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2007年8月16日 (木)

地方の工事は人民代表が決めるという実験

 昨日(8月15日)付けの人民日報に、鎮(末端に近い地方政府のひとつ)がどの公共工事を実施するかを選択する際に人民代表による票決によって決めるようにした、という上海市の惠南鎮というところの話が紹介されていました。上海市は、日本の市とは違って非常に大きな行政単位ですので、上海市の中にある鎮は、上海市街地近郊にある農村といったイメージを持っていただければよいと思います。

「人民日報」2007年8月15日付け記事
「人民代表が票決で工事の実施を決定(身近なエピソード)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-08/15/content_16300434.htm

 普通は、鎮が行う公共工事は、鎮の人民政府が鎮の共産党委員会の指導の下で決めるのですが、鎮政府は人民の本当にやって欲しいと思っている工事と違う工事ばかりやって人民の不評を買う、という例が多いので、ここで紹介されている上海市の惠南鎮では、実験的に人民代表(国会議員を選ぶ選挙人)が決めるようなシステムにしてみた、とのことです。人民代表とは、鎮の人民が鎮の人民代表を選び、鎮の人民代表が上部の地方組織である県の人民代表を選び、県の人民代表が省の人民代表を選び、省の人民代表が全国人民代表(国会議員)を選ぶ、というようなシステムになっている中国の選挙システムの中の選挙人です。本来は地方政府の行政をコントロールする立場の人ではありません。人民代表の選挙では、基本的に中国共産党の推薦がないと立候補できませんが、最も末端の鎮の人民代表は、その鎮の住民による選挙で選ばれますので、その選出には人民の意見は一定程度反映されている、といっても間違いではないと思います。

 この惠南鎮で行われた実験では、まず人民代表が、鎮に住む人民から、橋の掛け替えとか学校の建設とかやって欲しい公共工事を聴取してリストを作り、そのリストの中から人民代表の票決によって優先順位を付けてどの工事を実施するかを選定し、工事の進捗状況は人民代表がチェックする、というやり方を採用しました。鎮政府が勝手にどの工事をやるかを決められないようにしたのです。この結果、多くの人民が望む工事が行われ、人民は助かった、とのことです。また、ある地区では、農地を土地開発に提供したことにより農地を失った農民の就業が問題となっていましたが、この方式で工事選定をすることにより、農民に適切な就業機会が与えられ、この方式を採用するようになってから人民が上部機関に訴え出る事件(上訪事件)が一件もおきていない、とのことです(逆に言うと、この記述は、以前は「上訪事件」が起きていた、ということを意味しているわけですが)。

 本来、人民代表は国会議員を選ぶための選挙人で、地方政府に意見する役割ではないのですが、(自由選挙ではないとはいえ)人民による直接選挙で選ばれた人民代表に地方政府の行政を監視させる方法をとったわけです。以前、経済専門週刊紙「経済観察報」に載っていた記事で似たような方式を主張していた人がいました。

(参考)このブログの2007年7月29日付け記事
「地方政府幹部任用制度の民主化」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_2021.html

 地方政府の行政が人民の希望と全くかけ離れていることが多い、という現状に対する対処策として考え出された方式なのだと思います。

 従来から、地方政府レベルでは一定の民主化を進めるべきだ、という意見は中国でもあるのですが、地方政府の行政の進め方が人民の代表によって決められてしまうと、地方レベルの共産党委員会の存在意義がなくなってしまうので、共産党の地方組織の抵抗により、これまで地方政府の行政に対して人民の声が直接反映されるようなシステムは実現できていませんでした。この事実は、中国共産党の党の成立の歴史を考えれば、共産党の地方委員会は、そもそもその地域の人民の意見を聞いて地方政府の行政に反映させる役割を果たしているべきなのですが、今は、現実にはそうはなっていないことを示しています。現在の共産党の地方組織の幹部は、党の上部組織から任命され、権限を与えられていることをいいことに、その地域の人民の望むものとは関係のない行政を行っている例が多いのだと思います。

 惠南鎮で行われた「実験」は、共産党の地方末端組織の存在意義を否定しかねないものですが、このような「実験」をひとつの「成功例」として中国共産党の機関紙「人民日報」が報道したということは、おそらく、このような地方行政に対して人民の意見を反映させるシステムを作ることを、この秋の党大会へ向けて議論していこう、という党中央の意志の表れだと思います。

 地方政府の行政と人民との関係を改革しようという党中央の意識と、それに対する「抵抗勢力」になるであろう党の地方組織との間で、秋の党大会へ向けて様々な綱引きが行われるのだと思います。胡錦濤総書記の6月25日の中央党校で行った「重要講話」でも、地方政府の行政とその地域の人民の意向とのずれに対する危機感がにじみ出ていました。党中央が地方の人民の声をきちんと吸収できるように党の地方組織をきちんと指導することを期待したいと思います。

 ただ、このような地方レベルでの民主化の話は20年前から議論されており、いまだにここで紹介されているようなレベルでの「実験」しかできていない、ということは、この種の末端地方行政改革は、相当に難しい(抵抗が強い)のだろうと思います。しかし、ここまで広がった都市部と農村部の格差を考えると、もう待ったなしの状態に来ているのではないかと私は思います。

 秋の党大会で、きちんとした議論が行われ、前向きの結論が出ることを期待したいと思います。

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