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2007年8月12日 (日)

炎天下の農民工:人民日報のルポ

 最高気温35度以上の日々が続く上海、武漢、広州で働く農民工の実態を今日(8月12日)付けの人民日報がルポルタージュしています。

「人民日報」2007年8月12日付け(週刊特集「新農村」内の記事)
「高温下の農民工」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-08/12/node_13.htm

 上記のアドレスをクリックすると、印刷された今日付けの人民日報の第5面が表示されますが、各記事のところをクリックすると、パソコンの画面上でそれぞれの記事や写真を大きく表示して読むことができます。例えば「高温下の農民工」の本文部分は、

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-08/12/content_15850954.htm

で見ることができます。

 このルポでは、例えばポイントとして以下のようなことが伝えられています。

○上海の3人の農民工は、分担して1個19リットル入りの飲用水20個を近所の9か所に配達している。全部で重さは400kg。20個配達して3人の収入は20元(約320円)。

○上海の水運びをやっている農民工のうちの1人は保母をやっている妻と部屋を借りている。その部屋は、6平方メートルの小部屋で部屋代は260元(4,160円)。ベッドと古いテレビと大きな腰掛けひとつ、小さな腰掛けがいつくかあるが、それ以外にものを置く場所はない。

○農民工:「こどもたちにはちゃんと勉強して欲しいと思っている。まじめにやってるかどうか見てやりたいんだが、会えるのは1年に数日だからなぁ」。記者:「上海に呼んで学校に行かせたら?」。農民工:「受け入れてくれる学校なんてないもの。農民工がみんなこどもを呼び寄せたら、上海が受け入れられると思う?」

○8月6日午後三時の武漢の気温は36度。3人の臨時雇いの清掃作業員に会った。36度以上の日は正午から午後2時まで休憩。3人のお昼御飯は、コンブの塩煮、タマネギとタマゴの炒め物、ジャガイモの煮付け、野菜炒め。肉はない。「今、肉は高いからね。」

○臨時雇い清掃作業員の中の1人の女性の息子はアモイ大学の大学院生。大学に入るとき、親戚から4~5万元(64~80万円)の借金をした。その学生は学校から毎月400元(6,400円)の補助を受けて生活している。「でも、アモイは物価が高くて麺が一杯6元(96円)だからね。あの子は朝御飯は食べないそうだ。私は女だから肉はあまり食べない。たまに食べると胃がもたれるんだよ」。信じがたいことだが、彼女の毎日の食事代は1元か2元(16~32円)。全部野菜なのだそうだ。

○都市管理局の清掃作業員の正職員の月給は1,200元(19,200円)以上だが、臨時職員(農民工)の月給は580元(9,280円)。局の説明では、正職員の労働期間は長いが、臨時職員は普通4,5年で辞めてしまうから、とのこと。ある農民工は言った。「私は今の仕事を20年やってますよ。なぜ『臨時職員』なんですかね。いつになったら正職員と同じ給料をもらえるんですかね?」

○広州のある農民工の友人が先月病気になった。広州で手術すればすぐ直る病気だったのだが、やむを得ず休暇をもらって故郷に帰り、故郷の病院に行った。なぜならば、医療保険が全国共通ではなく、広州では保険が利かないからだ。

○取材場所から記者が去る時、中学校しか卒業していない農民工が言った。「我々の国は、こんなにも大きく、人もたくさんいて、財力もありませんからね。すぐに解決できない問題もたくさんありますから、私らが金を儲けるのに苦労するのはしかたのないことだ。私のこどもの時代になったら、良くなっているといいんだけどね」。この理解、この広い心。都市住民である記者は赤面するのを禁じ得なかった。

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 私は今年4月に北京に来たばかりなので、こういった農民工の問題を真っ正面から捕らえたルポルタージュが今まで「人民日報」に掲載されたことがあったのかどうかはよく知りません。「農村には働く場所がないので、農村に戸籍がある農民工が都市に出てきて働かざるを得ないのだが、都市では戸籍がないために行政当局が用意する安い住宅に入ることができず、医療保険も利かず、こどもを帯同してきても行かせる公立学校がない。都市住民と農民工の間には給与の差もある」。こういった問題は、中国の人はみんな知っているし、海外でも何回も報道されてきましたが、秋の党大会を控えたこの8月、中国共産党の機関紙「人民日報」が改めてこの問題を真正面から取り上げたことの意味は小さくないと思います。ただ。逆に言えば「なぜこんなみんなが知っていることが今更『人民日報』の記事になるのか?今までこういった実情を伝えてこなかったからなのか?」とも言えますが。

 記事の中に「ある農民工は取材中に『同じ仕事をしているのに、なぜ正職員と我々農民工は給料が違うんでしょうかね。』と『ヒソヒソ話』で言った。」といった表現があります。「ヒソヒソ話」という言葉が「 」でくくってあり、記者の問題意識を表しています。記者は、ハッキリ文章では書いていませんが、「なぜ事実を話すのに『ヒソヒソ話』をしなければならないのか」ということを暗に主張したかったのでしょう。

 今、中国では、経済の急激な成長に伴う様々な矛盾点が一気に吹き出しつつあります。それぞれの問題点は、解決が難しいことばかりです。その中で大きな「救い」は、これらの様々な矛盾点を鋭く指摘し、「これではいけない。何とかしなければならない」という義憤に満ちた主張をする記事や論評が新聞に出ていることです。問題は、中国の政治が、この問題意識をどう受け止め、どのような具体的な対応策を打ち出していくかです。

 この「人民日報」のルポにあるように、中国では、貧しい農民工でも一定の教育は受けており、子女が大学や大学院へ通っている人たちも少なくありません。中国には、まだ貧しい人たちがたくさんいるのは事実ですが、中国を「貧しく教育もなかなか受けられない人々がたくさんいる発展途上国」だと認識しているのだとしたら、それは大きな誤りです。前にも書いたことがありますが、多くの農民工は貧しいながらも携帯電話を持って互いに情報交換などをしているのです。働くチャンスさえあれば大きな能力を発揮できる人々が何億人もいるのです。

 農民工の問題を解決するためには、農民工を都市住民として認め、住宅、教育、医療などについて都市住民と同じように扱うようにするか、そうでなければ農民工の故郷である内陸部に働く場所を作って出稼ぎをしなくて済むようにするしかありません。現在の中国では、沿岸部などの都市近郊における労働集約型の輸出産業と、都市部及びその近郊の農村における建設工事が経済成長の原動力です。今後とも中国経済が成長のための推進エンジンとしてこれらの産業に頼るのならば、農民工の「出稼ぎ」は止みません。農民工問題は、中国の産業構造・社会構造の根本に係わる問題なのです。この問題の解決を図るに際しては、多くの「既得権益グループ」の利害に直接関係するケースも出てくると思いますが、長期的・安定的な中国の発展のためには、一部のグループの利害を切り捨ててでも、良識ある解決策が打ち出されるよう望みたいと思います。

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