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2007年8月 5日 (日)

ある北京近郊の村の「別荘商売」

 最近の中国の住宅ブームに乗った大都市近郊の農村における「開発」の一例として、北京の大衆紙「新京報」が密雲県(行政区域としては北京市内:北京の市街地から車で1時間半くらいのところにある農村地帯)のある村の最近の様子をルポしています。

「新京報」2007年8月3日付け記事
「ある村の共産党支部書記の『小産権』住宅を使った商売の経緯」
http://news.thebeijingnews.com/0547/2007/0803/011@280934.htm

(注1)「小産権」とは、村のような集団所有の土地の上に立てられた住宅物件に関する権利またはその権利の対象となっている住宅物件のこと。中国は社会主義国なので、土地の私有は認められておらず、全ての土地は国有か、そうでなければ村などの単位の「集団」が所有している土地です。法律の建前上、国有地の上に建てられた住宅ならば、一定の使用料を支払えば全ての国民にこれを利用する権利がありますが、集団所有の土地の上に建てられた住宅については、その集団のメンバー(村の場合は村民)以外の者がその住宅を使用する権利はないはずです。しかし、実際には、農村部の村が所有する土地に建てられた別荘などを都市住民が購入して利用している例が全国に数多くあります。こういった不動産に対する権利を中国語で「小産権」または「郷産権」と言います。今年6月25日、国土資源部と北京市当局は、今後「小産権」の住宅・マンションの工事・販売を停止する方針を発表しました。しかし、既に建設・販売が行われている「小産権」の住宅・マンションをどうするのか、既に購入した人の権利はどうなるのか、などの方針が明らかにされておらず、実態的には、多くの場所で、いまだに「小産権」の上に建てられた住宅・マンションの建設工事や販売は行われています。

(参考1)このブログの2007年6月26日付け記事
「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_94bc.html

(注2)中国では各地方政府の共産党委員会の書記(トップ)はその地方政府の首長よりも地位が高く、実質的な行政の最終判断は党書記が行います。村の場合は、村長よりも、共産党の村支部の書記の方が地位が高く、村支部の書記が実質的な政策の判断責任者です。

 「新京報」のルポルタージュが述べているこの村の共産党支部書記が採った方策のポイントは以下のとおりです。

○村民の旧い住宅を取り壊してひとつにまとめ、新しい村民住宅を建設する。

○村の耕地2000ムー(133ha)を回収し、一部は乳牛の飼育場と野菜生産地にし、残りには別荘を建てて売りに出す。

○村民には、乳牛飼育場または野菜生産地で働いてもらうことによって就業問題を解決させる。別荘を売って得た収入は、耕地を提供した村民に対する食糧補助に充てるほか、新しく建てた村民住宅の水道代、冬季の暖房代などに充てる(従って、村民住宅に入る村民は、水道代、暖房費などを払わなくて済むようにする)。また、別荘を売って得た収入で、老人に対する補助金などを支払う。

 2003年から売り出された広さ220平方メートル以上の豪華な別荘は、場所が北京市街地に近いこともあり、2003年は30万元、2004年には40万元、2005年には50万元で売れ、昨年(2006年)末には100万元(約1,500万円)以上で売れました。そのため、耕地を提供した農民に対する補助を行うことも十分に出来、老人に対する補助金などは他の村よりも多額にすることができたため、村民の中で文句を言う人はあまりいませんでした。

 しかし、ある乳牛農家は、自分の家を引き渡す際の補償金の額が十分でないと考え、旧い自分の家を取り壊して新しい村民住宅に移転することを拒否しました。

(注3)こういう土地開発に対して単独で移転に反対する家のことを、中国語で「釘子戸」と言います(中国語の「新語・流行語」の類です)。「釘(くぎ)のような家」というような意味です。開発業者による「地上げ」に反対する「釘子戸」の様子は、最近、日本でもよく報道されるので御存じの方も多いと思います。

 村の書記は、この「釘子戸」の乳牛農家に対し、村の獣医による診察を停止させる、という措置を執りました。これに対し、この乳牛農家は、村の書記による獣医の診察停止は違法である、として裁判を提起しました(この裁判は、8月2日から審理が開始されました。「新京報」の記事は、この裁判の審理開始をきっかけとして書かれたものです)。

 法律では、耕地をつぶして住宅や別荘を建てる際には、上部機関の許可が必要です。この書記は上部機関の許可を取らずに、別荘と村民住宅の建設を進めました。上部機関(密雲県国土資源局)はこれを問題にし、昨年、この村に対して罰金250万元(3,750万円)の行政処罰を科しました。しかし、別荘の価格の高騰で、別荘の売り上げ収入が十分にあったことから、この書記は罰金250万元を支払ったとのことです。罰金は支払ったが、上部機関の許可を得る手続きはいまだにやっていないとのことです。「罰金」という処罰が、お金持ちにとっては実質的には痛くもかゆくもなく、罰金を支払った上で平気で違法状態を続ける、という最近の中国のよくない傾向のひとつの例です。

(参考2)このブログの7月28日の記事
「『なんでもかんでも罰金』の功罪」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_a073.html

 かつてこの書記の前任の書記だった人は、このやり方に反対しています。今は、別荘が値上がりして売れているからいいものの、耕地だった土地を全て開発してしまって売り尽くしてしまった後は、村民はメシを食うすべを失ってしまうからです。これに対して現職の書記は、「農地を耕して農業をやるのは儲からない」として、まだ開発が始まっていない耕地でも全く耕作を行わず、荒れ放題にしたままにしてある、とのことです。

 6月25日に国土資源部と北京市当局が「小産権」の住宅・マンションの工事と販売を停止する方針を発表した後も、この村での別荘の工事は続けられているそうです。「新京報」のこのルポルタージュでは、裁判の対象になっているからだと思いますが、あえてこの書記の政策がいいとも悪いとも言わず、淡々と事実関係を伝えるだけに留め、「新京報」としての意見を表明するのは差し控えています。

 「小産権」の住宅・マンションについては、6月25日に国土資源部と北京市当局による工事・販売の停止方針の発表の後、各新聞紙上で「実際にこれだけ売買が行われているのに、いきなり停止なんて無理だ」「既に購入した人の権利はちゃんと守られるべきだ」などいろいろな議論が行われました。一時期「近々国務院でこの問題に関する会議が開かれ、方針が示される見通し」という記事も載ったことがあったのですが、その後、具体的には何の動きもありません。一部の「小産権」を開発している村では、「販売」という看板を「賃貸」に書き換え、「我が村の物件はあくまで村民の所有物である。それを都会の人に70年間という期間限定で賃貸して利用してもらい、その賃貸料(利用料)を最初に一括して支払っていただこう、というものである。賃貸しであるから、販売には当たらず、従って法律上は何の問題もない。」と説明しているところもあるそうです。「おかみに『政策』があれば、我々しもじもには『対策』がある」という中国ならではの現象ですが、急激に成長を続ける中国経済を示す数字の中には、こういった形の「開発」によるものも含まれている、ということは、常に認識しておく必要があると思います。

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