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2007年9月 2日 (日)

農民工学校の苦悩

 9月は中国では学校の新学期の時期です。これに関連して今日(9月2日)付けの北京の大衆紙「新京報」に、農民工の子女が通う学校についての記事が二つ載っていました。

 中国では、戸籍が農村、非農村に分かれており、基本的に、義務教育は自分の戸籍がある場所で受けることになっています。一方、大量の農民が都市部に出稼ぎに出て来ていますが(彼ら「農民工」と呼ばれている)、彼らの子女の中には、親から離れて故郷に残って学校へ行っているこどもたちと、親と一緒に都会に出てきて都市部で教育を受けているいるこどもたちがいます。先日、北京に住んでいる人口1700万人のうち、510万人が北京に戸籍のない人たちである、との発表がありましたが、この中には多くのこどもたちも含まれていると思います。

(参考1)このブログの8月25日付けの記事
「北京の流動人口は510万人」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/510_5d24_1.html

 親と一緒に都会に出てきているこどもたちは、その都会には戸籍がないため、都会の公立学校に入ることができません。このため民間の篤志家の寄付などで運営されている私立の学校で教育を受けることになります。これら都市部の農民工の子女のための学校は、政府からの公的補助が受けられないため、その経営は非常に厳しいものになっています。この問題は、農民工の子女の義務教育を受ける権利に関係することなので、中国国内でも以前から大きな問題として認識されており、日本でもときどき報道されています。

 「新京報」に載っていた一つ目の記事は以下の記事です。

(参考2)「新京報」2007年9月2日付け記事
「新課程改訂始まる。高校の課程表は『ぎっしり』」という記事の中にある
「新問題:スクールバス停止で200人以上の生徒が学校をやめた」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/09-02/017@024615.htm

 北京市朝陽区にある農民工子女の学校「育英学校」でも、ほかの学校と同じように9月1日から新学期が始まりました。最近、スクールバスに使用するバスの安全基準が改訂されて厳しくなったのですが、この学校が使っていたスクールバスは新しい安全基準を満たしておらず、使うことができなくなりました。このため学校側は、新学期の開始に当たり、生徒の父母たちに、一般の公共バスで通学するためのICバスカードを学校でまとめて買うことを承諾するか、そうでなければ学校をやめるか、2つに1つを選択して欲しい、と要請したそうです。この学校には1,300人の生徒がおり、このうち500人近くがスクールバスで通っていましたが、こういった学校側の問い掛けを受けて、200人以上の生徒が学校をやめることにした、とのことです。

 農民工子女のための学校は、あちこちにあるわけではありませんので、遠くから通わざるを得ない生徒も多く、そういう生徒はスクールバスに乗って登下校するしかなかったのです。北京のバスはかなり安い(ICバスカードを使えば、割引があるので大人0.4元(約6円)で乗れます)のですが、毎日こどもを通わせるとなると、農民工の親にとってはかなりの負担となります。そのために200人以上が学校をやめざるを得なかったのです。

 学校側は、スクールバスとして安全基準に合ったバスを借り上げたいと思っているのですが、2台の大型バスを借りるには1学期(中国は2学期制)あたり20万元(約300万円)掛かるとのことです。学校側としては、1か月スクールバスの運行を停止して、その間に資金援助してくれる企業を探すが、どこも援助してくれない場合は、バスの借り上げ費用は学校側ではとても払える額ではないので、スクールバスの運行はあきらめざるを得ない、とのことでした。

 この「新京報」の記事は「関係部門には、こういった実際の状況を十分に考慮するよう希望する。」と結ばれていますが、学校をやめた200人以上の生徒たちがこれからどうするのか、については書かれていません。

 二つ目の記事は以下の記事です。

(参考3)「新京報」2007年9月2日付け記事
「南都基金会、大興区の行知学校に100万元を援助」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/09-02/017@021045.htm

 これは全国で100か所以上の学校を支援している南都基金会という団体が、北京市大興区の行知学校という学校に100万元を援助することになった、という記事です。現在、農民工の子女の学校は私立学校なので「営利目的の学校」扱いになっているのですが、こういった資金提供団体からの援助を受け、資金提供者、教育の専門家、財務の専門家、弁護士及び父母の代表が集まって理事会形式で学校を運営することにより、「非営利目的の公益学校」としての体裁を整え、政府の補助金を受けやすくする計画が進められています。このような学校を「新公民学校」と呼ぶのだそうです。行知学校も、この資金援助により、名前を「行知新公民学校」に変えることにしたとのことです。

 こういうふうに実際に農民工の子女の学校に対する民間レベルでの資金援助が行われている、ということは、ある意味ですごいことです。「教育は基本中の基本。政府が何もしてくれないなら、何とかしなければならない。」と思っている人が多いのでしょう。ただ、民間からの援助に頼っていたのでは、援助できる学校と援助の手が回らない学校が出てきてしまいますから、やはり基本は政府が支援をしなければならない、と多くの人が思っていると思います。

 都市部に働きに出てきている農民工の子女の学校を支援することは、「こどもは自分の戸籍のあるところで義務教育を受ける」という基本原則を崩すことになるので、政府としては表立ってはできないのだと思います。しかし、やはり、中国の経済発展も北京オリンピックのためのいろいろな建造物の建築も、農民工の働きがなければ成り立ち得ないことを考える必要があると思います。13億人という膨大な数の人民がおり、その人民みんなが「教育は大事だ」と思っており、実際にほとんど100%に近い人々がきちんと義務教育を受けている、ということが、中国の大きな「強み」です。この「強み」を自ら壊すことのないよう、中国政府にはこの問題に対する適切な対応が求められていると思います。

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