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2007年11月24日 (土)

広州での警官による医師射殺事件

 この事件は日本でも報道されたので御存じの方も多いと思いますが、11月13日の早朝、広東省広州市で、ナンバープレートを新聞紙で隠した車を警察官が止め調べていたところ、車に乗っていた男性が警察官が示した警察証(日本で言う警察手帳)を奪って車を発車させた(警察の説明による)ため、警官が発砲し、その男性が死亡する、という事件がありました。死亡した男性は、広州珠江医院副教授の医者であり、社会通念的には「怪しい男」ではなかったこともあり、この警察官の発砲が正当なものであったのかどうか、中国の新聞紙上でも議論が行われています。

(参考1)「新京報」2007年11月15日付け記事
「公安部、副教授銃撃事件を調査のため調査員を派遣」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2007/11-15/018@102553.htm

 この記事によると、事情は以下のとおりです。

○広州市公安局の発表

・11月13日、午前4時55分、警官がナンバープレートを新聞紙で隠した不審な車が停車しているのを発見した。

・この車の運転席にいた男性を調べた際、警官はその男性から抵抗に合った。警官が男性に警察証を見せた際、男性は警官から警察証を奪って車に乗り込み、車を発進させようとした。この時警官は突き倒されて、膝に怪我を負った。

・警官は車が逃げるのを防ごうと車のドアを開けようとしたところ、男性は急に車を発進させて、警官は数メートル引きずられた。

・警官は車の逃走を防ぐために拳銃を発射した。弾は運転していた男性に当たった。警官はすぐに救急車を呼んだが、男性は病院で死亡した。

・男性が乗っていた車には、許可を得ていない軍用のナンバープレートが付けられていた。

○死亡した男性(珠江医院副教授・医師)の妻の話

・11月12日の昼間、男性は家で病院で使う資料の準備をしていた。

・12日夕方6時、妻が仕事から帰ってくると、男性は家にいなかった。男性は妻に電話で「今晩は飲みに行く。その後、友達に付きあうことになっている。」と話した。

・男性は数年前2台の車を買ったが、普段車のナンバープレートを隠すようなことはしていない。

○この事件の調査資料と車に同乗していた死亡した男性の同僚の証言資料を見た関係者の話

・12日の夜、死亡した男性が行ったのは広州ダンスホールである。広州ダンスホールでは、来たことのある車のナンバープレートを記録される可能性があったので、男性はナンバープレートを隠していた可能性がある。

・死亡した男性とその同僚は12時50分にダンスホールを出て夜食を食べに行った。その日、同僚は、死亡した男性に脳卒中で療養している父親を診察してもらうことにしていた。死亡した男性は「病院から関連資料を持ってくる必要がある」と言ったので、二人は病院へ行った。病院の前に車を止めて二人が話をしている時に警官が現れた。

・警官は、死亡した男性に身分証明書を見せるように言ったので、男性は身分証明書を見せた。警官はその身分証明書をチェックした後、別の証明書を見せるように言った。男性は別の証明書は持っていなかったので、車から降りた。車の中にいた同僚は、警官と男性が言い争っているのを聞いた。

・男性は自分の知り合いの警察官に電話を掛けた。知り合いの警察官は、この警官に電話を掛けたが、この警官は承知せず、別の身分証明書を見せるよう男性に要求し続けた。

・男性は、この警官に警察証を見せるように要求した。車の中にいた同僚は、男性が「私の身分証明書をあんたが持っていくなら、私はあんたの警察証を持っていってもいいだろう」と言いながら車に乗り込んでくるのを見た。その時、男性は警官の警察証を持っていた。

・男性は車に乗り込むやいなや、車を発車させ、方向転換して走り出した。その時、同僚は銃声が鳴るのを聞いた。車は少し走ってから何かにぶつかって止まった。この時、運転していた男性は動かなくなっていた。

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 この事件について、広東省、広州市は事態を重視し、調査を始めた、とのことです。また、中央の公安部も本件調査のため、調査員を派遣した、とのことです。

 上記の記事で報道される状況を見る限り、どちらに非があるのか判断するのは難しいところです。一般的に言えば、ニセのナンバープレートを付けていたことや警察証を奪われたことだけで拳銃を発射するのは、警官側の過剰反応、と言えるところですが、死亡した男性が車を急発進させて急転回したことにより、警官が生命の危機を感じた可能性も否定はできないので「正当防衛行為だった」と警官側が主張できる状況だったのかもしれません。また、上記の報道で話が引用されている「この事件の調査資料と車に同乗していた死亡した男性の同僚の証言資料を見た関係者」というのが、どういう立場の人物なのか不明なので、上記の記事の内容がどの程度信頼できるのかもわからないところです。

 この事件については、「新京報」の紙面上では、いろいろな意見の表明が行われています。

(参考2)「新京報」2007年11月15日付け評論欄「視点」
「広州銃撃事件、詳細な調査報告の公表を期待する」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2007/11-15/021@080043.htm

 この評論では、死亡した男性の車に許可を得ていない軍用のナンバープレートが付いていたということは問題であるが、だからと言って警官が発砲する必要があったのか、状況を詳細に解明し、公表すべきである、と主張されています。上記の文章の筆者は、事件後二日しかたっていない時点では詳細がまだわからないのは仕方がないが、調査機関は時間的緊迫性を意識して調査を行うべきだ、とクギを差しています(しかし、事件後10日以上たった今日(11月24日)時点では、まだ調査結果は公表されていないようです)。

 また、翌日の「新京報」には別の人の意見が載っています。

(参考3)「新京報」2007年11月16日付け評論欄「視点」
「広州銃撃事件の結果は、人々の法律に対する信頼関係の問題である」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2007/11-16/021@075554.htm

 この文章の筆者は、「警察権力は国家に依存し、強大なばかりでなく、法律の名の下に執行されるのであるから、制度上、適切な制限が掛けられる必要がある」「関係部署は、十分な情報公開と公正な調査処理によって、警察の権威と信頼を確立すべきである。この事件で勇気を持って事実を事実としてしっかり認めれば、今後は人々は政府が出す結論をさらに信頼することができるようになるだろう。」と指摘しています。

 これらの新聞の論調は、中国においても、公権力と人々が持っている個人の権利意識との関係が、徐々に変化しつつあることを感じさせます。本件の場合は、死亡した医師の側に、許可を得ていない軍用のナンバープレートを使用している、という明らかな「非」があるにもかかわらず、だからと言って公権力は何をしても許される、というわけではない、という論調が目立つからです。このことは、もし公権力側の「やりすぎ」があれば、相手が警察であろうが何であろうが、言うべきことはきちんと言う必要がある、と考える人が多くなったことも示していると思います。

 広州市警察の側も、事件の翌日に記者会見を開いて本件を調査することを発表し、中央の公安部も調査を開始する、とのことですので、公権力を握っている側としても、こういった新聞の報道や評論を踏まえて、だんまりを決め込んだり、「拳銃の使用は正当だった」という一方的な主張で押し切ることができない時代になったことを感じているのだと思います。

 あとは、上の意見にあるように、調査をうやむやにせず、調査結果をきちんと公表することが、人々の公権力に対する信頼を確立するために不可欠だと思います。
 

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