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2007年9月27日 (木)

農民工の生活を守ることが焦点

 農民工(農村から都市部に出稼ぎに出てきている農民労働者)の子女が都市部で公的な義務教育が受けられない問題については、前にも書きました。

(参考1)このブログの2007年9月2日付け記事
「農民工学校の苦悩」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/09/post_4e0d_2.html

 先日、教育部が、全国の学齢期児童の教育状態に関する情報の管理を農村部と都市部とにかかわらず全国でひとつのものに統一する、という方針を打ち出しました。このことは、農村戸籍を持つこどもでも、都市部で公教育が受けられるようになるのではないか、との期待を一部に持たせましたが、一昨日(9月25日)、教育部のスポークスマンは、今回の情報統一の方針は、単に学齢期児童に関する情報を全国で一括して管理するようにする、という情報システム上の技術的な問題であり、農村戸籍のこどもは戸籍のある農村で義務教育を受ける、という現在の方針には何の変わりもない、と説明しました。

 このことに関して、今日(9月27日)付けの「新京報」の社説では、こどもの義務教育を受ける権利は皆平等であり、こどもの教育を受ける権利を平等に守ることは、中国公民の平等性を守ることの出発点である、として、都市部に出稼ぎに出てきている農民工の子女に対する教育の問題を早急に解決すべきだ、と主張しています。この問題の背景には、都市部に急激に人口が集中することを避けるために維持されている農村・非農村の分別戸籍制度があります。今日の「新京報」の社説では、戸籍制度の改革にはまだまだ相当の時間が掛かるだろうが、だからといって農民工の子女の教育の問題をこのままにしておいてよいはずはなく、戸籍制度の改革より先に教育改革を進めるべきだ、と強く主張しています。

(参考2)「新京報」2007年9月27日付け社説
「教育改革は戸籍改革より先に進めてよい」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2007/09-27/018@073737.htm

 前に私はこのブログで1,700万人の北京住民のうち510万人は北京の戸籍を持たない人々だ、ということを書きました。

(参考3)このブログの2007年8月25日付け記事
「北京の流動人口は510万人」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/510_5d24_1.html

 大量の「北京の戸籍を持たない北京の住民」がいることは、こどもたちの教育の問題のほかにも、様々な社会的問題を引き起こしています。

 昨日(9月26日)付けの「新京報」では、9月の初め、北京市内で二人の全裸の女性の遺体が見つかった事件で、警察は、28歳の山東省から出稼ぎに出てきている男性を被疑者として拘束した、と報じています。この記事では、事実関係を伝えるとともに、農民工の人たちの生活状況とそれから来る心理状態を真剣に考えるべきだ、とする識者の見解も併せて掲載しています。

(参考4)「新京報」2007年9月26日記事
「草地で裸体の遺体が発見された事件で、一人の被疑者が拘束された」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/09-26/018@073707.htm

 この識者(北京大学社会学系教授)は「北京には建設工事のため大量の北京以外の土地からの労働者が流入しているが、彼らの絶対多数は男性であり、仕事はきつく、家族を伴ってくることもできないため、正常でない心理状態が出現することもやむを得ない面がある。一部の人の不満のはけ口としての行動が各種の犯罪の要因となっている。」と指摘しています。

 上記の今日(9月27日)付けの「新京報」の社説(2面)のすぐ下にある読者からの投書欄に北京のある編集者から来たひとつの投書が載っていました。

(参考5)「新京報」2007年9月27日付け投書欄
「北京に出稼ぎに来ている人たちは、どうしてデマを簡単に信じてしまうのか?」
http://www.thebeijingnews.com/comment/letters/2007/09-27/018@073913.htm

 この投書の趣旨は以下のとおりです。

「9月24日、北京市内の派出所に100人近い人が並んでいたので、何を並んでいるのか、と尋ねたところ、並んでいたのは農民工の人たちで、10月第1週の国慶節休み明け以降は、北京の暫定居住許可証の更新手続きをやらないことになった、暫定居住許可証が切れいている農民工は強制的に北京から故郷に追い返されることになったと聞いたので、あわてて手続きに来たのだ、と農民工たちは言った、というニュースが9月25日付けの『新京報』に載った。常識的に考えれば、強制的に故郷に追い返される、などということがこの首都北京で起こるはずはないのに、なぜ、こういったデマを農民工たちは信じてしまったのか。それは、日頃から、これは都市管理当局と農民工たちの間で情報のやりとりが十分でなく、相互の信頼関係ができていないからだ。これだけ多くの農民工が働きに来ているのだから、こういった状況を把握して政府がやるべきことは多いと思う。」

 この話も、現在の農民工の人たちの心理状態を表していると思います。北京のような都会に来ている人たちは、毎日、ものすごい経済発展を続けている街の様子や、高価でぜいたくとも思えるような消費財がウィンドウに並んでいるショッピング・センターを毎日見ているので、その心理的な葛藤は、外国人である私などからは想像できないものだと思います。

 20年前に私が北京に駐在していた頃は、中国の人たちは皆貧しく、高価な消費財を買っているのは外国人だけだったので、当時の中国の人たちは「中国はまだ貧しいのだからしかたがない」とあきらめていたと思います。しかし、今の中国の都市部のショッピング・センターで高価な買い物をしているのは、たいていは中国人です。大衆紙と言われ1部1元(約15円)で売られている「新京報」にも、日本円で500万円以上する外国車の広告が載ったりします。同じ中国人なのに、なぜ自分たちと、こういった品物を買える人たちの違いがあるのか、なぜそういった違いは自分が一生懸命働いてもなくならないのか、といった思いが農民工の人たちの中にはあるのではないかと思います。

 「新京報」は、自動車やマンションの広告も載りますが、農民工の人たちの立場にたった記事も多く書いています。多くの農民工の人たちも「新京報」を読んでいるからだと思います。この農民工の問題は、かなり以前からの問題で、中国の指導者の方々も十分に承知しているので、10月15日から開かれる中国共産党大会でも、「和諧社会の実現」というスローガンだけではなく、教育、住宅、社会保障、医療などの面で「農民工の人たちの生活を守る」ための具体的対策が、議論される事項の大きな焦点になるだろうと思います。

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