爆発的に進められているところに極めて重大な危うさをはらんでいます。「土地を開発すれば、外国企業がどんどん投資して工場を建ててくれるはずだ」「中央政府は北京オリンピックや上海万博のために公共工事をどんどん進めるはずだ」「土地開発や公共事業が止まれば農民工は職を失い社会的不安定をもたらすから、党・中央も本気で土地開発や公共事業を止めようなどとは思っていないはずだ」こういった「思惑」によって土地やインフラ設備の実際の需用とは全く関係なく土地の開発や公共事業が進められているからです。

 道路などのインフラ整備は、社会資本として残るのでまだよいとしても、行きすぎた土地開発は、膨大な不良債権を銀行に残すおそれがあります。正確な統計がないので私にもわかりませんが、地方政府による土地の乱開発は、既に中央がコントロール可能なレベルをはるかに超えてしまっているのではないか、と私は危惧しています。私も実際にいくつかの工業開発区を見学させてもらいましたが、それらの工業開発区の広さはとんでもなく広大なものであり、こられの工業開発区の全てに工場が建ち並ぶとは直感的にはとても考えられないからです。

 この点については、中国共産党中央も、たぶん同じような危惧を持っているのでないかと思います。人民日報のページに、このブログで紹介したような激しい告発調のルポルタージュ記事が掲載されたことが、それを表していると思います。経済における市場原理、政治における自由選挙制度、マスコミや市民団体によるチェックという三つのフィードバック機能(行きすぎにブレーキを掛ける機能)が弱い中国において、この地方政府による爆発的な土地開発や公共事業の乱発にブレーキを掛けるのは至難の業です。今回紹介した記事をきっかけにして、地方政府の幹部や銀行の幹部が党中央と危機感を共有して、少しでも軟着陸へ向けた努力に協力するようになって欲しいと私は切に思っています。

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