« 分散と集中:80年代と今の中国の体制の違い | トップページ | 場所と時間を超えるテレビ »

2007年9月 8日 (土)

中国の法律における行政府への委任

 今日(9月8日)発売の経済専門紙「経済観察報」(2007年9月10日号)の1面に、中国の法律における行政府への委任事項について評した社説が載っていました(タイトルは「立法における『原則とする』というやり方は誰のために余地を残しているのか」)。この社説では、今年3月の全国人民代表大会(全人大)全体会議で可決された「企業所得税法」(2008年1月1日施行)について、実施細目がまだ明らかになっていないため、各企業が自分たちがどれだけの税金を払うことになるのかいまだ明確になっていない例を取り上げて、法律が「原則」を定めることに留まり、詳細を行政府に委任してしまうと、実施細目の決定や法律の解釈において、行政府に過大な自由裁量権を与えてしまう、との懸念を表明しています。

※残念ながら、この社説をネット上で見ることはできません。最近、中国でも新聞の売れ行きに影響を与えるのを避けるため、重要な記事はネットでは見られないようにしているケースが増えています。

 日本の場合、法令は、大まかに言って、国会(立法府)で可決される「法律」と、行政府の長である内閣総理大臣をヘッドとし各府省の大臣をメンバーとする閣議で決める「政令」、各府省がそれぞれ定める「省令(府令)」などに分類されています。国民の権利と義務に直接関係する事項は、国民の代表者である国会議員の議決によって決める「法律」に規定しなければならず、「政令」や「省令(府令)」で規定するのは、法律の定めによって委任された範囲内で、細かな規則を定めるものに留めることになっています。国会の議決を必要とする「法律」は、改正するのに時間が掛かりますので、社会の動きに対応して迅速に改正する必要がある細かな事項などは、「法律」の委任に基づいて「政令」や「省令(府令)」で定められるのですが、税率、刑罰の重さ、など直接的に国民の権利や義務に関係する事項は、例外がある場合はどのような場合が例外であるかも含めて、「法律」で明確に決めなければならず、「政令」や「省令(府令)」に委任することはできない、というのが原則になっています。

 一方、中国の法律では、原則についての規定がある一方、例外規定が設けられていて、どのような場合に「例外」扱いになるのかについての規定は行政府(中国の場合は国務院)などに委任されているケースが数多くあります。例えば、「経済観察報」の社説が例として挙げている企業所得税法では、税率は法律に書いてありますが、優遇措置として減税の対象となる「国家が重点的に援助している公共基礎施設プロジェクトに投資したことによる所得」「一定の条件に合った環境保護目的、省エネ目的、水資源節約目的の所得」「一定の条件に合った技術移転所得」などについては、具体的にどういったものが対象になるのかは行政府(中国の場合は国務院)の判断に任されています。また、減税の額についても法律には書かれていません。

(参考1)ネット版「人民日報」人民網のページにある
「中華人民共和国企業所得税法」全文
http://finance.people.com.cn/GB/8215/79833/5491575.html

 最近、中国では、経済活動の根幹をなす重要な法律が次々に成立しています。例えば、今年3月の全人大全体会議では土地に対する権利等を規定した「物件法」が、6月の全人大常務委員会では「労働契約法」が、8月の全人大常務委員会では「独占禁止法」(中国語では「反壟断法」)が次々に成立しています。

(参考2)(独)科学技術振興機構(JST)中国総合研究センターのホームページ
「JST北京事務所快報」第5号(2007年9月5日)
「中国の科学技術関連法律の最近の動向」
http://crds.jst.go.jp/CRC/

※上記の記事の筆者はこのブログの筆者です。

 これらの重要法律が、実際に施行される際に行政府がどのような実施細目を作るのか、どのような法解釈で実際の法律の運用がなされるのか、について、中国の内外の関係者は大いに注目しています。土地は国有または集団所有であるという社会主義の原則の下で土地使用権等の権利をどう扱うか、政府による経済のコントロールを原則とする社会主義の原則の中で「自由競争の原則」を規定した「独占禁止法」がどのように運用されるのか、は、まさに中国の現在の「社会主義市場経済」の行く末を決める重要なものだと言えるでしょう。

 従来、議論百出でなかなか方向性がまとまらなかったこれらの重要法律を次々と成立させている現在の胡錦濤政権は、法律面でも「改革開放政策」の基盤を固めつつある、と言っていいと思います。これらの法律が、「経済観察報」の社説が心配するように、行政府の自由裁量権を拡大させたり、法律が目指している本来の目的からずれたりすることのないようにすることが、中国の「改革開放政策」を本物にするための重要なポイントになると思います。

|

« 分散と集中:80年代と今の中国の体制の違い | トップページ | 場所と時間を超えるテレビ »

中国の民主化」カテゴリの記事

社会主義と市場経済とのはざま」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 分散と集中:80年代と今の中国の体制の違い | トップページ | 場所と時間を超えるテレビ »