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2007年10月27日 (土)

「嫦娥1号」打ち上げロケットの残骸の行方

 このブログの一昨日(10月25日)の発言の最後に、「嫦娥(日本語読みで「ジョウガ」)1号」の打ち上げ後に中国の国内に落下しているはずの第1段ロケットの残骸についても、ちゃんと新聞に載るようにして欲しいなぁ、ということを書きました。この問題について、貴州省の地元紙「貴州都市報」が昨日(10月26日)、詳細な写真付きのレポートを配信していました。

(参考)「貴州都市報」2007年10月26日付け
「なぜロケットの残骸がたびたび福泉市に来るのか」
http://gzdsb.gog.com.cn/system/2007/10/26/010151228.shtml

 上記ページを御覧いただければ、落下したロケットの残骸の写真や付属品によって壊された農家の様子などの写真を見ることができます。この記事のポイントは以下のとおりです。

○24日18:05に打ち上げられた「嫦娥1号」を搭載した長征3Bの第一段ロケットは、18:16に貴州省福泉市道坪鎮道坪村に計画通りに安全に落下した。

○この地区の住民はあらかじめ避難しており、人的及び家畜に対する被害はなかった。

○ただ、ロケットの付属品である燃料注入パイプがある農家の家に落下し、建物を壊した。この農家の人の話によれば、当日は、事前に地方政府関係者が来て避難をしていたので、けがはなかったとのこと。

○壊れた家屋については、規定に応じて賠償金が支払われることから、地元の住民はこれを受け入れ、支持している。

○当初、我が国の衛星発射は極秘事項だったので、ロケットの残骸回収作業は、非常に緊張したものであり、秘密裏に行われていた。しかし、中国の宇宙開発が発展し、国際宇宙市場に中国が参入するようになり、国際競争に適応するためにロケットの残骸の回収もスピーディーに行う必要が生じてくると、大量の残骸の回収作業は、軍隊と地方との共同作業になった。ロケットの残骸は十数~数十平方キロに及び範囲に落下するので、これらを回収するのは相当に困難であるが、各地区の一般大衆の支持を得て、これらの作業はうまく行われるようになってきている。

○1975年11月26日、「長征2号」ロケットによって打ち上げられた我が国最初の回収式衛星が打ち上げから3日後に回収されたが、この打ち上げの際、貴州省の営盤地方で4人の炭鉱労働者が日光浴をしていたところ、突然大きな火の玉が頭の上を通過し、巨大な雷のような音とともに大きな松の木をなぎ倒して地上に落下した。彼らは軍隊に報告した。すぐに軍隊が来てこれを回収しに来て、これが我が国最初の回収式衛星打ち上げ時の残骸物であることがわかった。

○1995年に残骸が福泉市谷汪郷に落ちたときは、1頭の牛の鼻を切り落としたので、部隊は300元の賠償金を支払った。しかし、その後、この牛は草を食べられなくなり死んでしまったので、賠償金を増額して払い、農民は新しく1頭の牛を買うことになった。

○1996年7月、「長征3号」ロケットで通信衛星「APSTAR-1A」(中国名:亜太1号A)を打ち上げた時には、構皮難鎮瓮脚村に落下した。10トンを超える残骸が数十キロ上空から落下したのである。ひとつの民家が破壊され、ある家のテレビが震動で落下した。これにもかかわらず、農民群衆は、大空からやってくる「招かれざる客」を歓迎し、自主的に捜索したり、残骸を保管したりする任務を請け負っている。

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 中国のロケット発射場(甘粛省酒泉、山西省太原と「嫦娥1号」を打ち上げた四川省西昌)はいずれも内陸部にあります。従って、必然的にロケット打ち上げに際しては、第1弾ロケットの残骸は中国国内に落下します。酒泉は、シルクロードの街で、周辺は砂漠地帯なのでそれほど問題ではありませんが、太原や西昌は、内陸部で南東方向に人口の多い地域があるので、ロケットの残骸がどこに落ちるかは大きな問題です。今までは、ロケットの残骸の落下関連のニュースはあまり大きくは報道されてこなかったのですが、上記の記事は、かなり詳しくロケット残骸の落下について伝えています。

 一般に人工衛星は、地球の自転を利用して打ち上げるので、南極・北極を回るような軌道の衛星を除けば、普通は東へ向かって打ちます(地球は丸いので、真東へ打ち上げたロケットは、北半球なら南東方向へ、南半球なら北東方向へ飛びます)。また、赤道に近い方が地球の自転スピードを有効に利用できるので、ロケット打ち上げ場はできるだけ低緯度の地区に作られます。従って、普通、ロケット発射場は、その国の中でもできるだけ赤道に近い東側に海が広がっている地域に作られます(日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は鹿児島県の種子島と肝付町(旧内之浦町)に、アメリカのNASAはフロリダ半島のケープケネディに、ヨーロッパ宇宙機関は南アメリカにあるフランス領ギアナに打ち上げ基地を持っています)。

 最近、中国は、海南島に第四のロケット打ち上げ基地を建設することを発表しました。これは、技術的に言えば自然な選択です。最近、中国国内でも、国民の「権利意識」が高まって来ていることから、国家プロジェクトとは言え、内陸から打ち上げることがだんだん難しくなってきているからだと思います。また、上記の記事にあるように、昔はロケットの打ち上げは秘密性の高い事業でしたが、今は、それほど秘密性を気にする必要はなくなり、中国においても、打ち上げ基地を海岸部に作って打ち上げの様子が外から見られるようになっても問題がなくなってきたからだと思います。

 上記の記事のような「ロケットの残骸落下」のニュースは、あんまり「楽しい話」ではないので、今のところ政府の影響が強いテレビでは報道されていないようです。ただ、新聞やネット上でオープンに報道されるようになって来ていることは、中国の「開放」の度合いを示すひとつの例と言うことができると思います。

 ロケットの付属品が農家の家屋を壊したのに「安全に落下した」と表現する上記の記事は、まだ「世界標準の感覚」からすれば、かなり「ズレている」と思いますが、こういった記事が掲載されていくことを通じて、いろいろな部分での中国の「感覚」が「世界標準」に近づいていくのだろうと思います。今回の「嫦娥1号」の打ち上げは、そういった「中国が世界標準に近づく」という流れの中でのひとつのエポックだったと思います。

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