« 現場生中継の意義 | トップページ | ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束 »

2007年8月22日 (水)

北京の自動車交通制限と大気汚染指数

 8月17日(金)~20日(月)の4日間、北京では自動車のナンバープレートの奇数・偶数で市内の走行を規制する交通制限を実施しました。来年の北京オリンピックの開催へ向けて、交通制限をした場合、公共交通機関でどの程度カバーできるのか、大気汚染の改善にどの程度効果があるのかについて「実験」を行ったのです。結果としては、市内を走行する車の台数は大幅に減少し、普段車を使って移動している人が公共交通機関を利用したためいつもよりタクシーがつかまりにくかった、という状況はあったにせよ、大きな混乱はありませんでした。また、大気汚染への影響についても、規制を行う前日の8月16日は、大気汚染指数が115(汚染等級でよい方から数えて3段階目である「軽微汚染」)だったのが、規制実施期間の4日間は「良」であり、規制が終わった21日には116の「軽微汚染」に戻りました。北京市当局は「測定結果は成功だった」と分析しています。

 ただ、大気汚染指数は、雨が降った翌日や風の強い日には低くなるので、これが全て自動車の交通制限の影響であったかどうかは、確定的なことは言えないと思います。また、21日(火)の日中は非常に青い美しい空が広がったので、私は「今日は汚染指数は低いだろう」と思ったのですが、発表された大気汚染指数は116(軽微汚染)でした。北京市当局は、この数字をもって「交通規制が終われば汚染は元に戻る」ということを言ったのだと思いますが、私の感覚では、21日(火)の116という数字は高すぎるように思いました。「交通規制が大気汚染改善に効果があった」ということを言いたいがために、交通規制が終わった翌日の大気汚染指数を高めに出したのではないか、とすら勘ぐってしまいました。

 この「見た目の感覚と発表された大気汚染指数の違い」については、人民日報は下記の記事を掲載しています。

(参考1)「人民日報」2007年8月22日付け記事
「大気汚染の測量はデータの根拠を使って結論を出す必要がある」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-08/22/content_17222801.htm

 この記事が言いたいのは、「空が青い」とか「遠くまでスッキリ見える」とかいう目で見た感覚は、水中の水蒸気の割合も関係するので、人工的な汚染物の濃度とは必ずしも一致しないので、大気汚染については、測定されたデータの根拠に基づいて判断すべきである、ということなんだと思います。この記事によれば、中国国家環境保護総局が発表する大気汚染指数とは、前日のお昼の12時から当日12時までの24時間の測定値の平均値を発表しているのであって、21日は確かにお昼過ぎからきれいに晴れたが、朝方のラッシュ時には結構汚染があったので、24時間の平均値で出すと高い数字が出るのだ、と北京市環境保護局副局長は説明している、とのことでした。

 「人が空を見た目で受ける印象と実際の大気汚染の度合いは異なる。きちんとした測定データに基づいて判断する必要がある」というのはその通りだと私も思いますが、人民日報にわざわざこういう記事が載っているのを見ると、「見た目の空の様子と大気汚染指数が一致しない。大気汚染指数は、本当に汚染の実態を表しているのか疑わしい。」といった一般庶民の感覚に対する「言い訳」を言っているようにも見えます。

 この北京市環境保護局副局長に説明については、「新京報」も記事を書いています。

(参考2)「新京報」2007年8月22日付け記事
「交通制限の終了した後の初日は『軽微汚染』」
http://news.thebeijingnews.com/0553/2007/08-22/014@285315.htm

 この記事の見出しを見ると、4日間の交通制限が終わった途端に前と同じような汚染になった、つまり交通制限が効いたのだ、というふうに読めますが、実際の数字を見ると、そうは簡単には判断できません。

 国家環境保護総局が発表している北京の大気汚染係数は、8月13日~22日までの10日間は順に以下の通りになっています。
【交通規制実施前】56、76、86、115、
【交通規制実施中】91、93、95、(欠測)、
【交通規制実施後】116、88
となっています。8月20日(月)がなぜ「欠測」なのか理由は不明です(今まで「欠測」の日なんてなかったのですが)。これを見ても、交通規制を行っていた4日間だけ特別に汚染が低かった、とはこのデータだけでは言えないと思います。確かに北京市当局は「測定結果は成功だった」と言っており、これは「必要なデータは取れた」という意味であって、車を制限することが即大気汚染の改善につながることが実証された、とまでは言っていないので、間違ったことを言っているのではないのですが、「交通制限の終了した後の初日は『軽微汚染』」という新京報の見出しは、多くの読者に「交通制限によって大気汚染が改善されたことが確認された」という必ずしも科学的には正しくない結論のイメージを与えたのではないかと思います。

 実は、交通規制実施期間中に出ていた90台という大気汚染指数の数字は、発表される大気汚染指数の数字としてはよく見る数字です。実際に国家環境保護総局が測定した北京の2006年1年間の大気汚染指数を10単位でグラフにしてみると以下のとおりになります。

※データの出典:中国国家環境保護総局の重点都市大気汚染日報のページ
http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3
の下の方にある検索機能を使って「北京」の「2006年1月1日~2006年12月31日」の大気汚染指数を表示させて10単位にその指数を示した日数が何日あったかを数えたもの。

【2006年の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=3日)

000-020:0
021-030:■2
031-040:■■■7
041-050:■■■■■■17
051-060:■■■■■■17
061-070:■■■■■■■■■■■■■■42
071-080:■■■■■■■■■■■■36
081-090:■■■■■■■■■■■■■■41
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■79
101-110:■■■■12
111-120:■■■■■15
121-130:■■■■■14
131-140:■■■■■■■20
141-150:■■■■11
151-160:■■■■11
161-170:■■6
171-180:■■4
181-190:■■5
191-200:■2
201-210:■3
211-220:■1
221-230:■2
231-240:0
241-250:■2
251-260:■3
261-270:0
271-280:■1
281-290:0
291-300:0
301以上:■■■■12
合計=365日

 普通、この手のバラツキのあるデータの測定値を度数分布のグラフにすると、なだらかな山型のカーブを描くのですが、上記のグラフでは、91-100のところが不自然に多く、101~130のあたりが不自然に少ないように感じます。汚染等級としては、0-50が「優」、51-100が「良」、101-150が「軽微汚染」、151-200が「軽度汚染」、201-250が「中汚染」、250-300が「中度重汚染」、301以上が「重汚染」に分類されます。従って、100以下なら「良」、101以上ならば「軽微汚染」に分類されるので、ここの境目が非常に重要なのです。上のグラフを見ると実際は100をちょっと超えた程度だった日の部分を91-100の日として寄せ集めたように見えます。

 この傾向は2007年のデータでも見ることができます。例え測定されたデータを正確に記録していたのだとしても、例えば10回測定して、その測定値の中から「適切なもの」を観測値として選ぶ、といった「測定データの意図的な選択」をやれば、データをねつ造しなくとも、測定値の操作はある程度可能です。しかし、そのように一定の意図の下に選択されたデータは科学的には意味を持ちません。そもそも科学的にデータ測定をする場合には、そのような「意図的なデータの選択」を行ってはならないのです。

 測定には必ず測定誤差が出ますので、実際にたまたま上記のような測定結果が出たのだ、と言われればそれを否定することはできません。ただ、統計学的に考えれば、上のグラフはかなりの高い確率で意図的な測定値の操作あるいは選択が行われた可能性を示しています。

 環境汚染対策は、まず実情がどうであるのかを科学的に正確に測定するところから出発します。北京でナンバーの奇数・偶数による自動車の通行制限が行われていた4日間の大気汚染指数が3日は90台、1日は欠測だった、という結果を見て、この数字を本当に素直に受け取っていいのだろうか、という疑問を私はぬぐい去ることができませんでした。

|

« 現場生中継の意義 | トップページ | ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束 »

中国の報道機関」カテゴリの記事

中国(北京)の大気汚染・環境汚染」カテゴリの記事

著作権・ニセモノ・食品薬品の安全性」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 現場生中継の意義 | トップページ | ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束 »