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2007年11月 4日 (日)

農民工の十大願望

 中国では、現在、農村に住む人は農村戸籍、都市部に住む人は非農村戸籍、というふうに二種類の戸籍に区分けする制度が採られています。今の中国では、億の単位の農村からの出稼ぎ労働者(農民工)が都市部の経済発展を支えていますが、彼らは戸籍が故郷の農村にあるために都市部では十分な行政的支援を受けられていないことが大きな問題になっています。

 このような「農民工」の問題をはじめ、農村部と都市部との格差の問題を解決するため、重慶市と四川省は、農村部と都市部を統合するモデル地区として指定され、様々な施策が試験的に実施されています。

(参考1)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 そのため重慶市では、今日11月4日を初めての重慶市の「農民工の日」と定めて、いろいろなイベントが行われています。この「農民工の日」に関連して、先頃、重慶市は、1,800人の農民工の人々の話を聞き「重慶市の農民工の十個の願望」というのをとりまとめました。

(参考2)「新華社」のホームページ2007年11月3日アップ記事
「農民工の十大願望まとまる 最大の希望は老後の社会保障」
http://cq.xinhuanet.com/2007/2007-11/03/content_11576378.htm

 上記の「新華社」の報道によると、農民工の十大願望は以下のとおりです。

○都市部の人たちと同等の社会保障を得たい
○都市部の労働者と同等の賃金と福利厚生を得たい
○農民工の子女の入学に際しては学校は差別をしないで欲しい
○多くの職業ポストを提供し、定期的に専門の就職あっせん会を開催して欲しい
○使用者は法律で定められた祝休日や休息の権利を勝手に奪わないで欲しい
○都市部の戸籍に編入するための条件をゆるめて欲しい
○政府には廉価な住宅を提供して欲しい
○政府には一定の無料の職業訓練の機会を与えて欲しい
○都市部の市民には、農民工を尊重し、理解し、受け入れて欲しい
○政府には農民工の余暇生活を豊かにする施策を採って欲しい

 これについて、11月4日付けの北京の大衆紙「新京報」の社説では、「『農民工の十大願望』は、公平、正義、幸福な生活の追求の観点からは当たり前過ぎる事項であり、わざわざ改めてこのように取りまとめて提示することがニュースになること自体がおかしい、と主張しています。そしてこの「農民工の十大願望」が「農民工の日」にちなんで取りまとめられたのだとしたら、それこそ「毎日毎日を農民工の日」にすべきである、と、いつになく激しい調子で主張しています。

(参考3)「新京報」2007年11月4日付け社説
「全ての一日一日が『農民工の日』でなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2007/11-04/021@080209.htm

 この社説では、農民工たちは、自分たちが都市部の経済的繁栄を支えているのに、妻や子と離れ、「地位低等」の位置に立たされていることをよくわかっているばかりでなく、戸籍制度に基づく一種の優越感によって都市住民から「二等国民」のレッテルを貼られていることをよく知っている、として、農民工の立場に立った主張を展開しています。農民工の実態に関する実情を表現する言葉として、上記の「 」でくくったような表現は外国のメディアでは使われることはありますが、中国国内の新聞でここまで「ズバリ」と表現したものは珍しいと思います。この社説は、社説執筆者のジャーナリストとしての正義感を感じる文章だ、と私は思いました。

 今、北京は、オリンピックの開催へ向けて、ビルや地下鉄などの大規模な工事が急ピッチで進んでいます。これら建設工事を支えているのは、農民工たちの労働力です。来年8月にオリンピックが開催される時点ではこれらの工事は山場を越えていることと、北京市内に留まる人数をできるだけ減らし、車の数も制限する必要があることから、オリンピック期間中は、今北京にいる農民工たちは、休暇を与えられて故郷へ帰されることになるのではないか、と言われています。このため、本来は、中国国内の各界、各層の人々の心をひとつにする役割を果たすはずの北京オリンピックが、必ずしも中国人民全体の求心力として働いていないのではないか、との見方をする人もいます。

 皮肉なことに、私が買った上記の社説が載っている「新京報」には、「○○基金の収益率138%、××基金の収益率147%。手数料はたった0.1%!」という証券会社の折り込み広告が挟まっていました。こういった広告を、農民工たちはどういった目で見ているのでしょうか。

 共産党大会は終わり、人民日報などでは「第17回党大会の精神を真剣に学習しよう!」などというキャンペーンの文字が躍っていますが、今後、「和諧」のためにどのような具体的な政策が採られていくのか、はまだ見えていません。ただ、中国の新聞紙上に農民工が望んでいることが具体的に掲載されるようになっている、ということは、たぶん、その願望が叶うような方向で今後政策が採られていくのだろう、という期待を与えてくれます。その期待が現実化することが、中国の今後の安定的な発展のカギだ、ということは、現在の中国の指導部をはじめ、みんなわかっています。もう既に「議論の時」は終わっていると思うので、具体的にどのような政策が採られていくのか、注目していきたいと思います。

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